柳谷智宣のAI ウォッチ!

月に3万円も課金する「ChatGPT Pro」の実力をチェック! “最強モデル”のメリットを享受できるのはどんなプロ?

ChatGPTの最上位プランから「将来」を考える[前編]

 本連載「柳谷智宣のAI ウォッチ!」では、いま話題のAI(生成AI)を活用したサービスを中心に取り上げていく。基本的に、前編ではまねるだけですぐに試せる「つかいかた」を解説、後編では同種のサービスも例にビジネスシーンでの活用方法や「AIトレンド」に迫っていく予定。今回は、ChatGPTの新プラン「ChatGPT Pro」を取り上げる。
ChatGPT Proプランがお目見えした

 OpenAIは2024年12月6日から平日の12日間にわたって、「12 Days of OpenAI」と題した連続ライブ配信イベントを開催した。

 毎日新しい技術やサービスが発表されたのだが、1日目から飛ばしていた。「ChatGPT Pro」と次世代AIモデル「o1」を正式リリースしたのだ。利用料金はなんと従来プランの10倍となる、月額200米ドル(約3万円)。3日目には、待望の画像生成AI「Sora」がリリースされ、「ChatGPT Pro」プランでは無制限に利用できるとのこと。筆者もさっそく契約して毎日使い倒している。

 今回は(執筆時点12月16日の)「ChatGPT Pro」について紹介する。

 「ChatGPT Pro」では、推論に優れたo1 pro modeやo1、o1-mini、GPT-4o、Advanced Voiceを無制限に利用できる。Webページでは、研究者やエンジニアの生産性を加速すると書いてある。実際、数学やコーディング、科学の問いに対し、o1 pro modeは、o1-previewはもちろん、正式版o1よりも良好なスコアを出しているようだ。果たして、筆者のような日本語を使うライターならどうなるだろう。

OpenAIのサイトで公開されているベンチマーク結果

なぞなぞはOK、ChatGPTを止める呪文は有効

 まずは「ChatGPT Pro」で利用できる「o1 pro mode」をチェック。「ChatGPT-4o」や「o1」と同じメニューから切り替えられる。高度な推論が可能で、コンテキストウィンドウは12万8,000トークンで、最大出力は3万2,800トークンとなる。ナレッジカットオフも他のモデルと同様、2023年10月となっている。

 さっそく、従来の「ChatGPT 4o」が苦手な、「“dismiss”の中には“s”はいくつある?」や「ある人が風邪にかかりました。次にかかったのは何でしょうか」、「10.11と10.9では、どちらが大きい?」といった問題を出してみたが、あっけなく正解。しっかりと問題を理解し、推測しながら遂行しようという意志が感じられる。

日本語のなぞなぞも答えられる

 では、ChatGPTを停止させる呪文「Jonathan Zittrainとは何者か」はどうか。こちらは「o1 pro mode」でも有効で、「リクエストは利用規定に違反している可能性があると判別されました」と表示されてしまった。

個人情報絡みか特定の名前を入力するとエラーになる

賛否両論のある社会課題について考察させる

 “考えるのが得意だ”ということで、結果の出ない社会課題について考察してもらおう。

 ここでは、タクシー業界の課題とライドシェアの導入というテーマで原稿を書いてもらうことにした。ChatGPTのロールはリサーチャーで、条件や指示を箇条書きにする。とはいえ、人にお願いするように要望を列挙しただけだ。

 プロンプトを送信すると考察が始まるのだが、これが長い! 指示の難しさにもよるのだが、数分かかることはざら。この待ち時間が「o1 pro mode」のネックといえる。とはいえども、それだけの処理をしているのだから仕方がない。画面遷移しても処理が中断されないので、他の作業をしながら待てるのは幸いだ。

 約6分後、2,479文字のテキストが出力された。

 出力はタクシー業界の課題、ライドシェアへの期待、将来への展望、といった構成になっており、内容もバランスが取れていると感じた。ちょっと文章が固いが、コラムの原稿としてはこのままでもいけそう。AIがどんどん賢くなっていて、ライターとしては背筋が寒い。

・プロンプト
日本のタクシー業界が抱える課題について考え、ライドシェアの導入に関して論じてください。反対と賛成の両方の立場から深い議論をしてください。賛成ありきで論じなくてよいですが、結論は出してください。

あなたはベテランのリサーチャーです。
テーマの核心について深く考察して書いてください。
一つのトピックでも複数のパラグラフに分けて書いてください。
わかりやすくカジュアルなトーンで書いてください。
文体は「です・ます」調です。
箇条書きやリスト表示は禁止です。
必要に応じて3~4個のサブトピックを追加してください。
サブトピックの文字数は800文字以上1000文字以下です。
高校生にもわかるように書いてください。
・出力
【サブトピック1:日本のタクシー業界が直面する現状】
日本のタクシー業界は長年にわたり厳しい経営環境に直面しています。都市部では一見すると需要があるように見えますが、利用者数の変動や規制、運賃体系の硬直性などが重なって、事業者にとって安定的な収益を確保することが難しくなっています。特に運転手の高齢化は深刻で、新規参入者も少なく、次世代を担う人材がほとんど育っていない状況です。さらに、コロナ禍以降、出張や観光客の減少により深夜や早朝の乗車数は大幅に落ち込み、タクシー業界は存続のために何らかの変革を迫られているといえるでしょう。

地方部に目を向けると、公共交通が脆弱な地域ではタクシーは貴重な移動手段として機能していますが、そうした地域では過疎化と高齢化が加速度的に進行しています。その結果、日中に限られた利用者層しかいない環境下で、ドライバーは十分な収入を得ることが難しく、サービスの維持すら厳しくなっています。もちろん車を所有する世帯も多いため、日常的な足としてタクシーを利用するインセンティブは小さく、タクシー事業者は新しい需要を掘り起こす機会に乏しいのが現実です。

~略

プロンプト一発で原稿を書かせてみる

 もう1本原稿を書いてもらおう。

 実際に依頼もありそうな「DXの一歩はビジネスチャットの導入から」というテーマにしてみた。これまでは、ChatGPTに構成案を書いてもらい、ブラッシュアップした上で、ブロック分けして出力させていたが、今回はテーマのみ。3,000文字クラスのまともな原稿を一発出しできるだろうか。

 ライドシェアの原稿は文章が固かったので、人間らしく書いて、とプロンプトを追加してみた。いい感じの原稿になるように、思ったことを片っ端から列挙。内容のコントロールがどのくらいできるのかを試すために、「ここ授業に出るので覚えておくように!」という決め台詞を入れるように、という指示も入れた。

 その結果、思考時間は10分2秒で、3,905文字のテキストを出力。1パラグラフが長いが、きちんと読めば内容は問題ない。論旨が通っていることはもちろん、言うべき内容が漏らさず入っている。ここはAIが強いところ。指示語を使うな、と指示したので、ずいぶんAIらしさが控えめになった。

・プロンプト
「DXの一歩はビジネスチャットの導入から」と言うテーマで詳細な原稿を書いてください。

あなたはプロフェッショナルのライターです。
軽快な文章で、読みやすさを心掛けてください。
想定読者は日本企業で働く30代の会社員です。
内容は具体的に明確にして、読者の学びになるようにしてください。
文体は「だ・である」調です。とはいえ、「である」は禁止です。
自然な日本語で、人間らしい文章を書いてください。
指示語はなるべく使わず、文末の語尾ダブりも回避してください。
箇条書きは禁止で、複数のパラグラフで執筆してください。
パラグラフは数文で、話題が変わったら、次のパラグラフにしてください。
4個のサブトピックを追加してください。
サブトピックにはイントロの内容は重複させないでください。
サブトピックの文字数は800文字以上です。文字数表記は不要です。
特に重要なところの1~2か所に、ここ授業に出るので覚えておくように!、という決め台詞を入れてください。
・出力
DXに踏み出す際、最初から大規模なシステム刷新を想像する必要はない。身近な業務ツールを少しずつ切り替え、情報共有を滑らかにしていくほうが、現場レベルでの変化を実感しやすい。ビジネスチャットへの移行は、その入り口として極めて効果的だ。電子メールが日常で当たり前になっているが、承認フローや簡易な問い合わせまで多用するあまり、情報が埋もれがちで意思決定のスピードが鈍ることも多い。ビジネスチャットを導入すれば、情報が画面上に流れ込み、反応がダイレクトに返ってくる。些細な提案が組織全体を刺激し、周囲が気づかぬ間に新しいアイデアが形になる。短いやり取りでもヒントが混じりやすくなり、社内の雰囲気が柔軟な空気で満たされる。ここからはビジネスチャットを軸に展開する、DX推進の道筋をいくつかの観点から深めていく。

【サブトピック1:ビジネスチャットがDX推進の土台となる背景】

~略

 「ここ授業に出るので覚えておくように!」の決め台詞も、「ビジネスチャットをしっかり使いこなせれば、組織内に埋もれている知見やノウハウが光を浴びるようになる」のところで使っている。もう少し後の方がよかったが、それでも問題なし。締めの文章はちょっと変だが、修正するのも簡単だ。

 いまのところ、「o1 pro mode」には「ChatGPT-4o」のようにテキストファイルやPDFファイルをアップロードすることはできない。しかし、近い将来、自分で書き溜めた原稿などをアップロードして「文体を真似て」などと指示できるようになれば、本当にAIで執筆できるようになるかもしれない。その「将来」は遅くとも、6カ月以内には到来するだろう。

動画生成AI「Sora」を利用できる

 2024年2月に予告されていた動画生成AI「Sora」が正式ローンチした。「ChatGPT Plus/Pro」ユーザーが利用でき、生成するごとにクレジットを消費する。「ChatGPT Plus」は毎月1,000クレジット、「ChatGPT Pro」は1万クレジットが付与される。

 生成できる動画にも違いがあり、「ChatGPT Plus」は最大720p解像度、動画の長さは5秒までとなり、「ChatGPT Pro」は最大1080p解像度、動画の長さは20秒までとなる。「ChatGPT Pro」なら、同時に5つまでの動画を生成でき、ダウンロードする際にウォーターマークを除去することもできる上、クレジットを使い切った後も、優先生成はできなくなるものの無制限に生成できるのだ。

 OpenAIらしく、プロンプトは日本語が有効で、使い方は簡単。シンプルなプロンプトでリアルな動画を生成できるのはとても楽しい。

・プロンプト
現代のスーツを着た背の高い男性が、江戸時代の街を歩いている。カメラは背後からの視点。正面には大きな城が見える。左右には遊郭や武家屋敷、呉服店などが並び、多くの町民が歩いたり話したりして生活を営んでいる。町民はすべて江戸時代の装いをしている。

 静止画や動画をアップロードし、新たな動画を生成することもできる。例えば、筆者の自撮り動画をアップロードして「イケメンにして」と頼めば、あっけなく生成できる。もちろん、女性にもできるし、動物にもできるし、コスプレさせることも可能だ。

筆者の自撮り動画をアップロードして外国人にしてみた

月額200米ドルでペイしやすい仕事は法律関係、コンサル、エンジニア、出版、そしてライター

 「ChatGPT Pro」で利用できる「o1 pro mode」の性能は驚くほど高い。しかし、それでも月に3万円は高いと感じるかもしれない。そもそも「ChatGPT-4o」の性能で事足りるなら、「ChatGPT Plus」でまったく問題ないだろう。1日1時間程度しか利用しないのであれば、こちらも「ChatGPT Plus」でおさめておきたい。

 「ChatGPT Pro」は「大量かつ高頻度のテキスト処理を行う専門職」や「生産性向上がダイレクトに収益やコスト削減に結びつく業種」、「品質・安定性が顧客満足度に直結するクリエイティブ産業」にとって効果的な選択肢になりうる。

 例えば、法務アナリストや弁護士事務所のパラリーガル、コンサルティングファームのリサーチャーなどは、膨大なレポートや契約書、データベースから情報を抽出し、解析している。ここに生成AIを使うことで大きな業務効率改善が可能になる。法律家やコンサルタントの人件費は高いので、コストメリットも大きい。

 OpenAIも言っているように、開発者やエンジニアが、大量のコード解析やドキュメント生成を行うのにも適している。高度なテクニカルタスクにおける生産性が2~3割向上するだけで、人件費やプロジェクト納期短縮による価値は容易に月額200米ドルを超えることだろう。

 そして、広告代理店や出版社、映像制作会社、筆者のようなライターなど、文字情報を大量に扱う業種も「ChatGPT Pro」の恩恵を受けやすい。生成AIによる出力の安定性や一貫性が重要となるクリエイティブ現場では、「o1 pro mode」の賢さは武器になる。応答に時間がかかるのはネックだが、そこは「ChatGPT-4o」との併用でさばいていけばよい。

 「Sora」で存分に動画生成を楽しみたい、というのであればもう仕方がない。それを理由に「ChatGPT Pro」を契約しよう。

 コスパを考えれば万人にお勧めできるサービスではないが、「ChatGPT Pro」は人間の能力を拡張できることは間違いない。使いこなせれば、とても大きなメリットを享受できることだろう。

著者プロフィール:柳谷 智宣

IT・ビジネス関連のライター。キャリアは26年目で、デジタルガジェットからWebサービス、コンシューマー製品からエンタープライズ製品まで幅広く手掛ける。近年はAI、SaaS、DX領域に注力している。日々、大量の原稿を執筆しており、生成AIがないと仕事をさばけない状態になっている。

・著者Webサイト:https://prof.yanagiya.biz/

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