クリエイターが知らないと損する“権利や法律”
勝手にレンタルしちゃダメなのか
~第3章:著作権について詳しく教えて!~
2016年7月29日 07:00
オンラインソフト作者に限らず、あらゆるクリエイターが創作活動を続けるために、著作権をはじめとして知らないと損する法律や知識はたくさんある。本連載では、書籍『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』の内容をほぼ丸ごと、三カ月間にわたって日替わりの連載形式で紹介。権利や法律にまつわる素朴な疑問に会話形式の堅苦しくない読み物でお答えする。
前回掲載した“手で書き写すのもコピーの一種”の続きとして、今回は“勝手にレンタルしちゃダメなのか”というテーマを解説する。
勝手にレンタルしちゃダメなのか
じゃあ、貸したり、借りたりってどうなんですか?
いい質問ですね。レンタルする権利は『貸与権』です。
著作権法26条3項(貸与権)
著作者は、その著作物(映画の著作物を除く。)をその複製物(映画の著作物において複製されている著作物にあつては、当該映画の著作物の複製物を除く。)の貸与により公衆に提供する権利を専有する。
え、漫画を友だちと貸し借りしちゃダメなんです?
譲渡権の場合と同じで、特定の少人数が相手なら公衆を対象にしていることにはならないので、大丈夫です。
じゃあ、クラスの友だち相手なら、勝手にレンタル商売してもいいんです?
クラス全員が対象だと、特定多数になってしまいそうだから危ないです。
そもそも、友だち相手にそんな商売成り立たないでしょ。
確かに。誰からも借りてもらえなさそう。
また、公共図書館からの館外貸出のように、非営利目的で無料の貸与であれば、公衆が対象であっても著作者の許諾は不要です。
著作権法38条4項(営利を目的としない上演等)
公表された著作物(映画の著作物を除く。)は、営利を目的とせず、かつ、その複製物の貸与を受ける者から料金を受けない場合には、その複製物(映画の著作物において複製されている著作物にあつては、当該映画の著作物の複製物を除く。)の貸与により公衆に提供することができる。
あ、そういう例外もあるのか。
『 公正な利用』の妨げにならないよう、権利が制限されているのです。
著作者に無断で利用できるケースはたくさんあるので、あとでもう少し詳しく説明しますね。
はーい。
ところで先生、『映画の著作物を除く。』ってのがすごく気になるんですけど。
映画の著作物だけは譲渡権や貸与権ではなく、『頒布権』という別の権利になっています。
映画の配給、DVDやブルーレイなどの販売、レンタルに関わる権利です。
著作権法26条(頒布権)
著作者は、その映画の著作物をその複製物により頒布する権利を専有する。
2 著作者は、映画の著作物において複製されているその著作物を当該映画の著作物の複製物により頒布する権利を専有する。
また、映画など作品を上映する権利は『上映権』です。
著作権法22条の2(上映権)
著作者は、その著作物を公に上映する権利を専有する。
なんで映画だけ譲渡権や貸与権ではなく、頒布権なんです?
お金を稼ぐ方法が、本や音楽CDなどと大きく異なっていたからです。
伝統的に、映画のフィルムは大量生産されませんでした。
上映される館の数だけ複製し、一定期間だけ上映。
つまり著作権者にとっては、フィルムを公衆に直接配るような行為だけをコントロールできても、不十分なのですね。
そのため、他の著作物の譲渡権や貸与権よりもっと強い権利として、頒布権が存在してきたのです。
ん? DVDやブルーレイって、大量生産ですよね?
映画が生まれたのは19世紀の終わりですが、DVDプレイヤーが登場したのは20世紀の終わりです。
ちょうど100年の差があります。
頒布権は、家庭で映像が観られる機器が普及するより前に生まれた権利なのですよ。
そうか、歴史があるわけですね。
譲渡権と違って、映画館にフィルムを配給しても、頒布権が消えることはありません。
ところが、DVDやブルーレイが登場したことで、頒布権がDVDやブルーレイの中古販売にまで及ぶのか? が問題になりました。
結局、映像ソフトを販売する場合は、最初の1回で頒布権が消えるという判決が出たため、中古のDVDやブルーレイは制限なく売買できることになりました。
なんだ、じゃあ結局、譲渡権と同じなんですね。
この点ではそうです。
余談ですが、日本における映画館の入場者数は、ピークの1958年には年間約11億2,700万人でした。
映画が『娯楽の王様』と言われていた時代です。
すごい! そんな時代があったんですね。
ところが、テレビの普及とともに映画産業は急速に衰退していきます。
1973年には、年間入場者数約1億8,500万人。
たった15年で、6分の1になってしまったのです。
同じころ、カラーテレビの世帯普及率は、90%を超えています。
諸行無常ですね。
※出典:内閣府『消費動向調査・主要耐久消費財等の長期時系列表』
ひょえぇ……。
実際のところ、映画の著作物だけが特別扱いなのは、映画がフィルムで配給されていたアナログ時代のなごりです。
今はデジタルシネマが主流になっていますから、実態と法律が合わなくなってきているのは確かです。
頒布権はそろそろ見直すべきなのかもしれません。
なるほどなあ。
次回予告
今回の続きとして次回は“インターネットに流す権利”というテーマを解説する。
原著について
『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』
(原著:鷹野 凌、原著監修:福井 健策、イラスト:澤木 美土理)
クリエイターが創作活動するうえで、知らないと損する著作権をはじめとする法律や知識、ノウハウが盛りだくさん! “何が良くてダメなのか”“どうやって自分の身を守ればいいのか”“権利や法律って難しい”“著作権ってよくわからない”“そもそも著作権って何?”といった疑問に会話形式の堅苦しくない読み物でお答えします!