特別企画
使いやすくなった新世代ホームサーバーOS「Windows Home Server 2011」
コンシューマーOSよりもシンプル・パワフルでNASよりも柔軟・高機能
去る5月21日、「Windows Home Server 2011」(以下、WHS2011)の発売が開始された。
WHS2011は家庭・小規模事業所向けのサーバーOS“Windows Home Server”シリーズの2代目にあたる。初代「Windows Home Server」が「Windows Server 2003」をベースとした32bit OSだったのに対し、WHS2011は「Windows Server 2008 R2」ベースの64bit OSとなり、セキュリティや安定性などの基本性能が強化されている。
そのほか、DLNA互換のメディアサーバー機能、OSを含めたフルバックアップ機能、スマートフォン向けのリモートアクセス用Webインターフェイスが追加されている。ドラスティックな変更は見られないものの、使い勝手は着実に改善されており、とくに初代「Windows Home Server」のユーザーを中心に期待が高まっているようだ。実際、秋葉原では発売日に深夜販売も実施され、予想を上回る売れ行きを記録している。
しかし、「Windows Home Server」それ自体はまだまだ知名度が低いのではないだろうか。そこで、本企画では、WHS2011を使えば何ができるのか、さらにアドインやWindowsアプリケーションを利用してWHS2011でどこまでできるのかを、WHS2011を実際に利用してみた体験を交えながら紹介していきたい。
「Windows Home Server 2011」とは?
WHS2011は、クライアントPCが10台までの環境で利用できる家庭と小規模事業所向けのサーバーOSだ。さまざまな機能をもつが、基本的には以下の2つを目的としている。
ファイルの管理と共有
まず、ファイルサーバーとしての役割だ。
WHS2011のもっとも基本的な機能は、Windowsのファイル共有機能を利用してファイルを一元管理することだろう。WHS2011へ保存されたファイルは、“ボリューム シャドウ コピー サービス(VSS)”を利用して自動的に世代バックアップされるので、以前の内容へロールバックすることも可能だ。重要なデータを誤って削除・編集してしまった場合に役立つ。
また、リモートアクセス機能を搭載。サーバーには“http://(任意のID).homeserver.com”というドメインが割り当てられ、出先からWebブラウザーを利用してWHS2011が管理するファイルへアクセスできる。スマートフォン向けのWebインターフェイスも備えており、モバイル環境からでも非常に使いやすい。
さらにDLNAサーバー機能も内蔵しており、音楽や動画などのメディアをDLNA対応機器でストリーミング再生できる。Webインターフェイスからでも“Silverlight”を利用したストリーミングが可能で、出先からでもWHS2011で管理した音楽や動画を楽しむことが可能だ。
クライアントの一元管理
もうひとつは、クライアントPCを一元管理する役割だ。
後述する専用の接続ソフトをクライアントPCへインストールすれば、それぞれのPCのデータを自動でWHS2011でバックアップすることが可能。また、ヘルスモニタリング機能も備えており、ウイルス対策ソフトがインストールされていないといったセキュリティ上の問題や、バックアップの設定が完了していないといったサーバー設定上の問題などをアラート通知してくれる。
WHS2011の管理と拡張
ダッシュボードで簡単管理
WHS2011の管理は非常に簡単で、すべての必要な設定は「ダッシュボード」で行えるようになっている。「ダッシュボード」は、WHS2011上で動作するアプリケーションだが、専用の接続ソフトをインストールすればクライアントPCから直接呼び出すことも可能。
接続ソフトをインストールするには、まずWebブラウザーのアドレスバーへ“http://(WHS2011のPC名)/Connect”と入力しよう。エクスプローラの“ネットワーク”に現れるWHS2011のアイコンをダブルクリックしてもよい。すると、WHS2011の接続ソフトのダウンロードページが開くので、そこからソフトをダウンロードする。
あとはウィザードに従って、インストール作業を進めていけばよい。インストールが完了すると「ダッシュボード」のほか、WHS2011の各種機能を手軽に呼び出せるデスクトップアクセサリー「スタートパッド」が利用可能になる。
なお、WHS2011は「リモート デスクトップ接続」を利用してリモート操作することもできるが、サーバーの設定はなるべく「ダッシュボード」で行うのがWHS2011の作法だ。それ以外の方法でサーバーの設定を行うと、設定に不整合が生じ、最悪OSの再インストールが必要になる。「リモート デスクトップ接続」の利用は必要最小限にとどめておくのがよいだろう。
アドオンで簡単拡張
また、WHS2011の「ダッシュボード」は、アドオンで簡単に機能を拡張できる。現時点では、WHS2011対応が確認されたものがそれほど多くあるわけではないが、なかなか便利なものが揃っているのでそのいくつかを紹介しよう。
「Lights-Out」
サーバーやクライアントの稼働状況をグラフ表示したり、指定した時間にWHS2011を起動・シャットダウンできるアドイン。カレンダーへシャットダウンのスケジュールを登録できるので、この夏に実施が予想される計画停電の際には非常に役立つだろう。有償アドイン(私的利用の場合、15ユーロ(税抜き))だが、購入して損はない拡張機能だ。
「Advanced Admin Console」
WHS2011のエクスプローラとIEを「ダッシュボード」から利用可能にするアドイン。サーバー設定に必要なプログラムを呼び出すことも可能で、本アドオンさえあれば「リモート デスクトップ接続」なしでもWHS2011を隅々まで管理できる。
「AWIECO RemoteLauncher」
本アドインも、「リモート デスクトップ接続」なしで「ダッシュボード」からWHS2011の各種アプリケーションを利用可能にする。本アドインの特長は、自分で起動したいアプリケーションを追加できる点。GUIの管理画面をもつソフトをWHS2011で利用したい場合は、本アドインをインストールしておくと便利だ。
「AWIECO DriveInfo」
WHS2011におけるディスクの利用状況をグラフ表示できるアドイン。“サーバー フォルダーとハード ドライブ”欄にタブとして追加され、各ドライブの領域がどの種類のデータで占められているかを簡単に把握できる。
- WHS2011のアドオンを探す
WHS2011のアドオンを探すには、“Facebook”に設けられたファンページ“Windows Home Server JP Forum”を利用するとよい。WHS2011で動作が確認できたハードウェアやソフトに関する情報交換が行える。
WindowsアプリでWHS2011を目的別にカスタマイズ
WHS2011は“Windows”なので、さまざまなWindows用のアプリケーションを利用できる。WHS2011を拡張する際は、基本的にアドインのみを利用し、不安定なソフトや出所の怪しいソフトはなるべく入れないのが鉄則だが、なかには非常に便利なソフトもある。クライアント環境で十分動作を試した上で、安全かつ便利だと思われたものだけを厳選して導入したい。
ホームサーバーとデスクトップPC、ノートPCでフォルダを同期したい
「Windows Live Mesh」は、複数PCの指定フォルダをP2P方式で同期するソフトで、ソフトウェアパック「Windows Live Essentials」の収録ソフトのひとつとして配布されている。フォルダあたり20,000ファイルまで、最大20個までのフォルダをインターネット越しに同期可能で、WHS2011でも利用できる。
本ソフトは非常に便利だが、同期するPCが両方ともオンライン状態でなければ同期ができないという弱点もある。“SkyDrive 同期ストレージ”を同期対象に含めていれば、その弱点を解消することも可能だが、それも5GBまでとなっており、有償で容量を追加するといったことはできない。しかし、基本的に起動しっぱなしのWHS2011を同期対象に含めておけば、サーバーのディスク容量が尽きるまで好きなだけファイルを同期できるというわけだ。
さらに、「Windows Live Mesh」はリモートデスクトップ機能を備えるのもポイント。Windows標準の「リモート デスクトップ接続」と異なり、ルーター越しに遠隔操作する場合でも複雑なネットワークの設定を行わなくて済む。ただし、初期設定では無効化されているので、「Windows Live Mesh」の管理画面の“リモート”タブでリモート接続をONにする必要がある。
ごろ寝しながら“iPad”で動画を楽しみたい
筆者は“iPad”ユーザーで、夜寝るときや朝布団から出たくないときは、iPadでRSSを読んだり、“YouTube”を観ながらゴロゴロするのが好きだ。WHS2011を導入してからは、サーバー上のメディアをDLNAクライアントアプリで視聴しながらゴロゴロするようになったのだが、これだとWMA/WMV形式などが再生できず、悲しく思うことがあった。
そこで導入してみたのが、「Air Video」だ。本ソフトは、Windows/Mac OS X用の無償サーバーソフトと有償のiPhone/iPad向けクライアントソフト(350円(税込み))からなっており、サーバー上のメディアをiOSデバイスでストリーム再生できる。iOSで再生できない形式を再生可能な形式へリアルタイムで変換しながらストリーミング配信する“Live Convertion”機能を搭載しているのが特長で、さまざまな形式のメディアをiPadで再生できる。
“Live Convertion”機能を利用するには、ある程度のCPUパワーが必要だが、SD画質ならばAtom Z530プロセッサ(1.6GHz)でも間に合うようだ。HD画質になるとコマ飛びが激しくなったが、本ソフトではあらかじめ対応形式へ変換しておくこともできるので、そちらの機能を利用すれば問題はない。
本ソフトに難があるとすれば、Javaランタイム(JRE)や「Bonjour」といった追加ソフトが必要になることだろう。これらのコンポーネントのバージョンアップは脆弱性の修正が含まれることが多いので、忘れずに更新するようにしたい。
そのほかお勧めのフリーソフト
そのほか、HDDの健康状態をモニタリングできる「Crystal DiskInfo」をインストールしておくのもお勧め。最新版のv4では、障害をメールで通知できる機能が追加されたので、WHS2011の異常をいちはやく知ることが可能。そのままスマートフォンからWHS2011へアクセスしてサーバーをシャットダウンしておくといった使い方もできるだろう。
また、容量の中途半端な余ったSSD・HDD・USBメモリなどを有効活用したい場合は、それらを1つの仮想ドライブにまとめられるフリーソフト「VVAULT Personal」を利用するとよい。頻繁に利用するファイルは高速な内蔵SSDへ、あまり利用しないファイルは低速だが容量の大きいHDDへといった具合にファイルを配置する“階層化処理”に対応しており、それぞれのドライブの性能をフルに活かした利用が可能。
v1.0.2からは「Windows Home Server」での無償利用も認められており、今後はダッシュボードへの統合も予定されているとのことなので期待したい。
まとめ
窓の杜の読者のなかには、ソフトウェアに明るいことを買われて、家のネットワーク管理を任されているといった人も多いのではないだろうか。従来ならばそのような場合、古いPCへWindows XPなどをインストールしてネットワークを組むことが多かっただろう。
しかし、手間をかけずにホームサーバーを構築したいならば、性能面やセキュリティ面から言っても、WHS2011を選択するのが断然お勧めだ。第2世代ということで機能も成熟している上、価格面もDSP版が実売で12,000円程度と手頃になっている。また、Windowsアプリケーションが動作するということもあり、NASよりも拡張性があるのもポイント。アドインの拡充にも期待したい。
デジタルカメラやデジタルビデオカメラのデータやTVの録画データなど、家庭においても管理しなければならないデジタルコンテンツの量は増える一方なので、これまでホームサーバーを置いていなかった家庭でも、これからWHS2011の普及が進んでいくのではないだろうか。