Blender ウォッチング

無料の3DCG統合環境「Blender」のライトが強化 ~色温度や露出の指定も可能に

Vulkan対応も進み、パフォーマンスがOpenGLと同等に

 本連載では、無料の高機能3Dモデリングツール「Blender」の使い方や関連情報を幅広くお伝えします。

新しい[温度]と[露出]パラメーターで設定したライトによる画像

 7月15日(中央ヨーロッパ夏時間)、「Blender 4.5 LTS」が公式リリースされました。
本リリースは、4.x最後のLTS(長期サポート)リリースであり、特にインターフェイスには多くの変更が行われています。

 その中から独断と偏見で一部をピックアップしてご紹介します。

機能紹介動画

What's New in Blender 4.5 LTS! Official Overview

 上はリリース毎に公開される、公式動画です。変更点が網羅されていますが、全編英語で40分以上ですので、確認程度にどうぞ。

 今回から3回にわたるこの集中連載では重要と思われる物をピックアップしてご紹介していきたいと思います。

EEVEEレンダーの新機能と変更

 「Blender」のデフォルトのリアルタイムレンダー、EEVEEには、影関連の修正と、起動時のパフォーマンスの改善が行われています。

ローポリ形状でのセルフシャドウのアーティファクト軽減

 従来、ローポリモデルでは、セルフシャドウ(形状自身による影)が不自然になることがありました。本リリースでは新たに導入された「影の終端オフセット」を調整することにより、この現象が軽減されます。

 設定はオブジェクトごとに行えます(「プロパティエディター」の[オブジェクトプロパティ]-[シェーディング]-[影の終端])。
 まず[法線オフセット]を上げ、必要なら[形状オフセット]を上げる感じで調整するのをお勧めします。

アーティファクトの生じたローポリ球(左)と、[影の終端]のオフセット設定で軽減した同じ形状の球

シェーダーコンパイルとテクスチャ読み込みの高速化

 「Blender」を[シェーディング]ワークスペースに切り替えた時や、ファイルを読み込んだ時などに「シェーダーコンパイル」と呼ばれる処理が行われます。これはGPUが複雑な質感をリアルタイムに表示できるようにするため、命令を変換しているのです。ゲームでもおなじみですね。

 v4.5では、この処理がデフォルトでマルチスレッド化され、環境によっては高速化します。 バックエンドが「OpenGL」の時のみ利用できます。

 [プリファレンス]([編集]-[プリファレンス...]メニュー)の[システム]-[メモリーと制限]-[シェーダーコンパイル]の[スレッド数]を変更すると、CPUのスレッド数を上限とした指定数のスレッドでコンパイルを並列処理し、処理時間が減る可能性があります。「0」で自動設定になります。

 残念ながらAMDプロセッサのドライバーとIntelのWindows用グラフィックスドライバーでは恩恵がないため、上記の設定で従来の「サブプロセス」に変更した方が速度が向上するとのこと。

 同様にテクスチャの読み込みもマルチスレッド化され、高速化しています。

[プリファレンス]の[システム](①)-[メモリーと制限](②)-[シェーダーコンパイル](③)の[スレッド数]設定

Cyclesレンダーの新機能と変更

 今回は(も?)バンプマッピングが強化されています。

バンプマッピングの補正の改善

 バンプマッピングの補正方法が改善され、ノーマル・バンプマッピングのディテールの保持が改善、他のソフトウェアのバンプマッピングに近くなりました。

 従来に比べて凹凸がよりシャープになり、細部が陰影に潰されず、明るくなりました。

球にノーマルマップを貼り付けた物の比較。v4.5の方はディテールが増し、明るくなっている

レンダリング共通の変更

 EEVEEレンダーとCyclesレンダーの両方に影響する変更もあります。

バンプノードの新しいパラメーター「フィルター幅」

 前回のv4.4では、バンプマッピングの仕様が少し変わりました。今回、それをv4.3以前の挙動に戻すのが、この「フィルター幅」パラメーターです。

 デフォルトの「1.0」でv4.3の挙動に、さらに大きくすると、端にベベルを掛けたようになります。

レンガテクスチャノードとともに[フィルター幅]を「1.0」と「5.0」に設定した例

ライトの色温度と露出対応

 ライトオブジェクトに、「色温度」による自然光の色の指定と、「露出」による光の強さが指定できるようになりました。

 実際の光源の色は[温度]設定とすぐ下の[チント]の色を、明るさも[パワー]と下の[露出]の値で2を累乗した物(2 露出 )を乗算した物になります。

新しいライト設定

大きさによる照度の変化

 その下には[正規化]チェックボックスが追加されました。従来は、ライトの大きさが大きくなっても、全体的な光の強さは同じままでした。

 [正規化]を無効にすることで、ライトの大きさが光の強さに影響するようになります。

オリジナルのライトと、[半径]を「2.0」にしたもの、さらに[正規化]をOFFにした物の比較

Vulkan対応

 Vulkanとは、新しい規格の3Dグラフィックス表示用APIで、従来のOpenGLに比べ、パフォーマンスに優れています。

 以前からVulkan対応自体は進められていましたが、本リリースではようやくパフォーマンスがOpenGLと同等になりました。

 利用方法は、[プリファレンス]にある[システム]タブの[グラフィックス表示]-[バックエンド]を[Vulkan]に変更後、「Blender」を再起動すれば利用可能になります。

プリファレンスの[システム](①)-[グラフィックス表示](②)-[バックエンド](③)で設定

現時点の制約と利用可能な環境とGPU、ドライバーの組み合わせ

 現時点では以下の問題と制約があります。

  • VRのパフォーマンスがまだOpenGLに劣る
  • 扱えるメッシュデータの上限が一億頂点。ベンダーとドライバーの問題
  • テクスチャをVRAM内に収める必要がある。これもベンダーとドライバーの問題

 対応する環境とGPU、ドライバーは下の表を確認してみてください。

WindowsとLinuxでのVulkan対応デバイスとドライバー表(公式リリースノートの表を筆者が翻訳・画像化(CC-BY-SA 4.0国際)

終わりに

 今回はここまでです。次回は「Blender 4.5」で非常に多くの改善が行われた「インターフェイス」についてご紹介する予定です。

 ではまた。