トピック

今、PCを買い替えるなら「AI」に注目! どんなPCを買ったらどんなAI体験が手に入るのか?

6年前のPCと「最新ビジネスPC」「最新クリエイターPC」で、「AI体験」はどう違う?

あなたのPC、そろそろ買い替え時期かも?

 「そろそろPCを買い替える時期かもしれない」と感じている人は多いのではないだろうか。

第15世代のCore Ultraプロセッサには、AI処理に特化したNPU(Neural Processing Units)が搭載されている。NPUがAI処理を行うことでCPU負荷が減り、バッテリー持続時間の向上など、様々なメリットがある

 まだまだ利用している人が多いWindows 10のサポート終了日は2025年10月14日。つまり、残り1年余り。Windows 11へのアップグレードは比較的新しいCPUが必要で、それ以前のPCは買い替えが必要になるし、コロナ後にPCを買った場合でも、使い方によってはバッテリーのヘタりが気になる頃合いだろう。

 そしてPCの性能も「問題ない」とは限らない。

 例えば「オンラインミーティング中にOfficeアプリを開いたら動作が重い」というのを体験した人も多いと思うが、これはスペック不足の典型例といえる。また、人によっては「普通にWebを見ているだけなのになんとなく重い」という体験をしたことがある人もいると思うが、これはWebサイトやWebブラウザーが「メモリ容量が多い最近のPC」を想定して作られた結果、メモリ使用量が増えているためだ。

 Webサイトもアプリも、「世間の主流」にあわせて進化するため、一昔前のPCを使っていると、どうしても使用感に差が出てきてしまう。

 そして今、買い替えを検討するならば、気になる要素の一つが「AI」だろう。

 特に最近は、PCのAI向け演算力が向上してきており、手元のPCでAIの演算を行うことによるメリットが注目されつつある。例えば「手元にあるので自由に使える」「自分のデータを送信せずに済む」「バッテリーが節約できる」、そしてもちろん「通信環境がなくてもAIを使える」などが挙げられるだろう。

 そこで今回は買い替えを想定して新旧のPCを用意、その違いを比較しつつ、「PC買い替えでどういったAI体験ができるのか」を見ていきたい。

 PC本体の性能向上はもちろん、NPU搭載によるメリットや、最新GPUによる性能向上など、様々な視点で紹介していくので、気になる方は参考にしてほしい。

【検証したAI】
【画像生成AI】もはや定番の画像生成AI。ローカルで実行することで、様々な画像を好きなだけ生成できる。
【大規模言語モデル】手元で実行するため、情報漏洩の心配がないとされる。ローカルで実行できる様々なモデルが公開されている。
【画像の立体化AI】様々なAIの一例として、「静止画から3Dモデルを生成できるAI」も検証。


最新PCを購入したら、どういう「AI体験」ができるのか?

 用意したのは「ビジネス向け」と「クリエイター向け」の2台。

 1台目はビジネス向けノートPC「MousePro G」シリーズの軽量・長時間駆動モデル「MousePro G4-I7U01BK-C」。2台目はクリエイター向けノートPC「DAIV S」シリーズの「DAIV S4-I7G60SR-C

 どちらもインテルの最新型CPU「Core Ultra 7」を搭載した新製品で、同製品が搭載するAI処理向けプロセッサ「NPU」が利用できるのがポイントだ。

【表1】「MousePro G4-I7U01BK-C」スペック
CPUCore Ultra 7 155U(12コア/14スレッド、最大4.8GHz)
GPUIntel Graphics(CPU内蔵)
メモリ16GB (オンボード8GB + 8GB×1) DDR5-4800
SSD256GB(NVMe)
ディスプレイ14型非光沢(1,920×1,200ドット)
OSWindows 11 Pro
汎用ポートThunderbolt 4×1、USB 3.1 Type-C×1、USB 3.1×1、USB 3.0×1
無線機能Wi-Fi 6E、Blunetooth 5
有線LANなし
その他HDMI端子、100万画素カメラ(Windows Hello 顔認証対応)、microSDカードスロット、ヘッドセット端子など
本体サイズ314×224×18.3mm
重量約969g
価格209,880円~
「MousePro G4-I7U01BK-C」
【表2】「DAIV S4-I7G60SR-C」スペック
CPUCore Ultra 7 155H(16コア/22スレッド、最大4.8GHz)
GPUGeForce RTX 4060 Laptop GPU(8GB GDDR6)
メモリ16GB(8GB×2) DDR5-4800
SSD500GB(NVMe Gen4×4)
ディスプレイ14型非光沢液晶(2,880×1,800ドット/120Hz)
OSWindows 11 Home
汎用ポートThunderbolt 4×1、USB 3.1 Type-C×1、USB 3.1×1、USB 3.0×1
無線機能Wi-Fi 6E、Blunetooth 5
有線LANGigabit Ethernet
その他HDMI端子、200万画素カメラ(Windows Hello 顔認証対応)、microSDカードスロット、ヘッドセット端子など
本体サイズ317×240×19.93mm
重量約1.76kg
価格269,800円~
「DAIV S4-I7G60SR-C」

 どちらもノートPCではあるが、特徴が異なる。1台目の「MousePro G4」は、最新型のCPUを搭載しつつも、本体重量が1kgを切る軽さが特徴。2台目の「DAIV S4」は、より高性能なCPUに加えて、独立GPUも搭載しており、処理能力の高さが売りだ。

 今回はPCの買い替えを想定した比較対象として、およそ6年前のビジネスノートPCも用意した。インテルの第8世代Core i7プロセッサを搭載したもので、Windows 11にアップグレード可能なギリギリの製品だ。これより古いPCは、Windows 10のサポート期限前に買い替えが必要となるし、性能はさらに低くなると想定できる。

【表3】6年前に発売されたビジネスPC
CPUCore i7-8550U(4コア/8スレッド、最大4GHz)
GPUIntel UHD Graphics 620(CPU内蔵)
メモリ8GB(4GB×2)
SSD256GB(NVMe)
OSWindows 11 Home


「数年前のPC」はどこに問題が出やすいか?「8GBメモリ」ではもう足りない!

 まずは旧型PCから見ていこう。

 発売時点では20万円ほどで売られていた製品で、当時としても「そこそこいいクラス」といえる。高速なNVMe対応SSDも搭載しており、メモリも当時一般的だった8GBクラス。まさに「オフィスワークなら問題ない」と言われそうな仕様だ。OSは発売時はWindows 10だったが、Windows 11にアップグレードしている。

 実際に使ってみても、PCの起動は高速で、シンプルなWebブラウジングやオフィスソフトの起動なら、特に問題は感じないだろう。

 問題を感じ始めるのは、ちょっと使ってみた後だ。

 Webブラウザーでタブを複数開き、オフィスソフトで作業しながら、テレワークのためにWeb会議ツールを使う、という方は多いはず。他にも業務に使用するソフトは人それぞれに色々あるだろう。筆者だとフォトレタッチや、ちょっとしたビデオ編集なんかも必要だ。

 そうすると、8GBのメモリは意外と早く使い切ってしまう。すぐさまPCが使えなくなるわけではないが、操作のレスポンスは低下してくる。Webブラウザーのタブをこまめに閉じたり、使い終わったソフトを閉じるといった対応である程度は回避できるが、そういう行為が作業効率を落としていく。

 最近のPCである「MousePro G4」で使用メモリ量を確認してみると、起動時に既に5GB以上を使用。さらに「Edge」でニュースサイトを3つ開き、「PowerPoint」と「Teams」を起動すると、メモリ使用量は7GBを超えた。もし搭載メモリが8GBだったら、これ以上はメモリに収まらなくなる。

「MousePro G4」で「Edge」、「PowerPoint」、「Teams」を開いたところ、トータルで7GB超のメモリを使用した
「タスク マネージャー」で確認すると、3つのアプリの中では「Edge」のメモリ使用量が多い。「Teams」も通話時ではなくアプリを起動しただけで結構なメモリ使用量になる

 6年前だと、ビジネスPCでは8GBのメモリは標準的だった。当時はそれで概ね足りていたのだが、メモリの使用量は年々増えていく。ソフトが自動でアップデートした結果、メモリ使用量が増えている、なんてことも多いだろうし、Webサイトがリッチになることで、でWebブラウザーのメモリ使用量も増えている。

 結果、現在はビジネスPCでもメモリは16GBのものが多くなった。製品によっては32GBのものもある。一昔前は「4GBではメモリは少ない」などと言われたが、最近は「8GB」が少ないメモリになってきたわけだ。

 さらに性能の違いがわかりやすいよう、ベンチマークテストも試してみよう。使用したのは「PCMark」と、「3DMark」の「Time Spy」および「CPU Profile」だ。

【表4】ベンチマークテスト結果
6年前のPCMousePro G4DAIV S
PCMark3,8855,6187,600
Time Spy(Total)4431,8399,263
Time Spy(Graphics)3861,6739,335
Time Spy(CPU)2,9294,2348,880
CPU Profile(Max Threads)1,9013,8446,946
CPU Profile(1 Thread)625854929

 同じビジネス向けPCである「MousePro G4」と比較してみると、CPUの処理能力はマルチスレッド処理でおよそ2倍の差がある。グラフィックス処理能力の差はさらに大きく4倍以上だ。メモリ搭載量で2倍の差があることも踏まえると、最新のPCでは多数のウインドウを開いたりした時にも、よりストレスなく利用できることは間違いない。

 クリエイター向けPC「DAIV S4」とはさらに差が大きく、CPUのマルチスレッド処理では約3.7倍。また「DAIV S4」にはグラフィックス処理を担当する独立GPU「GeForce RTX 4060 Laptop GPU」が搭載されているため、グラフィックス処理に至っては20倍以上になる。これがAIの処理能力にも効いてくる。


最新のビジネスPCの進化 ~処理能力だけじゃない、

 続いては最新PCを見ていこう。まずはビジネス向けPC「MousePro G4」だ。マットブラックのボディを採用し、厚さは18.3mm、重量は約969gという薄型軽量の製品となる。

 CPUなどの性能は前項のとおり、6年前のPCの概ね2倍から4倍で、メモリ容量は2倍の16GB。つまり、メモリ容量による問題と、CPU性能による問題はかなり解決する。タブをたくさん開いてWebを見ても重くなりづらくなるし、Officeアプリを見ながらオンラインミーティングをしても明らかに重くなりにくい。これは、後述するAI機能も関係している。

付属するのは最大65W出力のUSB PD充電器。

 6年前のPCから変わったのは性能だけではない。

 充電には専用のACアダプタではなく、最大65W出力のUSB PD充電器が付属する。これを本機の左側面にあるUSB 3.1 Type-CまたはThunderbolt 4に接続することで、本機を充電できる(どちらに接続しても構わない)。USB PDはスマートフォンなどの充電にも共通で使用できるため、出張時などには荷物を減らす助けにもなる。

 さらにThunderbolt 4は、外部ディスプレイ出力にも対応している。ディスプレイ側がUSB PD給電に対応した製品なら、ディスプレイとUSB Type-Cケーブルで接続するだけで、映像出力とUSB PDによる充電が同時に可能になる。自宅で作業する際に大きなディスプレイを使うとなれば、ケーブルを1本接続するだけでいいわけだ。ちなみにHDMI出力も搭載しており、元の画面と合わせて3画面出力も可能だ。

左右側面

 また、本機はWindows Helloの顔認証に対応したWebカメラを搭載しており、PCのログイン時にはカメラに顔を向けるだけで認証ができる。認証速度も非常に高速で、一度使うと以前の環境には戻れないと感じるほど快適だ。

キーボード

 ネットワーク周りはWi-Fi 6Eに対応し、対応するWi-Fiルーターと組み合わせることで、より高速かつ安定した通信を実現できる。Bluetoothもバージョン5に対応するとしており、筆者が実機で確認したところ、LMP12(Bluetooth 5.3)となっていた。

 このように処理能力以外でも進化している部分はいくつもあり、総合的な使用感は相当よくなっている。


AIの重要ポイントはまず「NPU」

 ではここでAI機能にも目を向けてみよう。

 本機に搭載されているCore Ultraプロセッサには、NPU(Neural Processing Units)というAI処理に特化したユニットが搭載されている。CPUやGPUに比べて効率よくAI処理ができるため、同じAI処理を省エネで、つまりバッテリー消費を少なく実行できるのがメリットだ。

 NPUに対応したアプリは既にいくつか公表されているが、代表的なものがWindows 11の「スタジオ効果」だ。これは、オンラインミーティングでの「背景ぼかし」や、目線をカメラに向けているような修正をOS側でやってしまうもの。

 CPUではなくNPUが処理することで、Web会議中にCPUの負担を減らし、なおかつバッテリー消費量を抑えられる。また、アプリ個別に設定するのとは違い、Windows側でカメラの映像を加工するため、どのアプリでも同じように加工された映像を使えるのもポイントだ。

「スタジオ効果」は、「Intel AI Boost」と名付けられたNPUで処理される。「タスク マネージャー」でNPUを使っていることが確認できる

 このほか、NPUを活用するアプリとしては定番オンラインミーティングアプリの「Zoom」や、Cyberlinkのフォトレタッチソフト「Photo Director」や動画編集ソフト「Power Director」、仮想Webカメラソフトである「XSplit VCam」などがある。また、グラフィックソフト「GIMP」や音声編集ソフト「Audacity」のプラグインでも対応したものがある。

 NPUは登場間もないこともあり、対応アプリはまだ多くはないが、今後はハードウェアの普及とともに増えていくだろう。


「生成AIのローカル動作」は、最新ビジネスPCなら「試せる」レベル

画像生成AI「Stable Diffusion」は、ビジネスPCでも試せる

 また、旧世代のPCと違い、アプリを選べば「ローカル動作のAIを試してみる」のも現実的。

 PCの処理能力を使ってローカルで動作するAIとしては、画像生成AIや、LLM(大規模言語モデル)を用いたAIチャットなどが話題になっている。少し前までは高価なハードウェアと専門的なソフトウェアを組み合わせて利用するものだったが、最近は一般的なPCで動作し、簡単なインストーラやインターフェイスを搭載したソフトも出てきている。

 今回、そうしたアプリをこのPCでも使ってみた。検証の詳細は後で解説するが、まずは概要をお伝えしよう。

 Stable Diffusionで画像1枚を生成するのにかかった時間は、6年前のPCで約34分、「MousePro G4」では約3分40秒。1枚3分40秒は「実用的にバリバリ使える」速度ではないが、「ちょっと遊びで実験してもいい」範囲になったとは言えるだろう。

 また、クラウドにデータを送らなくていいことから、情報漏洩の心配がないとされるローカルLLM(大規模言語モデル)だが、6年前のPCでは数10秒待たされた上に非常にゆっくり表示(1.51tok/s)されるが、今回の「MousePro G4」では待ち時間数秒、表示もゆっくりめ(4.23tok/s)程度まで速くなった。

 実用レベルで動かすには「DAIV S4」などの独立GPUを搭載した製品が必要なのは言うまでもないが、使える物を選別できれば、ビジネス向けPCでもローカル動作のAIを体験することは可能だ。こちらは後ほど、AI処理能力の比較検証にて詳しくお伝えする。


クラウドAIももちろん快適に

「Copilot Pro」と「Microsoft 365」の使用例。「PowerPoint」のスライドを簡単な指示で作ってくれる

 なお、現在主流の「クラウドで使うAI」も、もちろん快適に利用できる。

 AI処理はクラウドのため、AI処理そのものの速度は変わらないが、PCそのものの性能が向上しており、WebブラウザーやOfficeアプリが快適に動くため、その点がアドバンテージと言えるだろう。

「フリージャーナリストの仕事を紹介する10枚のスライドを作って」と頼んだところ、いい感じのデザインとテキストを用意してくれた
画像も関連性のあるものが選択されていて、既に完成度が高い
シンプルなデータから「品名ごとの合計額をグラフで描いて」と頼むと、グラフを作ってくれた
新しいシートに追加。品目別の合計額も計算済み


クリエイター向けPCは独立GPU搭載、生成AIもしっかり動作

 以上、ビジネスPCを見てきたが、もう1台の最新PCである「DAIV S4」はクリエイター向けのPCで、独立GPUを搭載している。

 クリエイター向けというのは、製品紹介の説明を見ると、「3D CAD・動画編集・写真編集などあらゆるクリエイティブ用途に対応」とある。ざっくり言えば、映像系の作業に向いているPCということになる。また、本稿の趣旨からすると「独立GPUによるAI活用」が大きく期待できるのもポイントだ。

 処理能力の面では、CPUとしてCore Ultra 7 155Hを搭載している。「MousePro G4」はCore Ultra 7 155Uを搭載しており、名前はほとんど同じなのだが、性能は全然違う。Core Ultra 7 155Hは高性能なPコアが6基あるのに対し、Core Ultra 7 155Uは2基しかない。ベンチマークテストでマルチスレッドの処理能力に差が出たのはこのためで、本機は性能重視、「MousePro G4」は省電力性重視と言える。

独立GPU「GeForce RTX 4060 Laptop GPU」を搭載。

 また独立GPU「GeForce RTX 4060 Laptop GPU」を搭載しているのも大きな違いだ。独立GPUと言えば、以前は3DゲームをプレイするためのゲーミングPCで採用されるものだった。最近はビデオ編集や3DCG制作など、映像系の処理でGPUを活かせるものが増えてきたことで、クリエイター向けとして採用されるようになってきた。

 映像処理向けということで、ディスプレイにも違いがある。解像度は2,880×1,800ドットで、一般的なノートPCで採用が多いフルHD(1,920×1,080ドット)の2倍を超える描画領域を持つ。ディスプレイサイズは14型なので、高精細な映像表示が可能ということでもある。またリフレッシュレートも120Hzと一般的な製品より2倍高速で、映像を滑らかに表示できる。

 さらにディスプレイはカラーキャリブレーション済みで、sRGB比100%、sRGBの色空間上でΔE≦2としている。これは色再現性が高く、写真や動画などの色味を実物や印刷物に近い色味で表示できることを示している。

ディスプレイはカラーキャリブレーション済み。色再現性が高いのが特徴だ

 メモリ搭載量にも違いがある。今回使用しているPCはメモリを16GB搭載したモデルだが、購入時のカスタマイズにより、最大64GBまで搭載可能。映像系の処理は膨大なメモリを消費するものが多いため、ビジネス向けPCよりも大容量なメモリを搭載できるようになっている。

キーボード

 このように高性能かつ高品質なのが特徴なのだが、代わりに重量は約1.76kgと「MousePro G4」より800gほど重く、サイズも少し大きくなる。一見同じようなサイズに見えるノートPCでも、用途によって重さや性能が全然違う。そこに各製品の価値があり、ニーズの異なる需要があるというわけだ。

左右側面


AI処理性能はケタ違い

 そんな「DAIV S4」でAIを利用する場合を考えたい。

 NPUはこちらも利用でき、バッテリー動作時間が伸びる恩恵はもちろんある。サーバー処理のAIももちろんOK。

 大きな違いとなるのは、独立GPUの搭載による、ローカルAI処理の高速化だ。

 まず、画像生成AIは先述したように1枚あたり約4.1秒。旧世代PCが約34分、「MousePro G4」が約3分40秒だったことを考えると、まさに桁違いのスピードだ。

 同様にLLMの出力速度は7.66tok/sで、待ち時間もほぼナシ。LLMは入れ替えて遊ぶと出力が異なるのだが「どう違うんだろう」と遊べる余裕もかなり出てくる。

 また「クリエイター向け」を意識して、写真を元に3Dモデルを生成する「TripoSR」も使ってみたが、これも1枚5秒で生成。こうした生成したモデルを骨格としてオリジナルモデルを作っていくことで、より作品の幅が広がるのではなかろうか。

LLMをローカルで使ったAIチャットも動作する。気の利いた答えを返してくれることもあり、「ほんま便利な世の中になってきたわー」と思う


ローカル処理のAIを検証してみた

 さて、ここからはローカル動作するAIの検証をしていく。

 結果の概要は既にここまでで紹介しているので、「実際に動かすとなったらどうなるのか」が気になる人が参考にしてもらえればと思う。

●画像生成AI「Stable Diffusion」

 まずは画像生成AI「Stable Diffusion」だ。今回はさまざまなWeb UIの使い分けに対応した「Stability Matrix」を使用する。インストーラが用意されており、ほんの数ステップで環境が整う。

 ソフトを起動したら、「Package」のタブを選び、下にある「パッケージの追加」をクリック。次の画面で右上にある「Show All Packages」をオンにして、導入したいパッケージ(Web UIの種類のこと)を選択。あとは「インストール」をクリックすれば準備完了。

「Packages」タブから「パッケージを追加」。この画像では既に4つのパッケージをダウンロード済みの状態
使いたいパッケージを一覧から選んでインストール

 再び「Package」のタブに戻ると項目が増えているので、「Launch」をクリックすれば起動する。今回はCPU処理にも対応している「Stable Diffusion WebUI Forge」を使用した。なおGPUを搭載していないPCで利用する場合は、パッケージの項目にある「Launch Option」を選び、「Always CPU」と「Skip Torch CUDA Test」にチェックを入れておく。

CPUだけで利用したい場合はオプション設定が必要

 起動すると自動でWebブラウザーが立ち上がり、Web UIが開く。今回は「Prompt」の枠に「cat」とだけ記述する。これは猫の絵を描いてという指示だ。続いて「Generate」ボタンをクリックすれば、画像生成処理が始まる。あとは画像が出力されるのを待つだけだが、この時にかかる時間に大きな差がある。

猫の画像を出力。指定したテキストが同じでも、出てくる画像は毎回違う

 「MousePro G4」では生成まで約3分40秒かかったが、6年前のPCだと何と約34分もかかってしまった。生成が成功したことは立派だが、とても実用的とは言えない。

 そしてここで「DAIV S4」の登場だ。こちらはGeForce RTXを搭載しており、CPUより高速に処理できる。同じように画像を生成すると、4.1秒で完了した。「MousePro G4」と比較しても数十倍の速度である。

GPUを搭載する「DAIV S4」なら、1枚数秒で出力可能

●AIチャット「LM Studio」

 次は「LM Studio」。LLMをローカルで実行するソフトで、公式サイトにインストーラが用意されている。

 ソフトを起動したら、左にある「Search」タブを選択。ここでは多数のLLMを検索してダウンロードできる。こちらも「Stability Matrix」のパッケージと同じ要領で、複数のLLMをダウンロードし、切り替えて利用できる。

 今回は日本語を扱えるLLMを探すため、「japan」と検索。その中で最も人気がある「mmnga/ELYZA-japanese-Llama-2-7b-fast-instruct-gguf」を選んだ。左のリストから選択すると、右にファイル一覧が表示される。今回は最もファイルサイズが小さい「ELYZA-japanese-Llama-2-7b-fast-instruct-q2_K.gguf」を選び、右にある「Download」ボタンをクリック。3GB弱のダウンロードが終わるのを待つ。

「Search」タブで「japan」と入力すれば、日本語対応と思われるLLMが出てくる

 ダウンロードが終わったら、右のタブから「AI Chat」を選択。上にある「Select a model to load」をクリックして、さきほどダウンロードした「ELYZA japanese Llama 2 fast instruct」を選択する。しばらく待ってLLMの読み込みが完了すれば準備完了。下にあるテキストボックスに文字を入力すれば、AIとチャットができる。

 テストでは「窓の杜を知っていますか?」と聞いてみた。6年前のPCでは、テキスト入力後に数十秒も無反応で待たされた上、1文字1文字を考えながら出力するかのような遅さながら、日本語で回答してくれた。内容が不正確なのは置いておくとして、出力速度は1.51tok/s。この数字が大きいほど会話の処理が速いという理解でいい。

テキストボックスに「窓の杜を知っていますか?」と入力するとAIが答えてくれる。ただし内容が正確とは限らない

 次に「MousePro G4」でも同じように試す。こちらは出力が始まるまで数秒程度で、待ち時間は格段に短い。出力速度は4.23tok/sで、ゆったりと文字が紡がれる感じはするものの、不快感がない程度の速度で動作している。

 では「DAIV S4」ではどうか。同じ質問にほぼ待ち時間なく反応し、7.66tok/sで回答した。目で追うのにちょうどいいくらいの速さでスラスラと答えてくれて、十分実用的だと感じられる。

 ちなみに、より自然かつ長文な回答が得られるというLLM「TFMC/Japanese-Starling-ChatV-7B-GGUF」も試してみた。回答内容がかなり正確で、文章もより自然になっている。出力速度も7.25tok/sと十分。選んだLLMによって回答内容は大きく変わるので、いろいろダウンロードして試してみると面白い。

LLMを変更すると回答内容も変わる。窓の杜を知っているだけでなく、「私は定期的にチェックしている」と人間くさいことを言うものもある

●画像の3D化「TripoSR」

 最後は画像から3Dモデルを生成する「TripoSR」。単体のインストーラがないため導入は複雑になる。手順はこちらの記事でご確認いただきたい。

 準備が整ってWebインターフェイスを開いたら、左側にある「Input Image」の部分に画像をドラッグ&ドロップで持っていく。今回は「Stable Diffusion」で生成したキャラクターの画像を使用した。続いて下にある「Generate」ボタンをクリックすれば、生成処理が始まる。生成が完了すると、右側に3Dモデルが表示され、マウスでドラッグすれば360度回転させて出来栄えを確認できる。

平面の画像から3Dモデルを生成できる

 処理にかかった時間は、6年前のPCだと約4分30秒。これに対して「MousePro G4」は約1分55秒と半分以下。さらに「DAIV S4」だと5秒もかからなかった。こちらもGPUによる処理は圧倒的に高速なのがわかる。


「AI」を意識したPC選びもできる時代に

 一口にAIと言っても、サーバー側で処理するものもあれば、ローカルで動作するものもある。NPUのようなハードウェア側のAI対応が進むにつれ、ローカル処理のAIも実生活に近づいてくるだろう。

 AIに求めるものは各々違うとはいえ、AIと無縁でいることも難しくなっていくだろう。近々PCを買い替えねばならないとなったら、AIは意識しておくべきポイントになる。特にPCを何年も先まで長く使いたいと思うならなおさらだ。

 「ビジネスPCはOfficeが動く程度でいい」という感覚は、今後は通じないかもしれない。「軽いPCでもなるべく高性能なものを」とか、「GPUでAIを高速処理できるものを」といったニーズは、今後あってしかるべきものと言える。

 そして何より、AIは触っていてとても楽しい。

 ほんの数カ月前には、高価なハードウェアが必要で導入も難しい、専門家のためのものだったAIツールも、今では誰でも簡単に使えるようになったものが数多くある。まずは今持っているPCで、ローカル処理のAIを試してみて欲しい。そして物足りなくなったら、最新のPCにも目を向けてもらえればと思う。

 そうした意味では、今回例にあげたビジネス向けPC「MousePro G4」とクリエイター向けPC「DAIV S4」は、そうしたPC選びの基準にもなるだろう。本稿を参考に今後のPC買い替えを検討してもらえれば幸いだ。

PCによって異なる性能を理解して、自分が必要となるPCを選びたい