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脱ハンコは必要だが移行は難しい ~アドビが中小企業の契約慣習の実態を調査

発注元に合わせなければならない。役所の書類にはハンコが必須

 アドビ システムズ(株)は6月15日、中小企業・小規模企業のハンコ慣習の実態を探るために経営者を対象に行ったハンコの利用実態調査の結果を発表した。調査対象は従業員300名以下の企業に勤める全国の経営者・役員500名で、5月22日から26日にかけてインターネットを介して行われた。

脱ハンコの必要性は認識しているが、なかなか抜け出せない現状が浮き彫りに

 まず、直近1年間の契約手法をたずねたところ、ハンコを使った契約が83.0%ともっとも多かった。電子サインなど、ハンコを使わない電子契約の利用率は17.8%に留まった。電子サインの普及が進んでいない現状が、改めて浮き彫りとなった格好だ。

あなたの会社では取引先と契約を結ぶ際、どのような手法をとっていますか

 次に、ハンコ(捺印)文化が仕事の生産性にどのような影響を与えていると思うかをたずねたところ、“生産性をとても下げていると思う”“生産性を下げていると思う”という意見が72.6%に上った。

ハンコ(捺印)文化は、仕事の生産性にどのような影響を与えていると思いますか

 また、仕事でハンコを使用したことがあると回答した人に対し、生産性向上のためにハンコの慣習をなくした方がよいと思うかどうかをたずねたところ、74.7%がなくした方がよいと回答。一方で、過去1年の契約取引などでハンコを使ったと回答した人に、自身の会社でハンコ(捺印)の慣習を撤廃することは容易と思うかをたずねたところ、半数に上る50.1%が撤廃は難しいと思うと回答した。

「ハンコの慣習はなくした方が良い」74.7%、一方50.1%が「ハンコ撤廃は容易ではない」と回答

 業務の効率化のために脱ハンコは欠かせないという認識は共有されているものの、実際の行動に結びつけられていない点が課題といえるだろう。

取引で優位な立場にある発注元が旧態依然。法律、税法、セキュリティの不安も

 それでは、なにがハンコ撤廃と電子サインへの移行を妨げているのだろうか。

 ハンコ撤廃へのハードルとして具体的な要因を聞いたところ、もっとも多かったのが“取引先(発注元)の契約方法に従う必要がある(51.4%)”だった。“役所の書類にはハンコが必須”という回答も寄せられており、取引において優位な立場にある大企業や公的な手続きを司る役所で脱ハンコが進んでおらず、契約プロセスを改善したくても多くの企業でそれを実現できていないことがわかる。そのほかにも、“法的に有効かどうか心配(30.7%)”、“セキュリティ上の不安がある(30.1%)”、“印紙税の扱いが良く分からない”といった意見も寄せられた。

あなたの会社でハンコ(捺印)撤廃のハードルとなっていると感じる要因を全てお答えください

 新型コロナウイルス感染(COVID-19)の拡大防止をきっかけにテレワークが急速に進むなか、政府は書面・押印、・面規制の見直しの検討をすすめ、書類処理のプロセスにおけるデジタル化を推進しているが、ハンコ主体の契約慣行を覆すには、なお一層の取り組みが必要となりそうだ。