レビュー

電子帳簿保存法を順守するための個人事業主・小規模事業主向けフリーソフト「電帳Free」

2024年1月に改正され、電子取引データの保存・検索要件が厳密に

電帳Free v1.0.0(4)

 2024年1月1日より、電子帳簿保存法が改正されたことをご存じだろうか。電子帳簿保存法は、決算関係書類や各種帳簿など、税務関係帳簿や書類をデータとして保存することを認める法律だ。国税関係帳簿書類の保存義務者が対象とされており、原則として、すべての企業と個人事業主が該当する。

 今回の改正により、電子取引データの改ざん防止のための措置と検索性の高さが求められることとなった。事務処理が増えることが予想されるが、それらの負担軽減を期待できるのが、(株)システムゼロの提供する「電帳Free」だ。Windows 10/11で動作する。

電子帳簿保存法の改正に伴う事務処理負担の軽減を期待できる「電帳Free」

 電子帳簿保存法について補足しておこう。電子取引データを取り扱わない企業や個人事業主は対象外とされているが、例えば、ECサイトで事業に必要な資材を仕入れた時に受領したPDFファイルの領収書も電子取引データに該当。実質的にすべての企業や個人事業主が対象と考えられる。

 紙の書類をスキャンしてデータとして保存する必要はないが、“データでやり取りした文書”については、正しく保存することが求められている。国税庁の配布する電子取引データの保存方法にまとめられているので参照してほしい。

 要するに、自社の会計システムを持たず、市販のソフトウェアなどで会計処理をしている中小企業や個人事業主は手間が増えることになる。もちろん各種ソフトウェアも対応していくと思われるが、無駄な出費は避けたい。電子帳簿保存法に完全順守した無償の「電帳Free」を使った簡単な事務処理の流れを紹介しよう。

利用者の登録と事務処理規程の準備

 「電帳Free」のインストール直後にするべき作業が2つある。利用者の登録と事務処理規程の準備だ。まずは自社、もしくは事業主の名称、インボイスNo(未登録可)、会計期間を登録する。

電帳Freeの起動直後の状態。まずは[マスター管理]から自社情報を登録する
[自社]タブに切り替えておく。自社、もしくは事業主の名称を入力する。インボイスNoがなければ空欄で構わない。会計期間を指定して[登録]をクリックする
電子取引データを登録する際に、自社情報を選択可能(後述)にするかどうかのメッセージ。[OK]をクリックすれば登録完了だ

 続けて“事務処理規程”を登録しよう。未登録では電子帳簿保存法の要件を満たせないため、忘れずに登録しておくこと。電帳Freeのインストール先にあるテンプレートファイル(事務処理規程.doc)、もしくは国税庁のWebサイトからダウンロードしたファイルを編集して、PDFファイルとして保存する。「事務処理規程.pdf」という名前で保存する必要があることに注意。

事務処理規程のテンプレートファイルは、国税庁のWebサイトからダウンロード可能。法人と個人で様式が異なる
[ヘルプ]-[バージョン]の順にクリックする
[バージョン]の画面が表示される。[アプリケーションのフォルダを開く]をクリックする
電帳Freeのインストール先フォルダーがエクスプローラーで表示される。「事務処理規程.doc」をダブルクリックして開く。国税庁のWebサイトからテンプレートファイルをダウンロードした場合は、そのファイルを開く
「事務処理規程.doc」の内容。自社に関連する箇所(黄色のマーカー部分)を編集して、「事務処理規程.pdf」という名前で保存する
電帳Freeのインストール先フォルダーに直接保存しようとすると、エラーが表示されることがある。その場合は、デスクトップなどにいったん保存してからフォルダーにドラッグしよう。管理者権限が必要というメッセージが表示された場合は[続行]をクリックする
「事務処理規程.pdf」が保存できたことを確認しよう。[バージョン]の画面は閉じて構わない
[事務処理規程]をクリックする
フォルダーに保存した「事務処理規程.pdf」が正しく表示されることを確認しておく

電子取引データを登録する

 電帳Freeでは、送付した文書と受領した文書のどちらも登録可能だ。v1.0.0(4)では、PDFファイル(PDF形式)、または画像ファイル(JPEG/PNG形式)のみに対応。重要な文書は改ざん防止のためにPDFファイルとして保存することが多いため問題ないだろう。ExcelやWordで作成した文書を登録したい時はPDF形式で保存してから登録しよう。

 もし、取引先から受け取った文書が、ExcelやWordの形式ならPDF形式での再送を依頼するのが無難だが、スクリーンショットを撮影して登録しても、電子帳簿保存法には準拠する。その場合、元本のファイルは保存しておくこと。

 基本的な作業の流れは、登録する電子取引データ(PDF/JPEG/PNG)を電帳Freeにドラッグ、[取引日]を指定し、プルダウンから該当する[取引区分]を選択して、[配布元][品名][取引金額][配布元]を入力して保存となる。

 なお、[配布元]と[配布先]の右側にある[...]をクリックすると、最初に登録した自社情報を選択することもできる。[配布元][品名][配布先][メモ]に初めて入力する内容は自動的に「マスター」に登録される(後述)。

 [配布元]と[配布先]は間違えやすいので要注意。文書の発行者を考えよう。こちらから送付する文書なら[配布元]は自社、[配布先]は取引先となる。相手から受け取った文書なら[配布元]は取引先、[配布先]は自社となる。

登録する電子取引データ(PDF/JPEG/PNG)を電帳Freeにドラッグする。
画面右側にファイルのイメージが表示される。[識別番号]は自動的に付与される(編集不可)。必須項目の[取引区分]のほか、[配布元][品名][取引金額][配布元]は登録しておこう。[保存]をクリックすれば登録完了だ
取引先から受領したファイルの場合、[配布元]は取引先、[配布先]は自社となる。[保存]をクリックして登録する

 [保存]をクリック後、電子取引データが暗号化されて、電帳Freeのデータベースに保存される。削除や修正ができない状態となり、電子帳簿保存法の要件を満たす。以降、電子取引データの呼び出しや印刷(後述)は電帳Freeから行なう。

 [保存]の下にある[保存しデスクトップにコピー貼り付け]は、電子取引データのバックアップに便利な機能だ。電子取引データが[取引日][取引区分][配布元][品名][取引金額][配布元]を規則的に整えたファイル名にリネームされて保存される。

 ハードディスクのクラッシュなど、万が一の事態に備えて、[保存しデスクトップにコピー貼り付け]で命名されたファイルを外付けのHDDやクラウドドライブなどに保存しておくと安全だ。電子取引データが飛んだ場合、必要経費などを証明できなくなってしまう。

[保存しデスクトップにコピー貼り付け]をクリックすると、[取引日][取引区分][配布元][品名][取引金額][配布元]を規則的に整えたファイル名にリネームされて保存される。このファイルを外付けのHDDやクラウドドライブなどにバックアップしておくと安全だ

 なお、[取引日][取引区分][配布元][品名][取引金額][配布元]の再登録は可能だが、電子取引データ(PDF/JPEG/PNG)そのものの差し替えはできない仕様だ。登録した電子取引データ自体が間違っていた場合は追加登録となる。[メモ]欄にその旨を入力しておくといいだろう。

電帳Freeの仕様上、電子取引データ(PDF/JPEG/PNG)の差し替えはできない。[一覧]画面を表示(後述)し、訂正するデータを右クリックして識別番号を確認しておこう
正しい電子取引データを登録する。[メモ]欄に追加登録の旨を入力しておくといい

電子取引データの表示や印刷は[一覧]画面から行なう

 登録した電子取引データの表示や印刷は、画面下の[一覧]画面から操作する。ボタン名が機能を表しているので、操作に迷うことはないだろう。電子帳簿保存法の検索要件は十分に満たしている。

画面上部の項目で抽出条件を指定する(①)。[抽出](②)で該当するデータを抽出する。[抽出解除](③)は条件のクリア。[エクセルで出力](④)は表示中の一覧をExcelファイルとして保存する機能。各データの右側にある[呼出](⑤)をクリックすると[登録]画面に切り替わる。[印刷](⑥)は印刷プレビューを確認できる。左下の[USB及びその他メディアへダウンロード](⑦)は表示中の一覧に登録されている電子取引データ(PDF/JPEG/PNG)を指定したフォルダーに保存する機能
データの右側にある[呼出]をクリックすると[登録]画面に切り替わる。前述の通り、修正できるのは[取引日][取引区分][配布元][品名][取引金額][配布元][メモ]のみ。[再登録]をクリックすると更新できる
データの右側にある[印刷]をクリックすると印刷プレビューが表示される。左上にあるボタンは、左から保存(プレビュー中の電子取引データを任意のフォルダーに保存可能)、印刷、拡大、縮小となる

マスターでスムーズに登録できる

 利用頻度の高い[配布元][品名][配布先]を登録しておくと、電子取引データの登録がスムーズになるだろう。[登録]画面の[...]をクリックして呼び出せる。電子取引データの登録時に入力した内容もマスターに自動登録されているため、必要に応じてメンテナンスしておこう。

 各タブにある「ID」は自動的に付与されるので編集不可。新規追加する時は、最終レコードの「ID」右側のフィールドから内容を入力していく。不要なレコードは[削除]をクリックして削除しておこう。

[マスター管理]画面は、[自社][取引区分][配布元][品名][配布先][固定コメント]のタブに分かれている。[自社]タブは、冒頭で登録した自社の情報を確認・編集できる。[取引区分]は編集できないが、チェックを付けることで、各区分で必須入力の項目を制御可能だ
[配布元]タブ。サンプルのデータは削除して構わない。登録済みのレコードの[電話番号][インボイス番号][備考]は追記できる。[配布元]タブも同様の構造
[品名]タブ。サンプルのデータは削除して構わない。[備考]の追記は可能
[固定コメント]タブ。[登録]画面の[メモ]欄で入力する頻度の高い内容を登録しておくと便利

電子帳簿保存法に完全順守した専用ソフト

 国税庁の資料にある「改ざん防止のための措置」や「日付・金額・取引先で検索可能な状態」を個人で構築するのは難しい。「個人事業主・小規模事業主向け」と同社が謳うように、「電帳Free」は洗練された会計システムを持たない事業者の助けになるだろう。ドラッグ&ドロップと少しの手間で法令順守できることを考えると、導入する価値は大きい。

ソフトウェア情報

「電帳Free」
【著作権者】
株式会社システムゼロ
【対応OS】
編集部にてWindows 10で動作確認
【ソフト種別】
フリーソフト
【バージョン】
v1.0.0(4)(24/01/04)