はんこレス実現への基礎知識

電子署名だけの契約って法律的に大丈夫? 電子契約の法的な位置付けや契約書の補完

印鑑の電子化にまつわる法律を知ろう

 本連載では、3月3日に発売された“脱はんこ”を実現するためのノウハウが身に付く書籍『できるはんこレス入門 PDFと電子署名の基本が身に付く本』から、“脱はんこ”の実現に必要となる基礎的な知識が身に付くレッスンを抜粋してお届けします。書籍ではさらに具体的に主要な電子署名サービスの利用方法などを細かく解説しているので、ぜひご購入ください。

 本当に「はんこ」を使わなくても普段の仕事や契約をしても大丈夫なのでしょうか?ここでは「はんこレス」に関連する主な法律のポイントについて、説明します。

そもそもはんこがなくても契約できる

「この仕事をしてください」
「はい、わかりました」

 このように、私たちの身の回りでは、口頭での契約がなされることが多くあります。民法上は原則として、契約は申込と承諾があれば成立しますので、こうした口頭での契約も有効です。しかし、何も証拠がなければ、後々、争いになることも少なくありません。そこで、通常は書面で条件を指定したり、はんこやサインをしたりすることによって、契約が本人の意志に基づいて行なわれたことを明らかにするのが一般的です。

問1.契約書に押印をしなくても、法律違反にならないか。

  • 私法上、契約は当事者の意思の合致により、成立するものであり、書面の作成及びその書面への押印は、特段の定めがある場合を除き、必要な要件とはされていない。
  • 特段の定めがある場合を除き、契約に当たり、押印をしなくても、契約の効力に影響は生じない。

内閣府、法務省、経済産業省公表「押印についてのQ&A」

契約は申込と承諾があれば成立する
【HINT!】社内回覧などではあまり法律を意識しなくてもいい

 「はんこレス」には電子契約や文書保管に関するいろいろな法律が関係しますが、実務で使う上ではあまり気にしなくてもいい場合があります。たとえば、提案書や報告書などの社内回覧など、争いが発生しにくいケースなら法的な要件を気にせず、どのような方法を使ってもかまいません。

電子的なはんこで契約できる電子署名法

 書面とはんこによる契約は、長年使われてきましたが、インターネットの普及によって、電子申請や電子取引が普及しはじめました。そこで、はんこを使った押印やサインの代わりに、電子的な契約にも法的な効力を持たせる必要性が出てきたため、制定されたのが「電子署名法」です。

 電子署名法ははんこやサインの代わりに、電子的な署名(本人だけが行うことができる符合および物件)が法的効力を持つことを定めた法律です。PDF文書のような電子文書であっても本人による電子署名が行なわれているときは、この文書が真正に成立したものと推定することを定めています。

電磁的記録であって情報を表すために作成されたもの(公務員が職務上作成したものを除く。)は、当該電磁的記録に記録された情報について本人による電子署名(これを行うために必要な符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるものに限る。)が行われているときは、真正に成立したものと推定する。

電子署名法第3条

はんこやサインの代わりに電子的な署名が法的効力を持つ
【HINT!】どうやって本人確認をするの?

 法律でも定められているように、電子署名では「本人による電子署名」が要件のひとつとなっています。マイナンバーカードなどを使ったローカル型の電子署名では、マイナンバーカードの電子証明書を使うので、確実に本人性を確認できますが、クラウド型の電子署名サービスでは本人の電子証明書ではなく、事業者の電子証明書を使うため、「本人による電子署名とは言えないのではないか」という議論がありました。しかし、令和2年9月4日に総務省、法務省、経済産業省の連名で公表された「電子署名法第3条Q&A」では「クラウド型の電子署名サービスでも2要素認証によって署名当事者の指示によって電子署名を行なうなどのしくみがあれば、固有性が認められる(要約)」という趣旨の見解が公表され、クラウド型の電子署名サービスも法的に有効であることが明らかになりました。

文書の保存方法を定めた電子帳簿保存法とe-文書法

 電子署名法によって電子的な契約が定められる一方で、こうした文書をどのように保存しておくかが定められているのが「電子帳簿保存法」や「e-文書法」です。

 電子帳簿保存法は会計処理に使っている帳簿など、国税関連の書類を電子データとして保存するための方法が定められた法律で、e-文書法はもっと広い範囲の文書の保存法に関する法律となります。従来の紙の文書は紙の形で7年間保存することが義務付けられていましたが、一定の要件(タイムスタンプの付与など)を満たすことで、電子データとして保存することができます。こうした法律は、社会的な状況の変化によって改正が重ねられ、現在では要件がかなり緩和されました。

電子化された文書なら場所をとらず、検索も可能
【HINT!】国税関連の文書は申請と許可が必要

 電子帳簿保存法で定められている国税関連の文書(帳簿や領収書など)は、電子的に保存するために管轄税務署長への申請と許可が必要です。このため、こうした文書を電子的に扱うには、法律に従った取り扱いが必要になります。場合によっては電子帳簿保存法に対応したクラウド会計サービスなどの利用が必要です。担当の税理士や税務署などに相談してみましょう。


【テクニック】タイムスタンプは証明として重要

 文書を長期間保管したり、いつ発行された文書なのかを確認するには、文書にタイムスタンプが必要です。タイムスタンプはパソコンの画面で確認できるファイルの作成日時のようなあいまいなものではなく、時刻認証業務認定事業者(アマノやセイコーなど)によって発行された正確な時刻が表記された認定タイムスタンプ(電子証明書の一種)である必要があります。従来の電子帳簿保存法では、文書の発行者だけでなく受領者もタイムスタンプを付与して文書を保存する必要がありましたが、2020年10月の改正によって、発行者が付与すれば受領者は不要、または受領者側が文書を改編できないシステム(クラウド会計やクラウド電子署名)を使って保存する場合は、タイムスタンプの付与が不要となりました。

タイムスタンプの例
【HINT!】書類はスキャンデータなどでもいい

 電子帳簿保存法やe-文書法では、会計ソフトのデータだけでなく、スキャナやスマートフォンで読み込んだ領収書なども保管できるように定められています。

これから制定される法律もある

 電子署名や文書の電子化に関連する法律は、頻繁に改正されたり、新たに制定されたりしています。なかでも高い注目を集めているのが2023年10月から施行される「インボイス制度」です。

適格請求書保存方式(インボイス制度)

適格請求書発行事業者(登録事業者)に対して、納品書、請求書、領収書など取引の証拠となる書面又はデータを所定の要件満たす方式で記載したり、ルールに基づいて保存したりしなければならないことを定めた制度。発行側も受領側も電子帳簿保存法の規定に基づいて、タイムスタンプの付与や7年間の保存が必要になる。

インボイス制度の概要
【Point】クラウドサービスなら法対応も安心

 このレッスンで説明したように、電子署名による「はんこレス」は、法的にも有効性が確認されたものですが、扱う文書によっては申請と許可が必要だったり、ルールに従って保存しておかなければなりません。ただし、こうしたルールを利用者が熟知する必要はありません。『できるはんこレス入門 PDFと電子署名の基本が身に付く本』で解説するクラウド型の電子署名サービスでは、あらかじめ法的要件を満たすような設計がなされているうえ、新たな法律や解釈が出てきたとしてもすぐにシステムが更新されるようになっています。もちろん、社内回覧などであれば、こうした法律に縛られることなく、自由に「はんこレス」にすることができます。こうした法律があることを頭の片隅に置いておくだけで十分です。