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「Microsoft 365」と「Teams」とAIが切り開くハイブリッドワークの未来

Windows/Officeの人気Tipsも ~「Microsoft 365 & Teams Day 2023」レポート

 マイクロソフトは2023年3月14日、「Microsoft 365 & Teams Day 2023」を開催した。「Microsoft 365」や「Microsoft Teams」をハイブリッドワークで活用するためのヒントが発表された。会場はマイクロソフト品川本社でオンラインのハイブリッド開催。ちなみに、3月14日は「Microsoft Teams」の誕生日となる。

 様々な切り口でセッションが行われ、最新技術や最新事例が共有された。今回は、その中から、「Microsoft Teams」に関する4つのセッションの様子をレポートする。

マイクロソフトが「Microsoft 365 & Teams Day 2023」を開催した。画面は「Microsoft Teams」

ハイブリッドワークとAIで働き方のパラダイムシフトが起きている

 本イベントの副題は「ハイブリッドワークの進化と “Do More with Less” とは」となっている。マイクロソフトが見据える「働き方の進化」と“Do More with Less”について、日本マイクロソフト モダンワークビジネス本部 本部長 山崎善寛氏が語った。

 この2~3年のコロナ禍でITの需要が高まり、顧客のニーズも変化してきた。そんな中、マイクロソフトは働き方において2つのパラダイムシフトがあると考えている。それが、「ハイブリッドワーク(スライドではFlexible work)」と「AI」だ。

 オフィスに出勤するもしくはリモートワークのどちらか一辺倒ではなく、その間を柔軟に行き来するような働き方がグローバルでもスタンダードになっているそう。しかし、コロナ禍でリモートワーク100%になったものの、現在、在宅勤務の割合が少し下がってきているのがトレンドだという。

 グローバルの求人状況を見ると、リモートワークでOKとする求人数は全体の14%ほどになる。それなのに、そのような会社に応募する人は全体の52%に上るという。

『100%オフィスに来てください、という働き方では、なかなか優秀な人材が獲得できません。どうしても、市場の求人と求人をされている側のギャップが出てくると思います。』(山崎氏)

「ハイブリッドワーク(スライドではFlexible work)」と「AI」がパラダイムシフトとなる

 マネジメント側の課題として、生産性のパラノイアも発生している。リモートワークやハイブリッドワークをする中で、以前よりも生産性高く働けている、と言う従業員は87%もいるそう。一方で自分のチームが、生産性高く働けていると確信を持っているリーダーはわずか12%しかいないのだ。

『以前のように、オフィスで顔を合わせて実際に作業をしていると、マネジメントの方は安心するのですが、見えなくなってしまうと生産性高く働いているかどうか確信が持てなくなります。すると、単純にアクティビティベースでの評価に移ってしまい、人の評価が難しくなってきています。』(山崎氏)

 ハイブリッドワークが主流になる今、オフィスに出社するのは仕事上の友人やチームメンバーに会うことがモチベーションになっているそう。もはやオフィスは仕事をするための場所というよりは、人と人の出会いや繋がりを深めるための場所として期待されているのだ。そのため、オフィスでの働き方やオフィスのあり方、そこに置くべき設備などもこれから変わってくるという。

従業員は生産性が高まっていると考え、マネジメントは逆の意見を持っているという調査結果

 そして、AI。マイクロソフトは2月、「コパイロット(副操縦士)」と呼ぶAIを搭載した検索エンジン「Bing」をリリースしている。単純にAIで検索を助けてくれるだけではなく、例えば、これまでは自分で作っていたサマリーも「Bing」のAIがまとめてくれたり、旅行プランや今日の献立を作ってもらうこともできる。

 セッションではデモが行われ、山崎氏からの『例えば、もう今イベントをやっていますけど、今日のイベントの案内文を今すぐお客様に送ってください。』と無茶ぶり。しかし、Windows 11に統合されたタスクバーの検索に『「Microsoft 365 & Teams Day 2023」について、顧客に案内するメールを作成してください』と入力すると、ほぼ問題のない招待メールの文章が作成された。これは、仕込んでいるのではなく、マイクロソフトが作成したイベントページをAIがクエリーして作成しているものだという。なお、新しい「Bing」のAIチャットは今のところ、個人のMicrosoft アカウントでのみ利用でき、法人向けの「Azure AD」では利用できない。

新しい「Bing」のAIチャットは検索だけでなく、代筆や要約なども可能

 もう1つのAI活用が、「Microsoft Teams」との統合。「Microsoft Teams Premium」のサブスクライセンスが必要になるが、Open AI社の「GPT-3.5」が統合される。まず紹介されたのが、近日搭載予定の「インテリジェント・リキャップ」機能。会議の音声をAIがテキストに起こし、その内容をAIがまとめてくれるというものだ。会議の内容を後から簡単に確認できるようになり、議事録を作成するタスクからも解放される。なるはやの搭載を期待したい。

 すでに利用できる機能としては、翻訳機能が紹介された。「Microsoft Teams Premium」ユーザーなら、会話をリアルタイムで分析し、多言語で翻訳してくれるので、外国語ができなくてもコミュニケーションが取れる。これは、確かにビデオ会議のパラダイムシフトになりそうだ。

AIにより、英語をリアルタイムに日本語で表示してくれる

 続いて、シスコシステムズ合同会社執行役員コラボレーションアーキテクチャ事業担当 菊池政宏氏が登壇した。「Microsoft Teams」には認証デバイスがラインナップしているが、そこにシスコの製品も加わったのだ。内容自体は昨年11月に発表されていたが、シスコも「Webex」というライバル製品を手掛けているので、このコラボは驚きだった。

 会場には本邦初披露となるシスコのデバイスがセッティングされていた。これらのデバイスは「Microsoft Teams」認定デバイスとして、「Microsoft Teams」をデフォルトで稼働できるのが特徴。

『北欧の家具をイメージしたおしゃれなデザインになっています。全世界で60%のシェアをいただいており、ハードウェアにこだわったクラフトマンシップで開発をしてきました。そのDNAが今回、「Microsoft Teams」に注ぎ込まれます。色々なAIの機能などを含んで開発しており、機能比較で負けたことはありません。』(菊池氏)

シスコのデバイスでTeams Roomsライセンスが使用できるようになった

 事例も紹介された。金沢に本拠地を置く株式会社北国銀行では、基幹系システムにマイクロソフト製品を大々的に採用し、先進的な取り組みを行っているという。単に、銀行業務で「Microsoft Teams」を使うというだけでなく、カルチャー変革においても活用している。頭取自らチャットで従業員に語り掛けたり、部下から上司にも気軽に話しかけるようになったという。

『コロナ禍で大変だった頃は、とにかく社員とのコミュニケーションを担保するために「Microsoft Teams」を使っていただいたのですが、今、増えているのは取引先様やパートナー様、お客様とセキュアなコラボレーション環境を作るには、どうしたらいいかという相談です。バラバラのソリューションを導入するのではなく、ひとつの「Microsoft 365」というソリューションご導入いただくことで、エンドユーザーの使い勝手を向上し、IT管理者の負荷を削減できます。まさに、我々が昨今ご紹介をしている“Do More with Less”です。より少ないことで、より多くのことを実現するために「Microsoft 365」がお手伝いできると考えています。』と山崎氏は語った。

“Do More with Less”で働き方を進化させる

マイクロソフトのTwitterで人気のTipsを総ざらい

 続いて、「Microsoft 365 Apps ティップス&テクニック 生放送!」というお題で、Windowsや「Microsoft Excel」、「Microsoft Teams」などの活用技を紹介してくれるコーナー。紹介してくれたのは、日本マイクロソフトの春日井良隆氏と大下真理奈氏のお2人。

 マイクロソフトはWindowsや「Microsoft 365」それぞれで、Twitterアカウントを運用しており、その投稿から人気のコンテンツをピックアップ。Windowsの人気Tipsトップ10とMicrosoft 365 Appsの人気Tipsトップ20の中から、厳選したTipsを詳しく紹介してくれた。まずは、Windowsの人気Tipsトップ10から。

Windowsの人気Tipsトップ10

  • 1 位:ショートカット:ブラウザタブの復元
  • 2 位:Wi-Fiパスワード表示
  • 3 位:ショートカット:半角スペースの入力
  • 4 位:ショートカット:エクスプローラーの操作
  • 5 位:付箋アプリ
  • 6 位:ファイルのプロパティ表示
  • 7 位:PCの自動ロック
  • 8 位:ショートカット:ファイルの完全削除
  • 9 位:ショートカット:タスクバーのアプリ選択
  • 10位:アプリのインスタンスを開く

『まさか、ブラウザタブの復元のショートカットが1位に来ると思いませんでした。これはうっかり者のあなたにおすすめの機能です。ブラウザーでWindowsブログを見ていたときに、うっかりタブを消してしまったとします。履歴から辿ることもできますが、[Ctrl]+[Shift]+[T]キーという復活の呪文を唱えると、タブが復元されます。』(春日井氏)

Windowsの人気Tipsトップ5

Windows_Japan(@Windows_Japan)さん / Twitter

 続いて、Microsoft 365 Appsの人気Tipsトップ20が紹介された。

Microsoft 365 Appsの人気Tipsトップ20

  • 1 位:「Excel」 オートSUM
  • 2 位:「Word」 ショートカット:書式のリセット
  • 3 位:「Excel」 XLOOKUP
  • 4 位:「Excel テンプレート:ガントチャート作成
  • 5 位:「Word」 ショートカット:罫線
  • 6 位:「Word」 PDFをWordで編集
  • 7 位:「Excel」 フラッシュフィル
  • 8 位:「Excel」 「=」がないテンキーでの計算式入力
  • 9 位:「Word」 透かし文字の設定
  • 10位:「Excel」 ショートカット:行・列の非表示
  • 11位:「Teams」 検索コマンドの表示
  • 12位:「Excel」 INDEXとMATCHを用いたグラフの自動化
  • 13位:「PowerPoint」「Word」 ショートカット:フォントサイズの変更
  • 14位:「Teams」 メッセージの保存とリスト化
  • 15位:「Word」 囲い文字
  • 16位:「Teams」 作成ボックスの表示
  • 17位:「Excel」 セルの選択範囲を部分解除
  • 18位:「Excel」 漢字にルビを振る
  • 19位:「Word」 エディター機能による文章校正
  • 20位:「Excel」 条件付き書式:データバー

 16位の「Teams 作成ボックスの表示」は、文章を入力しているときに[Enter]キーを押したら、送信されてしまい、困っている人向けのTips。入力ボックスの下にある書式ボタンをクリックして作成ボックスを開くことで、[Enter]キーを押しても改行されるだけで、最後まで入力できる。この状態から送信する場合は、[Ctrl]+[Enter]キーを押せばいい。

作成ボックスに入力すれば、[Enter]キーで送信されずに済む

 チャットは会話が流れていくものだが、何度も見返すような重要なメッセージの扱い方は14位の「Teams メッセージの保存とリスト化」が参考になる。3点リーダーメニューから[このメッセージを保存する」をクリックすればいい。保存したメッセージは、プロフィールアイコンをクリックし、「保存済み」をクリックすればアクセスできる。

 なお、栄えある1位はExcelのオートSUM機能だった。使う頻度が高い機能なので、ショートカットの[Alt]+[Shift]+[=]キーを押すことで、簡単に合計を出せるようにしておきたい。

Microsoft 365(@MSOfficeJP)さん / Twitter

Teams電話があればリモートワークでも会社の電話を受けられる

 この後「Microsoft Teams 最新情報! Teams Rooms と Teams 電話で実現する、進化するハイブリッドワーク」と題するセッションが行われた。「Microsoft Teams」のマーケティングを担当している日本マイクロソフト モダンワークスビジネス本部 GTMマネージャーである影山三郎氏と大森永理香氏が登壇した。

 「Microsoft Teams」は現在、月間アクティブユーザー数が2.8億人、Teams電話のシート数は500万以上、Teams Roomsデバイスは50万デバイスとなっているそう。Teams Roomsデバイス数は昨年比成長率が+70%、サードパーティアプリの使用ユーザーは+40%以上となる。2021年のレポートになるが、ビジネスプロセスを「Microsoft Teams」に一本化していると回答した組織は53%、今後3年以内に標準化することを見込んでいる組織の割合は67%にもなるという。また、「Microsoft Teams」は日々、改善されており、2022年はなんと1年間で450以上の新機能が追加されたているという。

ビジネスプロセスを「Microsoft Teams」に一本化していると回答した組織は53%、今後3年以内に標準化することを見込んでいる組織の割合は67%にもなる
Teams Roomsデバイスの導入が大きく伸びている

 そんな中、マイクロソフトは2023年2月から「Microsoft Teams Premium」という有償サービスの提供を開始している。企業からの要望が多かったTeams会議をカスタマイズして企業としてのブランディングや大規模ウェビナーの機能強化、オンライン面談機能、AI、セキュリティ強化などの機能を実装したサービスだという。

 すでに、「Microsoft 365」の管理センターから試用版ライセンスを申し込めるほか、2023年6月まで、3割ほど割引して提供しているので、「Microsoft Teams」を検討している企業はチェックしてみよう。

試用版ライセンスや(6月末まで)特別導入価格が用意されている

 ハイブリッド会議は、ますます日々の業務で欠かせなくなっている。マイクロソフトの調査によると、オフィスで過ごす時間が少ない人の58%は、より集中して仕事をするためにリモートワークを選択すると回答。一方、オフィスで過ごす時間が長い人の58%は、より集中して仕事をするために出社していると回答している。人によって、業務によって集中できる場所が異なるので、自宅からでもオフィスからでも会議に参加するのが当たり前になっているのだ。

 2020年以降、「Microsoft Teams」ユーザーが会議に費やす時間は252%に増え、そのうち、臨時や緊急の会議が64%を占めたという。その一方、ハイブリッド会議に参加しても、会議になかなか関与できないと感じている人も43%いた。

人によって働き方が異なるのでハイブリット会議が不可欠になる

 そんな課題を解決するのが会議室用ソリューションのTeams Roomsだという。自分のPCを持ち込んでモニターに繋いだりしているとセッティングの手間がかかるが、Teams Roomsであればデバイスを置いておくだけで、ワンタッチで会議に参加できるようになる。

『Teams Roomsはモジュール型や一体型のバータイプ、そしてディスプレイまで組み合わせたオールインワン型など、様々なデバイスのラインナップをご用意しています。たくさんのデバイスメーカー様に、Teams Roomsデバイスの認定を取得していただいています。今回、シスコ様がこのTeams Roomsのデバイスパートナー様に入っていただくことになりました。』(大森)

Teams Rooms認定デバイスを組み合わせてハイブリット会議を実現する

 ここで、シスコシステムズ合同会社 コラボレーション アーキテクチャ事業 パートナー営業部 部長 粕谷一範氏に説明をバトンタッチした。

『シスコのデバイスが「Microsoft Teams」になるのは非常に感慨深いものがあります。シスコデバイスは端末の市場シェアは61.9%と高く、映像や音声、デザイン、操作性にこだわってきたクラフトマンシップの賜物かと思っています。』と粕谷氏。

 Teams認定デバイスは大会議室向けから小会議室向け、個人向けなど幅広いデバイスの認定手続き中で、3月末から4月に最終的に認定されるとのこと。

 Teams Rooms端末の特徴として、まず挙げられたのがAIを活用したノイズ除去機能だ。会議中に発生するノイズを除去するもので、実際にデモが行われた。ノイズ除去機能をオフにした状態で、人が話している時に、他の人が紙資料をわざと触って音を立てたところ、声が聞き取れなくなってしまった。しかし、ノイズ除去機能をONにしたところ、紙の音が消え、話し声がクリアに聞こえるようになった。

 インテリジェント・カメラビューにもAIが活用されており、人の顔を認識して自動的にフレーミングしてくれるのが特徴だ。人が移動してもトラッキングしてくれるので、見切れることがない。複数人がいる場合は誰が話しているのかわかりにくいが、こちらも自動的にズーム表示してくれるのでわかりやすい。

『Teams Roomsはすでに様々な企業の皆様に導入いただいております。いすゞ自動車様は小会議室120部屋以上に導入していただき、中規模な会議では小会議室を2つつなぐといったような柔軟な活用をされています。一方、ファイザー様はボードルームの大型LEDディスプレイにTeams Roomsを導入いただいております。』(粕谷氏)

Teams Roomsのインテリジェント・カメラビューはとても見やすい

 続いて、影山氏がTeams上で会社の電話を受けられるソリューションであるTeams電話を紹介してくれた。Teams電話はガートナーの「Magic Quadrantレポート」で、UCaaS(Unified Communications as a Service)部門において4年連続で最高評価を獲得しているという。

 Teams電話は“Do More with Less”の観点でも最適なソリューションであり、フォレスター社の調査によると、Teams電話を使うことで週に1.6時間を節約でき、3年間で1,970万ドルのコスト削減と効果が得られ、投資対効果は143%、専門スタッフの負荷を3名分から2名分へと工数を減らすことができたという。

Teams電話を導入することで、ビジネスパフォーマンスを大きく向上できた

『電話はビジネスの重要なインフラで、決して電話がなくなるわけではありません。ただし、固定電話は制約を生む要因になっています。例えば、オフィスに固定されている電話がある故に、ハイブリッドワークを強要できなかったり、全員に携帯電話を支給できないので代表電話を使うと、代表電話を取り継ぐ作業が必要になります。』(影山氏)

 Teams電話なら、PCやスマホで会社の電話を利用した外線電話が使えるので、リモートワークでも電話を取ることができる。電話を取り次ぐこともできるし、出られない場合も、留守番電話を残してもらえばいい。この留守番メッセージもテキストで書き起こしてチェックできるので、録音を聞く必要もない。オフィスでもリモートでも現場でも場所に縛られずに電話を受け取れるのだ。

『マイクロソフトが考えるハイブリッドワークは、従来型の働き方の良さを取り込みながらも、従業員の方が働く場所や時間帯、使用するデバイスを横断して選択し、セキュアな環境下で、生産性高く、能力を最大限発揮できる働き方だと思っています。今後、その新しい働き方を実現するために、「Microsoft 365」並びに「Microsoft Teams」は引き続き進化していきますので、ぜひ楽しみにしていただければと思います。』と影山氏は締めた。

Teams電話ならリモートワークでもTeams上で会社の電話を受けられる

BCPの中心にTeamsを置いて災害ポータルを構築したパナソニック

 4つ目のセッションは「仕事の"気づき"を DX につなぐ ~ Teams × アプリケーションで Do More With Less ~」というお題で、パナソニック オペレーショナルエクセレンス株式会社が「Microsoft Teams」で「災害ポータル」を構築した経緯を同社の情報システム本部の青江多恵子氏が紹介してくれた。スピーカーは引き続いて影山氏とマイクロソフト シニアカスタマサクセスマネージャー 熊田貴之氏。

パナソニック オペレーショナルエクセレンス株式会社 情報システム本部の青江多恵子氏とスピーカーのお2人

 青江氏はBCP(事業継続計画)を担当しており、災害発生時にも事業を継続できるように、万一停止してしまった場合にも、できるだけ速やかに復旧してサービスを提供できるように計画する業務を手掛けている。東日本大震災の時にはパナソニックとして初めて全社緊急対策本部が設置されたが、その時も事務局にいたそう。

『当時はメールやファックス電話で情報が集まってくるので、コピー&ペーストして資料を作るのが本当に大変でした。もっとスピードアップして意思決定を迅速化して、実際の業務の継続にもっと時間を使えたらいいなと、BCPのICT化が必須だと実感しました。』(青江氏)

 ITに詳しくなかった青江氏は、情報システム部門なら周りにITの専門家がいるので色々教えてもらえるのではないかと考え、異動したそう。そこで、災害報告を行うシステムを検討したところ、平時でも使っている「Microsoft Teams」で何かできないか、と考えた。

『災害報告を行うシステムは世の中にいっぱいありまして、私たちもそれを使おうかなと考えたのですが、有事にだけ使うツールはすぐ忘れてしまったり、どこにあるのかすらわからなくなってしまいます。そこで、有事でも平時でも一緒に使える「Microsoft Teams」を使おうと考えました。これをBCPの業界ではフェーズフリーという言い方をします。』(青江氏)

 同じ部署の同僚に「Microsoft Teams」でBCPをしたいと相談すると、「Microsoft Power Apps」を紹介してくれたそう。そこで、若手の社員を一人、「Microsoft Power Apps」の開発に付けて取り組み始めた。

『こんなことができたのには理由があります。現在、パナソニック版のデジタルトランスフォーメーション、「Panasonic Transformation」(PX)に取り組んでいます。PXは単にIT化を進めるだけでなく、カルチャーの変革、そして人材育成などを含むオペレーティングモデルの変革、そしてITの変革と、3階層のフレームワークで推進しています。』(青江氏)

 とは言え、若手社員だけでは手に余ったので、熊田氏に相談したところ、ベンダーを紹介してもらったり、アプリの開発を助けてもらったりと大きな支援を得られたという。さらにその後、パナソニックの中で内製できるように、パナソニックのIT会社であるパナソニック ソリューションテクノロジーもプロジェクトメンバーに入れた。

 最初はIT部門用に作ったアプリを全社版に仕上げていくにつれ、色々な望が出てきたそう。そこで、分科会が設置され、要望を実現するために、改修を続けているという。

パナソニック版のデジタルトランスフォーメーションのPXを推進している

 「災害ポータル」では災害が起こると「Microsoft Teams」で一報が入り、まず拠点の対策本部が災害報告を始める。報告した時点で、災害報告マップでも全社で情報が共有できるようになっている。

 災害報告マップは「Microsoft Power BI」で構築されており、管理する全体の拠点数や災害対象エリアに入っている拠点数、被害の有無、調査中や復旧済みといった状況を一目で把握できる。メールでバケツリレーをしていたような従来の仕組みと比べると格段にスピードアップしていることがわかる。

Teamsを起点にマイクロソフト製品で災害ポータルを構築した

『最初から予算や分科会のような体制があったら、もっと効率的に開発できたと反省していたら、熊田さんから、これがアジャイルのいいところなんですと言っていただきました。最初は小さく終わるプロジェクトだと思っていたのですが、こんなに大きくなって本当に驚いています。』(青江氏)

 BCP製品が色々ある中で、マイクロソフトのソリューションの中で、ここまでカバーできるというのは、『BCP界としては大ニュースですよ。』と熊田氏は語る。

『私は決してITの専門家ではなくて、アプリを作るのも初めてでした。事業会社や情報システム部門、ベンダーさん、マイクロソフトさんに助けていただき、なんとかここまで進んできています。皆さんもぜひ、いろんな人に相談してみることから始めてみたらいかがでしょうか。』と青江氏は締めてくれた。