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MicrosoftはAIに全集中! 盛りだくさんの「Microsoft Build 2025」基調講演はAI一色に
開発はAIエージェントなしでは始まらない時代が来ている
2025年5月20日 16:55
Microsoftの開発者向けイベント「Microsoft Build 2025」が5月19日(米国時間)、米シアトルとオンラインとで開幕した。
初日のキーノートでは、Microsoft CEOのSatya Nadella氏とCTOのKevin Scott氏が、2時間ほぼAI一色で、さまざまな新機能などを語った。
Nadella氏は冒頭で開発プラットフォームの変化について触れ、1991年には32ビットWindows、1996年にはWebスタック、2008年にはクラウドとモバイル、そして2025年に作る(build)のは『Open Agentic Web』だと語った。
そして、『Developer tools(開発ツール)』と、『Apps and agents(アプリとエージェント)』、『AI platform(AIプラットフォーム)』、『Data(データ)』、『Infrastructure(インフラ)』の4つのレイヤーに分けて紹介した。
ここではそれらの新発表を紹介する。
- 開発ツール
►「Visual Studio Code』の「GitHub Copilot」拡張機能がオープンソース化
►エージェントモードが「Visual Studio」、「JetBrains」、「Eclipse」などにも
►アプリケーションをモダナイズする機能
►システム運用を助けるAzure SREエージェント
►「GitHub Copilot」が“同僚”となる『Coding Agent』
►Sam Altman氏がリモート出演 - アプリとエージェント
►『Microsoft 365 Copilot Wave 2』の機能が一般提供開始
►『Teams AI ライブラリ』がA2AプロトコルとMemory機能に対応
►「Copilot Studio」で複数エージェントを組み合わせる
►企業独自のデータで「Microsoft 365 Copilot」をファインチューニング - AIプラットフォーム:「Azure AI Foundry」のモデルをさらに強化
►OpenAIの動画生成AIモデル「Sora」が「Azure AI Foundry」に来週登場
►OpenAIのAIモデルを自動的に選ぶ「Model Router for Azure OpenAI models」
►xAIの「Grok 3」も「Azure AI Foundry」で利用可能に
►「Hugging Face」との提携を拡大
►「Azure AI Foundry Agent Service」が一般提供開始
►「Azure AI Foundry」から「Copilot Studio」にAIモデルを移植
►AIエージェントのパフォーマンスや品質、コスト、安全性を監視
►組織内のAIエージェントをIDで管理する「Microsoft Entra Agent ID」
►モデル開発にコンプライアンス管理やセキュリティを統合する機能 - 「AI Foundry」をローカルにも
►「Azure AI Foundry」の機能をローカルのWindowsやMacで動かす
►ローカルのAI開発プラットフォーム「Windows AI Foundry」
►WindowsでMCPをネイティブサポート
►WSLがオープンソースに - 『Agentic WebのHTML』を目指す「NLWeb」
- データサービスもAI関連機能を強化
►「AI Foundry」からデータにアクセスする
►「Azure Database PostgreSQL」の生成AI機能
►「Microsoft Fabric」でデジタルツインを作る「Digital twin builder」
►データとチャットする機能や、「OneLake」のAIによるデータ変換機能 - 『Infrastructure(インフラ)』
- 5つ目のレイヤー『Science(科学)』
►科学研究をAIで支援する「Microsoft Discovery」も登場
開発ツール:「GitHub Copilot」がエージェントに進化、オープンソース化も
『Developer tools(開発ツール)』のレイヤーでは、「Visual Studio Code」と「GitHub Copilot」について新機能を紹介。DevOpsにも範囲を広げた『Agentic DevOps』が語られた。
「Visual Studio Code』の「GitHub Copilot」拡張機能がオープンソース化
まず「Visual Studio Code』の「GitHub Copilot」拡張機能がオープンソース化されることがアナウンスされた。数カ月かけて、「Visual Studio Code』のGitHubリポジトリの中に追加されていくという。
エージェントモードが「Visual Studio」、「JetBrains」、「Eclipse」などにも
「GitHub Copilot」はコード補完に始まり、チャット、ファイル編集、そしてエージェントへと進化してきた、とNadella氏は語る。このエージェントモードが、「Visual Studio Code』だけでなく、「Visual Studio」、「JetBrains」、「Eclipse」、「Xcode」などでも使えるようになった。
アプリケーションをモダナイズする機能
Javaや.NETの『App Modernization』(アプリケーション近代化)機能も発表された(Public Preview)。「Java 8」から最新の「Java 21」へ、「.NET 6」から「.NET 9」へ、あるいはオンプレミスからクラウドへの移行するのに必要な変更をAIが助ける。
システム運用を助けるAzure SREエージェント
『Azure SRE agent』(Public Preview)は、Aure上のシステムを監視し、自動でトリアージしトラブルシューティングを支援する。
「GitHub Copilot」が“同僚”となる『Coding Agent』
さらに「GitHub Copilot」の新しい『Coding agent』(Public Preview)が発表された。GitHub Copilotをチームの一員としてタスクをアサインできるようにしたもので、Nadella氏は『pair programmer(ペアプログラミングの相手)からpeer programmer(同僚のプログラマー)になった』と説明した。
ステージでは実際にGitHub上のIssue(不具合や要望など)に届いた、Webアプリケーションにフィルタリング条件を追加する要望を、「GitHub Copilot」にアサインして解決してもらうところをデモした。
アプリとエージェント:AIモデルのファインチューニング機能など「Microsoft 365 Copilot」関連の強化
『Apps and agents(アプリとエージェント)』のレイヤーでは、「Microsoft 365 Copilot」関連の新機能が紹介された。
『Microsoft 365 Copilot Wave 2』の機能が一般提供開始
まずNadella氏は、4月に『Microsoft 365 Copilot Wave 2』として発表された「Microsoft 365 Copilot」の機能であるChat(AIチャット)、Search(AI検索)、Notebooks(自分の資料から要約や分析などができるノートブック)、Create(コンテンツ作成支援)、Agents(エージェント)を紹介し、Generally Available(一般提供開始)をアナウンスした。
『Teams AI ライブラリ』がA2AプロトコルとMemory機能に対応
「Microsoft Teams」のAIエージェントを開発するための『Teams AI ライブラリ』では、AIエージェントからサービスにアクセスするプロトコルMCP(Model Context Protocol)への対応が5月上旬に発表されている(General Available)。
今回これに、エージェント間でやりとりするプロトコル『A2A(Agent2Agent)』と、対話履歴を覚えてパーソナライズした回答を返す『Memory』機能への対応が発表された(Public Preview)。
「Copilot Studio」で複数エージェントを組み合わせる『Multi-agent orchestration』
エージェント開発ツール「Copilot Studio」では、『Multi-agent orchestration(マルチエージェントオーケストレーション)』機能が発表された(preview)。複数のエージェントが互いにタスクを委任できるようになる。
Nadella氏は、企業で新人を入れるときに、施設、会計、法などの要素が混ざって手続きが複雑になるのを、1つのワークフローにまとめて早くできるようにする例を説明した。
企業独自のデータでAIをファインチューニングする「Microsoft 365 Copilot Tuning」
「Copilot Studio」にて企業独自のデータからAIモデルをファインチューニングする「Microsoft 365 Copilot Tuning」も発表された。これにより、エージェントが企業独自の用語やスタイルにのっとって回答を返すといったことが実現できる。
Nadella氏は、法律事務所が過去の弁論や判例などをもとに文書を作成する例や、コンサルティング会社が業界ごとにAIをチューンする例を紹介した。
現在Early Access段階で、「Microsoft 365」のライセンスを5,000以上契約している顧客が対象となる。
AIプラットフォーム:「Azure AI Foundry」のモデルをさらに強化、セキュリティやコンプライアンスの機能も
『AI platform(AIプラットフォーム)』では、AIのモデルやアプリケーションのプラトフォームである「Azure AI Foundry」関連の機能が紹介された。
OpenAIの動画生成AIモデル「Sora」が「Azure AI Foundry」に来週登場
「Azure AI Foundry」では、現在約1,900のAIモデルをサポートしている。OpenAIのAIモデルも15個サポートしており、動画生成の「Sora」も『来週登場する』とNadella氏は語った。
OpenAIのAIモデルを自動的に選ぶ「Model Router for Azure OpenAI models」
どのAIモデルを使うのが最適か、能力や速度、コストなどの要素を考えて選択するのは大変だ。そこで、「Azure AI Foundry」で、OpenAIのAIモデルを自動的に選ぶ「Model Router for Azure OpenAI models」が発表された。プロンプトにあわせて最適なAIモデルを選んだり、A/Bテストやトレースなどにより評価して別のモデルに切り替えたりする機能を持つ。
xAIの「Grok 3」も「Azure AI Foundry」で利用可能に
xAIによるAI基盤モデル「Grok 3」も「Azure AI Foundry」に登場した。6月上旬までlimited free preview(限定的な無料プレビュー)として利用でき、その後に有償となる。
基調講演では、xAIのElon Musk氏がNadella氏と「Grok」の特徴などについて話す対談の動画も上映された。
「Hugging Face」との提携を拡大
オープンなAIモデルなどを公開する「Hugging Face」との提携拡大もアナウンスされた。1万を超えるAIモデルを「Azure AI Foundry」で即座にデプロイできるようになる。
「Azure AI Foundry Agent Service」が一般提供開始
エンタープライズ向けのAIエージェントを開発しオーケストレーションできるサービスnとなった。
「Azure AI Foundry」から「Copilot Studio」にAIモデルを持っていける『Bring your own models to Copilot Studio』機能
『Bring your own models to Copilot Studio』の機能もアナウンスされた(preview)。「Azure AI Foundry」でファインチューニングや事後学習したモデルを「Copilot Studio」で利用できるようになる。
AIエージェントのパフォーマンスや品質、コスト、安全性を監視する『Observability』機能
AIエージェントのメトリクスを監視できる「Azure AI Foundry」の『Observability』機能もアナウンスされた(preview)。AIエージェントのパフォーマンスや品質、コスト、安全性を監視できる。
組織内のAIエージェントをIDで管理する「Microsoft Entra Agent ID」
組織内のAIエージェントをIDで管理する「Microsoft Entra Agent ID」も発表された。組織内のすべてのAIエージェントを1箇所で確認でき、そのアクセスする内容を管理できる。
モデル開発にコンプライアンス管理やセキュリティを統合する機能
「Azure AI Foundry」の評価ツールをコンプライアンス管理の『Microsoft Purview Compliance Manager』と統合する機能もアナウンスされた(Preview)。モデルの脆弱性やバイアス、透明性などのコンプライアンスを、Purviewでチェックできる。
同様に、「Azure AI Foundry」にセキュリティツールの「Microsoft Defender for Cloud」を統合する機能もアナウンスされた(preview)。
「AI Foundry」をローカルにも。WindowsのMCP対応やWSLのオープンソース化も発表
「Azure AI Foundry」関連では、クラウドだけでなくローカルのPCでのAI開発のための機能も発表された。
「Azure AI Foundry」の機能をローカルのWindowsやMacで動かす「Foundry Local」
「Azure AI Foundry」の機能をPCで動かす「Foundry Local」もアナンスされた(Public Preview)。WindowsとMacに対応している。
ローカルのAI開発プラットフォーム「Windows AI Foundry」
ローカルでのAI開発プラットフォーム「Windows AI Foundry」も発表された。「Windows Copilot Runtime」の進化形だという。
「Windows AI Foundry」には、「Foundry Local」や、モデルカタログ、CLIツール、Phi Silica向けLoRA(Low-Rank Adaption)、RAGのためのセマンティック検索などが含まれる。AIモデルの選択、最適化、ファインチューニング、デプロイといったAI開発ライフサイクルをサポートする。
WindowsでMCPをネイティブサポート
WindowsでのMCP(Model Context Protocol)のネイティブサポートもアナウンスされた。数カ月以内に、厳選されたパートナーにprivate developer previewとして提供される。
MCPはAIアプリケーションから外部サービスにアクセスするプロトコルで、AIエージェントが外部サービスから情報を取得したり、外部サービスを操作するための共通のインターフェイスとなっている。
Windowsでは、Windows上のAIエージェントがセキュアで信頼性を持ってMCPサーバーにアクセスできるようにする単一のアクセス元「MCP Registry for Windows」と、ファイルシステム、ウィンドウ、WSLなどのWindowsのシステム機能をAIエージェントから扱えるようにする「MCP Servers for Windows」が含まれる。
キーノートでは、新しいWindowsマシンに「GitHub Copilot」からのプロンプトだけで、WSL(Windows Subsystem for Linux)と、LinuxディストリビューションのFedora、言語ランタイムのNode.jsをセットアップするところがデモされた。
WSLがオープンソースに
そのWSLがオープンソース化されたことも発表された。すでにGitHubのWSLのリポジトリで公開されている。
もともと「Bash on Windows」として登場した当時、Issueの第1号は『Bash on Windowsがオープンソースになることに期待』というものだった。当初は問題があったが、現在のWSL2はWindowsから分離可能になったため、このIssueがクローズ(完了)された、とNadella氏は語った。
『Agentic WebのHTML』を目指す「NLWeb」
Microsoft CTOのKevin Scott氏は、改めて『Open Agentic Web』について説明した。
Scott氏は、ここ1年ほどでAIエージェントが爆発的に増加し、エコシステムが豊かになっていると述べた。そして、エージェントが自分に代わって行動できるようにするには、MCPやA2A、あるいはこれから出てくるプロトコルが必要になると語った。
Agentic WebにおけるMCPは、WebにおけるHTTPのようなものだというのがScott氏の意見だ。
そして、Agentic WebのHTMLのようなものという説明で、「NLWeb」を発表した。
「NLWeb」は、既存のWebサイトに、自然言語やMCPのインターフェイスを追加する技術だという。Schema.orgやRSSなどWebサイトがすでに公開している半構造化フォーマットをもとに、LLMベースのツールによって実現するとの説明だ。
データサービスもAI関連機能を強化
『Data(データ)』のレイヤーでは、AzureのデータサービスでのAI関連の機能をNadella氏は紹介した。
「AI Foundry」からデータにアクセスする「Foundry connection for Azure Cosmos DB/Azure Databricks」
「Foundry connection for Azure Cosmos DB」がGenerally Available(一般提供開始)となった。「Azure AI Foundry」のRAGアプリケーションなどが「Azure Cosmos DB」にアクセスして利用できる。
同様に、「Azure AI Foundry」からAzure上のDatabricksにアクセスするFundry Connection for Azure Databricksもアナウンスされた(Public Preview)。
「Azure Database PostgreSQL」の生成AI機能
「Azure Database PostgreSQL」については、データベース内の生成AI関連機能がアナウンスされた
「Microsoft Fabric」でデジタルツインを作る「Digital twin builder」
「Microsoft Fabric」でデジタルツインを作る「Digital twin builder」もアナウンスされた(Public Preview)。
データとチャットする機能や、「OneLake」のAIによるデータ変換機能
AI用データレイクの「OneLake」では、『Shortcut transformation』の機能がアナウンスされた(Public Preview)。データを取り込むときなどに、形式変換や、AIによる要約・翻訳などの変換を利用できる。
また、「PowerBI」や「Microsoft 365」のデータをチャット形式で調べる『Chat with your Data』をNadella氏は紹介した(Public Preview)。
『Infrastructure(インフラ)』:コストを抑えて最高の性能を出す
いちばん下のレイヤーは『Infrastructure(インフラ)』だ。
Nadella氏はインフラについて、データセンターやシリコン、ネットワーク、ストレージなどさまざまな要素で、コストを抑えて最高の性能を出す取り組みを紹介した。
また、NVIDIAのCEOのJensen Huang氏とNadella氏がAIスーパーコンピューター開発などについて話す対談の動画も上映された。
5つ目のレイヤー『Science(科学)』
最後にNadella氏は、開発ツールと4つのレイヤーに加えて『Science(科学)』の分野を追加した。
科学研究をAIで支援する「Microsoft Discovery」も登場
ここでは科学の研究開発のための「Microsoft Discovery」がアナウンスされた。さまざまな分野の科学研究をAIで支援するツール群だ。
キーノートでは、「Microsoft Discovery」を実際使って、PFASなどの環境に有害なものを出さずに機器を冷却する冷却液を研究した様子がデモされた。
既存研究の論文を生成AIの助けを借りて調査し、AIエージェントが立てたプランをもとに、AIでスクリーニングしたり、Azure上のHPCシミュレーションで実験したりして、目的の物質を見つけたという。そして実際に作られた冷却液に基盤を漬けてゲームをプレイするところが動画でデモされた。