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DeepLがAI音声翻訳「DeepL Voice」を強化、Zoomと連携、日本市場にもさらに注力
CTOが来日してアピール「言語の壁を取り除くことが使命」
2025年7月28日 10:14
DeepLジャパンは、リアルタイム音声翻訳ソリューション「DeepL Voice」の新たな機能を発表した。DeepL Voice for Meetingsにおいて、Microsoft Teams連携に加えて、新たにZoom Meetingsとの連携機能を追加する。
世界で50万社以上が利用しているZoomへの対応によって、多言語コミュニケーションを、より身近なものにできるという。
さらに、会議の全文書き起こしと翻訳結果をダウンロードできるようにし、議事録の作成やフォローアップ作業を効率化するという。この機能では、専用の管理者コントロールによって、エンタープライズレベルのセキュリティとコンプライアンスも確保できるとした。
また、これまでの英語、日本語、ドイツ語、フランス語、韓国語などの13言語に加えて、新たに中国語、ウクライナ語、ルーマニア語の3言語に対応。また、翻訳キャプションは35言語で利用が可能になり、DeepL翻訳ではベトナム語とヘブライ語などを追加したという。
DeepL Voiceは、2024年11月に発表した多言語音声翻訳を可能にしている。オンライン会議や対面での会議、移動中の通話でも、リアルタイム音声翻訳によって、自然にコミュニケーションを実現することができる。
オンライン会議でAIによるライブキャプション翻訳をリアルタイムで提供する「DeepL Voice for Meetings」、モバイルデバイス上で動作し、対面シーンにおいてリアルタイム音声翻訳を実現する「DeepL Voice for Conversations」で構成している。
東京で「DeepL Connect:Tokyo」を開催、CTOが来日
DeepLジャパンは、2025年7月23日に、東京・九段の九段会館テラスにおいて、「DeepL Connect:Tokyo」を開催。これにあわせて、DeepL最高技術責任者(CTO)のセバスチャン・エンダーライン氏が来日。DeepL Voiceの新機能について自ら説明し、「米国経済研究所の調べでは、グローバル企業においては会議時間の34%が言語の壁で損失されている。母国語ではない場合には内容の60%しか理解できていないとも言われている。DeepL Voiceは、こうしたグローバル企業における対話の摩擦を解消できる」と位置づけた。
また、DeepLの基本戦略についても説明。
「エンタープライズ向けに設計したフルスタックの言語AIプラットフォームを構築している。プロダクトの観点からみると、翻訳会社からビジネス向けのフルスタック言語AIソリューション会社へと進化してきたともいえる。最初はDeepL翻訳からスタートし、これは現在でもプラットフォームの中核を担う事業である。業界最高水準の精度で、世界中から信頼されている点が特徴である。さらに、エンタープライズ企業からの新たなニーズに応えるべく製品を拡張し、DeepL Writeによって、社内のあらゆる部門の従業員が、迅速に、効果的にコミュニケーションできるようにした。翻訳に留まらず、下書きから複雑なメッセージまでを清書することができる。そして、DeepL Voiceは、2024年11月にリリースし、翻訳技術を音声領域にも展開したもので、オンライン会議や対面での会話でもリアルタイム音声翻訳を提供する。これらは、DeepL独自のAI技術の上で構築されている」などと述べた。
NVIDIAと協業、テキスト出力を30倍に
さらに、NVIDIAとの協業により、欧州で初めてDGX GB200を搭載したNVIDIA DGX SuperPODの運用を、2025年6月から開始したことを報告。
翻訳処理を10倍速くしたり、従来比で30倍のテキスト出力を可能にしたりといった成果に触れ、「DeepLは、研究開発にコミットしており、NVIDIAとの協業は、DeepLが言語AI分野でリーダーシップを発揮するための基盤となっている。最先端のスーパーコンピュータインフラを構築している。言語AIの品質、対話性、革新性の基準を引き上げることができた。より正確な翻訳、より自然な音声会話、よりパーソナライズした体験を提供できる。今後は、この計算能力を活用して、マルチモーダルモデルの開発や、より深いパーソナライゼーションを進める」とした。
さらに、エンダーライン氏は、「DeepLの基本的な考え方は、言語は人に合わせるべきということだ。グローバルビジネスの共通語は英語であるが、言語AIの登場により、それが変化してきている。DeepLによって、人が使用する言語は問われなくなる。母国語のままビジネスを行えるようになる。たとえば、米国のエンジニアが、ドイツの顧客のトラブルシューティングを直接行うことといったことが可能になるだろう。言語がコストではなくなり、成長の触媒になる。DeepL は、AIによって支えられたグローバルビジネスのための新たな共通言語になる」とした。
また、「DeepLが提供しているのは、単なる直訳ではない。ニュアンス、トーン、業界特有の用語も考えて、市場のニーズにあわせて最適化している。大規模で信頼ができる多言語コミュニケーションが可能になり、ビジネスに集中できる」と技術的な優位性を強調。加えて、「エンタープライズ対応力は、DeepLの最大の特徴である。エンタープライズレベルのセキュリティを実現し、企業が求める制御と拡張性を兼ね備えている」と述べた。
「日本では企業向けビジネスに注力していく」
DeepLアジア太平洋統括 社長の高山清光氏は、日本における事業戦略について説明。「日本では企業向けビジネスに注力していく。大手企業が求めるセキュリティやコンプライアンス、ID管理をさらに強化していく。また、日本が強い製造、自動車、製薬、ライフサイエンス、法務向けのソリューションを提供していく」と述べた。
続けて、「日本では、システムインテグレータの力が強い。新規パートナーの開拓による幅広い販売網の構築、API活用による新サービスの開発支援を拡充したい。さらに、企業内利用の促進は大切であり、カスタマサクセスによる利用促進だけでなく、24時間365日のサポート、異文化コミュニケーションを支援するトレーニングも実施する」と、幅広い支援策を用意していることを示した。
一方で、DeepLのエンダーライン氏は、「日本では、2020年からサービス提供を開始し、いまでは、日本の組織が、グローバル戦略の中核を担っている。DeepLにとって、日本は世界で2番目に大きな市場であり、言語の壁を越えた、より効果的なコミュニケーションの実現を支援している」と、日本市場の重要性について触れた。
NECやサイボウズ、東京都教育委員会の事例を解説
日本での活用事例としては、NECがDeepL Voiceを最初のグローバル顧客として大規模に導入。世界中のチームを結んだリアルタイム音声翻訳によるコミュニケーションを実現しているという。また、パナソニックコネクトでは、DeepL Writeを活用して、多言語文書作成を効率化。東京都教育委員会が多言語学習のためにDeepL WriteとDeepL翻訳を導入したという。
国内での導入事例として、サイボウズが説明を行った。
サイボウズは、日本以外に、米国、ベトナム、中国、マレーシアにも拠点を置き、様々な言語が使われている。サイボウズ 執行役員 情報システム本部長の鈴木秀一氏は、「社内コミュニケーションにおける言語の壁が顕在化してきたことから、2022年12月からその対策を検討し、2023年6月に、DeepLを全社に導入した」と振り返る。
DeepLを導入したポイントは、「セキュリティ」、「翻訳精度の高さ」、「情報システム部門の管理負担の低さ」の3点だという。
「翻訳サービスの多くは、入力したデータを学習データとして利用するが、DeepLはデータの安全性を明確にしている。また、自然な翻訳結果がでること、セルフサインアップや利用されていないアカウントの削除など、情報システム部門が工数を取られずに全社展開を進められることも大きなポイントだった」とする。
社内ではKintoneを利用して情報を共有しており、DeepLを使い、議事録などの情報も、ワンクリックで翻訳できるプラグインを開発。日本語から英語、ベトナム語、中国語などに翻訳しているという。「非日本語話者の社員が、議事録の内容をほぼリアルタイムで共有できるようになり、コミュニケーションが活性化した。今後は、DeepL Voice導入も検討しており、いつでも、どこでも、誰とでも仕事できる環境を作りたい」と述べた。
日本では80%の企業が、言語の壁で金銭的損失を経験している
一方、DeepLのエンダーライン氏は、日本の企業を対象に実施した調査について説明。80%の企業が、言語の壁によって、ビジネスの遅延や機会損失の影響を受け、金銭的損失を経験していると回答。そのうちの30%の企業は損失額を7500万円~3億円と見積もっているという。
「これはビジネスリスクになっている。言語の壁によって、取引の遅れやミスコミュニケーションが発生し、その結果、余計なコストを払う状態になってはいけない。だが、なにも手を打たなければ高いコストを払うことになる。AIを利用している日本の企業の80%が言語AIを導入したいと考えている。しかし、実際に導入につなげることは容易ではなく、社内における専門知識不足、セキュリティの懸念、ROIの不明確さがある」と指摘。「日本の企業は言語の壁を企業の課題と捉え、戦略的ツールとして認識することである。そこにDeepLが果たす役割がある。専門的なAIモデルと、エンタープライズグレードの深みによって対応できる」とした。
さらに、「DeepLは、世界中の個人やビジネスの言語の壁を取り除くことを使命としている。書き言葉、話し言葉に対応した言語ソリューションであり、プロフェッショナルに特化した高度なツールを提供している。また、製品の革新と拡張に積極的に投資をしている。高品質な翻訳、リアルタイム音声翻訳によって、円滑なコミュニケーションと、迅速な意思決定、デジタル化が進むなかでの競争力維持に直結するツールである。言語テクノロジーは、補助的機能ではなく、国際ビジネス戦略の中核を担う存在となっている。現在、DeepLでは、12の国と地域に展開し、社員数は1000人以上、すでに全世界20万社以上が利用している。エンタープライズグレードのソリューションに対して深い信頼を得ている」などと述べた。