レビュー
無料の長編RPG「星の王女さま」 ~手描きイラストで表現される幻想世界とシステムに凝ったバトルが魅力
敵・味方でゲージを共有するバトルがアツい!
2017年10月31日 06:00
「星の王女さま」は、手描きのイラストで表現された世界観や凝ったシステムを盛り込んだ戦闘、自由度の高いキャラクターカスタマイズが特徴の長編ファンタジーRPG。Windows対応のフリーゲームとして公開されており、ふりーむ!からダウンロードできる。
幻想的な世界に迷い込んだ女子高生と“星の王女”達の旅を描くRPG
本作の舞台となるのは、“星の王女”達が治めるたくさんの星々で構成された世界。生前の記憶を持たない死者の魂が住まうというこの世界に生きて記憶を持ったまま迷い込んでしまった女子高生のサツキが、“お菓子の星”の王女であるマリナに助けられたことから物語は始まる。マリナが世界を脅かしている“月の王女”を討伐しに行くと知ったサツキは、その旅へ同行することに。他の星の王女を仲間にしつつ、月へ向かう旅が繰り広げられていく。
旅の舞台となる“四季の星”や“お伽の星”といった星々にはそれぞれの個性があり、それが手描きイラストによる背景で表現されるのが本作の見どころだ。ダンジョン探索がすごろく風の作りである点と合わせて、仕掛け絵本の中に入り込んだような、幻想的かつワクワクする独特の雰囲気を醸し出している。
ファンシーなデフォルメが効いたドット絵のキャラチップや、やわらかいタッチの立ち絵イラストで表現されるキャラクター達も可愛らしく、ストーリーの要所などではイベント絵も挿入される。モンスターのグラフィックも含め、作り込まれたアートワークが目を惹く作品だ。しかしそれだけでなく戦闘をはじめシステムも作り込まれており、その両面で楽しめるのが本作最大の魅力と言えるだろう。
敵・味方が共有するゲージの存在により、戦況が固定されず緊張感のあるバトル
戦闘はターン制のコマンド選択型。通常攻撃やターンごとに回復する“エーテル”を消費して発動する魔法のほか、攻撃を当てたり受けたりすることで増えていくドライブゲージが満タンになると発動できるキャラクター固有技“オーバードライブ(以下OD)”などを駆使して戦っていく。
このODが戦闘における大きな特徴。キャラクターごとのドライブゲージとは別に画面左上に“シェアOD”ゲージがあるのがポイントで、これは敵・味方両方の行動で上昇し、ゲージを満タンにしたキャラクターがターン終了後にODをノーコストで自動的に発動する。このシェアODを敵に使われないよう、キャラクターの行動順や魔法ごとに設定された行動速度補正、どういった行動でシェアODゲージが上がるかを把握して立ち回るのが本作の重要な戦術要素で、これにより戦況が固定化されず、緊張感が与えられているのが面白い。
敵・味方で共有する戦術要素としては“フィールドエレメント”と“フィールドエーテル”もポイント。フィールドエレメントは戦場に設定された属性を表すもので、これと同じ属性の攻撃は威力が増し、反する属性では半減する。フィールドエレメントを変化させる魔法もあり、敵の弱点や使ってくる技などに応じて変えることで有利に立ち回れる。
フィールドエーテルは空間に放出された魔力を表し、魔法でエーテルを消費することにより上昇。その量に応じて魔法の威力が上がるほか、ターンごとのエーテルの回復量にも影響する。とくにボス戦などの長期戦で魔法の有用性が上がる要素だが、敵の魔法の威力も上がるため相手によっては警戒も必要だ。こちらも一部の魔法により制御することが可能となっている。
ほかにも物理防御力の低下や行動不能を引き起こす“崩し”と“ブレイク”や、敵からの狙われやすさが変動するヘイト管理など、戦闘に関する要素は盛りだくさん。さまざまなシステムを把握し、敵の大技に対抗したり、大ダメージを追求したりと戦術を組み立てるのがバトルの醍醐味だ。
システムが凝っているため、色々な戦い方を試したい、たくさんの強敵と戦いたい!と感じさせる作品だが、本作はその点も充実。シナリオ上のボスの他に任意で挑戦できるユニークモンスターや討伐依頼が用意されており、個性的な強敵達とのバトルを楽しめる。サイドビューの戦闘画面をキャラクターが駆け回りエフェクトが乱舞する、賑やかでテンポのよい演出も見どころだ。
自由度の高いキャラクターカスタマイズと簡略化されたリソース管理
キャラクターカスタマイズの自由度が高いのも魅力。各キャラクターごとに武器とアクセサリを選べるほか、任意に習得したり、ユニークモンスターの撃破で入手できるスキルを4つまでセット可能。武器の種別によりODが攻撃系・補助系・回復系と3タイプに変化するのも特徴となっている。スキルは主に、能力上昇や“武器の性能に応じた確率で敵の攻撃をブロック”といった特殊効果を付与するパッシブスキルとなっており、キャラクターの役割や戦闘スタイルに応じてODのタイプやスキルの組み合わせを考えていくのが面白い。
そのほか武器の強化といった要素もあるが、凝る部分は凝る一方で、シンプルにまとまっている部分もある。たとえば本作にはキャラクターのレベルが存在せず、スキルを習得するとそれに合わせてステータスが成長する仕組み。そのステータスもプレイヤーが直接成長させるのは“フィジカル”と“メンタル”の2種類のみで、この2つに応じて最大ライフ(HP)や物理と魔法の威力・防御力などが変化する。また、戦闘時の行動順に影響する“スピード”は成長せず、アクセサリやスキルで変動する仕組みだ。
アイテムを売るという概念がないのも特徴。本作はダンジョン探索でどんどんアイテムが手に入るため、仮に売却可能であったとすると、ダンジョンへ潜るたびに不要なアイテムの処理が発生してしまうと思われる。そこを省いたのは長編RPGとしてはなかなか思い切った作りと言えそうだ。また、買い物などに使うリソースとスキル習得に使うリソースが一本化されている。戦闘まわりなどはとことん凝りつつ主にリソース管理の部分は簡略化するという仕様は、本作の楽しみをどこに置くかという点でメリハリが効いていると感じさせられた。
アートワークとゲームデザインが両立しており、バランスも絶妙な良作
サツキと星の王女達の旅ではさまざまな出会いがあり、やがてこの幻想的な世界の成り立ちにも迫っていく。旅の目的や迷い人というサツキの立ち位置、そして死後の世界という舞台がもたらすシリアスで切ない展開が待ち受けている一方で、癖のあるキャラクター達によるコミカルな掛け合いも見どころだ。
世界観を演出する要素としては、絵と合わせて音の力も見逃せない。BGMは素材として提供されている、あるいは一定条件下で素材としても利用可能な楽曲で構成されており本作オリジナルではないが、星ごとに異なるフィールド曲など、こだわりをもって選曲されているのが感じられる。戦闘曲やイベント曲も含め、フリーゲームのファンならお馴染みの曲も多いが決してマンネリな印象はなく、むしろ名曲選とでも言えるようなセレクションが正統派のハイファンタジーといった趣の世界観を補強しているようにも思う。
本作のプレイ時間は公称12~15時間。アートワークもゲームデザインも作り込まれた、じっくり楽しめる作品となっている。ゲームバランスも練られており、バトル好きのRPGファンが程よい歯応えを得られる絶妙なラインという印象だ。なおプレイ中にいつでも難易度を下げることができるので、ストーリーを中心に楽しみたいという方にもお勧めできる。RPGが好きなら注目の良作なので、ぜひプレイしてみてほしい。
ソフトウェア情報
- 「星の王女さま」
- 【著作権者】
- haco 氏
- 【対応OS】
- Windows XP/Vista/7/8(編集部にてWindows 10で動作確認)
- 【ソフト種別】
- フリーソフト
- 【バージョン】
- 1.17(17/10/29)