#モリトーク
第50話
IEのジレンマ
(2013/3/19 10:51)
マイクロソフト社がIEの舵取りに迷っている。同社は先週、Windows 8の“Windows ストアアプリ”として動作する「Internet Explorer 10」でFlashコンテンツを表示する際の方針を変更すると発表した。この方針転換が意味することを理解するためには、Windows 8が発売される前までさかのぼる必要がある。
Windows 8用の「Internet Explorer 10(以下、IE10)」が初めてリリースされたのは、Windows 8の開発版が一般向けに初公開された2011年9月のこと。このときマイクロソフト社は、“Windows ストアアプリ(以下、ストアアプリ)”版のIE10が“プラグインフリー”であるとする方針を打ち出し、「Adobe Flash Player」をはじめとする、すべてのプラグインが非対応になる。
正確に言うと、ストアアプリ版のWebブラウザーはプラグイン呼び出しのAPIを利用できないため、IE10だけに限らず、すべてのWebブラウザーがプラグインフリーとなる。これは、プラグインに頼らないHTML5の普及を目指すと同時に、ストアアプリのタッチ操作を活かすための方針であり、デスクトップ上で動作させた場合は、IE10もそのほかのWebブラウザーも従来通りにプラグインを呼び出せるという設計だ。
ところが、2012年6月に公開されたIE10のプレビュー版では一転、「Adobe Flash Player」をサポートすることになり、「Adobe Flash Player」だけがプラグインフリーの対象から除外される。それでもプラグインフリーの方針は変わらず、ストアアプリからはプラグインを呼び出すためのAPIが引き続き利用できないため、IE10は「Adobe Flash Player」の統合、ストアアプリ風の動作という手段でそれを回避する。つまりWindows 8上のIE10は、自分で作ったポリシーを自らで壊すというジレンマを抱えることになった。
それに加え、「Adobe Flash Player」を統合した直後のIE10では、表示可能なFlashコンテンツがマイクロソフト社認定のものだけに限定され、閉鎖的な方針をとる。そして今回、その認定方式をも見直すことになり、マイクロソフト社がその互換性を認めなかったものをブロックすることとし、ストアアプリとして動作させたIE10でもほとんどのFlashコンテンツを閲覧できるようになったというわけだ。
ストアアプリおよびそのFlashに対応するWebブラウザーはIE10を除くと、今のところ「Google Chrome」しかない。「Google Chrome」は次世代のプラグインAPIとともに「Adobe Flash Player」を内蔵しており、ストアアプリへの対応を決断する際に、プラグインフリーの影響がほぼなかったと思われる。おもしろいことに、これは偶然のことだったようで、マイクロソフト社がプラグインフリーの方針を明らかにするよりも前から、「Google Chrome」は次世代プラグインAPIの開発と「Adobe Flash Player」の内蔵を計画している。
このようにプラグインフリーというストアアプリのコンセプトは、プラグインに依存しない環境を実現できておらず、失敗に終わったと言えるだろう。それどころか、Webブラウザーとプラグインの連携が統合という形で強化されることになったため、ユーザーにとっては成功だったのかもしれない。
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