週末ゲーム
第554回
ドラマチック入国審査官アドベンチャーゲーム「Papers, Please」
パスポートなどの書類を調べ、スパイやテロリストを見つけ出せ!
(2014/3/28 10:42)
『週末ゲーム』では、インターネット上でたくさん公開されているゲームの中から、編集部がピックアップした作品を毎週紹介していく。今回は、アドベンチャーゲーム「Papers, Please」をご紹介する。
なお、本作は有償のインディーゲームで、ダウンロード配信サイトPLAYISMなどで購入可能。PLAYISMでは3月28日から30日まで50% OFFセールが開催されており、通常980円(税込み)のところ490円(税込み)で購入可能だ。
今日からいきなり入国審査官
「Papers, Please」は、アルストツカという国で入国審査官となったプレイヤーが、入国希望者のパスポートなどの書類をチェックし、入国許可と拒否を決めるゲーム。先日は米国で“Independent Games Festival”の最優秀賞を受賞するなど世界各地で賞を獲得している、今最も注目を集めている個人開発のゲームだ。
ゲームの舞台となるのは、今から約30年前の1982年。架空の共産主義国アルストツカは、隣国コレチアと6年に渡る戦争を繰り広げた後、国交を再開したばかり。戦争が終わったとはいえ、近隣諸国のスパイや過激な思想をもつテロリスト、武器や薬の密輸を企む売人などもおり、治安がいいとは言えない状態だ。抽選によりこの仕事に就くことを命じられたプレイヤーは、入国希望者の持つ書類(Papers)に不備がないか調べ、問題のある人物を国に入れないことが仕事となる。
遊び方について最初に1つお伝えしたい。初期設定では言語が英語になっているので、タイトル画面左下にあるレンチのアイコンをクリックしてオプション画面を開き、“Language”で日本語を選ぶことで、ゲーム進行に関わる基本的な部分は日本語になる。ただし登場人物の名前や国名など、一部の表記はアルファベットのままなので注意(実際のパスポートもアルファベット表記なので、この方がリアルなのだ)。
間違いがないかもしれない間違い探し
ゲーム画面は上に国境検問所付近の様子、左下に入国希望者と対面する場所、右下に書類を確認する机の上が描かれており、ゲームのほとんどはこの画面で進行する。まずは上画面にあるスピーカーをクリックして入国希望者を呼ぶ。次に提出された書類をマウスでドラッグし、右下の机に持ってきて内容を確認。入国許可・拒否を判断してパスポートにスタンプを押し、再び書類をドラッグして入国希望者に返す。この一連の流れを繰り返して入国審査を行っていく。
入国審査官の仕事はシビアに遂行せねばならない。パスポートには、氏名、性別、顔写真、有効期限、発行された都市名、パスポート番号などの情報がある。これらと入国希望者の目的、外見を照らし合わせ、不審な点があれば審問。入国可否の判断の基準となる規則書と照らし合わせ、何か1つでも問題があれば入国を拒否する。また書類が偽造であるとわかれば犯罪とみなし、拘束することも可能。
全ての書類に問題がないと判断したら入国許可を出す。書類に不備がない人を追い返したり、不備があるのに入国させてしまったりすると、すぐさま入国管理省からミスを指摘する通達が来る。ミスを繰り返し犯せば罰金も課せられる。
最初はパスポートとおまけの紙1枚程度で、不審な点を見分けるのはそう難しくはない。しかしゲームを進めると国を取り巻く状況が変化し、必要書類が増えたり、規則書の内容が変わったりして、徐々に見るべき書類が増えていく。不正な書類は一見してバレるものもあれば、巧妙に作られた偽造書類もある。さらには書類の不備を知りつつ人情に訴えて入国を懇願してきたり、報道の自由を掲げて迫ってきたりする者も。書類がなければ通さないのが本来の仕事だが、最終的にどうするかはプレイヤーの判断に委ねられている。
しかし本当に大変なのは、机に乗り切らないほどの多数の書類をいくら眺めても、“どこにも不備がないように見える”時だ。『本当に見落としはないのか?』と何度も自分を疑いながら、入国許可のスタンプを押す。“間違いがない可能性も含む間違い探し”をしているようなものだ。
さらに入国審査官の仕事は、時間が限られている。ゲートの向こうには常に長蛇の列ができているが、ゲートが閉まる時間になったらそこで打ち切り。プレイヤーに支払われる給料は、審査を済ませた人数に応じて支払われる歩合制だ。間違いないようじっくり調べたいが、すばやく済ませないと仕事にならない。しかし急ぎすぎてミスが増えると罰金を取られる。
偽造書類を一瞬で見極めれば、鼻で笑いつつ目の前の人物を拘束。書類に問題ないと信じて入国許可を出した後、入国管理省が何も言わなければガッツポーズ。『偽造書類で通過させた』と通達されたら『何が間違っていたんだよ!』と憤慨する(ミスの内容はおおまかにしか教えてくれない)。この緊張感と焦り、喜びと悔しさが入り混じる感覚が、プレイヤーを夢中にさせてくれる。
ちなみにスタンプは所定の位置に綺麗に押す義務はなく、パスポートに内容がわかるようスタンプできればいい。この辺りのアバウトさは、海外渡航経験がある人ならむしろリアリティとして感じられるはずだ。
30年前の共産主義国で起こる血生臭いドラマ
スピード勝負の間違い探し的なゲームも面白いが、戦後の混乱や共産主義国の恐怖政治を感じさせるストーリーも実に魅力的に仕上がっている。
ゲームの舞台は戦争直後の治安の悪い地域。つい最近まで戦争相手だった国からの入国希望者もおり、スパイ、テロリスト、密売人、さらには亡命者、要人も現れる。しかし国境検問所はできたばかりで、マニュアルも曖昧で警備も手薄な状態。
こんな場所なら、血生臭い事件が起こるのも必然だ。プレイヤーが仕事に就いて早々、入国審査を待つ人の列から何者かが駆け出し、国境の壁を乗り越えて強行入国を図る。警備兵がその人物を銃撃するも、その人物が持っていた手投げ弾のようなもので警備兵が殺害されてしまう。プレイヤーは、そのテロの様子を眺めることしかできない。
その後もテロの脅威は続き、入国審査の厳密化はもちろん、隣国との関係悪化や、疫病の蔓延など、新たな問題が次々と発生する。入国審査官は日に日に増える上からの注文に全て答えなければならない。次々と変わる新たな規則を頭に入れるだけでも大変なのに、警備を手助けせよと麻酔銃での狙撃までさせられる。
しかしプレイヤーはそれでも仕事を続けねばならない。家には4人の家族がいるのだが、最初は貧乏で、食事や暖を取ることもままならない。そうしているうちに家族が病気になると、薬代までかかる始末だ。借金は許されず、家賃などの最低限のお金を払えなくなれば、軟禁されてゲームオーバー。薬を買うために食事を我慢し、さらに病気を悪化させるという悪循環に陥り、やがては死に至ることもある。家族が全員死んでしまったら、やはりゲームオーバーだ。
そんなプレイヤーの元には、甘い誘いもやってくる。賄賂を手渡して入国しようとする輩もいれば、国の未来を憂う(と語る)謎の組織が多額の報酬をちらつかせてくることもある。自らの立場を利用して小銭を稼ぐも、国のお偉いさんに尻尾を振って汚職に手を染めるも、謎の組織の指示に従って賄賂を得るも、何者にも屈することなく誠実に職務を遂行するも、全てはプレイヤーの選択によって決まる。
筆者は初プレイでは着任2日にしてお金がなくなり、次は何とか数日もたせたものの家族が全員死亡。入国審査に慣れてきても、基本的な給料があまりに安く、十分な収入にはならない。結果、家族を2人死なせつつもギリギリ食いつなげる状態でゲームを進め、何とかクリアまでたどり着いた。エンディングは途中のゲームオーバーも含めて20パターンあるので、ほかにもうまく生き延びる選択肢はいくつもあるということだろう。
ただし、この国にハッピーエンドと呼べるものがあるのかどうかはわからない。筆者が見たいくつかのエンディングは、必ず『アルストツカに栄光あれ。』で締められていた。共産主義国という時点で、我々とは考え方も求める幸福も違うのだろう……という妙なリアリティを感じさせてくれる。他にどんな生き方があったのかと、繰り返しプレイしたくなる。
グラフィックスはかなり古臭いタッチだが、約30年前の共産主義国を無感情に淡々と描いており、むしろプレイヤーのイメージをかきたてる助けになっている。そして遊んでみると、見た目がどうこうという気持ちは吹っ飛んで、入国審査に熱中し、世界に没入してしまう。入国審査という地味な題材をここまでドラマチックに描けるのかと、ただただ驚かされた。
なお特定のエンディングを迎えると、ストーリーのないエンドレスモードが遊べるようになる。クリア後は思う存分入国審査を楽しんでいただきたい。
ソフトウェア情報
- 「Papers, Please」
- 【著作権者】
- Lucas Pope 氏
- 【対応OS】
- Windows XP以降
- 【ソフト種別】
- ダウンロード販売 980円(税込み)など
- 【バージョン】
- 1.1.62