石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』

8bit時代を彷彿させるコマンド選択型脱出アドベンチャー「ファミレスを享受せよ」

 PCゲームに関する話題を、窓の杜らしくソフトウェアと絡め、コラム形式でお届けする連載「石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』」。PCゲームファンはもちろん、普段ゲームを遊ばない方も歓迎の気楽な読み物です。

「ファミレスを享受せよ」イメージビジュアル

謎のファミレスを舞台にした脱出ゲーム

 今回は「ファミレスを享受せよ」というゲームをご紹介したい。インディーゲームサークルの月刊湿地帯が開発した作品で、新たにわくわくゲームズがパブリッシャーとなって8月1日にSteamで発売される。Nintendo Switchでも今夏発売予定とされている。

 本作はタイトルどおり、ファミレスを舞台とした作品。主人公は見慣れないファミレスに入店して注文を待っている間に、いつの間にか最初の店とは違う店に移動させられており、そこから出られなくなってしまう。ちょっと変わった脱出ゲームという内容だ。

 こちらを先行プレイする機会が得られたので、実際のゲームプレイの様子をお伝えしていく。

「なあ君、ファミレスを享受せよ」

 深夜に勉強していた主人公は、気分転換にファミレスへと向かう。すると深夜にも開いている知らないファミレスを発見。入店して注文を済ませ、注文の品が来るまで勉強に没頭していると、いつの間にか周囲の風景が変わっている。

月夜に見知らぬファミレスを発見
いつの間にか来た店とは違う場所にいることに気づく

 店の中には自分以外にも数人の客がおり、ここはどこかと尋ねると、「ムーンパレス」という店名と、「永遠のファミレス」という説明を聞く。

「ムーンパレス」という名前は、入った店と同じのようだ

 店には出口がなく、外は見えるがガラスを叩いても割れない。店員はおらず、なぜか補充されるドリンクバーだけが稼働しており、飲み放題の状態。そして店内にいる客は、自分も含め、いつまでも歳を取らない。

入口らしき場所はあるが、どこも開けられそうにない

 まるで時間が止まっているかのような閉鎖空間を称して「永遠のファミレス」だ。そして客の1人が言う。「なあ君、ファミレスを享受せよ」と。

嫌ですよ、脱出しましょう

 もちろん主人公はファミレスを永遠に享受するつもりはなく、脱出する方法を探っていく。

会話を重ねて真相に向かうテキストアドベンチャー

 ゲームはコマンド選択型のテキストアドベンチャー。他の客と話をする中で、新たな話題(会話のコマンド)を入手でき、その話題をもって新たな情報を得たり、他の客と話を膨らませたりしていく。

コマンドを選んで会話し、新たな話題を探す

 システム自体は特に奇をてらった感じではないのだが、会話する相手が数人の客しかおらず、あとはドリンクバーがあるだけ。ゲームとしてはシンプルでわかりやすいが、これで情報を集めて脱出できるのだろうかという不安は大きい。

ドリンクバー。好きなだけ飲める

 基本的には行ける場所に全て行き、話せる人に全ての話題を振っていけば、ゲームはだんだんと進んでいく。いわゆる総当たりをやればいいので、序盤で詰まってしまうことはそうないだろう。

 それでも退屈に感じることはない。まず登場人物がいずれもユニークだ。数千年以上前からここにいるという女性、大学の図書館で事務をしていて最近来た男性、500年前にあった王国の王様、部屋に入って一切出てこない女性と、謎満載の雰囲気を漂わせる。

図書館の事務をしていたという男性。自分を除けばもっとも最近来たらしい
とある王国の王様。なぜここにいるのか、なぜ自分と同じ時間に存在するのか、謎が多い
いくら呼んでも部屋から出てきてくれない

 しかも最初に来た女性は現代人なのに、そのはるか後から来た王様は500年前の人物。時系列がおかしいのだが、理由は誰もわからない。そもそも永遠のファミレスということ自体も意味がわからず、考えることがとにかく多い。

マップを開いて移動先を選ぶ。といっても狭い店内で、そんなに選べる場所もない

 独特な世界観も魅力的だ。月と暗闇しか見えない外の世界に、月明かりで照らされたような黄色と灰青色の影で構成されたビジュアルはとても印象的。フリーハンドの不安定な線で描かれた絵は決して丁寧とは言えないが、それも含めて本作の味であり、謎を深く感じさせてくれる。

なぜか間違い探しの本も見つかる。黄色で描かれたビジュアルは独特

謎だらけの物語で、主人公が取った行動とは?

 本作は脱出ゲームの形を取っているため、最終的にはいろいろな謎が解けて脱出するという話になるが、ここで結末をお伝えするわけにはいかない。謎が1つ解けたと思っても、全然先には進めなかったり、ヒントらしきものを得ても何をどうしていいのかわからなかったりと、謎解きとしても歯ごたえがある。

 プレイ時間は筆者の場合でおよそ2時間弱。それほど長い物語があるわけではないし、舞台はずっと脱出できない「ムーンパレス」の店内ということで、最初のうちは話の広がりは少ないようにも見える。しかし最後はいい具合に話を広げて、不思議な物語に決着をつけてくれる。

 伝統的なテキストアドベンチャーが好きな人や、ちょっと不思議な物語を読んでみたい人におすすめしたい作品だ。気軽に遊んでみて……と言うには結構重い話なのだが、この設定に興味を持てるならば読後感も悪くない。永遠に続くドリンクバー飲み放題のファミレスで、主人公が何をするのか、ぜひご期待いただきたい。

ドリンクバーも攻略の大事な要素になる

著者プロフィール:石田賀津男(いしだ かつお)

1977年生まれ、滋賀県出身
ゲーム専門誌『GAME Watch』(インプレス)の記者を経てフリージャーナリスト。ゲーム等のエンターテイメントと、PC・スマホ・ネットワーク等のIT系にまたがる分野を中心に幅広く執筆中。1990年代からのオンラインゲーマー。窓の杜では連載『初月100円! オススメGame Pass作品』、『週末ゲーム』などを執筆。

・著者Webサイト:https://ougi.net/

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