石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』

ゲームのフレームレートを高めるNVIDIAのAI技術「DLSS」とは?

「DLSS 2」は超解像、「DLSS 3」はRTX 4000シリーズのみ使えるフレーム生成

 PCゲームに関する話題を、窓の杜らしくソフトウェアと絡め、コラム形式でお届けする連載「石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』」。PCゲームファンはもちろん、普段ゲームを遊ばない方も歓迎の気楽な読み物です。

NVIDIAのAI技術「DLSS」

NVIDIAの「DLSS」紹介ページ

 NVIDIA製のGPU、GeForce RTXシリーズでは、3Dゲームのフレームレートを向上させる「DLSS」を利用できる。AIを活用してフレームレートを高めるという、純粋な3D描画能力向上とは異なるアプローチの技術だ。

 ユーザー目線では、「DLSS」を使うとフレームレートが上がる、とだけ理解しておけばいちおうは事足りる。ただ「DLSS」にも「DLSS 2」や「DLSS 3」があったり、「DLSS」対応ゲームなのに使えない機能があったりして、戸惑いがありそうだなと思う部分もある。

 今回は「DLSS」について、ユーザーが知っておくといい形でシンプルに解説するとともに、「DLSS」対応ゲームである「ディアブロ IV」でのテストも実施した。

「DLSS」はバージョンによって機能が全然違う

 「DLSS」は「Deep Learning Super Sampling」の略。ゲームの映像をあらかじめAIに学習させた上、そのデータを用いてゲーム画像をリアルタイムに高画質化処理するというものだ。どういう機能を持つものなのか、極力簡単に説明していく。

 最初の「DLSS」は、アンチエイリアシングやVRSといった映像処理をAIの処理に任せるというもの。従来より少ない処理能力で高画質を得られるため、余った処理能力の分だけフレームレートの向上が見込める。

 これが「DLSS 2」にバージョンアップすると、従来の「DLSS」の処理に加え、ゲームの解像度を上げることが可能になった。単なる超解像技術は民生用テレビなどにも使われているが、「DLSS 2」ではAIの学習データを活用することで、より高精度で解像度を高める。

 実際の挙動としては、画面解像度より低い解像度で生成したゲーム映像を、画面解像度に合う解像度に高める。こうすることでGPUの3D描画負荷を下げつつ、映像はほとんど同等のものとなり、結果としてゲームのフレームレートが向上する。最初の「DLSS」よりも、フレームレートの向上幅は大きい。

 さらに最新版の「DLSS 3」では、映像の高画質化だけでなく、新たな映像フレームを生成する機能を持った。民生用テレビで言うところの倍速機能で、フレームレートをさらに向上させる。「DLSS 2」以前の機能も含まれており、ゲーム側の設定でフレーム生成機能は不使用とするといったことも可能だ。

 なお「DLSS」を使用できるのは、GeForce RTXシリーズのみで、それ以前のGeForce GTXシリーズでは使用できない。また「DLSS 3」が使用できるのは、現時点ではGeForce RTX 4000シリーズのみとなっている(おそらく今後登場する製品も対応するであろう)。

NVIDIA DLSS 3 | Multiplying performance with AI

「ディアブロ IV」のフレームレートは向上するのか?

 では実際に「DLSS 3」がどの程度の効果を持つのか、対応ゲームの1つ「ディアブロ IV」で検証してみよう。

 「ディアブロ IV」のグラフィック設定には「DLSS」の設定項目があり、品質を「クオリティ」、「バランス」、「パフォーマンス」、「ウルトラ・パフォーマンス」の4段階に調整できるほか、フレーム生成の有無も選べる。今回は「DLSS」の設定を「クオリティ」と「ウルトラ・パフォーマンス」の2段階に設定しつつ、フレーム生成の有無を組み合わせた4パターンと、「DLSS」を不使用とした計5パターンを使用する。

 計測方法は、「キヨヴァシャド」から「メニスタッド」までのウェイポイント間を歩いて移動し、その間のフレームレートを「NVIDIA FrameView」で計測した。道中にいる敵を倒したりもするので完全に公平な環境ではないが、ご容赦いただきたい。映像品質はプリセットの「ウルトラ」、画面解像度は1,920×1,080ドット。

 使用した機材は、GeForce RTX 4060を搭載したマウスコンピューター製ノートPC「G-Tune E4」。

【フレームレート計測結果】
設定平均フレームレート(fps)下位1%フレームレート(fps)
「DLSS」不使用135.64181.608
クオリティ162.82989.974
ウルトラ・パフォーマンス185.32389.736
クオリティ+フレーム生成175.094124.875
ウルトラ・パフォーマンス+フレーム生成211.281143.629

 結果を見ると、確かにフレームレートが向上しているのが確かめられた。最もフレームレートが高かった「ウルトラ・パフォーマンス+フレーム生成」だと、「DLSS」不使用時と比べて約56%もフレームレートが向上している。

 では画質はどうなのか。それぞれの設定で同じシーンの画像を撮影したので並べてみよう。

「DLSS」不使用
クオリティ
ウルトラ・パフォーマンス
クオリティ+フレーム生成
ウルトラ・パフォーマンス+フレーム生成

 画像を見比べてみると、表現の違いが見える部分も若干はある。ただ、どれが綺麗かと聞かれたら、筆者には差があるようには思えない。実際にプレイしていても映像の差や違和感は全くなく、元々のフレームレートが高かったこともあり、どの設定にしてもプレイ感に違いはなかった。

「DLSS」は優秀だが万能ではない

 以上の検証結果から、筆者は「ディアブロ IV」においては「DLSS」を有効に活用していこうと感じた。実際にはもう少し画像の品質を下げつつ「DLSS」を使用し、なおかつフレームレートの上限を設定することで、消費電力を下げ、ファンの騒音を控え目にしながら遊んでいる。

 ここまでの説明を読んで、不安に感じる人もいるだろう。例えば「ゲームの開発者が意図しないビジュアルになってしまい、ゲーム内容を損ねないか?」という心配。これに関しては、現状ではゲーム側で「DLSS」の対応が必要であり、開発側も良しとしたと考えていいだろう。

 とても優秀な「DLSS」だが、全てのゲームに適するわけではない。対戦格闘ゲームのように1フレームごとの正確かつ遅延のない表示が求められる場合、「DLSS」を使わない状態で秒間60フレームなどの必要な描画性能を発揮できているのがベスト。マシンパワーが不足している場合にフレームレート向上を期待するのはありだが、次善の策という理解でいた方がいいだろう。

 またFPSでは、フレームレートの向上によって照準が合わせやすくなるといった効果は期待できるが、「DLSS 3」によって生成されたフレームで敵の発見が早くなることは、ほぼないと思われる(状況次第で全くないとも言い切れない)。「DLSS 2」でフレームレートを向上させる価値はあるので、ゲーム内容や競技性によって使い分ける方がいいだろう。

 最後にGPU選びのポイントを1つ。もしプレイしたいゲームが「DLSS 3」に対応しているなら、GeForce RTX 4000シリーズを利用すれば、元々の3D描画能力を大きく上回るフレームレートでゲームをプレイできることになる。市場にはより安価なGeForce RTX 3000シリーズなどの旧モデルも存在するので、「DLSS 3」が必要かどうかも検討項目に加えるといいだろう。

著者プロフィール:石田賀津男(いしだ かつお)

1977年生まれ、滋賀県出身
ゲーム専門誌『GAME Watch』(インプレス)の記者を経てフリージャーナリスト。ゲーム等のエンターテイメントと、PC・スマホ・ネットワーク等のIT系にまたがる分野を中心に幅広く執筆中。1990年代からのオンラインゲーマー。窓の杜では連載『初月100円! オススメGame Pass作品』、『週末ゲーム』などを執筆。

・著者Webサイト:https://ougi.net/

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