石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』
PCゲームも動く次世代「Xbox」の登場で「Steam」の牙城を崩せるか?
「Project Helix」が「Xbox」とゲーム業界を再定義する
2026年4月16日 17:24
「Project Helix」がゲーム業界にもたらすもの
「Project Helix」と呼ばれるマイクロソフトの次世代ゲーム機は、Xboxのソフトだけでなく、Windows PCのゲームも動作すると発表され、ゲーマーに驚きを与えた。家庭用ゲーム機とPCゲームが融合し、大きな垣根が取り払われることになる。
「Project Helix」は製品名ではないと思われるし、スケジュール的にも2027年にようやくアルファ版のハードウェアが提供されるそうなので、一般ユーザーが手に取るまでにはまだまだ時間がかかりそうだ。
とはいえ、そう何年もかかる話でもない。マイクロソフトは「Project Helix」で何をしようとしているのか、ゲーム業界がどう変わり得るのか、分析していく。
「Xbox」のややこしさを解消する
「Project Helix」によって何が起こるかと問われると、筆者は大きくは3つあると考えている。
1つは、「Xbox」ブランドの集約と再構築だ。前回の記事でも書いたが、本連載では何度か「Xbox」とは何を指す言葉なのかを解説してきた。多くのユーザーが家庭用ゲーム機の名前だと思っているが、現在はマイクロソフトのゲーム事業全般を指す言葉になっており、今やWindows PCのゲーム関連事業も「Xbox」の名前を冠している。
「Project Helix」は、PCゲームが動作することを明言している。それと同時に、初代「Xbox」から「Xbox Series X|S」まで4世代続いた家庭用ゲーム機の「Xbox」シリーズのソフトを、この先もプレイし続けられる環境を用意するとも明かしている。これは今年後半にも何らかの発表が行われる予定だ。
おそらく「Project Helix」は、PCベースのゲームを動かすものとなる。最近の「Xbox」の家庭用ゲーム機では、ハードウェアはほぼPCベースになっており、Windowsを持つマイクロソフトのゲーム機でPCのゲームが動くこと自体に、それほど驚きはない。
つまり、「Xbox」は家庭用ゲーム機なのか、PCゲームなのか、もう考えなくてよくなる。家庭用ゲーム機の「Xbox」シリーズは、家庭用ゲーム機とは別の形で利用できるようになり、過去の資産(レガシー)として生かされ続ける。
「Xbox」の意味でユーザーの混乱を招いている現状も、「Project Helix」が世に出た暁には、マイクロソフトのゲーム、すなわちWindows PCゲームという理解に塗り替えられていくだろう。
家庭用ゲーム機のシェアを気にする必要がなくなる
そして2つ目。「Project Helix」によって家庭用ゲームとPCゲームの垣根が取り払われることによって、家庭用ゲーム機の概念も変わってくる。業界には依然として、任天堂の「Nintendo Switch 2」や、ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)の「PlayStation 5」といった家庭用ゲーム機が存在する。これまでは「Xbox」も彼らと競合し、シェアを取り合う形だった。
しかし今後は、形の上では「Project Helix」という家庭用ゲーム機が残るものの、実質的にはPCプラットフォームと共通化される。するとマイクロソフトは、『家庭用ゲーム機のシェアなど、Windows PCの圧倒的台数の前で何の価値があろうか』と言えるようになる。世界中でマイクロソフトにしかできない芸当である。
「Xbox」と対抗せず独自路線を行く任天堂はともかく、長年真っ向勝負をしてきたSIEとしては、自分だけが独自規格の家庭用ゲーム機に閉じこもり続けることに危機感があるはずだ。「Xbox Series X|S」と同じく、「PlayStation 5」も中身はほぼPCベースであるだけに、「Project Helix」と同じような戦略をとりたいと思ってもおかしくない。ただ、SIEはWindowsを持っている企業ではない、という違いはあるが。
「Steam」の牙城を崩す最後の一手
最後の3つ目は、Valveが持つ巨大ゲームプラットフォーム「Steam」の存在だ。
マイクロソフトは、家庭用ゲーム機からPC用OS、クラウドサービスまで何でも自前で持っている唯一の企業だ。ゲーム環境周りで持っていないのはゲーミングPCくらいだが、それも「Project Helix」が兼ねることになるし、ポータブルゲーミングPC「ROG Xbox Ally」シリーズも発売済みだ。なおVRヘッドセットは「Meta Quest」との連携で補完している。
「Xbox」がPCでもシェアを獲得するには、「Steam」との真っ向勝負が求められる。とはいえ、オンライン配信プラットフォーム単体で競っても勝ち目は薄い。PCの「Xbox」アプリでゲームの購入も可能だが、「Steam」のシェアを大幅に削り取るほど状況は見えてきていない。むしろ「Steam」の方が堅調さをアピールしている。
しかしマイクロソフトとしては、「Steam」のシェアを削り取ることさえ考えればいい。ゲームをオンラインで購入するのが当たり前になったのは、「Steam」の大いなる貢献があってのことだろう。そこに巨大企業マイクロソフトが満を持して、本格的にシェアを奪いに来たという形だ。
「Project Helix」は、見た目は家庭用ゲーム機だが、実体はPCゲーム機と考えていい。すると、「Project Helix」で購入したゲームはPCでも引き続き遊べますよ、と言える。これは従来から「Xbox Play Anywhere」という形で存在するが、今回はどちらもPCベースなので、むしろできて当然だ。
ただし、「Xbox」アプリ、あるいは「Microsoft Store」で購入したソフトであることが前提だ。自社で家庭用ゲームとPCゲームのエコシステムを完結させることで、ユーザーを囲い込める。これもマイクロソフトにしかできないことだ。現在は「Xbox Play Anywhere」の対応が少ない他社製のゲームソフトも、「Project Helix」以降は単純なクラウドセーブ機能で実現できることになる。
こうなるとValveも静観していられないはずだ。WindowsでPCゲームのソフトウェアを支配するマイクロソフトが、ハードウェアも握り、ストア周りもしっかり固めてくれば、ユーザーをごっそり持っていかれかねない。
Valveは独自のPCゲーム機となる「Steam Machine」や、ゲームパッド「Steam Controller」、そしてVRヘッドセット「Steam Frame」を用意しており、独自OSである「SteamOS」と合わせて展開する。マイクロソフトに対抗するため、ハードウェアを含めたPCゲームエコシステムを構築しなければならない。ポータブルゲーミングPCにおいては「Steam Deck」で先駆者となったが、市場で支配的な存在とまでは言えない。
「Steam」で大量のゲーム資産を抱えるPCゲーマーが世界中にいる中で、「Project Helix」によってマイクロソフトがシェアを奪えるかどうかは、ハード・ソフト・ネットワークの全てを含めて、製品がどれだけ魅力的に仕上がるかにかかっている。
「Steam」一強の現状から、競争原理が働く状態に移ることは、ユーザーとしては歓迎すべきことだ。……などと言うと、多くのPCゲーマーは『期待しすぎだ。マイクロソフトに「Steam」の牙城を崩せるわけがない』とおっしゃると思うが。果たしてどうなるだろうか?
1977年生まれ、滋賀県出身
ゲーム専門誌『GAME Watch』(インプレス)の記者を経てフリージャーナリスト。ゲーム等のエンターテイメントと、PC・スマホ・ネットワーク等のIT系にまたがる分野を中心に幅広く執筆中。1990年代からのオンラインゲーマー。窓の杜では連載『初月100円! オススメGame Pass作品』、『週末ゲーム』などを執筆。
・著者Webサイト:https://ougi.net/
PCゲームに関する話題を、窓の杜らしくソフトウェアと絡め、コラム形式でお届けする連載「石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』」。PCゲームファンはもちろん、普段ゲームを遊ばない方も歓迎の気楽な読み物です。




























