働く人のための「DaVinci Resolve」

第16回

「4K動画の編集向けPC」でDaVinci Resolve使うとどうなのか?

フルタワーPCはやはりパフォーマンスが高かった!

 本連載では、無料で使える高機能な動画編集ツール「DaVinci Resolve」の使い方をお伝えしています。

 「DaVinci Resolve」を使って映像コンテンツを作る上で、じゃあ具体的にどんなマシンならOKなのかというのは、実際に動かしてみないことにはなんとも言えず、難しいところです。

 そこで今回はクリエイター向けのオリジナルマシンを多数ラインナップするマウスコンピューターから、4K動画編集におすすめとされているフルタワーモデル、「DAIV FX-A7G7T」をお借りし、実際に「DaVinci Resolve」を動かしてテストしてみます。

そもそもどんなPCなのか?

マウスコンピューターのフルタワーモデル、「DAIV FX-A7G7T」

 OSはWindows 11 Home 64ビット、CPUはAMD Ryzen 7 7700X、グラフィックスはGeForce RTX 4070 Ti、メモリ32GB、ストレージ 1TB SSDというスペックで、Web販売価格はアウトレット品で289,800円からとなっています。

 ボディはフルタワーなので確かに大きく、重量は12.3kgほどありますが、前面にハンドルが付けられており、底部後方にはローラーが付いています。斜めに持ち上げて転がしていけるため、移動は簡単です。

前面にハンドル
背面にローラーがあるので、転がして移動できる

 背面端子類が豊富で、少なくともUSB-A端子には困らない作りになっています。グラフィックスカードのGeForce RTX 4070 Tiは、ディスプレイ端子×3、HDMI端子×2があり、マルチモニターにも十分です。今回はHDMI端子を4K 40インチテレビに接続して、ディスプレイ代わりにしています。

豊富な端子類
上面にもUSB端子がある

まずはパフォーマンスをテスト

 実際に編集を始める前に、PCのパフォーマンスをテストするツールがBlackMagic Designから提供されています。まず例によって「BlackMagic RAW Speed Test」を使い、BlackMagic RAWにおけるCPUとGPUのパフォーマンスを見てみます。

「BlackMagic RAW Speed Test」の結果

 さすが編集用フラッグシップを謳うだけのことはあり、唯一8K60のCPUのみが×印というだけで、GPUは全く問題なく8Kまで対応します。参考までに筆者が編集で使っている、今年発売のApple M2 Proプロセッサー搭載「MacBook Pro」の結果と比較すると、GPU性能ではほぼ互角、CPU性能では上回っているのがわかります。

M2 Pro搭載MacBook Proの結果

 続いて内蔵SSDを、「Disk Speed Test」を使って測定してみます。こちらもリード、ライトともに3,000MB/sを超えており、8K60Pまではどのコーデックでも再生・書き込みが可能となっています。

「Disk Speed Test」の結果

 これも同様にMacBook Proの内蔵SSDと比較してみますが、ライトスピードで若干負けるものの、リードスピードでは勝っており、リード・ライトのバランスの良さが光ります。

M2 Pro搭載MacBook Proの結果

 ノート型とデスクトップ型なので価格はあまり比較になりませんが、M2 Pro版MacBook Proの1TBモデルは34万円以上することや、デスクトップ特有の拡張性を考えれば、かなりコスパの良いモデルだと言えます。

「DaVinci Resolve」を動かしてみる

 今回テストで使用するプロジェクトは、9月20日にAV Watchで公開したGoPro Hero 12 Blackのレビューで撮影、編集したものを使用します。撮影素材は、解像度3,840×2,180でフレームレート59.94Pと、5,312×2,988の29.97Pがあり、どちらもコーデックはH.265です。4Kと5.3Kという事になりますが、スマートフォン以上のカメラを使うのであれば、標準的なファイルになります。

 まずは単純にファイル再生からテストしてみます。3,840×2,180/59.94Pで撮影された動画は、再生プレビューもコマ落ちすることなく再生できます。編集する際には問題なく利用できるでしょう。

 一方で今回は画質評価用のサンプル動画として編集しているので、単純にファイル再生するだけでなく、画面には常時テロップが入っています。このテロップ入りのタイムラインを再生すると、滑らかに再生できず、引っかかってしまいます。テロップも画像加工の1つで、プレビュー再生時にはリアルタイム合成して再生しなければならないため、見た目よりは負荷の大きな処理になります。ただM2 Pro版MacBook Proではこれぐらいの処理でコマ落ちは発生しません。

全面にテロップを載せると、リアルタイムでの再生が難しくなる

 「DaVinci Resolve」のWindows版は、以前からH.265の再生パフォーマンスが悪いと指摘されています。単純に再生だけならともかく、合成も加わると処理が間に合わないようです。

 加えて5,312×2,988/29.97Pの素材も再生してみましたが、こちらは単純に再生するだけでもコマ落ちが発生します。コマ数は半分ですが、やはり5.3Kという画像面積が問題になるようです。

 とはいえ、「DaVinci Resolve」の場合は1回再生するとメモリ上にレンダーキャッシュが生成されるため、2回目の再生からはスムーズです。このあたりは、32GBとメモリに余裕がある本機に大きなアドバンテージがあります。

「編集用ファイル」のパフォーマンス

 こうしたパフォーマンスの問題に対処するため、以前から素材ファイルをもっと扱いやすいファイルに変換して編集するという方法がとられています。「DaVinci Resolve」には、2つの方法が提供されています。

 1つめは、「最適化」という方法です。これはH.265など高圧縮のファイルを、別の低圧縮のコーデックに変換する処理を行ないます。ファイルサイズは大きくなりますが、コンピューター的にはビットレートが上がる事よりも、リアルタイムで圧縮を解く処理のほうが重いので、「最適化」したほうがパフォーマンスは上がります。

 一般的には、最終のレンダリング時にもオリジナル素材に代わって、この「最適化」したファイルが使用されます。「最適化」は、「中間コーデック」と呼ばれることもあります。代表的なものとしては、Apple ProResや、Avid DNxHRなどがあります。

 もう1つは、「プロキシ」という方法です。この方法の歴史は古く、HDのカメラが出てきた2000年ぐらいからすでに編集ソフトには搭載されてきました。これはオリジナルのファイルよりもサイズの小さいファイルを作って、編集時にはそれを使い、最終の書き出しの際にオリジナルのファイルに差し替えてレンダリングするという手法です。カメラの中には、撮影時にこのプロキシも同時に生成できるものがあります。

 ただ「DaVinci Resolve」の場合は特殊で、最終レンダリング時にオリジナルを使うか、最適化ファイルを使うか、プロキシファイルを使うかが選択できてしまいます。したがって「DaVinci Resolve」しか経験がない人には「最適化」と「プロキシ」の違いが曖昧で、混同して説明されているケースも多く見かけます。

「DaVinci Resolve」では最適化・プロキシメディアもレンダリングに使用できる

 執筆時点での最新版、v18.6.1では、プロキシ編集がデフォルトに設定されました。解像度が高まるに従って、素材そのままや「最適化」にはメリットがなくなったということでしょう。

 Windows版の「DaVinci Resolve 18」以降には、「BlackMagic Proxy Generator Lite」という変換ツールが付属しています。これはMac版「DaVinci Resolve」にはありませんので、やはりWindows版のパフォーマンス低下に対応するためと考えていいでしょう。

Windows版に付属する「BlackMagic Proxy Generator Lite」

 「BlackMagic Proxy Generator Lite」の使い方は簡単で、対象フォルダーを指定して「開始」ボタンを押すだけです。それ以降、対象フォルダーに追加されるファイルはすべて自動的にプロキシファイルが作られます。

 今回はGoProで撮影した素材およそ24分を変換してみましたが、変換にかかった時間は約27分でした。ほぼ等倍のスピードで変換できることになります。元の素材が4Kや5.3Kであることを考えれば、十分速いと言えます。プロキシ変換後は、「DaVinci Resolve」画面内のプレビューウインドウから[Prefer Proxies]を選択するだけで、快適な編集が可能になります。

プレビューウインドウから[Prefer Proxies]を選択する

 Windowsマシンのパフォーマンスを評価するには、直接編集する結果だけでなく、こうした編集用ファイルに変換するパフォーマンスも含めて評価すべきでしょう。

高いレンダリングパフォーマンス

 最終工程として、レンダリング時のパフォーマンスにも注目しておきたいところです。特にテロップなどの合成が多いものや、マルチ画面を使ったものは、極端にパフォーマンスが落ちる事があります。

 今回テストしたタイムラインでは、GoProの撮影モードとして標準、HDR、LOG収録してカラーグレーディングしたものと3回編集し、最後に3画面を合成しています。またテロップも全編に渡って入っていますので、かなり重たい処理になるはずです。

レンダリングテストに使用したシーン

 トータルの長さは3分45秒ですが、「DAIV FX-A7G7T」では4分57秒で出力が完了しました。M2版MacBook Proでは同じタイムラインの出力に6分40秒かかっていますので、圧倒的に本機のほうが速いという事になります。

 本機で「DaVinci Resolve」を使う場合、H.265のリアルタイム再生パフォーマンスが課題になりますが、プロキシ変換はバックグラウンドで動作できます。他の作業をしている間に完了できるでしょうから、「人の待ち時間」としてはそれほど問題にならないでしょう。

 一方レンダリングスピードは十分で、1つのタイムラインを複数のメディア向けに出力するといったバッチ処理を行なう場合には、大きく差が開きそうです。ただ高パフォーマンスなマシンの特徴として、負荷のかかる処理を行なうと「ボワー」というファン音が大きくなります。気になるようであれば、各種ケーブルを延長して、人から少し離れた場所に設置するなどしたほうがいいでしょう。