働く人のための「DaVinci Resolve」

第12回

5年前のビジネスノートPCで動画編集はどこまでできる? DaVinci Resolveで検証してみた

スペック不足で重すぎる?そんな時は「プロキシ編集」で快適に……

 本連載では、無料で使える高機能な動画編集ツール「DaVinci Resolve」の使い方をお伝えしています。

編集のパフォーマンスを図るため、「ThinkPad T480s」でテスト

 業務で動画制作を始める場合、事前に会社から最新のハイスペックマシンが支給されるわけではないと思います。まずは手持ちのマシンで制作できるのかというところからのスタートになるのが一般的でしょう。

 そこで今回は、「DaVinci Resolve」で編集を行なうにはどれぐらいのマシンスペックが必要なのかを検証してみたいと思います。今回編集部で用意してくれたのが、ThinkPad T480sというノートPCです。スペックは以下の通り。

【ThinkPad T480s】
  • 発売年:2018年
  • プロセッサ:第8世代 Intel Core i5-8250U 1.60GHz / 1.80 GHz
  • 実装RAM:8.00 GB
  • GPU:Intel UHD Graphics 620
  • OS:Windows 10

 このマシンで「DaVinci Resolve」はどれぐらい動くのか、実際に試してみたいと思います。

まずは、専用ツールでPCのパフォーマンスを確認

 実際に編集を始める前に、PCのパフォーマンスをテストするツールがBlackMagic Designから提供されています。以下のサイトから「Backmagic RAW Installer」をダウンロードして、インストールします。Backmagic RAWは「DaVinci Resolve」の開発元であるBlackMagic Designが開発したコーデックで、同社のカメラなどで使用されています。

Blackmagic RAW Installer | Blackmagic Design

 インストールすると、複数のツールがインストールされているのがわかります。この中から、「BlackMagic Disk Speed Test」を起動します。これはパソコン内蔵のSSDのスピードを測定し、どのぐらいの解像度やコーデックなら使用できるかを判断するツールです。

 ThinkPad T480sの内蔵SSDを測定してみると、次のような結果が得られました。コーデックとしては、Backmagic RAW、ProRes 422 HQ、H.265においては、4325p25(8K25フレーム)までは再生できることがわかります。8Kで撮影する事は希でしょうから、現実的には4K60Pが再生できると考えておけばいいでしょう。

「BlackMagic Disk Speed Test」の結果

 ただこれはあくまでもストレージのスピードが追いつくかどうかの話で、CPUやGPUの処理速度はまた別のテストが必要です。同じくインストールされたツールの中から、「BlackMagic RAW Speed Test」を起動してテストしてみます。このツールは、搭載のCPUとGPUでBlackMagic RAWがどの解像度まで処理できそうかを検証します。

 実際にテストしてみると、次のような結果が得られました。圧縮率にもよりますが、概ね2160p30(4K30p)ぐらいまでは処理できそうだということがわかります。意外に行けると思われるかもしれませんが、実際に扱う動画ファイルはもっとデコード処理が重いH.264やH.265で撮影されていますし、動画の上にテロップを載せたり、ワイプなどエフェクトを追加するとどんどん処理が重たくなっていきますので、現実的なパフォーマンスはそこから2ランクぐらい下がると考えてください。

「BlackMagic RAW Speed Test」の結果

 さて、今回は、この結果をもとに、「実際に」このPCでどれぐらいの編集が可能なのか、確認していきます。

 例として確認したのは、1つめがフルHD解像度でプログレッシブの30fps(HD/30P)、H.264コーデックの素材。2つめが4K解像度で同じくプログレッシブの29.97fps(4k/29.97P)、H.265コーデックの素材です。

 「BlackMagic RAW Speed Test」の結果を見ると、前者は大丈夫そうですが、後者は難しそう、という結果になっています。

フルHD/H.264の素材は問題なく編集可能

 それではまず、HD/30Pの検証結果から見ていきましょう。

 編集作業中に最もパフォーマンスが関わってくるのが、動画の再生能力です。まずは素材が撮影されたフレーム数で問題なく再生できること、次に編集したタイムラインが問題なくプレビューできることが条件になります。そこで、以前編集を行なったプロジェクトでパフォーマンスを調べてみました。今回は、その検証手順も紹介します。

動画プロジェクトの書き出し

 一度「DaVinci Resolve」で編集したプロジェクトは、他のマシンに簡単に移すことができます。画面右下にある家のマークからプロジェクトマネージャを開きます。移したいプロジェクトの上で右クリックし、「プロジェクトアーカイブの書き出し...」を選択します。

編集したプロジェクトは簡単に他のマシンへ移行できる

 ダイアログで書き出す場所を選択します。移動するためにメモリーカードへ直接書き出すのもいいでしょう。オプションは全部にチェックを入れておきます。[OK]をクリックすると、プロジェクト名に「.dra」という拡張子がついたフォルダーができあがります。この中に、プロジェクトファイルとそれに必要な動画素材などが書き出されます。

オプションはとりあえず全部にチェック

 このフォルダーを別のマシンにコピーし、別マシンの「DaVinci Resolve」でプロジェクトマネージャを開き、空いているところを右クリックして[プロジェクトアーカイブの復元...]を選択します。さきほどのフォルダーを指定して[開く]をクリックすると、プロジェクトが復元されます。今回はこの方法で、以前編集した「コーヒーメーカーマニュアル」のプロジェクトをThinkPad T480sに移しました。

テスト用の設定

 編集結果が問題なく再生できるかを確認するには、エディットページを使用します。まずプレビューウィンドウの右上にある[…]ボタンのメニューから[全てのビデオフレームを表示]にチェックを付けます。

[すべてのビデオフレームを表示]にチェック

 次に[再生]メニューで、[最適化メディアがある場合は使用]のチェックを外します。その下の[プロキシ処理]-[カメラオリジナルを優先]にチェックを付けます。これで、カメラで撮影したオリジナルの動画ファイルが、コマ落ちなしで再生できるかが確認できます。

[再生]メニューで設定を変更

「内蔵ディスプレイで気軽に編集」するなら合格点

 タイムラインを再生すると、タイムライン側のプレビューウィンドウの上部に、再生中のフレームレートが表示されます。緑のドットで「30」とありますが、これは素材が30フレームで撮影されており、そのスピードで再生できていることを表わしています。

タイムラインを再生すると再生フレームレートが表示される

 普通に映像と音声の再生では問題なく30fpsで再生できますが、ワイプが設定されている部分では20fpsぐらいに低下します。そこを通過すると32フレームぐらいで再生されるのは、遅れを取り戻すために再生を少し早回ししているからです。メモリが8GBしかないことで心配しましたが、この編集程度の作業量なら大丈夫のようです。

ワイプ部分は若干フレームレートが下がる

 コーヒーメーカーマニュアルの素材はHD解像度の30fps、コーデックはH.264で撮影されています。このクラスのマシンをお使いの場合は、撮影フォーマットをHD/30Pに設定する事で、まずまず普通に作業できる事になります。ワイプ部分のコマ落ちは、リアルタイムで再生ができないだけで、動画を書き出してしまえば問題なく再生できます。

「高解像度ディスプレイで作業」するには厳しい速度

 ThinkPad T480sは14インチディスプレイを搭載していますが、HDMI出力端子もありますので、ここに外部ディスプレイを接続することもできます。14インチでは編集作業にはちょっと窮屈だという場合には、もっと大きめの外部ディスプレイを使うという事もあるでしょう。

 今回は4K解像度の40インチテレビを外部ディスプレイとして接続してみました。画面が広くなり、編集作業はやりやすくなりましたが、タイムラインを再生すると25fps程度でしか再生できませんでした。さすがにただ再生するだけでも遅れが出るというのでは、編集で使用するには厳しそうです。

外部ディスプレイに繋いだだけで30フレームでは再生できなくなった

4K/H.265の素材は編集困難、しかし解決策も……

 編集するマシンの能力に合わせたフォーマットで撮影する事ができれば、編集することができます。しかしすでに撮影が終わってしまっていて、あとからマシンの能力が足りないことがわかったというケースもあると思います。

 この場合は、「プロキシ編集」というテクニックを使う事で、どうにか編集できる状態になります。今回はニコンZ8で撮影した4K/29.97P H.265の映像をサンプルとして使ってみます。

 Windowsの場合は、H.265のファイルを再生するために、別途コーデックをインストールする必要があります。H.265は今後主力コーデックになっていきますし、Microsoft Storeから120円で購入できますので、編集用マシンにインストールしておくといいでしょう。

HEVC Video Extensions - Microsoft Store Apps

非力なPCで編集できる「プロキシ編集」とは?

 H.265で撮影した映像をタイムライン上でそのまま再生すると、16フレーム程度でしか再生できません。そこでこれらの素材から、プロキシファイルを作成します。プロキシファイルとは、非力なマシンでも快適に編集できるよう、解像度を落とした軽いファイル(プロキシ)へ変換し、そのファイルを使って編集するという方法です。編集後に映像を出力する際には、自動的にオリジナルのファイルに差し替えられて出力されますので、最終作品は綺麗な映像で結果を得ることができます。

4K H.265はそのままでは等倍で再生できない

 まずエディットページの素材ビンにある映像を全選択して、右クリックします。出てきたメニューの中から、[プロキシメディアを生成...]を選択すると、自動的にプロキシファイルが作成されます。

素材を全部プロキシファイルへ変換する

 このプロキシファイル作成は、要するに別コーデックへのエンコードですので、マシンパワーに大きく左右されます。今回はトータルで11分程度の素材を変換しましたが、すべて変換が終わるまで30分程度かかりました。

 プロキシファイルが作成されたら、[再生]メニューから[プロキシ処理-プロキシを優先]にチェックを付けます。再生してみて、スムーズに再生できるようならOKです。もしそれでも再生できない場合は、[再生]メニューの[タイムラインプロキシ解像度]で「1/2」や「1/4」を選択します。

再生メニューでプロキシを優先にする

 プロキシ編集を使えば、大抵の素材は編集する事ができます。ただプロキシファイルを作るだけでかなりの時間を要するのと、最終出力時のレンダリングでもかなり時間がかかりますので、マシンスペックと作業時間は、リニアに関係しています。待ち時間を減らすには、やはり高速なマシンを調達した方がストレスは少ないでしょう。