クリエイターが知らないと損する“権利や法律”
芸能人の写真を使いたい
~第6章:表現の自由って、どれぐらい自由なの?~
2016年8月31日 07:20
オンラインソフト作者に限らず、あらゆるクリエイターが創作活動を続けるために、著作権をはじめとして知らないと損する法律や知識はたくさんある。本連載では、書籍『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』の内容をほぼ丸ごと、三カ月間にわたって日替わりの連載形式で紹介。権利や法律にまつわる素朴な疑問に会話形式の堅苦しくない読み物でお答えする。
前回掲載した“自動車の絵が描きたい”の続きとして、今回は“芸能人の写真を使いたい”というテーマを解説する。
芸能人の写真を使いたい
そういえば先日、ある芸能人がプライベートで買い物に行ったとき、無断で写真を撮られてSNSに投稿されたと怒ってましたけど、あれって何がいけないんです?
実に難しいところです。
法律上には定めのない、『肖像権』や『パブリシティ権』が関わってきます。
あ、肖像権とかパブリシティって、聞いたことあります。
法律で定められた権利じゃないんですね。
そうなのですよ。
ただ、例えば有名人の肖像には商品の販売などを促進する顧客吸引力を有する場合があるとして、その一定の営利利用を許可したり禁じたりできる権利が芸能人などにはあると、判例上認められています。
これがパブリシティ権で、広い意味で『肖像権』といわれる権利の一環ですね。
芸能人や有名人の顔写真が載ってる雑誌って、目につきやすいですもんね。
ところが最近になって、『ピンク・レディーdeダイエット』という雑誌記事がパブリシティ権の侵害だと訴えられ、なんと訴えられた出版社側が勝訴した事例があるのですよ。
へー! パブリシティ権が否定されたんです?
そうではないのです。
ピンク・レディーというのは今から35年ほど前に大人気だった女性デュオの歌手なのですが、雑誌記事の内容はその振付を使ってダイエットしようという趣旨でした。
判決では、肖像に顧客吸引力があるのは認めつつ、写真は記事の内容を補足するのが目的で、顧客吸引力の利用を主目的としたわけではないと判断されました。
利用目的が違うってことですか。
同じ判決文に『人の氏名や肖像などは個人の人格の象徴だから人格権に由来するものとしてみだりに利用されない権利を有する』ということも書かれているのですよ。
だから、肖像の権利が否定されたわけではないのです。
そうなんですね。
となると、芸能人を無断撮影してSNS へ投稿する行為は、どうなるんでしょう?
一般人のSNSは恐らく営利利用とは言えないし、いわゆるパブリシティ権が問題になる場面ではないでしょうね。
ただ、芸能人などに限らず個人はいわばプライバシーの一環として肖像を無断使用されない権利を持っています。
誰にでもある権利なんですか。
はい。そういう意味で、ここでは狭い意味での『肖像権』と呼びましょう。
肖像権が争点となった別の事件の判決では『撮影される側の社会的地位や活動内容、撮影場所、撮影目的、撮影の態様、必要性などを総合的に考慮して、社会生活上受忍の限度を超えるものといえるかどうかを判断して決すべき』だとされ、出版社側が敗訴しています。
ありゃま。
プライベート時の写真をSNSへ投稿された場合、こうした肖像権侵害が問題になりますね。
例えば何をしている時だったのか、場所はどこだったのか、写真撮影自体をはっきり断っていたのか、どんな姿だったのか、こうした要素を加味したケースバイケースの判断でしょう。
難しいなあ。
写真週刊誌の場合は営利目的なので、パブリシティ権も、プライベートな姿が多いので狭い意味の肖像権も、どちらも問題になりそうです。
もっとも報道目的があれば肖像の利用はかなり幅広く許されるのですが、写真週刊誌の場合、いつも報道目的と認められるかどうか……。
むしろ、彼らはある程度は訴訟のリスクも覚悟の上でやっているのでしょう。それが商売ですからね。
まあ、自分がされて嫌なことは、あまりやらないのが吉ですよ。
そうですね……逆に、撮ってもいいか確認したら、OKしてくれるかもしれませんし。
ちなみにTwitterは、ルールとポリシーに『撮影されている人物の同意なく撮影または配布された、私的な画像や動画を投稿することを禁じます』という文言を追加するなど、他人の肖像利用について厳格な方針を明確にしました。
問題になることが多かったのでしょうね。
次回予告
今回の続きとして次回は“悪口言っちゃダメ?”というテーマを解説する。
原著について
『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』
(原著:鷹野 凌、原著監修:福井 健策、イラスト:澤木 美土理)
クリエイターが創作活動するうえで、知らないと損する著作権をはじめとする法律や知識、ノウハウが盛りだくさん! “何が良くてダメなのか”“どうやって自分の身を守ればいいのか”“権利や法律って難しい”“著作権ってよくわからない”“そもそも著作権って何?”といった疑問に会話形式の堅苦しくない読み物でお答えします!