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「ポートピア連続殺人事件」を題材にしたAI技術デモが無料公開されるも……

自然言語生成機能が省かれたためか、ゲームの進行すら難しい内容に

 スクウェア・エニックスは4月24日、テキストアドベンチャーゲーム「ポートピア連続殺人事件」を題材にAI技術の1つである自然言語処理(Natural Language Processing)を学習・体験できるソフト「SQUARE ENIX AI Tech Preview:『THE PORTOPIA SERIAL MURDER CASE』」を公開した。

自然言語処理AIを体験できるという技術デモ

 自然言語処理というのは、普段我々が会話で使う言葉(自然言語)をコンピューターで用いる技術のこと。言葉を理解し、人間のような文章を返すというもので、最近話題のチャットAIなどもこれに含まれる。

 本作は「ポートピア連続殺人事件」ができた1980年代のPC向けアドベンチャーゲームのように、行動をテキスト入力で指示する。ただしAIによって、入力した言葉はある程度の幅を持って理解されるので、1文字違わず入力する必要はなく、やりたいことをそのまま言葉で指示するだけでいい。それでどこまで遊べるものになったか、というのを見せるデモというわけだ。

 本作はSteamから無料でダウンロードが可能で、公式サイトからリンクが貼られている。なお今回公開されたバージョンでは、AIの非倫理的な発言の可能性を考慮し、自然言語生成(Natural Language Generation)による雑談会話機能は省かれている。今後の研究が進めば、改めて自然言語生成機能を搭載したものを提供するとしている。

自然言語生成機能が省かれたためか残念な内容に

 ゲームはとある消費者金融会社の社長である山川耕造が殺された場面から始まる。プレイヤーは1人の刑事となり、部下のヤスこと間野康彦と事件を捜査する。

部下のヤスとともに殺人事件を捜査する

 画面は中央にテキストの会話文、左にキャラクターのビジュアル、右にキャラクターや地名、証拠品のリストが表示されている。画面の下にはテキスト入力枠があり、ここでやりたいことをヤスに指示することでゲームが進む。

 ヤスは「どういうふうに捜査を始めますか?僕に指示してください」と聞いてくるが、ファミコン版のようにコマンドリストなどはなく、完全に自由な文字入力となっている。

自由にテキストを入力できる

 試しに「事件についてもう一度教えて」と言ってみると、「まずは現場に向かいましょう」と返された。改めて「現場に向かおう」と言うと、山川の屋敷へと移動した。

 屋敷に着いたところで「遺体の状況は?」と聞くと「うーん……」と冴えない返答。「事件が起きた日時は?」という問いには「現場で説明します」。頑なに教えてくれない。

 「被害者について教えて」、「どこで死んでいた?」などと聞いても、「うーん……」、「え?」と返すばかりで、まともに返事をしてくれない。どうやら自然言語生成機能が省かれたため、ゲーム的に想定されていないことを聞いてもまともに返事ができないようだ。

ヤスの返事がどうにもならない

 これだと当初の説明にあった自然言語処理の学習・体験としては大部分が死んでいる状態で、とても残念な内容となっている。おそらくスクウェア・エニックスとしても自然言語生成機能を省くことになるのは想定外だったのだろうが、正直なところ、現状ではいったん引っ込めた方がいいのではないかという出来になってしまっている。

現状ではヤスと会話できるわけではなく、適切な指示を出さないとゲームが進まない

指示する文章を見つけられればクリアは可能

 とはいえゲームとしては遊べないわけではなく、それこそ1980年代の完全テキスト入力型のテキストアドベンチャーを遊ぶつもりで取り組めば、何とか遊べなくもない。指示を一字一句違えずに書けとは言われず、ある程度の言葉の幅は確かに許容してくれる。「○○に行く」を「○○に向かう」や「○○に戻る」しても理解してくれる、という程度ではあるが。

 攻略のヒントになるものもある。画面上にあるものを指示して「○○を調べて」と言うと、それを調べてはくれる。ゲーム的に設定対象になっていないものは調べられないが、小さいものが落ちている場合は何かが光るように描かれている。左[Ctrl]キーを押すとユーザーインターフェイスが消えて映像だけが見られるので、気になるものを調べるように指示していく。

画面上で気になるものがあったら調べるように指示する

 他にも手に入れた証拠品を調べる、取調室に登場人物を呼ぶ、といった行動も必要になる。さらには見つけた電話番号で電話をかける時には、「123-4567に電話をかける」といったようにテキストで指示すれば電話ができたりもする。

被疑者を取調室に呼び出し「アリバイを聞く」などで質問する

 この辺りの指示の方法はどこにも示されておらず、自分で探さなければならないので、最初はヤスの「え?」や「うーん……」の連発で心が折れそうになる。特に「叩く」の指示などは原作を知らなければ絶対に思いつかないはずだが、手順がわかれば何とか進められなくはない。

「叩く」をノーヒントで指示するのはさすがに想定外

 ゲーム自体は原作の「ポートピア連続殺人事件」の内容に沿っているので、内容を知っていれば何とか結末にはたどり着ける。知っていた上で面白いかと言われると、映像は写真をベースにした現代風のものになっていて、ドット絵の時代よりはリッチな体験ができる。1980年代を思わせるテキストの内容と映像との間でギャップがあるのが気にはなるが……。

1980年代を思わせるテキストに対して、映像が随所に現代っぽいところにも違和感が

 残念ながら結果としては、AIの技術デモとしても、復刻版のアドベンチャーゲームとしても、現状では評価に値しないと言わざるを得ず、Steamの評価が「非常に不評」なのも頷くしかない。それらを含めて、昔を懐かしんで遊んでみたい方は試していただければいいが、できれば自然言語生成機能が復活してから改めて試していただきたいと思う。

いちおうゲームとしてはクリア可能だが、原作を知らないとほぼ無理かも
著者プロフィール:石田賀津男(いしだ かつお)

1977年生まれ、滋賀県出身

ゲーム専門誌『GAME Watch』(インプレス)の記者を経てフリージャーナリスト。ゲーム等のエンターテイメントと、PC・スマホ・ネットワーク等のIT系にまたがる分野を中心に幅広く執筆中。1990年代からのオンラインゲーマー。窓の杜では連載『初月100円! オススメGame Pass作品』、『週末ゲーム』などを執筆。

・著者Webサイト:https://ougi.net/