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マイクロソフトはAIを次のプラットフォームシフトと考えている
日本マイクロソフトが「Microsoft AI」に関する説明会を開催
2023年10月5日 16:53
2023年10月2日、日本マイクロソフト(株)が、「Microsoft AI」に関する記者向け説明会を行った。説明会では、米マイクロソフト エグゼクティブ バイスプレジデント コマーシャル チーフ マーケティング オフィサーを務める沼本健氏が、マイクロソフトのAI戦略に関する最新情報を解説した。沼本氏は、米マイクロソフトにおけるAIとクラウドの戦略の責任者であり、マイクロソフトが開発・提供するAIの総称である「Microsoft AI」の戦略を最も深く理解している人物である。沼本氏による説明の要旨は以下の通りだ。
ナチュラルユーザーインターフェイスとリーズニングエンジンが新たなAI時代を開拓
マイクロソフトはAIを次のプラットフォームシフトであると考えている。1980年代には、PCがプラットフォームであり、1990年代はWebがプラットフォームであった。2000年代はモバイルがプラットフォームであり、2010年代はクラウドがプラットフォームであった。AIは今後、新たなプラットフォームとなり、テクノロジートレンドとしては「ナチュラルユーザーインターフェイス」と「リーズニングエンジン」の2つが重要になる。ナチュラルユーザーインターフェイスは、マルチモーダルやマルチドメイン、マルチターンといった形で技術がどんどん成立してきている。リーズニングエンジンの代表がLLMであり、この2つが合わさって新たなAIの時代の幕開けを迎えている。
マイクロソフトは、AIプラットフォームシフトとして、同社のクラウド全製品に横断的にAIを導入。AIの喫緊の課題として、「Copilotの活用による生産性の向上」、「自分自身のAI能力を確立する」、「ビジネスとデータの保護」の3つを認識している。
Copilotの活用によりさまざまな分野で生産性が大きく向上
最初の課題である「Copilotの活用による生産性の向上」についてだが、Copilotはプレビュー版を先々週に発表したが、そのアイコンは人とコンピューティングがパートナーシップを結び握手をしていることをイメージしたものである。Windowsだけでなく、「GitHub Copilot」や「Microsoft 365 Copilot」など、マイクロソフトのクラウド製品全てにCopilotが搭載されていく。
「Microsoft 365 Copilot」のデモとして、Wordで作った提案書からPowerPointでプレゼンテーション資料を自動的に作成でき、Copilotと対話を行うことでプレゼンテーション資料をブラッシュアップされる様子が紹介された。例えば、スライドが文字だらけになっている場合は、もっとビジュアルを追加しろと指示すれば、適切な画像が自動的に貼り込まれる。
沼本氏は、「PowerPointの多くの機能を使いこなせていない人でも、ナチュラルユーザーインターフェイスを介して、さまざまな機能を使いこなせるようになる」と述べ、AIによって誰もがアプリケーションのパワーユーザーになれると説明した。
もう一つの「Microsoft 365 Copilot」の例として、Microsoft Teamsが紹介された。定例会議の時間に別の重要な会議が重なってしまい、定例会議に参加できなくなった場合でも、参加できなかった会議の内容をCopilotが要約したり、自分の顧客がその会議で話題になっていたことなどを確認できる動画が公開された。また、自分が参加している会議中にもリアルタイムに参加者の発言を要約できるため、会議を効率良く進めることができる。
また、「Microsoft 365 Chat」では、Copilotに緊急の案件について問い合わせると、新店舗のオープンが最優先であることが報告され、近くにある競合店をWebから検索して比較し、比較表を作るという一連の流れがデモされた。
このようにCopilotを活用しコラボレーションを行うことで、生産性を大きく上げることができると、沼本氏は力説した。Copilotを活用することで、さまざまな分野での生産性が向上する。例えば、ソフトウェア開発者は55%早くコードを書けるようになり、ナレッジワーカーでは、タスクを37%早く完了できるという成果が出ている。
LLMと「Microsoft Graph」、「Microsoft 365」が連携してCopilotを実現
「Microsoft 365 Copilot」は、大規模言語モデル(LLM)と「Microsoft Graph」が管理・蓄積している自分の「Microsoft 365」関連データ、WordやExcel、PowerPointなどの「Microsoft 365」アプリケーションの3つを連携させることで実現している。
具体的にはまず、「Microsoft 365」アプリケーションを通じて、ユーザーからCopilotへの命令(プロンプト)を受けとり、そのプロンプトの前処理を行い、「Microsoft Graph」を呼び出し、関連するデータを用いてプロンプトを修正する。その修正されたプロンプトがLLMに送られ、その結果が再び「Microsoft Graph」に送られ、その内容をチェックして「Microsoft 365」アプリケーションに対するコマンドが生成され、「Microsoft 365」アプリケーションに送られ、ユーザーがその結果を目にするという仕組みだ。
GPTやLlamaだけでなくさまざまなオープンソースのAIモデルを利用できる
2つめの課題である「自分自身のAI能力を確立する」とは、自分が属する企業に最適化したAIを構築するということであり、必要なAI機能をアプリケーションに組み込むための「Copilot stack」が提供される。また、「Microsoft AI」はすべてマイクロソフトのクラウドである「Microsoft Azure」によって支えられており、全世界60以上のリージョンに200以上のデータセンターを持っていることが強みである。
基盤モデルとしては、Open AIのGPTシリーズだけでなく、Metaとの協業によるLlamaシリーズ、Hugging Faceとの提携により、FalconやStable DiffusionなどさまざまなオープンソースのAIモデルも利用できる。さらに、AIアプリケーションを開発するための「Azure AI Studio」が用意され、包括的なAI開発環境を実現していることも魅力だ。
「Copilot Copyright Commitment」によりマイクロソフトが法的責任を負う
3つめの課題である「ビジネスとデータの保護」に関しては、AIの開発と利用において、ビジネスとデータの安全を確保することが重要だ。Copilotでは、エンタープライズグレードのセキュリティとコンプライアンスで安全を担保している。また、最近、「Copilot Copyright Commitment」というプログラムを開始した。これは、商用化された「Microsoft 365 Copilot」で生成されたコンテンツについて、マイクロソフトが法的責任を負うというもので、ユーザーが安心してCopilotを利用できる。
沼本氏は最後に、「AIを利用するためには、クラウドの利用が不可欠であり、日本の企業はもっとクラウドを導入してほしい」と語った。
なお、「Microsoft 365 Copilot」は法人向けとして2023年11月から一般提供が開始される。米国では1ユーザーあたり月額30ドルという価格で提供されるが、日本における価格はまだ発表されていない。沼本氏は、質疑応答の中で、いずれは個人向けのCopilotの提供も考えているが、それがいつどのような形になるかはまだいえないと述べた。