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今注目すべき「AI技術」とは?人工生命、半導体、エンジニアそれぞれの視点で見えるもの【AIフェスティバル 2024】
来年はどうなる?
2024年11月11日 15:30
株式会社サードウェーブ主催によるイベント「AIフェスティバル 2024 Powered by GALLERIA」が、11月8日〜9日に秋葉原で開催された。
初日には、アート、ビジネス、テクノロジーのそれぞれの面から3つのパネルディスカッションが開催された。
このうちテクノロジーに関するパネルディスカッション「進化するAIテクノロジー」では、パネリストが、自分の取り組みや、注目しているテクノロジー、これからどうなるかなどについて語りあった。
パネリストは、人工生命に長く取り組んでいる中村政義氏(人工生命ゲーム開発者/金沢美術工芸大学非常勤講師)、AI半導体を開発するシリコンバレーベンチャー会社の林憲一氏(SambaNova Systems アジア太平洋地域マーケティングディレクター)、AI関係の著作も多い布留川英一(npaka)氏(プログラマー)、AIに関するブログやSNSで活躍するからあげ氏(エンジニア)。司会は、清水亮氏(AI/ストラテジー スペシャリスト)。
注目すべきAIは?「社会を築くAI」「小さな分野のエージェント」「動画で学ぶAI」「データフロー型AIチップ」
最初のお題は「最近注目してるテクノロジー」だ。
中村氏は、LLMを使った人工生命において、人工生命の間で自発的に誕生パーティーが開かれた事例や、マインクラフトの中でLLMによるAIエージェントのシミュレーションで自律的に分業や市場などの社会が築かれたという研究発表事例を紹介した。そして推測として、ボトムアップで市場ができたというより、LLMが途中で人間の知識を転移したのではないかと語った。
林氏は、大手による大きなAIに対して、それより小さな分野ごとのエージェントAIが組み合わさるような形に注目していると答えた。また、現在のAIが、事務職などの人にとって、AI提供企業の投資に見合うほど仕事に役立っているかどうかについて、「微妙なところ」とコメントした。
布留川氏は、生成AIがMinecraft風のオープンワールド型のゲームを自動生成する「Oasis」を紹介した。
これに注目する理由として、かつてAIがレトロゲームをプレイする試みにおいて、どんなゲームでもクリアできる汎化性能が上がらない問題があり、その解決方法の1つとして動画生成してその中で学習するという研究があったと説明。その当時はまだ動画生成の性能がまだ高くなかったが、今の動画性能であれば汎化性能が上がるのではないかと説明。「人間が夢の中で学習するようなもの」とコメントした。
からあげ氏は、GoogleのNotebookLMを最近、PDFの要約などによく使っていると紹介した。
そして音声データをもとに質問に答えてくれる機能が追加されたことや、論文からかけあい形式の音声番組を生成するGoogle Illuminateなどを取り上げて、可能性が大きいと語った。そして、たとえば、漫画や小説からAIがアニメを生成する自動メディアミックスなどもできるようになるのではないかとコメントした。
これについて、メディアの変換はデータと表現の分離ではないか、たとえば子供の写真をどんどん入れていくとAIがいい写真を出してくれるようになるのではないか、という意見も出た。
そのほか林氏は、現在はサーバーCPUがだいたいx86系に収束しているが、昔UNIXサーバーが流行ったときには各社でいろいろなCPUが作られていて、現在のAIチップもその頃のCPUのように各社から作られる感じになってきているのが面白いと発言した。
その一つであるSambaNovaのAIチップを林氏は紹介した。通常のCPUやGPUのように、1箇所の演算器が計算のたびにメモリの読み書きを繰り返すモデルに対し、非ノイマン型のデータフロー方式を採用したのが特徴だという。
林氏は、ニューラルネットワークの仕組みとしてよく見られる図はまさにデータフローの形であり、データフロー方式で処理するのが自然であると主張。SambaNovaのAIチップでは、再構成可能な半導体を使って、ニューラルネットワークのノードを半導体上のブロックとして組み合わせ、ロジックの間をデータが流れると計算されると説明した。
いつか作りたいものは……やっぱりパートナーロボット?
2つ目のお題は「いつか作りたいもの」だ。
からあげ氏は、ロボットでパートナーのようなものを作りたいと答えた。また布留川氏は、自分もロボットに行きたいとしつつ、そこに行くためにコンピュータの仕事を自分のかわりに全部やってくれるAIが欲しいと語った。
これについて、人間のやることがなくなるのではないかというツッコミが入ると、林氏は自分の飼っているペットロボットのLAVOT(らぼっと)を紹介。家にこれからロボットが入ってどんどん賢くなっていくと、人間に最後に残るのはロボットのメンテか、とジョークをまじえて語った。
中村氏は、Good AIの「AI People」というゲームを紹介した。プロモーションビデオでは、AIで自律的に動くキャラクターの前にプレイヤーが世界の創造主のような存在として現われ、「お前たちはシミュレーションの中の存在だ」と告げると、キャラクターたちはその中で自由になるためにどうするだろうかか会話して行動する、というメタフィクション的な姿が描かれている。中村氏は、このようにAIが現実世界を侵食するようなことになったら、人類にとっては迷惑だが面白いと、人工生命開発者らしく語った。
そのほか5人で、AIでは技術の進歩が速く、特にモデルまわりのプロジェクトをやっている人は朝起きたらそれが意味のないものになっていることもあるという話がなされ、「ある意味でシンギュラリティ」という言葉も出た。
来年は「AIがAIを作る」「AI作の映画に涙する」時代に?
3つめのお題は「来年の話」。翌年もAIフェスティバルが開催されるとしたら、そのときにはどうなっているかどうだろうか、という質問だ。
中村氏は、半導体のムーアの法則が、半導体(コンピュータ)の設計によって成長が実現されたように、AIもAIが作るようになって成長していくのではないかと述べた。
林氏は、今月(11月末)のChatGPT 2周年に何かが発表されるという噂があり、そこでまたAIが次のステップに進むのではないかと語った。
布留川氏は、1年後ぐらいであれば、AIがコンピュータやスマートフォンを操作するようになり、iPhoneやAndroidに頼むと仕事をやってくれるようになってくれるのではないかと予想した。
からあげ氏は、4年前に書いたAIの本で「5年後にはAIが作った映画に感動して涙を流しているかも」と書いたことを紹介。来年がその5年後にあたるので、その答あわせになりそうだと語った。
「AIのほうがが強くても、人間どうしの将棋を見る」
最後のお題が、そうしたAIの進歩の中で「俺たちはどう生きるか」だ。
林氏は、「技術は進歩が速いようでも一足飛びではない」として、毎日1%ずつの進歩が1年間続くと複利計算でかなり大きな進歩になるようなものだと説明。それだけに注目していれば波に乗れるとして、「興味あるところに食らいついていくしかないかと思う」と答えた。
からあげ氏は、「結局、自分が好きなこと、やりたいことをやるのがいいんじゃないか」と回答。将棋や囲碁でAIが人間より強くなっているが、それでも人間どうしで対決して楽しんでおり、そこに価値があるんじゃないかと語った。
布留川氏は、AIの新技術は次々にやってくるのは大変だが、ロボットを作ろうと思っていると、そこにパズルのピースが次々に揃ってくるようだと回答。残りのパーツが来ないかなと心待ちにしていると語った。
中村氏は、AIが将棋で人間より強くても、AIどうしの将棋を見る人は少ないとして、「人間どうしのコミュニケーションが重要になるのではないかと考えている」と語った。