石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』

オンラインゲーム葬送曲「ファンタジーアース ゼロ」

 PCゲームに関する話題を、窓の杜らしくソフトウェアと絡め、コラム形式でお届けする連載「石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』」。PCゲームファンはもちろん、普段ゲームを遊ばない方も歓迎の気楽な読み物です。

プレイ時間は〇時間ではなく〇日で数える

「ファンタジーアース ゼロ」のタイトル画面

 1つのゲームを100時間も遊んだと言えば、「結構やったなあ」と感じる人が多いだろう。大作RPGでもクリアまで100時間かかるものはそう多くはない。

 これがオンラインゲームになると桁が変わる。私の場合、100時間ではなく100日(2,400時間)以上遊んだゲームがいくつもある。総プレイ時間などのデータを確認できるものに限っても、「EVERQUEST」、「ファイナルファンタジーXI」は100日を超えている。

 そして私が最も長いプレイ時間を費やしたゲームが、スクウェア・エニックスが運営する50対50の対戦アクション「ファンタジーアース ゼロ(FEZ)」だ。総プレイ時間は確認できないが、対戦数から類推するに、軽く150日以上はプレイしたと思われる。

 その「FEZ」が、2022年9月28日でサービスを終了すると発表した

短期撤退から奇跡の復活を果たした国産オンラインゲーム「FEZ」

50対50で戦うオンライン対戦アクション

 「FEZ」は、1つのフィールドに最大100人のプレイヤーが参加し、50対50で戦うアクションゲーム。複数の職業と細分化されたスキルツリーにより、キャラクターごとに特性が大きく異なるので、味方との連携が重要になる。また各スキルには使用した際の硬直時間があり、格闘ゲームのような駆け引きが要求される。

 相手を倒すだけでなく、建築物を建てて支配領域を増やしたり、召喚獣を身にまとって強力な攻撃を仕掛けたりすることもできる。プレイヤーによっては、ひたすら歩兵戦に徹する人もいれば、建築や召喚獣の扱いに長けた人もおり、戦略性が高くプレイスタイルのバリエーションが豊かなのが特徴だ。

 本作は、もともとスクウェア・エニックスが「ファンタジーアース ザ リング オブ ドミニオン」という名前で2006年にサービスを開始したが、なんと約半年という短期間でゲームポット(現在はGMOインターネットに吸収合併)にサービスを移管。名称が「FEZ」に変更された上、月額料金制からアイテム課金制へとビジネスモデルが変わった。

「ファンタジーアース ザ リング オブ ドミニオン」の頃のゲーム画面。現在と大きくは変わらない
前例のない作品だけに、ゲームバランスも手探りでの調整という印象だった

 この際に本作がとったユニークな手法がある。一般的なアイテム課金制のゲームでは、より強力な装備品を有料アイテムとして提供することが多い。しかし本作では、装備品の性能は無料で入手できるものとほぼ同等で、性能自体もインフレすることもなく一定だった。また、ゲーム内イベント等で有料ガチャに参加できるアイテムを配ることもあり、性能だけで考えれば必ずしも課金する必要はなかった(他の消費アイテムで若干の差はあるが)。

 つまり、本作の課金要素は実質的に外見のカスタマイズでしかなく、当時の私は「そんなので商売になるの?」と懐疑的だった。ふたを開けてみれば、周囲のプレイヤーは新しい装備が追加されるたびに購入してコーディネートを楽しんでおり、戦略は大成功だったようだ。ゲーム自体が本格的な対戦アクションであるのに対し、ベースのキャラクターが可愛らしいものだったのが、良い相乗効果を生んだようだ。

筆者はほぼ外見は気にしないが、ガチャで当たるとワンセットの装備品がもらえるので悪くない。お気に入りの眼鏡だけは超レアものを装備

 ガチガチの対戦ゲーマーである私は、装備は性能一辺倒だったが、常時遊べるキャラクターを20人近く揃え、当時複数あったサーバーの全てでプレイできるようにした。またゲーマーの集まるギルド(ゲーム内のチーム)で夜な夜な真剣なバトルを楽しみ、消費アイテムをじゃんじゃん使い込んだ。1戦でかかるのはせいぜい数十円程度だが、数千戦もやればいくら使ったかは計算したくもない。

 仕事でも「GAME Watch」の記者だった立場を利用し……もとい立場を生かし、開発・運営担当者に何度もインタビューをお願いした。7対7の対戦ルール「バンクェット」の大会を始めとしたオフラインイベントも可能な限り取材した。取材のため、大会に出られないことに歯噛みしつつも、「FEZ」に関しては業界の誰にも負けない記事を提供し続けてきた自負がある。

オンラインゲームがサービスを終了することの意味

全盛期には、ここにギルドメンバーが10人以上集まっていた時もあった。懐かしい

 私が長らく愛した「FEZ」も、残り3カ月ほどでサービスが終わる。スタンドアローンでは動かせないサーバークライアント型のオンラインゲームの宿命だ。自分の分身として戦ったキャラクターは消滅し、有料で購入したものを含むアイテムは電子の藻屑となる。

 現実の飲食店が閉店すると聞いて「あんなにいい店だったのに」と言う人に、「あなたがずっと店に行かなかったからでしょ」と言うのは笑えないジョークだ。オンラインゲームも、「あんなに面白かったのに」と言いながら、最近は遊んでいないという人も多い。だから収益が見込めなくなり、サービスが終わってしまう。

 ただ、飲食店とオンラインゲームでは事情が異なる。飲食店の定番料理の味は劇的に変わらなくても構わないが、ゲームは日々進化する。現状維持では時代の流れに置いて行かれて、古臭くなり陳腐化してしまう。かといって、日々のサービスを続けながらゲーム内容を大幅にグレードアップするのも極めて困難だ。だからオンラインゲームを長く継続するのは難しい。

ビジュアル表現は15年間で劇的には変わらなかった。今の時代にはどうにも古臭く見える

 「オンラインゲームはいつかデータが消えるから嫌だ」という人もいる。それは当然だ。たとえ今は遊ばなくなったとしても、自分の都合ではないところで自分のもの(データ)がいずれ捨てられるとわかっていたら、いい気分はしない。

 ではオンラインゲームのプレイヤーは、サービスが終わってしまったオンラインゲームに対して「データが消えて嫌だった」という感想を持っているだろうか。多額のお金を支払い続けた人の中にはそう感じる人もいるかもしれない。しかし多くのプレイヤーにとって、そんなのは些細なことだ。

 より大事なことは、自分の人生の中にとても面白いゲームがあり、楽しかった思い出があること。オンラインで出会った友達がいて、ゲームのこともそれ以外のこともいろんな話をして、サービスが終了しても友達として繋がり続ける人もいる。消えるのはゲームのデータだけであって、それ以外のものは全て残る。

 たとえゲームがスタンドアローンで、自分の都合でいつでも遊べるゲームだったとしても、一生遊び続けられるゲームは滅多にない。子供の頃に遊んだファミコンのゲームを引っ張り出してきて、何十年ぶりに遊んでみようと思ったら、バッテリーバックアップの電池が切れてデータが消えている、なんてことも普通にある。

 そういう悲しいことがあっても、ゲームで遊んだ思い出は消えないし、遊んだ時間もなかったことにはならない。サービスが終了したオンラインゲームも、その先に続くプレイヤーの人生の一幕となっていくだけのことだ。

ゲームシステムの激変に振り回されたこともあったが、それはそれで楽しみはした
必死に練習して高い成績を出せたときの嬉しさも覚えている

 そして何より大事なことは、「FEZ」はまだサービス提供中であるということ。たとえ残り少ない期間でも、今は遊べるのだ。サービス終了までは大規模なゲーム内イベントを実施している。15年分の思い出語りをする前に、まずはゲームを再訪してみていただきたい。

 ちなみに、最初に挙げた「EVERQUEST」と「ファイナルファンタジーXI」はまだサービス提供中。前者はサービス開始から23年、後者は20年。「FEZ」の15年というのも立派な数字なのだが、こういう化け物級のタイトルのせいで凄さが霞む気もする。いずれ機会があれば、これらのタイトルについても触れてみたいところだ。サービスが終了する前に。

サービス終了までイベントを実施中。エンドロールに掲載するコメントの募集もあった(現在は受付終了)

著者プロフィール:石田賀津男(いしだ かつお)

1977年生まれ、滋賀県出身
ゲーム専門誌『GAME Watch』(インプレス)の記者を経てフリージャーナリスト。ゲーム等のエンターテイメントと、PC・スマホ・ネットワーク等のIT系にまたがる分野を中心に幅広く執筆中。1990年代からのオンラインゲーマー。窓の杜では連載『初月100円! オススメGame Pass作品』、『週末ゲーム』などを執筆。

・著者Webサイト:https://ougi.net/

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