石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』

「ハイドライド」だけで11本? MSXやX68000、X1やFM-7などのレトロPCゲームを遊べる「プロジェクトEGG」

 PCゲームに関する話題を、窓の杜らしくソフトウェアと絡め、コラム形式でお届けする連載「石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』」。PCゲームファンはもちろん、普段ゲームを遊ばない方も歓迎の気楽な読み物です。

レトロなPCゲームにも思い出はある……人もいる

「プロジェクトEGG」のホームページ

 ゲーム業界ではレトロゲームの復刻版が大人気だ。2016年に任天堂が「ニンテンドークラシックミニ ファミリーコンピュータ」を発売したのを皮切りに、プレイステーションやメガドライブ、PCエンジンなど、往年のさまざまなゲームが復刻されている。子供の頃にゲームを遊んだ人たちが昔を懐かしみ、大人の財力で買っていくという素敵なビジネスである。

 復刻版はいまに始まったことではなく、旧世代のゲームを現行世代のゲーム機に移植するものは昔からある。また現在では現行のゲーム機でレトロゲームを配信するサービスも各社が展開している。「昔やったあのゲームをまたやりたい」と思ったら、わざわざ当時のハードを探すことなく、簡単に手に入るものも多い。

 ただし、昔のゲームを簡単に遊べるのは、あくまでメジャーな家庭用ゲーム機の話。ファミコン以前からあるPCゲームのタイトルは、市場規模や認知度で圧倒的に小さく、復刻版もおいそれとは出てこない。一部の有名なPCゲームは、ファミコンなどに移植されたものが遊べたりはするが、元のバージョンとなるとハード・ソフトに加えてビジネス規模的にも難しい。

 そうはいっても、いちゲーマーとしてはPCゲームも思い出のゲームであることに変わりはない。子供の頃に大好きだった、クリアできなかったあのゲームを、いま改めて遊びたい。しかし当時のマシンやソフトを揃えるのは、家庭用ゲーム機とは比べ物にならないほど困難だ。

 そんな人に、一筋の光明を与えてくれるのが「プロジェクトEGG」というサービス。ありていに言えば、レトロPCゲームのエミュレータ版を提供しているものだ。

「ハイドライド」だけでいっぱいあり過ぎることの意味

 「プロジェクトEGG」のホームページには、提供中のゲームがずらりと並んでいる。タイトル検索の画面によると、執筆時点では1,031タイトルが登録されているという。

 元の機種もさまざまだ。PC-9801はもちろん、MSXやX68000、FM-7やX1まである。PCゲームだけでなく家庭用ゲーム機もあり、ファミコンやPCエンジン、セガ・マークIIIなどがある。

多彩なプラットフォームに対応

 本サービスは各ゲームの権利関係もきちんとクリアしている。運営元であるD4エンタープライズは、多数のレトロゲームの知的財産権を積極的に取得しており、レトロゲームにありがちな「もう会社が残っておらず、いまは誰が権利者なのか不明」という状態にならないよう手を尽くしている。同社が権利を持つタイトルの一覧も公開されている。

 提供中のタイトルを調べてみたところ、面白いものが見つかった。T&Eソフトの名作RPG「ハイドライド」を検索すると、全部で23件ヒットする。続編もあるし、タイトル説明に「ハイドライド」と入っているものもヒットするのはわかるが、「ハイドライド」という名前のゲームだけでも8タイトルある。

 それらをよく見てみるとプラットフォームが違い、PC-8801をはじめ、PC-6601、PC-9801、X1、MSX、MSX2、FM-7、ファミコン(海外版)となっている。さらにタイトル違いでX1版の「ハイドライド 異次元バージョン」、ファミコンの「ハイドライド・スペシャル」、Windows版の1、2、3セットもある。PCゲームは人気が出ると他の機種にも移植されることが多く、「ハイドライド」はその最たるものだ。

 これらはすべて「ハイドライド」には違いなく、ゲーム内容も概ね共通している。しかしグラフィックスやサウンドは機種によって少しずつ異なるし、「ハイドライド・スペシャル」では魔法が追加されるなど、ゲーム内容を改変したものもある。

 何より、各々の思い出にあるゲームは、タイトルだけでなくプラットフォームにも紐づいている。昔好きだったゲームを見つけて遊んでみたものの、プラットフォームが違って音や絵が異なると、思い出とのズレで思いのほか違和感が大きいものだ。

 「ハイドライド」だけで10タイトル以上も必要なのかと思う人も多いと思うが、各々が当時遊んだ思い出のゲームを再現するためには必要なのである。昔好きだった映画を見たら、字幕版と吹き替え版で声も訳の内容も全然違っていて気持ち悪い、みたいな感覚に近い。

T&Eソフトの名作RPG「ハイドライド」。こちらはPC-8801版の画面

無料ゲームと書かれているが、月額550円が必要

 さらにホームページを見ていくと、無料ゲームというコーナーがあるのに気づく。見てみると、執筆時点では「現在211タイトルが無料で遊べます!」とある。しかも毎月1タイトル、新たな無料タイトルが追加されるという。

無料ゲームのコーナー。執筆時点で211タイトルあるようだ

 実際に無料ゲームを1つ選んでみると、無料、0円という文字が並んでいる。「レジへ」のボタンを押してカートを見ると、たしかに価格が0円になっている。そのまま注文を進めていくと、「アミューズメントセンター」という無料サービスの会員登録が必要と言うので、登録する。

 再びカートを確認すると、今度は「EGG月次サービス購入」を促される。どうやら月額550円の定額サービスに加入することで、無料ゲームの一覧にあるゲームを利用できるようだ。また有料のゲームに関しても、購入しようとすると同じように「EGG月次サービス購入」を促される。

無料ゲームをカートに入れると、確かに0円の表示
しかし決済を進めると、月額550円の「EGG月次サービス購入」が必要とわかる

 つまり「プロジェクトEGG」で提供されているゲームを利用するには、月額550円のサブスクリプション契約が必須。その上で、無料ゲームとされているものは追加料金なしでプレイでき、有料のものもサブスクリプション契約をした上で購入できるという仕組みになっている。

 この辺りの説明はホームページを調べていくと書いてあるのだが、無料であることをことさら強調している割に、実際は無料では利用できないというのは、不誠実と言わざるを得ない。無料ゲームとしているものは事実に照らし合わせて、「550円の月額サービスで全て利用可能」くらいの表現にすべきだろう。お金回りで不誠実さが見えると、サービス全体に胡散臭さが漂ってしまうのが残念だ。

「プロジェクトEGG」のゲームの利用には、月額550円の契約が必須

 ただサービスとしては他にはないものであるのも事実。一般的にはあまり知られていない思い出のPCゲームが見つかるかもしれないというだけで、長年のPCゲームファンにとっては極めて大きな価値がある。またレトロPCゲームの保存という観点でも極めて有益なサービスだ。お金回りの姿勢にはいったん目を瞑って、思い出のタイトルがないか検索してみては?

著者プロフィール:石田賀津男(いしだ かつお)

1977年生まれ、滋賀県出身
ゲーム専門誌『GAME Watch』(インプレス)の記者を経てフリージャーナリスト。ゲーム等のエンターテイメントと、PC・スマホ・ネットワーク等のIT系にまたがる分野を中心に幅広く執筆中。1990年代からのオンラインゲーマー。窓の杜では連載『初月100円! オススメGame Pass作品』、『週末ゲーム』などを執筆。

・著者Webサイト:https://ougi.net/

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