石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』
コンパイルの「ディスクステーション」も「プロジェクトEGG」で遊べる!
思い出の作品「あっぷるそーす 森のクリスマス」を語る
2022年11月18日 11:00
コンパイルの「ディスクステーション」
「ディスクステーション」という名前をご存知の方はどのくらいいらっしゃるだろうか。「ぷよぷよ」で一世を風靡したゲーム会社のコンパイルが1980年代から2000年にかけて発売したPCゲームで、複数のゲームや体験版がまとめて収録されているのが特徴だ。
筆者が存在を知ったのはシリーズ後期になってからで、PC-9801用のゲームを複数収録したCD-ROMが付属する書籍になったもの。当時学生だった筆者は「ゲーム1本分より安い値段で何本も遊べてお得!」と思った記憶がある。
その後、コンパイルが経営破綻して消滅してしまい、「ディスクステーション」も終了してしまう。ただ、コンパイルのゲームの権利は株式会社D4エンタープライズが取得(「ぷよぷよ」は株式会社セガ・エンタープライゼス、現在の株式会社セガが取得)しており、「ディスクステーション」に収録された一部のゲームは「プロジェクトEGG」で販売されている。
今回はその中から、筆者にとってもっとも思い出深い作品である「あっぷるそーす 森のクリスマス」を紹介したい。内容的にはミニゲーム程度のものなのだが、筆者にとってはゲームに対する考え方を大きく変えられた作品なのである。
ゲームの面白さはインタラクティブ性にある
「あっぷるそーす 森のクリスマス」は、1996年に発売された「ディスクステーション Vol.9」の収録タイトルの1つ。こびとの女の子「クリル」が、おじいちゃんからクリスマスツリーを飾るようにと頼まれる。
ゲームでは1枚のイラストで描かれたフィールドがあり、その中をクリックするとクリルが移動する。クリックした場所によっては、何かが起きたり、誰かと話ができたり、クリスマス飾りになるものが見つかったりする。これを繰り返し、あちこちに隠れているクリスマス飾りを見つけ出していく。
クリックできる場所はかなり多く、クリスマス飾りに繋がる仕掛けもあるが、ただ何かしらのリアクションがあるだけでクリスマス飾りと関係ない仕掛けも多い。とにかく画面のあちこちをクリックして、クリルの子供らしい動きや、キャラクター達のさまざまな反応を見ているだけで面白い。
本作の面白さは、フィールドのあちこちで見られるリアクションにある。ゲームの目的はクリスマス飾りを探すことで、ミニゲームとしてなぞなぞや弾避けゲームを含んではいるが、クリックするといろんなリアクションが見られるというインタラクティブ性がすでに面白いのだ。
それまで筆者が遊んできたゲームは、敵を倒すとか、謎を解くとかいうゲームの目的があって、それを達成するのに操作の上達やキャラクターのレベル上げなどが必要になった。しかし本作は、基本的に画面のどこかをクリックするだけの操作で、時間制限もキャラクターレベルもなく、何かを失敗してゲームオーバーになることもない。
ゲームの目的となるクリスマス飾りは全部で10種類あるようだが、すべて見つけなくても飾り付けを終了してエンディングを見られる。プレイヤーの分身であるクリルが「飾りはこのくらいでいいかな!」と思ったところがゲーム終了なのである。プレイ感覚とゲーム終了のタイミングにおいて、筆者はこれほどゆるいゲームを知らなかった。
本作はゲームとしての強い目的がなく、主目的と関係のない要素が多すぎる。それでも間違いなく面白い。そのとき筆者は「ゲームの面白さの本質、そして他のメディアにないゲームならではの要素は、インタラクティブ性だったのか」と気づいた。
時代がたまたま筆者と合っただけ、だけれど
今になって考えてみると、それまで遊んだゲームは家庭用ゲーム機のものばかりで、単品で数千円するような作品が主体。もし本作が単品で数千円するなら、筆者が手に取ることはなかっただろうし、全く売れなかったと思う。複数のゲームを収録しつつ、安価に提供する「ディスクステーション」の中の1本だからこそ実現できたゲームなのである。
それから何年かすると、インターネットの普及に伴い、フリーゲームやFlashゲームのようなものも多く出てくる。だが1996年当時はやっとISDNがテレホーダイに対応した時代で、一般向けの常時接続インターネットサービスはほぼ存在しておらず、インターネットはまだまだ一般的ではない。
筆者より古くからPCゲームに親しんできた方なら、「パソコン通信や同人ソフトがあっただろう」と言われるかもしれない。パソコン通信は機材を揃えた上でそれらのコミュニティに参加するのは相当にハードルが高かったし、筆者も大学に進学して機材は揃ったものの、通信料金がハードルになっておいそれとは手が出せなかった。同人ゲームの即売会やショップも、地方にいたせいか縁がなかった。
本作のような小規模なゲームが当時の筆者のような学生に届くとしたら、「ディスクステーション」のような形でしかありえなかったと思う。筆者の時代と環境が、たまたま本作に合っただけ、ではあるのだが。
筆者が本作を最後に実機でプレイしたのは、PC-9821のマシンを使わなくなるより前なので、間違いなく20年以上前になる。改めて今遊んでも、本作のインタラクティブ性は十分に面白い。そして子供がいる身となった今、小さなクリルが1人で飾り付けたクリスマスツリーが輝くエンディングを見ると、結構泣ける。
シンプルなゲーム内容ながら、ビジュアルや世界観もいいし、FM音源で奏でられる音楽も秀逸。筆者の記憶に残る作品として改めてプレイしたが、今をもっていい作品だなあと思う。コンパイルという会社はもう存在しないが、今もどこかで活躍されているであろう開発者の方々には、感謝の気持ちを伝えたい。
著者プロフィール:石田賀津男(いしだ かつお)
1977年生まれ、滋賀県出身
ゲーム専門誌『GAME Watch』(インプレス)の記者を経てフリージャーナリスト。ゲーム等のエンターテイメントと、PC・スマホ・ネットワーク等のIT系にまたがる分野を中心に幅広く執筆中。1990年代からのオンラインゲーマー。窓の杜では連載『初月100円! オススメGame Pass作品』、『週末ゲーム』などを執筆。
・著者Webサイト:https://ougi.net/