石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』

「ハイドライド」の原典、PC-8801版を「プロジェクトEGG」で遊んでみる

 PCゲームに関する話題を、窓の杜らしくソフトウェアと絡め、コラム形式でお届けする連載「石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』」。PCゲームファンはもちろん、普段ゲームを遊ばない方も歓迎の気楽な読み物です。

「ハイドライド」の原典、PC-8801版

「ハイドライド」のタイトル画面

 先週はレトロPCゲーム配信サービス「プロジェクトEGG」を紹介した。今週はそれに引き続き、「プロジェクトEGG」のゲームを試してみようと思う。「ハイドライド」がいっぱいあるという話をしたので、最初に発売されたPC-8801版をプレイしてみたい。

 筆者が初めて手に入れたまともなPCは、高校生の頃に買った中古のPC-9801ES2。それまではPCゲームに触れたことはほぼなく、「ハイドライド」もファミコン版の「ハイドライド・スペシャル」しか遊んだことがない。レトロゲームのお勉強のつもりでやってみよう。

久々のスライム200本ノック(コボルドも可)

 「プロジェクトEGG」から「ハイドライド」を起動すると、ファミコン版にはなかった(と記憶している)立派なタイトル画面が表示された。続いて操作説明。数字キーで移動、スペースキーでDEFEND(防御)とATTACK(攻撃)のモード切り替えとなる。

 数字キー……筆者の愛用キーボードはテンキーレスである。試しにゲームパッドを使ってみたが反応なし。別途テンキー付きのキーボードを持ってきた。レトロPCゲームはこういうところにもハードルがある。

ゲーム開始前に出る操作説明。キーコンフィグ要素など当然存在しない
【お詫びと訂正(11月14日追記)】キーコンフィグとゲームパッドに関して改めて確認したところ、いずれもゲーム起動後の環境設定ウインドウに設定項目があるのを確認しました。キーコンフィグは「仮想テンキー設定」として、テンキーの[1]~[9]キーを別のキーに割り当てられます。よってテンキー付きのキーボードでなくともプレイは可能です。
「仮想テンキー設定」で[2][4][6][8]キーを変更する。例えば[W][A][S][D]キーに変更すれば、テンキーのないキーボードでもPC-8801版「ハイドライド」をプレイできる
ゲームパッドについては「ゲームパッド設定」の項目で、「ゲームパッドを使用します。」にチェックした上で、「ゲームパッドのボタン設定」でキーアサインできます。ただ筆者の環境では、Xinput、DirectInputのコントローラーはどちらもPC-8801版「ハイドライド」では動作しませんでした。

ゲーム付属のREADMEファイルには「ジョイパッドには対応していない」と書かれており、これが正常動作となります。ただ他のゲームを含め、ゲームパッドの設定項目があるということはお伝えしておきます。
「ゲームパッド設定」の項目でゲームパッドの使用可否やキーアサインを設定できる。ただし筆者環境ではPC-8801版「ハイドライド」での動作を確認できず
「キーコンフィグが存在しない」というのは、PC-8801版の「ハイドライド」のゲームには存在しないという意味でしたが、「プロジェクトEGG」のクライアント側には機能が用意されております。お詫びして訂正いたします。

 改めてゲームスタート。「ハイドライド」は2DアクションRPGで、敵に体当たりすると攻撃になる。敵が向かってくる方向から当たると反撃されてダメージを受ける。回復はその場で立ち止まっていればライフゲージが戻っていく。ちなみに、DEFENDモードでも僅かながら攻撃力はあるので、敵によってはATTACKモードより安全に戦えたりする。

 敵を倒すと経験値が得られる。経験値ゲージが満タンになるとレベルアップし、ライフと攻撃力がアップする。最初はスタート地点付近で、次々と現れて歩き回るだけのスライムをひたすら倒してレベルを上げる。

剣を持っているのが主人公。緑色のへこんだ形のものがスライム

 この辺りはファミコン版と同じ。スライムに当たって倒してを200匹繰り返すという作業感も、横からダメージを受けるといきなり死んだりするのも同じだ。小学生の頃はこの時点で面倒くさくなり、何度も投げ出した記憶がある。

 ちょっと救いがあるのは、本作にはセーブ・ロードの機能がある。[W]キーでセーブ、[R]キーでロードが可能で、セーブデータも複数使える。適切にセーブして進めば、死んでも最初からやり直しにはならない。

セーブはどこでも可能なのがありがたい

 アクションRPGというと、装備品を手に入れて強化というのもイメージするだろう。本作にもアイテムの一種として装備品が存在するものの、基本的にはレベルアップによる強化が主となる。お金の概念はなく、アイテムの売買もできない。ひたすら冒険して敵を倒し、自らが強くなるのみだ。

敵と戦って、放置して回復待ち

 「ハイドライド」の目的は、呪いで姿を3匹のフェアリーに変えられた王女を見つけだし、魔王バラリスを倒すというもの。行く手にはさまざまなモンスターがおり、倒したり逃げたりしながら進んでいく。一部のモンスターは、特定のアイテムを拾ってからでないと倒せないといった仕掛けもある。

王女であるフェアリーを探し出すのも冒険の目的

 フィールドは端まで行くと隣のマップに移動できる。スライムもレベル3になると経験値が得られなくなるので、もっと強い敵を探して移動する。フィールドはそれほど広くなく、少し移動すると絶対勝てない強力な敵とも遭遇する。倒せる敵が見つかったら、ひたすら倒し続けレベルアップ、というのが基本だ。

フィールドを移動しながら敵と戦う

 ただ、適正なレベルの敵もスライムほど簡単に倒せるわけではなく、反撃されると結構なダメージを受ける。さらにレベルアップでライフが増えた分、回復にも時間がかかる。1回1回が死と隣り合わせの戦いで、さらに回復待ちの時間が増える。さらなる作業感アップに、大人の心も打ちのめされる。

比較的安全なところで、適正なレベルの敵と戦う

 これに加えて、マップ上に見えている敵が増えると、移動や戦闘の進行が遅くなる。敵を倒すと逆にスピードアップしたように感じる。またBGMも、これをBGMと呼んでいいのかと思うほどチープで単調な音がする。さらには集中力を欠くと(あるいは集中力があっても敵の出現位置による運次第で)コンマ数秒でやられる時もある。

 それでも、主人公を少しずつ成長させ、フェアリーやアイテムを見つけ出していくのは、冒険していると感じさせてくれる。プレイ時間としては現代のRPG作品に比べて決して長くはないし、テキストで事細かに語ってはくれないが、凝縮された物語が確かに存在している。その点において本作はちゃんとRPGとして成立している。

モンスターが闊歩する迷宮に侵入し、重要なアイテムを手に入れた。ただし侵入して数十秒後の話

38年経ってから遊ぶ「ハイドライド」の価値

 「ハイドライド」を遊んだことがない人が、ここまでの話を読んで「なるほど、面白そうだ!」とはならないことは容易に想像できる。およそ2022年に遊ぶべき内容ではないのは確かだ。

 ただ、本作は決して駄作ではない。ゲームの速度の変化は、当時のPCの仕様的に起こりうる処理の問題だし、同様にBGMの質もやむを得ない。ゲームとしては確かにシビアな部分はあるが、難易度として理不尽でクリア不能というわけではない。特定の手順を踏んで進めば敵が弱体化するなど、RPG的な仕掛けもしっかりとある。

 そんなゲームが、40年近く前の1984年に発売されたものであるというだけですごいことだ。アレンジ版となるファミコン版の「ハイドライド・スペシャル」も、国民的RPGとして名高い「ドラゴンクエスト」よりも前に発売されており、当時としては先進的なゲームであった。事実、多数の機種に移植されるほどの人気作品なのである。

 「ハイドライド」を今になって遊ぶには、やはり思い出という大きなパワーが必要になるのは間違いない。それでもPCゲームで一世を風靡した本作は、確かに先進的だと感じられた時代があった。そして「ハイドライド・スペシャル」に魔法が追加されたように、ゲームは少しずつ進化し続け、現代のゲームの礎になっている。

 ただ敵に体当たりしてライフが回復するのを棒立ちで待つ、というレベル上げが作業的だと口では言う筆者も、それが楽しいと感じる部分が確かにあるのだ。内容的にはやはりファミコン版の方が遊びやすくクオリティも高いが、「ハイドライド」の原典たるPC-8801版に触れられるのは「プロジェクトEGG」ならではの価値と言える。

40年近くも経てば謎解き要素もほどよく忘れており、改めてプレイするにはいいタイミングかも?

著者プロフィール:石田賀津男(いしだ かつお)

1977年生まれ、滋賀県出身
ゲーム専門誌『GAME Watch』(インプレス)の記者を経てフリージャーナリスト。ゲーム等のエンターテイメントと、PC・スマホ・ネットワーク等のIT系にまたがる分野を中心に幅広く執筆中。1990年代からのオンラインゲーマー。窓の杜では連載『初月100円! オススメGame Pass作品』、『週末ゲーム』などを執筆。

・著者Webサイト:https://ougi.net/

石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』 記事一覧