石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』

サーバーは無料、ゲームは有料? クラウドゲーミングサービス「GeForce NOW Powered by SoftBank」

 PCゲームに関する話題を、窓の杜らしくソフトウェアと絡め、コラム形式でお届けする連載「石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』」。PCゲームファンはもちろん、普段ゲームを遊ばない方も歓迎の気楽な読み物です。

無料プランがあるクラウドゲーミングサービス

「GeForce NOW Powered by SoftBank」のアプリ画面

 先週に引き続き、クラウドゲーミングの話をしていく。今週はより具体的な例として、日本でも提供されているクラウドゲーミングサービス「GeForce NOW Powered by SoftBank」を紹介する。

 「GeForce NOW Powered by SoftBank」は、GPUメーカーとして知られる半導体企業NVIDIAが手掛けるクラウドゲーミングサービス「GeForce NOW」を、ソフトバンクがアライアンスパートナーとなって提供しているもの。日本国内ではほかにauもアライアンスパートナーになっており、個別にサービスを提供している。

 ソフトバンクやauという名前が付いてはいるが、両社のユーザーでなくとも、インターネット回線があれば誰でも利用できる。料金はいずれも月額1,980円で、ソフトバンクでは有料のプレミアムプランのほか、無料で利用できるフリープランも用意している。今回はクラウドゲーミングサービスの導入の話として、このフリープランを試してみることにする。

かなり贅沢なフリープランの内容

 「GeForce NOW Powered by SoftBank」のフリープランには、いくつかの制限がある。

  • 連続プレイ時間が1時間まで(プレミアムプランでは6時間)
  • RTX(レイトレーシング)は使用不可
  • 混雑時にはプレミアムプランの利用者が優先され、アクセスしづらくなる可能性がある

 連続プレイ時間というのは、ゲームを起動して1時間が経つとサービスがいったん終了になるということ。1時間利用すると二度と無料で使えないのではなく、再び起動すればまた1時間遊べるという意味だ。ゲームに熱中すると1時間はすぐ終わってしまうとはいえ、かなり太っ腹なサービスと言える。

 レイトレーシングは、ゲーム中の3Dオブジェクトの光の反射を計算して、よりリアルな表現を実現する機能。最近のハイエンドゲームで採用が増えているが、高い映像処理能力が求められるため、フリープランでは使用を制限されているようだ。レイトレーシングが使えなくとも、それ以外の表現に影響はなく、ゲームプレイにも支障はない。

 混雑時のアクセスについては、プレミアムプランを優先するのは当然の対応であろう。混雑していなければ、無料で使える。

フリープランとプレミアムプランの違い。フリープランはお試しと言うには贅沢な内容だ

サーバー利用料は無料ながら、Steamなどのアカウントが必要

 では「GeForce NOW Powered by SoftBank」を実際に試してみよう。まずは公式サイトでメールアドレスを入力してユーザー登録をし、「NVIDIA GeForce NOW」の専用アプリをダウンロードする。PCのほかスマートフォンでも利用できるが、本稿ではPCでの利用として話を進める。

公式サイトでフリープランに登録する

 「NVIDIA GeForce NOW」のアプリを起動したら、右上にある[ログイン]ボタンをクリック。Webブラウザーが開くので、登録したユーザー情報でログインする。若干の追加情報を求められるので、適切に入力していく。

Webブラウザからログイン。今回はフリープランなのでSoftBankを選択する
あらかじめ登録したユーザーIDとパスワードを入力
生年月日などを入力して登録完了

 アプリの中を見てみると、さまざまなゲームが並んでいる。一番下までスクロールするとジャンル別でゲームを探せるし、ゲーム名やジャンルでの検索もできる。試しに適当なゲームを選んでみると「ゲームストアを選択」という文字が。[Steam]を選ぶと「このゲームをプレイするには、SteamライブラリにPCデジタル版がなければなりません」と表示された。

 ここが本サービスの重要なポイントだ。ゲームを動かすサーバーは提供されるが、ゲーム自体はオンライン配信スタンドで購入する必要がある。ゲームの利用権は別途必要なのだ。

ゲームプレイにはオンライン配信スタンドでゲームを購入する必要がある

 アプリの設定を見ると、Steam、Epic Games、Ubisoftの各アカウントに接続する項目がある。ここで各アカウントを設定すると、サーバー側で各アカウントにログインした状態になる。例えば、Steamですでに持っているゲームの中で「GeForce NOW」にて提供中のゲームがあれば、すぐさまプレイできる。

 つまり「GeForce NOW」の対応ゲームのうち、ユーザーが所有しているゲームをプレイできる、というわけだ。ユーザーが所有していないゲームはプレイできないし、所有していても「GeForce NOW」の対応ゲームでなければ遊べない。あくまでリモートでゲームを動かすサーバーを使えるだけであって、その上に乗っかるゲームソフトの利用権は別料金というわけだ。

 筆者はSteam、Epic Games、Ubisoftの各アカウントを所有しているので、それぞれサービスに接続していく。

接続の項目にあるアカウントを登録していく
各スタンドのログイン方法はローカル実行の時と同じ

 設定が済んだところで、試しに筆者のEpic Gamesアカウントで所有している「シティーズ: スカイライン(Cities: Skylines)」を動かしてみよう。タイトルページのゲームストアで[Epic Games Store]を選び[プレイ]をクリック。

「シティーズ: スカイライン」はEpic Gamesで所有しているので、選択して[プレイ]をクリック

 すると接続画面に移り、「次の使用可能なリグを探しています」との表示に続いて「あなたの前には次の数のゲーマーがいます:292」とある。この数字は少しずつ減っていく。どうやらこれがフリープランが混雑している状態で、順番待ち行列になっているようだ。平日の夕方だったが、それなりに利用者がいるようだ。

 待つこと数十分、ようやくゲームが動いて自動でフルスクリーン表示された。Epic Gamesのアカウントに再度ログインを促されたりしたが、ゲームは無事にプレイできた。プレイ画面もローカルで遊ぶのと変わらないが、言語設定が英語になっていた。セーブデータもEpic Gamesでクラウドセーブされたデータを呼び出せた。

サーバー接続前の分析画面。「GeForce NOW JP East S1」という名前から、日本にあるサーバーなのがわかる
292人待ち。表示されている数はどんどん減っていく
ちゃんと起動して普通に遊べた

 次は「エーペックスレジェンズ(Apex Legends)」をプレイ。こちらは基本プレイ無料のゲームなので、「GeForce NOW」と組み合わせて完全無料で利用可能だ。夜間に試したところ、待ちが400人以上になっており、やはり数十分待ってゲームが起動した。「GeForce NOW」の設定でアカウント接続していないElectronic ArtsのOriginアカウントを使うが、起動後にログインの手続きをする形で利用できた。

 ゲーム内のPingは2~3msと極めて優秀。ただし、これは「GeForce NOW」のサーバーと「エーペックスレジェンズ」のサーバーの間の数字なので、実際には「GeForce NOW」とユーザー間のクラウドゲーミングの通信速度も加わる。

 実際にプレイしてみると、フレームレートは十分高い。画質はかなり高めに設定できたが、解像度はフルHDまで。筆者は4K解像度のディスプレイを使っているので、やや映像がボケた印象になる。気になる反応速度も、FPSをたまにプレイする程度の筆者には違いが感じられない。普通に遊べる、という感覚だ。

「エーペックスレジェンズ」をプレイ。ゲームサーバーと「GeForce NOW」のサーバー間のPingは2~3ms
プレイに何ら違和感はない
画質設定も触れる。割り当てられたビデオメモリは8GB未満らしい

 無料のフリープランでは、ゲーム前の行列待ちが発生しがちだが、動いてしまえば遅延も感じず遊べるというのは好印象だ。「GeForce NOW」がどの程度のパフォーマンスなのか気になる人は、ぜひ一度試してみていただきたい。

月額1,980円のクラウドゲーミングはすでに現実的なサービス

 その他のクラウドゲーミングサービスに目を向けると、ビジネスモデルに違いがあるのがわかる。マイクロソフトの「Xbox Cloud Gaming(ベータ版)」や、ソニー・インタラクティブエンタテインメントの「PlayStation Plus プレミアム」は、サブスクリプション制の利用料金の中にサーバー利用料とゲームの利用料が含まれている。

マイクロソフトの「Xbox Cloud Gaming(ベータ版)」
ソニー・インタラクティブエンタテインメントの「PlayStation Plus プレミアム」

 また任天堂は、Nintendo Switch向けの一部のゲームで「クラウドバージョン」を展開している。こちらは形式上はゲーム単体のオンライン販売で、当該ゲームのプレイ時にはクラウドゲーミングの形を取る。クラウドゲーミングでありながらサブスクリプション制ではなく、買い切り型で提供するのがユニークだ。

Nintendo Switch向けの一部ゲームで展開中の「クラウドバージョン」

 これらはいずれも自社が手掛ける家庭用ゲーム機に向けたサービスとして展開しているので、このようなビジネスモデルをとれる。

 「GeForce NOW」を提供するNVIDIAは、PCゲームに欠かせないGPUの技術は誰よりも持っているが、ゲーム自体の権利は何ら持っていない。NVIDIA自身がゲーム会社にかけあって利用権を獲得することはせず、あくまでPCゲームを動かす場だけを提供することを選んだわけだ。

 「月額料金を支払えば、一部のPCゲームを遊べる環境を提供します。ただしゲームは別料金です」というのが「GeForce NOW」のビジネスモデルということになる。「利用料金を払っただけではゲームが遊べない」というのはゲーマーからすると異質で、受け入れがたく感じる人も多いだろう。

 しかし冷静に考えてみると、月額1,980円で高性能なゲーミングPCを利用できるというのは、金額的にはかなりお得だ。最新ゲームをプレイ可能なゲーミングPCを1台買えば10万円を軽く超えるし、2~3年もすれば性能は陳腐化する。「GeForce NOW」なら最新ゲームに合わせてサーバーのパフォーマンスを上げてくれるだろうと期待できるし、大枚をはたいて買ったゲーミングPCが故障するような心配もない。

 ゲームの利用権が付いてこないというのも、考えようによっては悪くない。仮に「GeForce NOW」のサービスが終了したとしても、ユーザーの手元には各配信スタンドで購入したゲームがそのまま残る。あるいは自前でゲーミングPCを購入して、ゲームの続きを遊ぶことも可能。新しいゲーミングPCを買うまでの繋ぎとしても使える。

 クラウドゲーミングと一言で言っても、ビジネスモデルは多様だ。クラウドゲーミング自体、メリット・デメリットがあるものなので、全てがクラウドゲーミングに変わるとは思わない。各社のサービスを見ていても、適材適所で使われていくのだろうと思う。ただ、それは遠い未来の話ではなく、今、すでにとても便利な存在として「GeForce NOW」があるように思う。

著者プロフィール:石田賀津男(いしだ かつお)

1977年生まれ、滋賀県出身
ゲーム専門誌『GAME Watch』(インプレス)の記者を経てフリージャーナリスト。ゲーム等のエンターテイメントと、PC・スマホ・ネットワーク等のIT系にまたがる分野を中心に幅広く執筆中。1990年代からのオンラインゲーマー。窓の杜では連載『初月100円! オススメGame Pass作品』、『週末ゲーム』などを執筆。

・著者Webサイト:https://ougi.net/

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