石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』
iPhoneとAndroidで2冠達成のRPG「崩壊:スターレイル」PC版で遊んだら、想像を絶するインパクトがあった
2023年12月8日 11:00
PCゲームに関する話題を、窓の杜らしくソフトウェアと絡め、コラム形式でお届けする連載「石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』」。PCゲームファンはもちろん、普段ゲームを遊ばない方も歓迎の気楽な読み物です。
中国発のRPGが2大モバイルプラットフォームを制覇
先日発表された、Appleの「App Store Awards」と、Googleの「Google Play’s best apps and games of 2023」において、HoYoverseの「崩壊:スターレイル」が両方でベストゲーム賞を獲得した。日本国内の話ではなく、世界全体での賞である。
HoYoverseは中国・上海に本社を持つmiHoYoの海外向けブランドで、PCゲーマーには「原神」のメーカーとして知られている。いわゆる萌えキャラを使った作品で人気を集め、既に日本でも知名度は高い。
しかし世界規模で、iOSとAndroidという2大モバイルプラットフォームの双方でベストゲームに選ばれるのは尋常ではない。しかも「崩壊:スターレイル」はコマンドバトル式のRPGだと言うからさらに驚く。海外ではマニア向けのジャンルのはずで、さらにマニア度を高める萌えキャラを乗せてなお大賞を受賞するのは、まったくもって異常事態と言うほかない。
筆者は本作を未プレイだが、こうなったら放ってはおけない。早速プレイしてみよう。
美麗な映像と豪華声優陣のファーストインパクト
モバイル向けで賞を取った作品ということで、PCでプレイするならAndroidエミュレータが要るかと思ったのだが、公式サイトを見るとPC版も用意されていた。素直にPC版をプレイしていく。
本作は宇宙を舞台にしたSF作品。宇宙ステーションが反物質レギオンに襲撃され、謎の女性達が戦いを始める。その後、星核を体内に持つ主人公が目覚めさせられ、宇宙ステーションの救助に来た星穹列車の乗員らとともに襲撃者を撃退していく。
……と書いても内容はさっぱりわからないと思うが、実際にプレイしても置いてけぼりにされる。最初に大量の謎を出しておいてから、少しずつ世界を理解させていくという物語の展開なので、とりあえず話に従って進めていけばいい。いずれ星穹列車で宇宙を旅するなどの展開へ進んでいくうちに、世界観が何となくわかってくる。
本作はまず映像が目を引く。女性多めの可愛らしいキャラクター達が、美しいセルシェーディングで描かれている。ゲーム中のシーンは移動やバトル、ストーリー描写なども含めて全て3Dで描かれているのだが、キャラクターの表情や描き込みの細かい服装も違和感なくアニメ調の描写がなされている。これを見るだけでも本作を遊ぶ価値がある。
日本語のテキストがおかしいと感じる部分もほとんどなく、セリフもキャラクターの個性を引き出せる言い回しになっている。さらに日本語ボイスは豪華な声優陣を起用し、ストーリーが進む場面はフルボイスで展開される。そのストーリーがやたらと大ボリュームで、いつまでもセリフを聞かされているような気がする。
高い戦略性を持つコマンドバトルのセカンドインパクト
本作の注目点であるコマンドバトルは、シンプルに見えて奥が深い。攻撃は通常攻撃とスキル、必殺技の3つが使える。通常攻撃を行うとSPが貯まり、SPを消費してスキルを使用する。また戦闘を続けるとEPが貯まり、満タンになると必殺技が使える。
バトルではキャラクターのステータスに応じて行動順が決められ、ターンが来ると行動が選べる。通常攻撃とスキルはターンごとに1つ選べるが、必殺技はEPが満タンであれば、誰のターンであろうと関係なく、好きなタイミングで発動できる。
SPはパーティで共有されるので、誰かが通常攻撃した後は別のキャラクターがスキルを使える形になる。スキルと必殺技はキャラクターごとに異なるので、いつ誰がどの順番でスキルや必殺技を使うかがかなり重要になる。
もう1つ重要なのが敵の弱点。敵にはHPのほかに靭性があり、弱点属性で攻撃することで靭性を削れる。靭性が0になれば、追加ダメージを与えたり弱体化させたりできる。キャラクターの攻撃にはそれぞれ属性が設定されているので、弱点属性に合う敵を攻撃するとより効果的に戦える。
靭性を削りきった時には、敵の強力なチャージ攻撃を止める効果もある。敵のチャージ攻撃に合わせて靭性を削りきれるよう、スキルや必殺技を残して一気に大ダメージを与えるという作戦も考えられる。
本作にはキャラクターごとに多数のスキルが設定されているわけではなく、できることは少なく見える。しかしどの攻撃をいつ使うかというタイミングによって効果が劇的に変わるので、見た目よりはるかに頭を使う。レベルを上げたり装備を整えたりするのも重要だが、敵の弱点に合った属性を持つキャラクターを使うと有利になるなど、戦略性もかなり高い。
圧倒的物量が無料で遊べるサードインパクト
黙々とプレイしてストーリーを進めていくうち、どうにも1つ気になることが出てきた。本作はモバイルゲームを前提とした基本プレイ無料の作品なので、いずれどこかで体力ポイント的なものを消費して、プレイが中断すると思っていた。
しかしいつまで経ってもそういう要素は出てこないし、数時間遊び続けても何らペナルティめいたものは見えない。どうやら延々と遊び続けられるようだ。
そうなるとコンテンツ不足が心配になるが、本作には相当に重厚なメインストーリーに加えて、NPCの依頼を受けて進めるサブクエストがある。また毎日更新されるデイリークエストのようなものもあるようで、やることがなくなるという心配は当面はなさそうだ。
システムも親切で、クエストのNPCの近くへワープさせてくれる機能がある。見たこともない広い宇宙ステーションで、NPC達から様々なクエストを依頼されるが、どこに行けばいいのかと悩むことはない。
オンライン要素としてはフレンド登録があり、フレンドのキャラクターを一時的にレンタルできる要素がある。しかし攻略に必須というわけではない。ほかに対戦や協力といった要素もなく、オンライン要素はかなり薄い。
つまるところ、ただシングルプレイのRPGを遊んでいるだけという感覚だ。それが無料で、なおかつ全体のクオリティも高い。長年、様々なゲームをプレイしてきた筆者から見ても、「何でこれが無料なの?」と首をかしげてしまう。
では課金要素はどこにあるのかというと、1つは定番のガチャ。装備品にあたる光円錐というアイテムや、新たなキャラクターを入手できる。どちらもゲームプレイの中で手に入るものもあるが、ここだけで手に入る強力な光円錐や新しいキャラクターも入っているのだろう。そのほかキャラクターの育成に使う素材が継続的に入手できる有料パスもある。
いずれもゲームプレイに必須とまでは言えないが、お金をかければ成長が早くなるのは確か。また新たなキャラクターは能力に加えて見た目も気になる存在で、思わず欲しくなるという人も多そうだ。入手前のお試し操作もさせてくれたりして、なかなかに押しが強い。
モバイル2冠達成も納得の素晴らしい作り込み
本作をプレイする前は、モバイルで人気の作品と言うので、きっとソーシャルゲームベースでガチャを回させるゲームの延長線上だろうと想像していたのだが、実際には全く違った。
基本はスタンドアローンのRPGで、ビジュアルやシナリオ、バトルシステム、音声、BGMに至るまで、実に丁寧に作られている。キャラクターも個性的で、確かに可愛らしい女性キャラクターが多めではあるが、ただ萌えキャラを集めましたという雑な感じはない。
ここまで見てきたスクリーンショットで、アニメ調のビジュアルやキャラクターに嫌悪感がないのであれば、RPGとして純粋に楽しめる作品だと思う。コマンドバトルなどという、世界的には古代の遺物と言われそうなゲームシステムを採用しながら、2大モバイルプラットフォームでトップを取れたのは、徹底した作り込みによる重厚な内容が評価されたのだろう。
厳しく見ていくと、シナリオから発せられる強烈な中二病感や、やや甘めのカメラワークとキャラクターのモーション、表情など、表現の部分では古さや稚拙さを感じるところもある。そこはまだ日本のゲームデベロッパーに一日の長があるとは思うのだが、ここまで圧倒的な作り込みを見せられてしまうと、素晴らしいと褒めるしかない。
プレイヤーとしては好みのキャラクターを徹底的に育成するのも楽しそうだし、状況に合わせた戦略を練るのも面白い。ストーリー展開も世界観がわかってくると面白味が出てくる。新しいキャラクターが出てくると、細かいデザインを隅々まで見たくなる映像美も素晴らしく、女性キャラクターの前で視点を煽り気味にしてしまうのも仕方ない(やり過ぎると透過する)。面白さのポイントがちゃんといくつもある。
しかし、これを無料で出されたら、これからのゲームビジネスはどうなっていくのだろうかと心配になる。特にJRPGの開発者には相当ショックが大きいのではないかと思う。筆者としては、本作に触れる機会が得られて良かったと思うが、本作が中国発であるということに、納得や無念など複雑な気持ちを抱かされる。
なお、今回本作をプレイするにあたり、GeForce RTX 4060を搭載したマウスコンピューター製ノートPC「G-Tune E4」を使用した。本作の画質設定で「最高」を選び、解像度をフルHD、フレームレートを最大の「60」にしたところ、とても滑らかな映像でプレイできた。推奨環境のビデオカードはGeForce GTX 1060以上とされており、最近のゲーミングPCなら快適に動作しそうだ。要求スペックの低さもまた本作の凄さを感じさせる。
著者プロフィール:石田賀津男(いしだ かつお)
1977年生まれ、滋賀県出身
ゲーム専門誌『GAME Watch』(インプレス)の記者を経てフリージャーナリスト。ゲーム等のエンターテイメントと、PC・スマホ・ネットワーク等のIT系にまたがる分野を中心に幅広く執筆中。1990年代からのオンラインゲーマー。窓の杜では連載『初月100円! オススメGame Pass作品』、『週末ゲーム』などを執筆。
・著者Webサイト:https://ougi.net/