やじうまの杜

ネットミーム化し話題沸騰の「8番出口」。ヒットの理由について考えながら自分でも実況プレイしてみたら、そのワケがわかった

偽アプリにはくれぐれも注意。リアルな日本の地下通路を舞台にした脱出ゲーム

 “やじうまの杜”では、ニュース・レビューにこだわらない幅広い話題をお伝えします。
Steamで配信中の「8番出口」

 「8番出口」というゲームがネット上で大流行しています。口コミで大きな話題になっているのはもちろん、YouTubeやTwitchなどの動画配信プラットフォームではこのゲームの実況動画で溢れ、Xには多くのファンアートが投稿されています。

 これらのXの投稿やYouTubeの実況動画などを見ていると、ゲームファンだけでなく、もっと広い層に届いている印象で、「8番出口」という言葉自体がひとつのネットミームになっているように感じます。

 「8番出口」を元にしたファンアートがXに投稿され、そのアートが拡散、それを見て元ネタにたどり着いた人がゲームを遊んだり、あるいは実況動画を見る。そういった流れが続いている模様です。

YouTubeには「8番出口」の実況動画が数多くアップロードされています。中には視聴回数が400万回を超えた動画も



 それでは、本作はどのようなゲームなのでしょうか。本作のシステムを一言で表現すると「一人称の間違い探しゲーム」です。

 「8番出口」を始めると、日本でよく見る地下通路のような場所からスタートします。通路は蛍光灯で照らされており、左側には何枚かのポスターが、右側にはいくつかのドアが並んでいる空間。そして前方からはスマートフォンを持ったサラリーマン風の男性が歩いてきます。これ自体は全く違和感がない、私たちが普段の生活でよく見る地下鉄の通路の姿です。

8番出口 公式映像

 現実の地下通路と違うのは、そのままでは外に出られないということです。“進んでも戻っても同じところに何度も帰ってくる”というループを繰り返します。ここから脱出するためには、この地下通路に起きる異変を見つける必要があるのです。

 具体的には、プレイヤーはこの通路を何周も何周もループしながら、異変を探していきます。そして何らかの異変があると思ったら引き返し、異変がないと思ったらそのまま進みます。

 異変の種類はさまざまです。そこになかったはずの物が突然現われるような見た瞬間に気づく異変から、注意深く見ないと気づかないようなとても小さな異変まであります。このループを繰り返し、8回連続で異変の有無を間違わずに進めると、ついに8番出口から脱出できるというわけです。

異変を見つけて8番出口から脱出できればクリアです

 私もプレイしてみたのですが、ループする度に「異変を見逃さないぞ!」という気持ちで挑むのですが、異変を見逃してしまうこともしばしば。それだけ気を張って注視しているときに限って、大きな異変を見つけて声が出てしまったこともあります。

 直接的な恐怖表現や、大きく驚かすような演出はないため、「ホラーゲーム」ではないと思うのですが、精神力がジリジリと削られていくという点ではホラーに似た部分があるように感じました。

 ゲームボリュームはそれほど大きくはなく、私がクリアまでにかかった時間は約2時間程度。ルールを勘違いしていて彷徨ってしまった時間があったので、その部分を抜くともう少し早くクリアできたかもしれません。私がルールに関して勘違いしてしまった点については、不親切だからネガティブというわけではなく、本作の世界観を守るために最低限の説明に留めているという理由のためだと思います。

本作の目的やルールが簡単に説明されています

 この「8番出口」が、ここまで大きな話題作となった理由はいくつかあると思います。

 そのひとつが本作の舞台です。「『8番出口』は日本の地下通路や、リミナルスペース、バックルームなどにインスパイアされた短編ウォーキングシミュレーターです。」とストアページに記載があります。

 「リミナルスペース(Liminal Space)」や「バックルーム(The Backrooms)」とは、海外を中心に流行しているインターネットミームです。「Liminal Space」は、直接的な恐怖表現がないのに怖かったり独特な不気味さを感じさせる空間。そして「The Backrooms」は「Liminal Space」に基づく空想から派生した異常な空間を指します。

 たしかに、地下通路もそういったものを感じさせる部分がありますよね。どことなく無機質で「迷い込んだら外に出られないんじゃないか、一生同じところをぐるぐると回らせられるんじゃないか」、そう感じさせる空間だと思います。そこに私たちを惹きつける何かがあるのだと思いました。

独特な不気味さを感じさせる地下通路。一見、何も変化がないような空間ですが、そこに異変が隠れています

 そして、もうひとつがゲーム実況動画・実況配信での盛り上がりです。冒頭にも記載させていただいた通り、本作のゲーム実況は非常に多くの再生数を集めています。

 ゲーム実況というのは、ゲームプレイを見ることに加えて、プレイしている実況者のリアクションを通じて、実況者の感情を共有することが魅力的なコンテンツです。さらにリアルタイムの配信の場合は、視聴者のコメントを見ながら、そのコメントに配信者が反応するというインタラクティブ性も楽しめます。

 この「リアクションを通じて感情を共有する」、そして「コメントを通じて配信者とインタラクティブ性を楽しむ」という、2つの要素との相性がとてもよいのが「8番出口」というゲームの特徴なのです。

 実際にYouTubeで「8番出口」と検索すると、非常に多くの実況動画がアップされているのでぜひ見ていただければと思うのですが、実況者のリアクションがとても面白い動画が多いです。

驚きの異変で思わず声をあげるリアクションをとってしまう人も

 なぜこんなに多彩なリアクションができるのか。実際に筆者も本作を実況しながらプレイしてみたのですが、その理由がすぐにわかりました。

 例えば「こんなの余裕で異変を見つけられますよー」と実況を始めたとしますよね。大見得を切ってゲームを始めたのに、異変が見つけられないときは焦ってそういうリアクションを自然にとってしまいます。そういうときに限ってゲームを見ている視聴者からは「今回の異変はわかった」というコメントが投稿されたりします。

 異変が見つけられていない実況者としては、自然とうろたえてしまいますよね。一方で「実はそのコメントはブラフなのではないか。何の異変にも気づいていないが、とりあえず言っているだけではないか」とも思ってしまうのです。そうすると「自分を信じて異変はないと判断します」や「コメントを信じて異変が見つかるまでここから動きません!」といったリアクションの選択肢が生まれるんですよね。

 このように反応の選択肢が多くあり、自然にリアクションがとれる点で、本作が実況配信に向いているのだと感じました。また、視聴者としても実況者のわかりやすいリアクションが見れるし、コメントをしやすいというメリットもあると思いました。

 ほかにも、「Unreal Engine 5」を使ったリアルなビジュアル表現や、470円という手頃な価格、操作難度の低さなどなど、本作のヒットに繋がるさまざまな要因が重なって、ここまでの話題作になったのだと思います。

 というわけで、クリスマス、年末年始のゲームとしても、ぜひ読者の方にもプレイしていただきたいのですが、最後に1点だけ注意して欲しい点があります。

 執筆(12月13日)時点では、「8番出口」はPC(Steam)でしかプレイできません。作者のコタケノトケケ氏が注意喚起している通り、特にAppStoreでは、すでに偽アプリが確認されているので、くれぐれも気をつけてくださいね。