やじうまの杜

TLでよく見かける「都市伝説解体センター」はおもしろい? クリアしたプレイヤーが口々に言うから特定してみる

TGSの試遊で感じた残念感との違いは何なのか

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集英社ゲームズより発売された「都市伝説解体センター」

 2月下旬、X(旧Twitter)のトレンドに急に上がってきた「都市伝説解体センター」というワードをご存知でしょうか。

 「都市伝説解体センター」とは、墓場文庫が開発し、集英社ゲームズが販売するミステリーアドベンチャーゲームで、PC(Steam)のほか、PlayStation 5やNintendo Switchでプレイすることができます。

 発売されたのは2025年2月13日。そのときはそこまで大きな話題になっているということはなく、まだまだひっそりとなりを潜めているような印象でした。

 その後、本作をクリアした人たちが続々と「おもしろかった」というポストを投稿し、ついにはXのトレンドに上がってくるほど話題になっていきました。もしかしたらタイムライン(TL)で「都市伝説解体センター」という字面だけは見たことがあるという方もいらっしゃるかもしれません。

『都市伝説解体センター』ローンチトレーラー

 そんな「都市伝説解体センター」は、発売から2週間もたたない2月26日に、インディーズゲームでありながら販売本数が10万本を突破しました。

 実はこの記事を書いている私は、「東京ゲームショウ2024(TGS2024)」での試遊で本作を初めてプレイし、この作品のおもしろさに気がつけなかった人間で、トレンドに上がるまで存在をすっかり忘れていました。

 トレンドワードとして話題となり、投稿されたポストで「おもしろかった」というコメントを見て、TGSの場で気がつけなかった本作の面白さを確かめてみたい気持ちが膨れ上がり、改めてプレイしてみました。

 今回、TGSでは気がつけなかった本作のおもしろさとは何か、そして発売直後ではなく、なぜクリア後にプレイヤーのみんなが口々におもしろいと投稿したのか、そこを追求してみたいと思います。

「都市伝説解体センター」とは?

 本作は、世界に広がる都市伝説をテーマにしたミステリーアドベンチャーゲームです。サイケデリックなピクセルアートで表現されており、独特な世界観が特徴的となっています。

 プレイヤーは「都市伝説解体センター」の新人アルバイトである主人公・福来あざみ(ふくらいあざみ)となり、怪異や呪物、異界などにまつわる依頼について、現地調査や聞き込み、SNSの書き込みを分析するなどして、依頼者たちの過去や隠された事実を紐解きながら事件の核心に迫っていきます。

主人公の福来あざみ

 本作の醍醐味は、センター長であり国内屈指の能力者である廻屋渉(めぐりやあゆむ)とともに、都市伝説の真相を探っていくことにあります。

都市伝説解体センターのセンター長 廻屋渉

 各エピソードは連続ドラマ形式で描かれ、それぞれ1つの都市伝説をテーマに事件が発生します。その事件の元となった都市伝説を特定し、都市伝説を事件の証拠をもとに分解して解体することで、事件を根本から解決していきます。

 登場するキャラクターは特殊な能力を持っており、主人公のあざみはその場所に残った人の印象的な痕跡を読み取る「念視」を、センター長の廻屋はすべてのものを見通す「千里眼」を使える能力者です。

 都市伝説ならではの不気味さと怖さ、そして生きている人間の気味悪さも感じつつ、さらにこの「超能力」という現実離れした能力の存在が、本作の味わいを深いものにしていると感じられます。

あざみの能力はその場に残った人の痕跡を見ることができる「念視」
廻屋はすべてを見通す「千里眼」の能力者。あざみの調査を手助けしてくれます

TGSでの試遊で印象に残った“残念感”。本当におもしろい?

 私が本作を初めてプレイしたのは、昨年行われた「東京ゲームショウ2024」の集英社ゲームズブースでした。ブースデザイン自体もかなり力が入っていて、興味を掻き立てられるプロモーションムービーも流れており、一目見て「これは絶対おもしろいんだろうなぁ」と直感しました。個人的に印象に残っているブースのひとつです。

 「都市伝説解体センター」の試遊は、TGS開催中ずっと人気でかなりの列ができており、ノベルティが無くなっても試遊したいという来場者がたくさんいました。試遊のほかにも、ブース内では謎解きイベントも同時に開催されており、そちらもかなり盛況だったと覚えています。

TGS2024で出展されていた集英社ゲームズのブース。大賑わいでした

 かく言う私は、試遊してみて面白かったら記事にしたいと編集部にかけ合おうかなとの思いもあり、別件の合間を縫って試遊に行きました。

 試遊は20分程度だったのですが、そこでプレイして正直に感じたのが「この作品は本当におもしろいのだろうか?」という疑問でした。

 試遊では物語の序盤、主人公と都市伝説解体センターとの出会い、そして事件に向かうまでの間のSNS捜査辺りが終了したところまで体験することができました。ここまでのプレイでは怖くもないし、ハラハラもしないし、ただ「淡々と進んでいるなぁ」という感じで、本作の良さというか醍醐味というものが感じられませんでした。

 どちらかというとゲームシステムと世界観を知るための試遊という印象が強かったです。個人的にはゲームシステムよりも「もっともっと世界観を味わいたかったなぁ」というのが、このときの感想であり、よくわからないまま終わったという不完全燃焼に近い残念感が強かったです。

TGSでの体験はちょっと不完全燃焼でした

 そう、この試遊の序盤20分では、本作の本領がほとんど発揮されていなかったといってよいです。怖いかもしれないけど「おもしろい!」と断言できるほどの魅力は感じられないし、ミステリーとしても物足りない感じが否めないのが、このTGSでの試遊だったと思います。

最後までプレイしてほしい! 本作のおもしろさは物語を進めるほど加速する

 先述の通り、本作はいくつかのエピソードに分かれており、その各エピソードでは1つの都市伝説をテーマにした事件が発生します。その事件を都市伝説に照らし合わせながら推理して事件解決へと導いていきます。

 物語を進めていくと、その複数のエピソードを通して繋がっていく謎も登場していきます。複雑に絡み合った謎と都市伝説がプレイヤーの感覚を刺激していく物語が構成されている作品です。

 改めて本編をプレイしてまるっと見返してみると、そこにあるのは「都市伝説解体センター」という小説や漫画の本が数冊ドンッと置かれているような感覚が一番近いかなと感じました。さまざまな小説や海外のドラマ、アニメなどから影響を受けている本作はしっかりとしたミステリー作品に仕上がっていました。

 いわば私が「おもしろいのか?」と疑問を投げかけたことは、小説でいう序章だけを読んで「つまらない」と言っているようなものだったということです。

物語は進むにつれて謎も深まりおもしろさを増していく

 小説や漫画でも、序盤はちょっと物語の世界観についていくのに必死で、おもしろさに気が付けないこともありますよね。

 あらすじを見て「おもしろそうだ」と思って手にとって読み始めると、世界観や登場人物たちの把握に脳のリソースを割かれて「思っていたのと違うな」と感じて読むのをやめてしまうことがあります。ですが、それでも読み進めていくと、だんだんその世界に引き込まれ、一気に読破してしまうということもしばしばあります。本作もそういった作品だと感じました。

 本作は序盤では語られなかったことが、各エピソードの初めや終わりにぽろぽろと語られていきます。例えば、主人公のあざみを現場まで連れて行き、調査のフォローをしてくれるジャスミンにも裏があります。彼女がどうして「都市伝説解体センター」で働いているのか、どこの組織と繋がっているのかといったところも気になり、プレイし続けたくなります。

本作であざみのフォローをしてくれるジャスミンにも裏があります

 また、本作では各エピソードとはほかに「イルミナカード」という謎の予言カードが登場します。各エピソードの主要人物がいつの間にかカードを持っており、そのカードは事件の都市伝説を指し示すようなカードとなっています。また、主人公のあざみもいつの間にか「崩壊と審判」というカードを所持しており、このカードが予言する結末にもとても興味をそそられました。「これはみんな一気にプレイちゃうよね」「おもしろかったってポストするよね」とプレイしながら納得していく感じがありました。

 正直、本作の謎解きはそこまで難しくはないですし、難しいアクションを求められることもありません。ただ、物語の緩急がプレイヤーの心をガッツリと掴み、怖いところはしっかり怖く、お約束なコミカルな演出もあり、純粋におもしろい王道のSFミステリーを楽しめる作品です。

謎解きは簡単なものが多く調査したことから事実をピックアップしていきます

 本作は、ミステリーとしての面白さと都市伝説という不確かなものの怖さがプレイヤーをぐっと引きつけて、そこに一本違う謎を通すことで、より続きが気になるようになっており、どんどんプレイしたくなる物語構成となっていました。

 また、個人的に都市伝説に関する怖い演出が癖になると感じました。BGMや効果音なども相まってかなりドキドキ・ハラハラ感を味わえ、本当に都市伝説が原因なのか、それとも人間が関わっているのかがわからない、その曖昧さがより探求心をくすぐり、プレイヤーを釘付けにしているように感じました。

怖い演出はしっかりとした怖さがあります

 個人的にはTGSの試遊でもっともっとおもしろさを実感できるとよかったと思います。そのときは正直、私は期待外れだと感じたので、同じように思った人もいると思います。

 気になる点を挙げるならば、本編のストーリーはとてもおもしろいのですが、少し調査が単調なこともあり、退屈に感じたり、間延びしているように感じることもあるのが残念かなと感じました。

 物語が終わりに近づくにつれて少し展開に引っかかるところもあり、そこに歪さを感じました。そもそも都市伝説という不確かな題材がテーマの本作なので、その歪さも本作の魅力といえば魅力でもあるのでしょうが、ちょっと強引かなともとれるのがもったいない気もします。ホラーというほど怖くもないので、ミステリー作品としてプレイする分にはおもしろいと思いました。

 ただ、都市伝説といった不確かなものよりも現実に寄っており、不気味さやぞわぞわする感じを期待するとちょっと期待はずれになるかもしれません。言い方はあれですが、都市伝説の怖いもの見たさというよりは、人間の怖さやくだらなさ、悲しみといったところをさらっと垣間見えるのが本作だと思います。

 とはいえ、オムニバス小説のような物語のおもしろさがあるので、発売からじわじわと話題にのぼり、10日程度で一気にプレイし終えたプレイヤーたちが同時期に挙っておもしろかったとポストした理由も、改めてプレイしたいまなら納得ができます。本作でしか味わえない不思議な体験をしてみたい方は遊んでみてもよいかもしれません。

 ちなみに、もし私と同じように不完全燃焼感を味わった人がいたら、ぜひ本作を最後までプレイしてみてほしいです。TGSでの試遊で見切りを付けてしまったのが私の最大のミス。本作の魅力にもっと早く気づけていたならと思うと後悔が残りました。

 なお、Steamで配信されている体験版では、序盤から1話のエピソードの途中までプレイ可能です。むしろそこまでプレイすると、せめて1話のエンディングは見たいと思うほどよいところで終わります。空気感をまず楽しみたい方は体験版からでもよいのでプレイしてみるとおもしろいと思います。あのとき感じた物足りない感じは間違いなく解消されると思いますよ。