石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』
ローグライトとは何か? ローグライクから何がライトになったのか?
「Rogue」から生まれたローグライクから派生したのがローグライトだが……
2025年2月27日 16:20
人気のローグライトって何なんだ
先週はコーエーテクモゲームスから発売された「無双アビス」を紹介した。発表してすぐ発売という、ゲーム業界では異例の売り出し方だったのが印象的だ。
「無双アビス」でもう1つ気になるのが、ローグライト無双アクションと標榜するゲームジャンルだ。ローグライトと言われてどんな内容かわかる方はいらっしゃるだろうか?
ローグライトというジャンルの作品は、最近はとても人気が高いと感じている。しかしローグライトとは何かと聞かれたら、実は筆者もよくわからないというか、ジャンルと呼ぶほどまとまった定義があるのかという疑問がある。今回は筆者なりに、ローグライトとは何かという話をしていきたい。
「Rogue」からローグライクが生まれてローグライトになった
ローグライトとは何か。まず語源から説明すると、最初に「Rogue(ローグ)」という作品があり、これに似たゲームをローグライクと呼ぶ。そしてローグライクを遊びやすくした、つまりライトにしたことから、ローグライトという名前が付いた。
つまりローグライトとは、ローグライクを簡単にしたものだ。ということは、まずは「Rogue」というゲームを知る必要がある。
「Rogue」は1980年代初期に登場したPCゲーム。ランダムに生成されるダンジョンを攻略していくという内容で、最奥にあるアイテムを持ち帰るのが目的となる。
ローグライクが好きという方でも、元祖「Rogue」を遊んだことがあるという方は少ないだろう。筆者は移植版の「Rogueクローン」と呼ばれるものならプレイしたことはある。PC Watchでも1999年に紹介記事を掲載していた。こちらは今でもダウンロード可能で、Windows 11でも動作を確認した。
ゲーム画面を見ていただければわかるとおり、本作はゲームの映像が全てテキストで描かれている。1980年代のUNIXで動かすため、リッチなグラフィックス処理を必要としない形で作られた、アイデアが光る作品だ。
本作のゲームとしての特徴は、毎回ランダムに生成されるダンジョン、自分が動くと敵も動くターン制アクション、死んだら終わりで引き継ぎ要素もないキャラクターなどがある。プレイ内容は毎回異なり、攻略には腕前とともに、うまくアイテムを入手しつつ厄介なモンスターと出会わない幸運が必要になる。
日本においてこの手のゲームが広く知られたのは、1993年にチュンソフトが発売したスーパーファミコン用ゲーム「トルネコの大冒険 不思議のダンジョン」だろう。「Rogue」の基本的なシステムを踏襲しつつ、グラフィックスをリッチに仕上げて遊びやすくしている。
このように「Rogue」に似た内容の作品を、ローグライクと呼んでジャンル分けするようになった。ローグライクと言えば、自動生成されるフィールドに、ターン制アクション、死んだら終わりで毎回キャラクターは最初からやり直し、といった要素が含まれている。
ローグライトの定義とは結局何なんだ?
そして今回の主題であるローグライトとは何か。ローグライクで最も厳しい要素は、死んだら終わりで1からスタートという点だ。どんなにゲームをやり込んでも、腕前が上がらない限りは攻略できない。だからこそローグライクは面白いとも言えるのだが、あまりにも難しくて楽しめないという方も多いと思う。
そこで、ローグライクをベースにしつつも、繰り返しプレイすることで何かしらの成長要素を得られて、攻略が楽になっていくというシステムを採用した作品が登場した。ローグライクの一番厳しいところをライトに変えたもの、つまりローグライトである。
である……と断言してしまったが、これはあくまで筆者個人の認識である。というのも、ローグライトを名乗る作品は数多くあるのだが、ローグの要素がどこにあるのかと思うような作品がとても多い。実際、ローグライトとは何か、さらに戻ってローグライクとは何かという論争は世界中でなされているようだ。
ローグライトおよびローグライクの定義については、PCゲーム最大の配信プラットフォームであるSteamが、解説ページを用意している。
これによると、ローグライクは2008年に「ベルリン解釈」と呼ばれる定義があるという。ランダムマップ生成やパーマデス(死んだら終わり)、ターン制コンバットなどが提示されており、これは筆者の認識とほぼ同じだ。
ではローグライトはどうかというと、『ローグライクの要素を緩く取り込み、死亡もそれほど永続的(パーマデス)ではないのがローグライトです』と説明されている。これも筆者の認識とは違わないのだが、“緩く取り込み”というところが非常にあいまいな定義であることを物語っている。
先述の「トルネコの大冒険」にしても、アイテムを持ち帰る要素があるので、ローグライクではなくローグライトではないか、と言えなくもない。ただ、死んだらすべての手持ちアイテムを失うのでローグライクと呼ぶべき、とも言える。
Steamの解説を見ると、『その後も熱い議論が続いています』とか『ネット上にはいろんな意見の人がいます』といった補足があり、いかに定義論で揉めているかが伺い知れる。まったく定義論というのは厄介である。
ローグライトというのは非常にあいまいな定義であり、ゲームジャンルとして呼ぶにはふさわしくないとすら思う。特にゲームの記事を書く筆者としては、『これはローグライトです』と書くのは、読者の皆様の誤解を招きかねず、不安になる。
結局、ローグライトとは何なのか。今あるローグライトと呼ばれるゲームから筆者なりに定義すると、ランダムマップ生成で、繰り返しプレイが前提のゲーム内容で、キャラクターに一部の成長要素があること。これくらいじゃないかと思う。『それでローグライクの要素があると言えるのか?』とは思うが、実際はこれにすら収まらなさそうなローグライト標榜作品もある。
先のSteamの解説の文面には、『定義をすればするほど分断と争いを生むからやめろ』という意思がにじみ出ているので、筆者もそれにならいたい。ジャンルの定義なんてどうでもいい。大事なことは、あなたの前にあるそのゲームが面白いかどうかだけなのだ。
1977年生まれ、滋賀県出身
ゲーム専門誌『GAME Watch』(インプレス)の記者を経てフリージャーナリスト。ゲーム等のエンターテイメントと、PC・スマホ・ネットワーク等のIT系にまたがる分野を中心に幅広く執筆中。1990年代からのオンラインゲーマー。窓の杜では連載『初月100円! オススメGame Pass作品』、『週末ゲーム』などを執筆。
・著者Webサイト:https://ougi.net/
PCゲームに関する話題を、窓の杜らしくソフトウェアと絡め、コラム形式でお届けする連載「石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』」。PCゲームファンはもちろん、普段ゲームを遊ばない方も歓迎の気楽な読み物です。