石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』

もしかして名作? 現代の大人が遊んでわかる良さがある「リップルアイランド」

「SUNSOFT is Back!」3作品で唯一のファンタジー系アドベンチャーゲーム

「SUNSOFT is Back! レトロゲームセレクション」のタイトル画面

収録3作品の中で唯一のアドベンチャーゲーム

 「SUNSOFT is Back! レトロゲームセレクション」がSteamとNintendo Switchで発売された。価格は1,980円。

 先々週は「マドゥーラの翼」、先週は「東海道五十三次」と、本作に収録された作品をプレイしてきた。今週は最後の1作品となる「リップルアイランド」をプレイしてみよう。

 「リップルアイランド」は1988年にファミコン向けに発売された作品で、今回収録された3作品の中では発売が最も遅い(他の2作品は1986年発売)。当初は1987年11月発売予定だったが、開発に時間をかけるため2カ月延期されている。

 また他の2作品がアクションゲームなのに対し、本作はアドベンチャーゲームで、ジャンルも違う。移植に際して追加された巻き戻し機能は、本作ではあまり使い道がない。セーブ機能については、本作にはもともとパスワードによる途中再開機能があるので必須ではないが、パスワードの入力が要らず、好きな場所でいつでもセーブできるのは便利ではある。

本作のギャラリーでは、当初の発売予定が実際の2カ月前になっているのが確認できる
カートリッジはこんな感じ。ゲーム内容が想像できない

ファンタジー世界を少年と少女が旅する

 本作はテキストと画像を使ったアドベンチャーゲーム。当時は「ポートピア連続殺人事件」を始め、画像の特定の場所を調べるなどの行動を指示し、テキストを読んでいくタイプの作品が、ファミコンでも1つのジャンルとして確立されつつある時期だ。

 ゲームの舞台はファンタジーの世界。リップルアイランドという平和な島に魔物が現れ、皇帝ゲロゲールが島の王女を連れ去ってしまう。王様はゲロゲールを退治したものに、大量の財宝と、王女との結婚を認めるというおふれを出す。少年のカイルは一攫千金を目指して、ゲロゲールを退治する旅に出る。その中で少女キャルと出会い、ともに旅をすることになる。

一攫千金を狙う主人公のカイル
ともに旅をすることになるキャル

 主人公の行動は、見る、取る、アイテムを使うなどの指示をアイコンで選んでいく。映像のどこを見るか、何を取るかは、ポインタを動かして選択する形。また移動は上下左右を選択でき、マップをメモしながら進めていくといい、と説明書に書いてある。

今回も説明書は重要。移動先はマッピングするとわかりやすいようだ

 それ以外に目立ったヒントはなく、画像の怪しい位置を調べるなどしながら進めていく。当時のアドベンチャーゲームと同じく、できることを総当たりでやっていくタイプのゲームである。遊び方としてはおなじみの形と言っていい。

指定したい場所をポインタで選ぶ

 それでも本作はとても魅力の多い作品だ。まず映像がアニメーションする場面が多い。時折映像に現れるキャルは、しばらくするとまばたきするし、喋る時にはセリフに合わせて口が動く。

 ドット絵のキャラクター自体も可愛い。ヒロインのキャルはもちろん、NPCとして登場する動物たちも個性的に描かれている。しかも体が動くようなアニメーションをするものもおり、ドット絵としての表現力はかなり高く、インタラクティブ作品として見ても楽しい。

キャルが喋ったりまばたきしたりするモーションがある。ドット絵なのにちゃんと可愛い
NPCの動物はほのぼのとしたデザイン。話もできる

 またグラフィカルなUIもポイントだ。文章はテキストながら、行動の指示はアイコン化されている。アイコンの意味が少々わかりにくいとは感じるものの、作品の持つやわらかい雰囲気を、「いどう」や「みる」といった無機質な活字の指示で壊さないように配慮したのだと思われる。

 音楽もいい。オープニングから音楽と映像を合わせた演出がとてもうまいし、作中の音楽もシーンによって切り替わる。効果音の出るタイミングが少ないアドベンチャーゲームだからということもあるが、ファミコン向けとしてはリッチな曲が多くて印象深い。

ファンタジーの世界観を活かすゲームデザインが秀逸

ゲーム的には当時人気の総当たり式アドベンチャーだが、文字を使わないUIは秀逸

 ゲームとしてはフラグを順に回収していくベタなアドベンチャーゲームであり、物語も大人になった今では幼稚に感じることは否めない。当時はアドベンチャーゲームの名作がいくつも出てきた頃で、本作はその流行に乗った作品であろうと思う。筆者が10歳の時に発売されたようだが、本作は名前すら耳にしなかったし、後にも本作が大ヒットしたとは聞いていない。

 だが大人になった今になってプレイしてみると、本作は価値ある作品だと感じる。同じジャンルの他の作品は推理物が中心だった中、ファンタジックな世界観を打ち出す意欲的な作品であることは評価すべきだ。文字情報を極力省いたUIも、世界観の邪魔をしないための配慮だとしたら、とても考えられた先進的なデザインだ。また映像と音楽の質の高さにも驚かされた。

オープニングデモの曲と見せ方がとてもうまい

 もし筆者が子供の頃に本作をプレイしていたら、映像や音楽を含めたインタラクティブ作品として、とても印象に残っていただろう。移植する3作品に選ばれたことからも、本作を遊んで好きになった方が多かったのだと思う。

 「SUNSOFT is Back!」の3作品を遊び終えての感想として、大人になってからプレイするなら「リップルアイランド」を一番にオススメしたい。レトロゲームの懐かしさだけではない、大人になった今だからわかる良さが本作にはある。セーブ機能が付いてパスワードのメモも不要なので、気軽に遊んでみて欲しい。

いつでも自由にセーブできる
元々あったパスワードも機能はしている
著者プロフィール:石田賀津男(いしだ かつお)

1977年生まれ、滋賀県出身

ゲーム専門誌『GAME Watch』(インプレス)の記者を経てフリージャーナリスト。ゲーム等のエンターテイメントと、PC・スマホ・ネットワーク等のIT系にまたがる分野を中心に幅広く執筆中。1990年代からのオンラインゲーマー。窓の杜では連載『初月100円! オススメGame Pass作品』、『週末ゲーム』などを執筆。

・著者Webサイト:https://ougi.net/

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 PCゲームに関する話題を、窓の杜らしくソフトウェアと絡め、コラム形式でお届けする連載「石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』」。PCゲームファンはもちろん、普段ゲームを遊ばない方も歓迎の気楽な読み物です。