石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』
あなたのキーボードは何キー同時押し? いろんなキーボードで試してみよう
USBの制約、Nキーロールオーバー、全キー同時押し……ゲーマーに必要な性能を考える
2024年5月17日 10:55
ゲーミングキーボード最大の価値は同時押しにある
ゲーミングデバイスで最も重視すべきものは何だろうか? マウスにこだわる方は多いし、モニターやヘッドセットも重要だ。筆者は先日、ゲームのためにデスクを買い替えたし、PCゲームに絡むデバイスは他にも数多くある。
その中でもキーボードは極めて重視されるデバイスだ。高価なゲーミングキーボードは数万円するし、キーの数や日本語・英語の配列の違い、キースイッチの違いによる荷重やタッチ、ストロークの違い、最近流行りのラピッドトリガーなど機能的な違い、さらには色味やデザインなどなど、さまざまな組み合わせで無数の製品が販売されている。
しかし「キーボードは何でもいい」という人も多いと思う。どんなに安価なキーボードでも、キーを押す、文字を入力することに不自由を感じることはほぼない。キーの並びもほぼ同じ。そこに何十倍もの金額を払う気はないと考えるのは当然だ。
そこで今回は、ゲーミングキーボードの機能の中で最も基本的かつ重要な、キーの同時押し上限数について解説する。キーの同時押し上限数とは、複数のキーを一緒に押した時に、PCが入力を認識する数の限界値のこと。
この内容を完全に理解するには、キーボードの仕組みの解説が必要なのだが、今回は難しい話は省き、ユーザーから見える範囲の話に絞ってわかりやすく解説していく。
同時押しを想定していなかったキーボードの歴史
キーボードは元々、タイプライターで文字を入力するためのものだった。キーを同時あるいは高速に続けて入力すると、文字を打つアームという部品が絡まって故障するため、同時押しは禁止行為だった。その後、キーボードがPCで使われるようになってからも、文字入力デバイスとしてはやはり同時入力の必要はない(高速入力では意味があるが、本題から逸れるので説明は省略)。
しかしゲームで利用するとなると話が変わる。例えばゲームのキャラクターを操作するには、斜めに移動する時に2つのキーを同時に押す。移動しながらジャンプや攻撃など別のアクションを組み合わせようと思うと、3つ4つと同時に押すキーが増えていく。押しっぱなしにするという操作も文字入力ではありえない。
例えば筆者は「ファイナルファンタジー XI」をプレイするのに、チャットのためにデバイスを持ち替えるのを避けるため、キーボードだけで全ての操作を行っていた。移動とコマンド選択、マクロ指示など、複数の操作を両手で行うため、同時押しするキーの数はかなり多かった。
キーボードは本来、複数キーを同時押しする状況を想定していない。しかしゲームは同時押しを前提にしている。このギャップがゲームで問題になり得る。
ポイントは「Nキーロールオーバー」と「USB接続」
では実際にキーボードを使ってキーの同時押しを試してみよう。同時押しテストには、DigiSapo氏によるWebブラウザ用アプリ「キーボードの同時押しチェック用Webアプリ」を用いる。Webブラウザからすぐテストできる利便性からこちらを紹介させていただいたが、他にも同種のソフトは多数あるので、自分で試したい場合はお好みのもので構わない。
今回筆者が用意したキーボードは下記のとおり。順にテストしていく。
・オウルテック「OWL-KB109STD」(USB、有線)
・ロジクール「MX MECHANICAL MINI」(USB、無線)
・東プレ「RealForce GX1」(USB、有線)
・東プレ「RealForce 106S」(PS/2、有線)
・シグマA・P・Oシステム販売「PS2USB1PBK」(PS/2-USB変換ケーブル)
オウルテックの「OWL-KB109STD」は、USB接続の安価な製品。20年ほど前に1,000円程度で購入した記憶がある。ごく普通のキーボードだと思ってもらえればいい。
まずQWERTYとキーを順に押していくと、5つ目のTが入力されず、6つ目のYは入力。さらに次のUは反応せず、Iは入力された。この状態でさらに他のキーを押しても入力されない。
またWとAを押している状態でQを押すと反応しない。他の離れたキーは反応するが、近くのキーをまとめて押す操作は2キーまでしか反応しないことが多い。
この現象は2つの理由から起こる。まず安価なキーボードは設計上、近くのキーを同時押しした時に認識できなくなることが多い。2キー同時押しできれば文字入力で問題が出ることはないが、W、A、Qの3つが同時押しできない時点で、ゲームの操作に支障が出かねない。
もう1つはUSB接続による制約だ。一般的なUSB接続キーボードは、キー入力の信号を同時に6つまでしか送れない。そのため、たとえ離れたキーを押すとしても、7つ目のキー入力は認識されない。同時押しは最大6つまでということになる。
次はロジクールの「MX MECHANICAL MINI」。20,000円近くする高級な製品で、Nキーロールオーバーという機能に対応している。今回唯一の無線接続だが、有線か無線かはテストにおいて特に意味はない。
こちらはQWERTYと順に入力していっても、素直に入力を受け付ける。しかし次のUを押しても反応しない。
またW、A、Qの同時押しも可能で、周辺の6キーを同時押ししても問題ない。もちろん全く別の場所にあるランダムな6キーを押しても認識するし、7つ目のキーは反応しない。
どのキーを押しても正しく認識する機能がNキーロールオーバー。そしてUSB接続なので6キーまでの同時押しとなる。NキーロールオーバーでUSB接続のキーボードは、任意の6キーまでの同時入力を正しく入力する、というわけだ。
3つ目は東プレの「RealForce GX1」。33,000円と高価なゲーミングキーボードで、全キー同時押しに対応している。
こちらの結果は画像のとおり、押したキーは全て同時に認識する。これもNキーロールオーバーではあるのだが、USB接続による6キー同時押し制限がかかっていない。本機のように全キー同時押しに対応した製品は、2012年頃からゲーミングキーボードに登場してきている。
同じく東プレの「RealForce 106S」は、今回唯一のPS/2接続の製品で、20年ほど前に購入したもの。最近はUSB接続が一般的だが、USBが標準搭載される前のPCでは、キーボードやマウスはPS/2接続が一般的だった。本機もNキーロールオーバーに対応している。
こちらも「RealForce GX1」と同じく、全キー同時押しに対応している。PS/2接続はUSB接続とは違い、6キー同時押しの制限がない。このため以前はUSBキーボードよりPS/2キーボードの方が高機能と言われていた。現在は「RealForce GX1」のようにUSB接続でも全キー同時押しに対応する製品があるため、PS/2接続の優位性はなくなっている。
ただしPS/2接続のキーボードなら何でもいいというわけではない。筆者は現在所有していないが、安価なキーボードであれば近くのキーの同時押しに反応しないものも多いはずだ。もっとも現在は安価なPS/2キーボードを入手する方が難しいので、問題にはならないと思う。
最後のシグマA・P・Oシステム販売の「PS2USB1PBK」は、PS/2端子をUSBに変換するケーブル。「RealForce 106S」と組み合わせてUSB接続する。これも15年くらい前に購入したもので、既に会社がなくなっている。
こちらは任意のキーを6キーまで入力できる。PS/2接続では同時押しの数に制限はなかったが、USBに変換したことで6キーまでの制約を受けた形だ。Nキーロールオーバー対応のUSB接続キーボード、つまり「MX MECHANICAL MINI」と同じ挙動になっているのがわかる。
ゲーム用キーボードはNキーロールオーバーが欲しい
テストの結果からわかったことをまとめる。
まず安価なキーボードは同時押しできるキーに制約がある場合がある。実際にどのキーが同時押しできるかは各製品の設計によるが、Nキーロールオーバーをうたっていない製品では、このような事象が起こりうると思った方がいい。実際の挙動がどうなるのか、各々の環境でテストしてみるといいだろう。
次にUSB接続には6キー同時押し制限がある。今からPS/2接続のキーボードを買おうというのは無理があるので、基本的にPC用キーボードは6キーまでの同時押しに制限されると覚えておけばいい。
そして最近のゲーミングキーボードの中には、全キー同時押しに対応するものがある。どの製品が対応しているかは個別に調べる必要があるが、どのキーを押しても正しく認識されるので、ゲーム用の入力デバイスとしては最も安心感がある。ただし価格も高価なものが多くなる。
ゲーム用キーボードとして使うのであれば、できればNキーロールオーバーに対応した製品を選んでおくのがおすすめ。USB接続の6キー同時押しという制約はあれど、6キーで足りなくなるゲームは滅多になく、実用上はこれで十分だろう。
両手でキーボード操作するような特殊なゲームがあれば、6キーでは足りなくなる場合もあり得る。その時は全キー同時押しに対応したキーボードを探してみるといい。価格は高いが耐久性も高く、キータッチのバリエーションも豊富なので、ゲームプレイがより快適になるはずだ。
キーボードなんて押せれば何でもいいと言わず、ぜひ最重要ゲーミングデバイスとして注目していただきたい。ちなみに筆者が今おすすめするゲーミングキーボードは、日本語配列なら東海理化の「ZENAIM KEYBOARD」、英語配列ならASUSの「ROG STRIX SCOPE RX TKL Wireless Deluxe」だ。いずれもキータッチが最高に良い、という基準だけで選んでいるが、買って後悔しない製品だと思う。
1977年生まれ、滋賀県出身
ゲーム専門誌『GAME Watch』(インプレス)の記者を経てフリージャーナリスト。ゲーム等のエンターテイメントと、PC・スマホ・ネットワーク等のIT系にまたがる分野を中心に幅広く執筆中。1990年代からのオンラインゲーマー。窓の杜では連載『初月100円! オススメGame Pass作品』、『週末ゲーム』などを執筆。
・著者Webサイト:https://ougi.net/
PCゲームに関する話題を、窓の杜らしくソフトウェアと絡め、コラム形式でお届けする連載「石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』」。PCゲームファンはもちろん、普段ゲームを遊ばない方も歓迎の気楽な読み物です。