石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』

ゲーミングマウスはなぜ大きい? ゲーミングデバイス老人会の話をしよう

筆者が購入した「ROG Harpe Ace Mini」

ゲーミングマウス大きすぎ問題

 先日、新しいゲーミングマウスを購入した。ASUSの「ROG Harpe Ace Mini」という小型軽量の製品だ。これについては別の記事を書いているのでそちらで。

 筆者が小型のマウスを好むのは、手が小さいのと、手先だけでカーソル操作をしたいから。しかしゲーミングマウスは大きい。昔から今までずっと大きい。『高性能な部品を中に詰め込むから大きい』ということも、今の時代にはないだろう。

 なぜゲーミングマウスは大きいのか、そもそもの定義と、製品の歴史をたどりながら考えてみよう。

歴史的事情によるゲーミングマウスのサイズ

 ゲーミングマウスとは何か、という決まった定義はない。ゲーミングマウスをうたう製品を見ると、高性能なセンサーで解像度を調整できて、スイッチの耐久性が高く、ソフトウェアによる機能のカスタマイズが可能、といった辺りが共通項としてある。最近だと軽量化というトレンドもある。

 ゲーミングマウスという製品が一般的に目にされ始めたのは、筆者の記憶では2005年頃。ロジクールが「G」の名前を冠したマウスを発売したのがきっかけだった。Gはゲーミング・グレードの頭文字に由来したもので、『ゲーム用の高性能なマウス』というニュアンスだった。

 当時はレーザーセンサーが登場した頃で、高解像度のレーザーセンサーを搭載した製品がハイグレード、そしてゲーム用として使われることが多かった。

 しかし当時のゲーマー、特にFPSをプレイする人たちには、マイクロソフトの「IntelliMouse Explorer 3.0」の人気が高かった。当時は高解像度なレーザーセンサーを搭載したマウスが市場を席捲していたが、「IntelliMouse」シリーズは光学式センサーを使い続けており、こちらの方が信頼性が高いと評判だった(後にレーザーセンサーは光学式センサーに逆転され、市場から駆逐される)。

 これ以外のマウスは使わないという人も多く、後に何度も復刻版が登場している。また他社からも本機の形状を模倣、あるいはリスペクトした製品が現在まで根強く発売されており、それらは「IE3.0クローン」と呼ばれている。

 この「IntelliMouse Explorer 3.0」だが、サイズは約69×132×43mmとかなり大きめだ。本機がゲーミングマウスのスタンダードとなったことから、ゲーミングマウスは大型が基本になった、という側面もある。

ゲーマーには大型マウスが必要な理由がある

 マイクロソフトにせよロジクールにせよ、ゲーミングマウスを開発した大手メーカーはいずれも海外メーカーだ。欧米人は日本人より体格がよく、手も大きい。欧米人の手に合わせたサイズで製品を作れば、日本人の手には余る。だからゲーミングマウスは大型になる。……というのが通説だ。

 これもかなり正しいとは思う。ゲーミングマウス黎明期の2000年代は、PCゲームは今よりマニア向けのイメージが強かったし、PCゲーマーの男女比も今より男性の率がかなり高かったはずだ。ゲーミングという枠を外しても、当時のPCユーザーは男性中心であったから、マウスが大型になるのは仕方ない。

 現在は女性のゲーマーも増えており、市場にも小型ゲーミングマウスを求める層が増えている。筆者が購入した「ROG Harpe Ace Mini」のサイズは63×117×37mmと小さめ。またロジクールの「G705」は女性向けにデザインされており、68.1×105.8×39.4mmと、奥行きがかなり短くなっている。

 それならもっと小さいゲーミングマウスがあってもいいじゃないか、と感じるのだが、どうやらそうもいかないらしい。「G705」に匹敵する小さなゲーミングマウスは20年ほどの歴史の中で時々登場するのだが、後継機が出ないまま終息したり、同じシリーズ名なのに大型化していたりする。

 理由は個別に明かされていないが、要は売れないのだろう。「ROG Harpe Ace Mini」にしても、ASUSの担当者から『これが限界ギリギリの小型サイズ』という説明を受けたのだが、それは技術的な限界ではなく、商業的に無理という意味なのだと思う。

 なぜ小型ゲーミングマウスの人気がないかについては、「ROG Harpe Ace Mini」のような小型マウスを使ってみればわかる。FPSのプレイヤーの多くは、腕を振るようにしてマウスを大きく動かす。このマウスで同じ操作をしようとすると、マウスパッドに手首が当たってこすれてしまう。

 マウスに手を乗せられるくらい大きければ、マウスパッドに手首が当たることはない。マウスを大きく動かすには、マウスが大きい方が適しているのである。だからこそ「IntelliMouse Explorer 3.0」のサイズと形状が好まれていたのだ。

 もちろん小さいマウスを好むゲーマーもいる。マウスに手をかぶせるのではなく、マウスを掴む、つまむという感じで、手首がマウスパッドに当たらないような持ち方をすればいい。ただ、この持ち方をしているゲーマーは少数派なのであろう。

 筆者は2000年頃にシリコン製マウスパッドとマウスソール「エアーパッド」シリーズを使い、滑りの良さに感動した。しかしこの時、サイズが小さいマウスパッドに合わせてマウスを操作するために、マウスのセンサーを高解像度にし、手先で操作するスタイルに変えてしまった。

 小型マウスでも、手をかぶせて持つ。比較的大型のマウスパッドを使用し、腕を振る操作スタイルに戻そうと挑戦しては、何度も挫折している。FPSだろうが何だろうがこのスタイルでプレイしているので、射撃精度は大変悪い。

 『じゃあゲーミングマウスなんて必要ないのでは?』と言われそうだが、解像度を細かく調整できるのは便利だし、仕事中にマウスが故障するストレスは極力減らしたいので、高耐久性のゲーミングマウスは都合がいいのである。もちろんゲームもやるが、PC使用時間は仕事の方が圧倒的に長いので……。

 最後にゲーミングマウス選びについて1つ。現在はさまざまなメーカーが多種多様な製品を発売している。持ちやすさはスペックだけで判断できず、微妙な形状の違いで大きく変わってくる。ぜひ色々な製品を触って、自分に最適なゲーミングマウスを見つけて欲しい。最近は本当に魅力的な製品が多く、ゲーミングマウス沼などと言われそうな状況であり、とても楽しいと思う。

著者プロフィール:石田賀津男(いしだ かつお)

1977年生まれ、滋賀県出身

ゲーム専門誌『GAME Watch』(インプレス)の記者を経てフリージャーナリスト。ゲーム等のエンターテイメントと、PC・スマホ・ネットワーク等のIT系にまたがる分野を中心に幅広く執筆中。1990年代からのオンラインゲーマー。窓の杜では連載『初月100円! オススメGame Pass作品』、『週末ゲーム』などを執筆。

・著者Webサイト:https://ougi.net/

石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』 記事一覧

 PCゲームに関する話題を、窓の杜らしくソフトウェアと絡め、コラム形式でお届けする連載「石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』」。PCゲームファンはもちろん、普段ゲームを遊ばない方も歓迎の気楽な読み物です。