石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』
老後のゲーム趣味に待ち受ける問題とは? 体の衰えだけではない、さまざまな可能性を考える
2025年4月24日 15:24
老後のゲームライフは安泰か?
あるゴルフ好きのサラリーマンが定年退職し、『これで思う存分ゴルフができるぞ!』と思ったら、誰にも誘われなくなった。……という笑い話がある。
ではゲームはどうだろうか? ゴルフのように一緒にプレイする友人は要らないし、自宅でできる趣味なのでハードルは低そうだ。ファミコン世代も40~50代になり、定年退職後に遊びたいゲームを山積みにして、老後を楽しもうと考えている方もいらっしゃるのではと思う。
筆者は数日後に48歳になる。老後にゆっくりゲームを楽しむのは確かに楽しみだが、現実を見るとそう簡単ではないなと思い始めている。老後のゲームライフにどんな障害があり得るのか、今から考えておかないと後悔するのでは……という不安がある。
この話はとても1回で収まりきらないので、今回は『60歳になったゲーマーに起こり得る問題』を多方面から考えていく。全ての人が全ての項目に当てはまるわけではないが、「もしかしたら自分もそうかも?」と考えて、可能なら対策を練っておいてはいかがだろうか、という問題提起をしたい。
年齢を重ねることによる問題といえば、身体的なことを想像する方が多いだろう。しかし実際にはそのほかに、認知や理解の問題、心理面の問題、社会的問題、経済的制約、家族の問題など、さまざまな問題や制約が考えられる。
身体的問題は想像以上に多い
まずは身体的な問題。体力の低下については、一般的なスポーツなどの趣味に比べれば問題になりづらい。コントローラーを操作できれば遊べる。だから万事問題なし、と考える人も多いはずだ。
これが意外な落とし穴。ゲームに必要な要素はまだまだある。まずは目だ。老眼が進めばポータブル機でのゲームプレイは難しくなる。そうでなくても、細かい文字を目で追うのは辛くなる。ちなみに筆者は後部硝子体剥離という老化現象を発症しており、片目の焦点が合いづらくて不快感が出ることもある。
また長時間のゲームプレイが難しくなる。肩こりや腰痛は既に抱えている方も多いと思うが、関節痛や神経痛で長時間プレイが辛いということもあり得る。長年のゲーマーだと腱鞘炎を発症する人も多そうだ。ちなみに筆者は肘部管症候群という肘の神経障害があり、手にしびれが出るとゲームどころではなくなる(病気自慢をしたいわけではないが)。
さらに、体力の低下で長時間のゲームプレイ自体が難しくなる可能性もある。若い頃は平気で夜更かしして遊べても、歳をとってから睡眠を削る生活は明らかに危険度が高い。オンラインゲームを夜な夜なプレイ、というスタイルは続けられないかもしれない。
認知や心理的問題も多い
認知能力の低下も問題だ。反射神経を求められるアクションゲームが昔のようにうまくやれないと感じている方は、40代くらいから結構いらっしゃると思う。当然ながら、これはさらに悪化していく。
また、新作ゲームのルールを覚えるのも大変になっていく。従来とは違う新しいスタイルのゲームは今後も登場するはずだが、それらを理解するのが難しくなっていく。ソフトだけでなくハードも新しくなり、新たなデバイスを使いこなすのには年齢なりの苦労がある。
それ以上に大きいのが心理的な問題だ。ゲームは老若男女問わず平等に遊べるのが良さではあるが、昔はどんなゲームもうまくやって勝ってきた人も、歳を取れば若い人たちにどんどんついていけなくなる。
勝てないことに対する心理的なダメージと向き合っていくのは辛いものだ。さらに脳は加齢によって我慢ができなくなっていく。現時点でゲームのストレスを周囲に当たり散らす傾向がある人は、老後はその衝動がより強くなる可能性もあり、さらに注意が必要だろう。
社会性では時代に合わせた遊び方も
次は社会的な問題。対戦ゲームで若い人に負けていくというのもその1つだが、協力型のゲームでも、若い人ほどうまくできないこともあれば、会話についていけないことも増えるだろう。ボイスチャットで誰とでも楽しく遊べたはずが、世代のズレで会話がしづらくなっていき、疎外感を覚えるかもしれない。
そもそも、コミュニティに参加するのもハードルが上がる。最近は「Discord」というソフトがよく使われるが、年配の方やゲームから離れ気味という方は、使い慣れない方も多いはず。今後もこういった新たなツールは登場していくはずで、トレンドについていく気持ちや、技術的な理解は必要になってくる。
またゲームの楽しみ方も、自分が遊ぶだけでなく、配信する・見るなどの新たな形が増えている。配信者を中心としたコミュニティもあり、新たな枠組みでの楽しみ方を知っておくと遊びの幅が広がる。ただ新しいものには馴染みづらいという感覚は、歳をとるほど強くなっていくだろう。
経済的な余裕は少なくなるかも
経済的な問題も大きくなる。一定の収入がある現役世代とは違い、老後はある程度の貯金を食いつぶす生活になることが多い。十分な蓄えがなければ、現役世代の頃ほどゲームにお金をかけられなくなる。先々の高齢者福祉が今ほど充実していないことも想像に難くない。
支出に歯止めを効かせられないと、長い老後に備えられなくなる可能性もある。今は自制心が勝っているという人でも、加齢で我慢が効かなくなることもあり得る。高額な退職金をソーシャルゲームで溶かす60歳というのも、割と現実的にありそうな話だ。
PCゲームであれば、機材を揃える経済力に加え、機材を選定したり、接続したりといった必要も出てくる。そしてトラブル時の対応。『PCが壊れた。俺は何もしてない』と子供に言う側に回るのは本意ではないだろう。その頃のWindowsが12なのか13なのかはわからないが、どこまでついていけるのか。
家族との関係性もより複雑に
家族の理解も大きな課題になる。今まで毎日働きに出ていた人が、急に家に居座って、朝晩関係なくゲームをやっているとしたら、家族はどんな目を向けてくるだろうか? 子供と同居していれば、『そんな歳になってまでゲームばっかり』などと言われるかもしれない。あまり居心地のいい生活ではないだろう。
家族関係をしっかり保って生活できているという人でも、孫の世話を頼まれて時間が奪われたり、『孫の前でゲームしないで』と言われたりするかもしれない。もちろん、孫と一緒にゲームで遊べるという幸せな絵もあり得るので、どれだけゲームにのめり込むかという程度問題ではある。また女性だと特に理解を得にくいことも想像できる。
年齢的に気になることとして、親の介護がある。60代なら、80~90代の親を介護というのは、日本中どこにでもある光景だ。さらに進行する超高齢化社会で、親は老人ホームに預けて終わり、と簡単にいかないことも増えるだろう。場合によっては介護にかかりきりになることも考えられる。
手元のゲームがいつまでも遊べるとは限らない
ある意味最も厄介な問題が、ゲームそのものの消失だ。最新のゲームにはついていけないし、高価なハードも用意できないなら、昔遊んだ(あるいは遊び損ねた)レトロゲームを楽しみたいと思っている方もいるだろう。
しかし、ゲーム機や物理メディアは劣化して破損する。使わず置いておくだけでも経年劣化は避けられない。今からファミコンの実機で遊ぼうというのはハードルが高いし、PC-9801の実機で遊びたいと思ったらもっと大変だ。ハードもソフトも適切に保管するのはそう簡単ではない。
オンラインゲームがサービスを終了して遊べなくなることもある。またダウンロード販売を行うオンラインサービスも永続するとは限らない。家庭用ゲーム機では、古いゲーム機のオンラインサービスは終了していく。手元のゲーム機にダウンロード済みのゲームは引き続き遊べることが多いが、そのゲーム機が故障した時には、再取得できない可能性が高い。
専用デバイスを必要とするゲームは特に厄介だ。コントローラー類はセンサーやスイッチが1つ壊れたらおしまいだし、修理も自己責任でやるしかない。またブラウン管向けの光線銃のように、現在のゲーム環境では使えないものもある。
今やりたいものは今やること
これらの問題は備えておけば何とかなることもあれば、どうしようもないこともある。今回挙げたことも、老後の問題の全てではない。人によってはもっと大変なことが起こり得るし、筆者が気づけていない問題は他にも多数あるだろう。“それまで生きていれば”という前提まである。それらを受け入れて、付き合っていくのが老いというものだ。
そして、未来を考えた上で最も大切な気づきは、やはり今やりたいゲームは今やるべきだということ。老後にゲームができるとは限らないというネガティブな結果だけでなく、ゲーム以外の楽しみ方を見つけるというポジティブな可能性もある。後悔しない人生のために、今をより大切にしていくことが重要だ。
みなさんは老後のゲームライフにどんな課題が見いだせるだろうか? あるいは、既に老後のゲームライフに入ったという方は、どんな問題があるだろう? 今のうちから知恵を持ち寄り、幸せな老人ゲーマーの未来を探っていきたい。今回はあえてネガティブな面にだけフォーカスしたが、この話はまた機を見て続けていこうと思っているので、ぜひご意見をお寄せいただきたい。
1977年生まれ、滋賀県出身
ゲーム専門誌『GAME Watch』(インプレス)の記者を経てフリージャーナリスト。ゲーム等のエンターテイメントと、PC・スマホ・ネットワーク等のIT系にまたがる分野を中心に幅広く執筆中。1990年代からのオンラインゲーマー。窓の杜では連載『初月100円! オススメGame Pass作品』、『週末ゲーム』などを執筆。
・著者Webサイト:https://ougi.net/
PCゲームに関する話題を、窓の杜らしくソフトウェアと絡め、コラム形式でお届けする連載「石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』」。PCゲームファンはもちろん、普段ゲームを遊ばない方も歓迎の気楽な読み物です。