石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』

トランプ大統領の関税問題は日本のゲーマーにも影響するのか?

米国にあるゲーム会社への影響と、為替相場の変動には注意が必要

「Nintendo Switch 2」のWebサイト

関税問題をゲーマー視点で見てみよう

 米国でトランプ大統領の2期目が始まってから、世界経済が大きく動いている。中でも注目されているのが関税だ。日本にも24%の関税をかけるとされた話は90日間停止されたが、自動車への25%の追加関税は既にかけられており、日本経済への影響が懸念されている。

 この関税はゲーマーにも無縁ではない。先日、6月5日に発売すると発表された任天堂の新型ゲーム機「Nintendo Switch 2」では、この関税の発表によって米国で予約開始を遅らせる措置がとられた。結果としては発売日以降まで関税が停止されたため予約は始まったが、関税が課せられれば米国での価格が上がっていた可能性が高い。

 米国のゲーマーからは『日本にかけた関税を俺たちが払うのか?』といった声もあったそうで、これをきっかけに関税の仕組みを理解した人もいたかもしれない。わかっている人からすれば笑い話だが、今後は我々にも影響する話でもあるので、ゲーマー視点で関税について学んでおこうと思う。

関税の影響を受けるのは誰?

 そもそも関税とは何か。他国から輸入される商品にかけられる税だ。

 先述の自動車への追加関税25%(実際には元々あった2.5%との加算で27.5%だが、今回は25%として説明)を例にすると、日本から100万円の車を米国に輸出すると、米国は25万円の税金を取ってくる。日本の自動車会社は、米国に車を運び入れるだけで25万円取られてしまう。

 すると、日本では100万円で売られている車は、米国では125万円で売らないと、同じ儲けにならない(実際はその他の経費などもあるが、今回は割愛)。米国で買う日本車は日本国内よりも高価にならざるを得ない。

 関税をかける理由についてトランプ大統領は、『米国の自動車産業を守るため』としている。日本車は安くて性能がいいので、米国でよく売れる。しかし関税によって日本車の価格が上がれば、米国内では米国製の車を買う人が増える。米国の自動車会社が儲かって、自動車産業が守られるということだ。ちなみに今は円安で、日本車は米国でさらに安くなるため、トランプ大統領はこのことも問題視している。

 これが自動車だけであれば、直接的に影響を受けるのは日本車を買おうとしていた米国人と、日本車を輸出する日本の自動車会社ということになる。しかし全ての商品に24%の関税をかけるとなると、日本から米国に輸出されるあらゆる製品に関税がかけられるので、「Switch 2」も値上げが必要になるかもしれない、ということだ。

 なお米国企業の商品であっても、国外で生産された商品を持ち込む際には、その国や地域に合わせた関税がかけられる。米国は中国に対し145%の追加関税をかけているが、iPhoneの多くが中国で生産されており、これを米国に持ち込まれる際にも関税がかかることになる。これについては米国政府が、スマートフォンやPCなどの一部製品を関税から除外することで対応している。

間接的に影響を受ける可能性はある

 では、今回の関税問題が日本のゲーマーに与える影響を考えてみよう。米国の関税に対し、中国は対抗して、米国からの輸入品に対して関税をかけている。これは報復関税と呼ばれているが、日本政府は報復関税をかける姿勢は見せておらず、米国の関税撤廃を求めて動いている。

 つまり、日本から米国に出ていく商品は米国で価格が上がるが、米国から日本に入ってくる商品には、今回の関税問題は直接的には影響しない。CPUやビデオカードなどのPCパーツや、米国企業であるマイクロソフトのゲーム機「Xbox」シリーズの日本国内での価格に変化はないだろう。

「Xbox」のWebサイト

 ただし、間接的な影響が及ぶ可能性はある。米国には世界的なゲーム会社がいくつも存在する。マイクロソフトと、その子会社となったActivision Blizzard、さらにElectronic Arts、Take-Two Interactiveなどを擁する、世界有数のゲーム産業国だ。ゲーム開発エンジンを手掛けるEpic GamesやUnityも米国にある。

Epic Gamesが提供するゲーム開発エンジン「Unreal Engine」

 これらの米国企業は、関税による物価高が開発費高騰の一因となり得る。開発されるゲーム機やゲームソフトの価格にも影響が出ると、日本で販売される際の価格も上がり、間接的に日本のゲーマーも影響を受ける可能性がある。世界的な人気タイトルが多数あるため、特に洋ゲーファンにとってはじわじわと影響が出るかもしれない。

 そもそもゲームの開発費は、ハードウェアの性能向上に合わせてどんどん高くなっていると言われ続けている。昨今はダウンロード販売が中心になるなど価格を下げる要因はあるにしても、これからは価格上昇が目立つようになる可能性は高い。

 例えば「Nintendo Switch 2」のソフトは、看板タイトルの「マリオカート ワールド」がパッケージ版で9,980円。ダウンロード版は8,980円と少し下げているのは、高価だという自覚のあらわれではないかと思う。その他のソフトも8,000円以上を付けているものが多い。

 ちなみに米国では、「マリオカート ワールド」は79.99米ドルとなっている。執筆時点の1米ドル約143円で計算すると約11,439円となり、日本ではこれでもかなり控えめな価格設定になっているのがわかる。日本語専用の本体を用意して価格を下げたのも含め、任天堂が日本を重視する姿勢がよく出ている。

「マリオカート ワールド」のWebサイト

 この辺りを加味した上で、関税で米国のゲーム会社が影響を受けると、米国のゲームソフトの価格が上がる可能性は大いにある。そして世界有数のゲーム産業国である米国のゲームソフトが高価になるなら、他国のゲーム会社も今まで抑えてきた価格を少しは上げてもいいと考えるのは自然な流れだ。

 関税問題は日本のゲーマーにも無縁とは言い切れない。関税問題は、現在は円安に向いている為替相場にも影響するので、洋ゲーファンには特に影響が大きい。急な変動は誰にとっても嬉しいことではないが、日々のニュースをより関心を持って見る、いい機会になったと捉えてみてはいかがだろうか。

デジタルデータに関税はかからない

 余談としてもう1つ。多くのPCゲーマーは「Steam」を利用してゲームを購入していると思うが、このようなダウンロードソフトに関税はかかるだろうか?

「Steam」のメイン画面

 答えはNO。関税は物理的な商品の輸入時にかけられるもので、デジタルデータは対象外とすることが一般的となっている。今後、米国の関税問題が大きくなったとしても、「Steam」のゲームが直ちに値上げされるようなことは考えにくい。

 ただし、デジタルデータに関税をかけないこと自体が議論にはなっている。ゲームが物理メディアからデジタルデータへ移行したように、映像や音楽、書籍などもデジタルデータに移行が進んでいる。ある種の関税逃れとも言え、時代が変わったのに制度は変わらないでいいのか、という声がある。

 この辺りは世界的IT企業の税金逃れにも繋がる話になる(デジタルデータの国家間の売買が見えるようになれば、各国での税の徴収の根拠になる)ので、今後は議論が進んでいくかもしれない。実際は仕組みづくりが極めて難しいという問題があるのだが、これもゲーマーとして気にしておきたい話だ。

著者プロフィール:石田賀津男(いしだ かつお)

1977年生まれ、滋賀県出身

ゲーム専門誌『GAME Watch』(インプレス)の記者を経てフリージャーナリスト。ゲーム等のエンターテイメントと、PC・スマホ・ネットワーク等のIT系にまたがる分野を中心に幅広く執筆中。1990年代からのオンラインゲーマー。窓の杜では連載『初月100円! オススメGame Pass作品』、『週末ゲーム』などを執筆。

・著者Webサイト:https://ougi.net/

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