石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』

ゲーム機はなぜ値上げされる? Xbox値上げの背景をやさしく解説

さまざまな社会情勢とゲーム機ならではの問題が影響

「Xbox Series X」のWebサイト

Xbox関連商品が突如値上げ

 先週は、米国の関税問題とゲームの関係についての話をした。この中で、『米国企業であるマイクロソフトのゲーム機であるXboxシリーズの日本国内での価格に変化はないだろう』と書いたところ、掲載とほぼ同タイミングでXboxと関連アクセサリーの値上げが発表された。

 ここだけ切り抜くと私が完全に嘘を言ったように見えるが、Xboxの値上げは世界全体の話であり、関税によるものではない。筆者からすると『なんでやねん!』と言うほかない笑い話なのだが、せっかくなので皆様に誤解のないよう、なぜXboxが値上げしたかをきちんと考察しておきたい。

米国の関税政策は直接的には無関係

 まず大前提として、日本国内のXboxが関税によって直接的に値上げされたのではない。

 現在、米国は全ての輸入品に対して10%の関税を上乗せしている状態だ。日本から米国に輸出される商品にも10%の関税がかけられる。ニュースで話題になった日本向けの24%の関税は90日間停止されているが、全世界対象の一律10%の関税はかけられている。

 ただ、これはあくまで日本から米国への輸出品にかかる関税だ。日本が米国から輸入する商品に対しては、日本政府は追加関税をかけていない。つまりXboxが米国から輸出されるとしても今回の関税の影響はないし、Xboxが米国以外の国や地域から輸入されたものだとしても、やはり影響は受けない。

 米国の関税政策が世界中で問題視される中、米国企業の製品が値上げされたというタイミングから、関連があると思う方は多いだろう。今回に関しては、『トランプ大統領が関税をかけたから日本で値上がりした』という話ではない。そもそも、日本に輸入されるゲーム機やゲームソフトに関税はかけられていない。

関税問題が世界中の商品の価格に影響する

 では、なぜXboxは値上げしたのか。米Microsoftは『市場の状況と開発コストの増加を考慮』と説明している。その中身が何なのか詳しくは語られていないが、複数の理由があることは明らかだ。

 まずは上に続いて、関税を要因とする話から。米国では現在、全ての輸入品に対して10%の追加関税をかけている。ざっくり言うと、米国に持ち込まれる外国製品は、基本的に全て10%値上がりするということだ。輸出側の企業が価格を下げて競争力を維持しようという動きもあるはずなので、実際には10%まるまる値上げにならないことも多いとは思うが。

 Xbox関連製品のほとんどは米国外で生産されているので、原材料を米国に輸入することで関税がかかり生産コストが上がる、といったことも少ないはずだ。例えば中国で生産した製品を直接日本に持ち込むなら、米国の関税政策の影響は受けない。

 しかし、生産に必要な部品や機材の価格には影響する。例えばXboxの生産に必要な部品が米国内で作られていて、製品の工場が中国にあった場合、その部品は中国の報復関税により、125%の追加関税がかけられる。全ての部品や機材が米国から来るわけではないとはいえ、一部に関税が影響して生産コストを引き上げることは十分あり得る。

 報復関税でやり合っているのは米国と中国だけで、見た目上はその2国間だけの話に見える。しかし世界的大企業が並ぶ米国と、世界の工場とも呼ばれる中国は、経済規模で見ても世界1位と2位の国だけに、世界中の商品価格に影響が出ることは明らか。Xboxの値上げも、関税問題が考慮されたことは間違いない。

 『関税が日本のXboxの価格に直接影響したわけではない』が、『間接的に影響しているのは確か』というのが答えだ。

Windows PCゲームの標準コントローラーとなる「Xbox ワイヤレス コントローラー + USB-C ケーブル」。筆者所有のものは、生産国が中国となっている

世界的インフレがゲーム機にも影響する

 市場の状況としてはもう1つ、世界的インフレがある。インフレとは、物価が上がり続ける状態のこと。いろんなものが値上がりすれば、ゲーム機だって値上がりする。

 世界的インフレの理由はいくつかある。1つはコロナ禍の影響だ。当初は経済が大きく落ち込んだが、その後の回復期で需要が高まった。その急激な変化に供給が追いつかなかった。需要が増えても供給が追いつかなければ、価格は上がる。

 また世界各国で、コロナ禍における経済対策として、金融緩和が行われたことも影響している。金融緩和とは、簡単に言えば金利を下げてお金を借りやすくすること。お金を借りやすくなれば、企業は設備投資しやすくなって経済が活性化する。個人レベルでも、家を買うのにお金を借りる際の金利が下がって、家を買いやすくなる。

 しかしこれを続けると、市場にお金の量が増えていき、相対的にお金の価値が下がることで、物の価格が上がっていく。これもコロナ禍後に起きたインフレの原因の1つだ。最近のニュースでは金融引き締めという言葉をよく耳にすると思うが、これは金融緩和の反対の意味。現在はインフレを抑え込むために、各国が金融引き締めを始めている。

 さらに2022年に起きたロシアによるウクライナ侵攻も原因の1つだ。ロシアに対する経済制裁として、各国がロシア産の資源の輸入を止めている。ロシアは広大な国土を持つ資源大国で、石油や天然ガスの輸出量も世界有数。その供給を止めたことで、世界的な価格上昇につながった。

 そして米国の関税政策も物価上昇を招き、インフレの原因になると懸念されている。Microsoftが世界的なインフレは未だ止まらない状況にあると考えれば、Xboxの価格を上げる方向に動く。

 ちなみにこれはXboxに限った話ではない。「PlayStation 5」も値上げを繰り返しているし、先日発表された「Nintendo Switch 2」も、現行機である「Nintendo Switch」を大きく上回る価格設定になっている。簡単に言えば、『ゲーム機はこのくらいの価格が順当』な時代なのである。

「Nintendo Switch 2」は日本国内専用版が49,980円。現行機よりかなり高いが、それでも海外よりはかなり安い

今時のゲーム機ならではの事情で価格は下がらない

 そうは言っても、発売から何年も経ったゲーム機がなぜ安くならないのか。以前のゲーム機は、時間が経つほど低価格化が進んでいくものだった。世界的インフレによる押し上げ効果はあっても、値上がりに転じる必要はないように思える。

 これにもゲーム機ならではの理由がいくつかある。1つは需要の強さ。ゲーム機はどれも発売直後は品切れが続く状態で、正常化に年単位の期間がかかることも珍しくない。そんな状況で価格を下げる戦略を取る必要はない。

 2つ目は半導体不足。コロナ禍以降は半導体不足が顕著で、特に先端半導体と呼ばれる高性能な部品は、生産ラインの奪い合いが続いている。ゲーム機は今や高性能なコンピューターであり、半導体不足の影響を強く受ける。

 また、以前のゲーム機では半導体が安くなることで価格を下げていた。製造技術が進んで緻密な半導体を製造できるようになると、同じ性能のものが小さいサイズで実現できるようになり、1個当たりのコストが下がる。ゲーム機も以前はそれによって価格が下がっていた。現在は、先端半導体の生産ラインは奪い合いで、価格も以前のようには下がらない。

 あとはゲーム機の競合が少ないことも影響している。家庭用ゲーム機はXbox、PlayStation、Switchの3強だが、Switchは独自路線で、Xboxと競合するのはPlayStationだけ。むしろ、より高価なPCと競合するようになってきたくらいで、ここでも価格を下げる理由は見当たらない。

「PlayStation 5」の価格は79,980円。5月1日以前は「Xbox Series X」の方が安かったが、今は逆転している

円安で日本のゲーム機は高くなる

 日本にとってさらに厳しいのが円安だ。

 「Xbox Series X/S」が発売されたのは2020年11月10日で、当時の為替相場は1ドル104円前後。それが現在は1ドル140円台で、昨年には1ドル160円を超えたこともあった。今後再び円安に傾けば、日本でのXboxの収益が目減りしてしまう。そのリスクも見込んで少し高めの価格設定にしたとしても文句は言えない。

 ただ今の価格設定から考えると、むしろまだがんばっている方だと思う。欧米の価格と比較しても、現在の為替レートでだいたい同じくらいの価格設定になっている。今後どうなるかはわからないが、特に日本に対してボッタクリ価格と言われるような設定になっていないのは確かだ。なおPlayStationとSwitchは日本に優しい価格設定になっている。

 今回のXboxの値上げは世界的なもので、合わせて円安相場に対する価格調整を行ったことで、日本での価格上昇が大きく見えたという面はある。いずれにせよ、日本だけが値上げしたわけでもないし、Xbox以外のゲーム機も値上げしている。むしろXboxは動きが遅かったくらいだ。

 ……といった感じで現状をまとめてみたのだが、自分で書いてみても、何とも悲観的な話しかない。まとめて言えば、『世界が平和だったらゲーム機も買いやすいのにね』という感じで、社会情勢による影響がとても大きい。もっともそれはゲーム機だけでなく、PCもそうなのだが。ゲーミングPCに必要なCPUもビデオカードも、すごい価格になっていて筆者も大変つらい。

著者プロフィール:石田賀津男(いしだ かつお)

1977年生まれ、滋賀県出身

ゲーム専門誌『GAME Watch』(インプレス)の記者を経てフリージャーナリスト。ゲーム等のエンターテイメントと、PC・スマホ・ネットワーク等のIT系にまたがる分野を中心に幅広く執筆中。1990年代からのオンラインゲーマー。窓の杜では連載『初月100円! オススメGame Pass作品』、『週末ゲーム』などを執筆。

・著者Webサイト:https://ougi.net/

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 PCゲームに関する話題を、窓の杜らしくソフトウェアと絡め、コラム形式でお届けする連載「石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』」。PCゲームファンはもちろん、普段ゲームを遊ばない方も歓迎の気楽な読み物です。