石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』

「Steam」はゲームを売らず、利用権を売っている……ってどういうこと?

Steam利用規約を読んでみよう

「Steam」では沢山のゲームを売っているように思えるが……

Steamでは何を売っているのか?

 多くのPCゲーマーがゲームソフトを手に入れるために「Steam」を使っている。『新作ゲームをSteamで買った』という言葉を何気なく使っている方は多いだろうし、それに違和感を覚えることはないだろう。

 だが、厳密にはそうではない。「Steam」で売っているのはゲーム本体ではなく、ライセンスである。一般的に想像されるゲーム販売とは何が違うのだろうか?

 先に言っておくと、このライセンスがどういうものであるかを理解しなくても、「Steam」の利用に何ら問題も不都合も起きない。ただ遠い将来、もしかしたら困ったことになる可能性はある……という程度だ。

所有権は売らず、利用権を売っている

 一般的に物を買うというのは、所有権を得るということと理解されている。スーパーで食材を買えば、食材は自分のものになり、買った食材をどう調理するかは買った人の自由だ。こんな小難しい言い方をするまでもなく、買ったら自分のものになる。当然の話だ。

 だから「Steam」で買ったゲームは自分のものになるのかというと、そうではない、というのが今回の話。試しに「Steam」でゲームをカートに入れてみると、支払いに進む前にこんな文言が目に入る。

デジタル製品を購入すると、Steam上で製品のライセンスが付与されます。

 このライセンスが一体何なのかということは、Steam 利用規約に書かれている。注目は[2.ライセンス]の中の[A. 本コンテンツ/本サービスの一般的ライセンス]だ。

Steam 利用規約

Valve は、本コンテンツおよび本サービスを(営利目的での利用が本規約または適用される利用権に関する規定において明確に認められている場合を除き)非営利目的で個人利用する非独占的なライセンスおよび利用権を付与し、ユーザーはこれを取得します。

Steam 利用規約より引用

 この一文だけでも目がくらむという方も多いと思うが、大事なのは『ライセンスおよび利用権を付与』という部分だ。

 続きを見よう。

本ライセンスは、(a)本規約または(b)本ライセンスを含む利用権が終了した場合に終了します。本コンテンツおよび本サービスはライセンス供与されるものであり、販売されません。ライセンスとともに、本コンテンツおよび本サービスに関する権原または所有権が付与されることはありません。

Steam 利用規約より引用

 ここのポイントは『所有権が付与されることはありません』という部分。これを前の文とつなぎ合わせると、Steamユーザーはゲームの利用権を与えられるが、所有権は付与されない、ということになる。

 つまり、「Steam」のゲームにお金を払うと、「Steam」がそのゲームをいつでも貸してくれる状態になる、というニュアンスだ。

 この点についてより理解を深めるために、同項の頭にある部分も引用しよう。

Steam や利用権を利用するには、ユーザーのコンピュータへ、本コンテンツおよび本サービスがダウンロードおよびインストールされる必要があります。

Steam 利用規約より引用

 「Steam」のゲームを利用するには、「Steam」クライアントのインストールが必要ということだ。Steamユーザーからすれば当たり前のことだと思うが、「Steam」を利用したことがない方だと、『ゲームを買ったのに、Steamなしで直接起動できないの?』と感じるだろう。その理由は、ユーザーはゲームの所有権ではなく「Steam」上での利用権を得ているから、ということになる。

ライセンスはSteamサービスと一蓮托生

Steamアカウントを無効化したらライセンスはどうなるか

 ライセンスの扱いについてもう少し見ていくと、[9.有効期間および無効化]でも記述がある。[B. ユーザーによる無効化]では、ユーザーがSteamアカウントを無効化した場合のことが書かれており、それまでにユーザーが持っている所有権を他のアカウントに譲渡したり、アクティベーションキーを再び利用できる状態には戻せないとされている。

 もしユーザーに所有権が与えられるのなら、自分ものを他人に譲渡できるのは当然であろうと考えられる。しかし与えられているのは利用権であり、他人に譲渡できないということだ。利用権を渡せてもいいじゃないかと思わないでもないが、現状ではこうなっている。

 昔はROMカートリッジやCD-ROMなど、物理メディアでゲームを購入するのが当然だった。最近は「Steam」に限らず、家庭用ゲーム機でもダウンロード販売が当たり前になっているが、ユーザーに与えられる権利は販売元やプラットフォームによってまちまちだったりする。この機会に、利用しているプラットフォームの規約に目を通してみてはいかがだろうか。

 『だからSteamではなく○○で買うべき』という声も聞こえてきそうだが、そこは個々人が判断すればいい。筆者は「Steam」の圧倒的なソフトの数や活発なコミュニティは他に代えがたい魅力があると思うし、「Steam」クライアントによる管理はとても便利なので、今後も使い続けていくつもりだ。

 なお何らかの理由で「Steam」のサービスが利用できなくなった場合(自分自身がインターネット接続できない状況に陥るという場合も含む)、「Steam」のライセンス、すなわち利用しているゲームは全て電子の藻屑となる可能性がある。「Steam」にはオフラインモードがあるので救済策はありそうだが、そうなっても文句は言えないことになっている、ということは覚えておいてもいいだろう。

著者プロフィール:石田賀津男(いしだ かつお)

1977年生まれ、滋賀県出身

ゲーム専門誌『GAME Watch』(インプレス)の記者を経てフリージャーナリスト。ゲーム等のエンターテイメントと、PC・スマホ・ネットワーク等のIT系にまたがる分野を中心に幅広く執筆中。1990年代からのオンラインゲーマー。窓の杜では連載『初月100円! オススメGame Pass作品』、『週末ゲーム』などを執筆。

・著者Webサイト:https://ougi.net/

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