石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』

ゲーム配信は違法? ガイドラインの確認が唯一の解決方法

配信する方に筆者からお願いしたいたった1つのこと

ゲーム配信は違法?

ゲーム配信は何がダメなのか?

 突然だが、以下のうち、違法となる行為はどれ?

  1. 映画のDVDやBDを購入し、YouTubeにアップロードする
  2. 映画のDVDやBDを購入し、そのままライブ配信する
  3. 映画のDVDやBDを購入し、YouTuberとして感想を語りながら映像を流す
  4. 映画のDVDやBDを購入し、映画の一部を切り出し、YouTuberとして感想を語りながら映像を流す

 察しの良い方は、この問いで今回お伝えしたいことを理解されたと思う。今日のお題は、ゲーム配信である。先日、PC Watchでこの話題が掲載されたのだが、ゲームメディアにも長く関わってきた筆者の視点から、この問題について解説していく。

 この話は法律に絡み、厳密に話をするとかなり難しい内容になるため、ここでは極力かみ砕いてお伝えしていく。それでも今回はひたすらテキストが並ぶので、興味がある方は腰を据えてお読みいただきたい。

著作権について理解しよう

 先の問いの答えは、多くの方が『1と2はダメだ』と思うはず。3や4は『YouTuberの番組内ならいいんじゃない?』と思う方もいらっしゃるかもしれない。

 答えは、全て違法だ。

 映画のDVDやBDは、私的に視聴することが許されたもの。不特定多数が見られる場所で使ってはいけないので、映画館などで上映してはいけないし、YouTubeで誰でも見られる状態にしてもいけない。解説を加えようが、一部を切り出そうが、その点は変わらない。

 なぜいけないのかという根拠になるのが、著作権である。著作権についてざっくり言うと、『芸術や学術において制作・創作されたものは、勝手に複製したり、配布したりしてはいけない』ということ。

 自分が生み出したものを、他人が勝手にコピーしたり使ったりするな、ということだ。著作権などと言って法律を振りかざすまでもなく、一般常識の範囲で理解できるだろう。当たり前に守られるべき権利である。

 ではゲームにおける著作権は何なのか。ゲームには映像があり、音楽もあり、シナリオもあり、俳優などのキャラクターもいる。これは映画と共通しており、ゲームと映画は著作権的な考え方ではとても近い。

 という前提に立って、先の問いを少し変えよう。以下のうち、違法となる行為はどれか?

  1. ゲームソフトを購入し、プレイ映像をYouTubeにアップロードする
  2. ゲームソフトを購入し、プレイ内容をそのままライブ配信する
  3. ゲームソフトを購入し、YouTuberとして感想を語りながらゲームのプレイ映像を流す
  4. ゲームソフトを購入し、ゲームの一部を切り出し、YouTuberとして感想を語りながらプレイ映像を流す

 答えはもちろん、全て違法だ。要するに、ゲームの配信は全て違法である。これは大前提として覚えておいて欲しい。

所有権と著作権は別

 ここで先週の記事と内容が少し重なる。Steamでゲームを購入するというのは、ゲームの所有権を得るのではなく、利用権を得るのだ、という話をした。

 Steamを始めとしたデジタル配信されるゲームの多くは、利用権を得る。ROMカートリッジなど物理メディアで販売されるゲームは、その物理メディアの所有権を得る。そこが大きな違いである。

 しかし、これはあくまで物理メディアの所有権であって、ゲームの全ての権利を受け取ったわけではない。映画のDVDやBDを買っても、コピーしたり配信したりしてはいけないのと同じで、Steamでゲームの利用権を得ようが、物理メディアで購入しようが、ゲームをコピーしたり配信したりする権利は与えられない。

 所有権・利用権と、今回の著作権の話は、全く別だ。先週の記事は、ここで誤解を生まないために、今回の記事の下地として書かせていただいた(記事単体としても楽しんでいただきたいとは思うが)。

 購入することは所有権を得ることと考えるのが一般的だ。しかし著作物はそうはいかない。『自分が買ったものを自由に配信できないなんておかしいじゃないか!』という疑問は、先週の記事と合わせてご覧いただければ、『あくまでも個人的にプレイする権利を得ただけ』ということがご理解いただけると思う。

配信ガイドラインに沿うことが唯一の方法

カプコンの配信ガイドラインについてのWebサイト

 法律に違反しないで動画を配信する方法は、基本的に1つだけ。そのゲームのメーカーが公開しているガイドラインに沿って行うことだ。例えばカプコンは動画ガイドラインを公開している。この内容に沿っているならば動画を配信できる。対応はメーカー各社で異なるので、ゲームタイトルごとにご確認いただきたい。

 その上で注意していただきたいことがある。メーカーやタイトルによっては、ガイドラインが用意されていないこともある。この場合、そのタイトルあるいはメーカーの作品は配信すると基本的には違法となる。

 適法にしたいのならば、著作権者に使用許諾を得るしかない。しかし先述のカプコンのガイドラインには、『個人のお客様に対して、動画配信の許諾や、動画の内容に関するチェック・回答は個別に行っていません』とある。これはなぜか。

 答えは、多数の個人からの許諾請求に対応しきれないからだ。ビッグタイトルになればなるほど、配信許諾を欲しがる人の数は増える。個人の配信について1つ1つ許諾を求められたら、メーカー側としてはとても対応しきれない量になる。言い換えれば、営業を妨害されてしまう。ガイドラインは、そういった対応を避けるために“やむなく”用意されていると言ってもいい。

 そもそも、メーカーに対して『このゲームを配信したいので許可をください』と問い合わせをする人をどう思うだろうか。『わざわざ許可を求めるなんて、礼儀正しい人だ』と感じるだろうか? とんでもない。メーカー側から見れば、『あなたの著作権を無料で自由に使わせてください』と言っているのと同じだ。あまりにも虫が良すぎる。……という見方もできる。

メーカーにとってのガイドラインの存在価値

 ここまでの話を聞いてもなお、『違法だからと警察に捕まった話は聞かない。実際みんなやっている』と言いたい方もいるだろう。捕まった話は僅かにあるのだが、僅かしかないのも事実だ。

 違法行為をはたらく人がいっぱいいるのに、なぜ僅かしか捕まらないのかというのは、著作権の許諾を求める話と同じ。著作権者であるメーカーが、個人配信者を片っ端から訴える手間をかけていられないからだ。

 ガイドラインのない(あるいはガイドラインに沿わない)ゲーム作品の配信は違法であるという事実には変わりない。配信者は、『メーカーは全員を相手しきれないから、お目こぼししてもらっている状態』だと理解しなければならない。

 メーカーが配信ガイドラインを出しているのは、これらの対応の手間を減らすという意味もある。ガイドラインがなければ、正義に燃えた通報者達がメーカーに多数の動画や配信を通報し、その対応さえもメーカーの負担になる可能性がある。

 ガイドラインがあれば、配信者はガイドラインに沿うようにするだろうし、ガイドラインに沿っている限りは通報者も現れない(と思いたい)。メーカーにとっては、自身の著作物の権利を無償で貸し出すという太っ腹な行為を、否応なくせざるを得ない状況になっている、とも言える。

「ゲーム配信は宣伝になる」という主張もあるが?

 ではメーカーにとって、ゲーム配信は全て憎むべき違法行為なのだろうか? 必ずしもそうとは言えない。動画を見てその作品に興味を持ってくれる方も多いはずで、いわば宣伝になるからだ。

 しかし、ゲーム配信が必ずしもメーカーのメリットになるとは限らない。例えばミステリー系アドベンチャーゲームで、犯人やトリックをネタバレすると作品の価値を著しく損なう。結論を知った上で、なおゲームを買って遊ぼうという人は少ないことは容易に想像できる。このジャンルのゲーム配信については、開発者らが過去に何度も問題提起している。

 また筆者が経験した怖い話として、とあるゲームのレビュー記事に対していただいた感想に、『とても詳しく書いてくれてありがとうございます。ゲームを遊んだ気になれたので買わずに済みました』というものがあった。当時はとても落胆し、記事制作について大いに考えさせられた。

 しかしこれは珍しい話ではないと感じている。最近はゲームをプレイするよりもゲーム配信を見る方が楽しいとか、ゲームのプレイ時間より動画視聴時間の方が長いという話もよく聞く。

 動画を見ることでゲームに興味を持ってもらえることは、当然あるだろう。しかし、動画を見て『エンディングまで見られたから、自分でやらなくていいかな』とか、『自分でやるより上手い人の動画を見ている方が面白い』と感じることも多いはずだ。何より『お金を払わずにゲームを楽しめる』というのが大きい。

 まだガイドラインがどこにもないゲーム配信の黎明期に、ある配信者が著作権について問われた際、『宣伝になっているからメーカーにとっても有益』と答えたことがあった。そもそも著作権を侵害している側が言うべきことではないのだが、その内容すらも正しいとは言い切れない。配信動画によって奪われた購入機会も、確かにある。

ゲームあってのゲーム配信、ということを忘れないで欲しい

ゲーム業界のメリットになる配信を!

 ゲームを配信する方に、筆者からお願いしたいことがある。それは『自分の配信がゲームとゲーム業界の役に立てることを意識して欲しい』ということだ。

 これは筆者が記事を書く際に、念頭に置いていることでもある。ゲームを題材にして記事を書く仕事は、ゲームがなければ成り立たない。だからゲーム作品、その開発者、ならびにゲーム業界に関わる全ての方々への感謝の気持ちを忘れてはならないし、少しでもお返しができるよう尽力したいと思っている。

 実は記事というのは、肯定的な内容よりも批判する内容の方がウケがいい。ゲームの気に入らないところ、ダメなところをあげつらう方が、『痛快な記事だ』と言って多く読んでもらえる。面白かったと書くと、『また提灯記事か』と叩かれることも多い。

 それでも筆者は、ただ批判するだけの記事を書くつもりはない。ダメなところはダメと指摘したとしても、100人のうち99人からダメ出しされるとしても、そのゲームを喜んで遊んでくれるたった1人の方に向けて記事を書くつもりでいる。

 例えば、幼児向けのゲームを20代のゲーマーがプレイしても簡単すぎると評価されるだろうし、ホラー嫌いの人にスプラッター表現の強いゲームをやらせて楽しめる道理はない。それはゲームが悪いのではなく、作品のターゲットがずれているだけだ。開発者が作品を届けたいと思っている人は別に居る。それが100人に1人であるなら、その1人に正しく届けられる記事を作れればいい。

 ゲームを配信される方には、『これはクソゲーだ』などと罵倒する先に、開発者を始めとしたゲーム業界関係者、つまり生身の人間がいることを覚えていて欲しい。新たなゲームを生み出す彼らへの感謝を忘れず、より多くの方が自分に合うゲームに巡り合えるように気配りをしていただければ、筆者はとても嬉しい。

 著作権は法律という形になってはいるが、根幹にあるのは制作者への敬意であると思う。ガイドラインという形で許可を得たから何をしてもいいと思わず、開発者への敬意を忘れずに、ゲーム配信を楽しんでいただきたいと願っている。

著者プロフィール:石田賀津男(いしだ かつお)

1977年生まれ、滋賀県出身

ゲーム専門誌『GAME Watch』(インプレス)の記者を経てフリージャーナリスト。ゲーム等のエンターテイメントと、PC・スマホ・ネットワーク等のIT系にまたがる分野を中心に幅広く執筆中。1990年代からのオンラインゲーマー。窓の杜では連載『初月100円! オススメGame Pass作品』、『週末ゲーム』などを執筆。

・著者Webサイト:https://ougi.net/

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 PCゲームに関する話題を、窓の杜らしくソフトウェアと絡め、コラム形式でお届けする連載「石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』」。PCゲームファンはもちろん、普段ゲームを遊ばない方も歓迎の気楽な読み物です。