石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』

筆者の反応速度は235ミリ秒。「Aim Lab」で反応速度を計ってみよう

「Detection」で20回クリックするだけ。ソフトはSteamで無料配布

 PCゲームに関する話題を、窓の杜らしくソフトウェアと絡め、コラム形式でお届けする連載「石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』」。PCゲームファンはもちろん、普段ゲームを遊ばない方も歓迎の気楽な読み物です。

FPSの無料トレーニングソフト「Aim Lab」

「Aim Lab」のホーム画面

 先日、ASUSが「Aim Lab」とコラボしたゲーミングマウスを発売するというニュースが流れた。

 「Aim Lab」は、FPSやTPSのトレーニングソフト。Steamで無料配布されており、世界中で2,500万人以上が利用しているという。

 FPSやTPSを遊ばないという人には関係ないと思うかもしれないが、本作にはFPSに留まらない使い道がある。筆者は反応速度の測定に本作を使うことがある。

「Aim Lab」の「Detection」で反応速度を調べる

反応速度を調べられる「Detection」

 反応速度の測定は、画面の合図に合わせてマウスのボタンをクリックする、といったようなもの。FPSに限らず、アクションゲームなど素早い操作を必要とする際には、反応速度が優れている方が有利になる。

 反応速度を測定するソフトはほかにもあり、手頃なものだとWebブラウザー上で動くものもある。ただ、実行環境によって処理速度が変化したりして精度が落ちると困るので、なるべく一定したものを使いたい。そういう意味でも筆者は「Aim Lab」で測定している。

 測定方法は、本作に収録されている練習モードの1つ「Detection」を使用する。画面内のどこかに青いボールが表示されたらマウスを左クリックするだけの簡単な内容だ。合計で20回実施し、青いボールが表示されてからクリックするまでの平均時間がミリ秒単位で測定される。

「TRAINING」タブの下にある検索ボックスに「DETECTION」などと入力すると見つけられる

 これを繰り返すことで反応速度が向上するかどうかは、筆者は検証していない。1週間、あるいはそれ以上に毎日取り組んで、スコアが上がっていくということはあるのだろうか? 少なくとも人差し指の筋肉が鍛えられて速くなる程度の可能性はありそうだが。

 練習効果はさておき、“自分の現環境における反応速度がどのくらいなのか”は測定できる。

出てくる数値はプレイヤーの反応速度だけではない

 “自分の現環境における反応速度”と強調したのには意味がある。反応速度というと、プレイヤー本人がどれだけ速く反応できるのかを示すと思われるが、測定値はそれとは異なる。最も大きな影響を与えるのがプレイヤーの反応速度であることは確かなのだが、それ以外にもさまざまな要素が絡んでくる。

 順を追って説明しよう。まず「Aim Lab」がPCで実行され、画面にボールを表示させるという処理を行う。それを実際に表示するには、ビデオカードなどに搭載されたGPUを介して映像信号を作り、ディスプレイに送信する。映像を作り出す処理に僅かな時間がかかる。

 続いてディスプレイが映像信号を受け取り、その信号を画面に出力して表示する。受け取った信号を高画質化するなどの処理が挟まることもあるし、画面に表示する処理にも僅かな時間が必要になる。液晶ディスプレイであれば、パネルの種別や性能にもよるが、表示までに数ミリ秒かかるのが一般的だ。

 そしてディスプレイの映像を見たプレイヤーが、マウスをクリックする。その入力信号がマウスから出力され、USBや無線の電波を経由してPCに届き、「Aim Lab」が入力を受け付けるまでの時間もかかる。一般的なマウスでは1秒間に125回の信号を送るが、ゲーミングマウスでは秒間1,000回、あるいはそれ以上のものもある。つまり物理的入力に対して、入力信号が送信されるまでには僅かな遅延がある。

筆者が使用しているRazer製ゲーミングマウス「Viper Mini」の設定画面。ポーリングレートの値がマウスから送られる信号の送信頻度を表す

 ほかにも、使用するマウスのボタンの押し込みが重いか軽いか、ストロークが長いか短いか、なども差が出る要因になるだろう。最近はマウスのスイッチの種類によっても差が出るという話も聞く。

 これらの遅延の1つ1つは数ミリ秒、あるいはマイクロ秒単位になってくるが、それらを全部合わせた数値がスコアとして計測される。同じ人が「Aim Lab」で「Detection」をプレイしても、実行環境によって差が出る可能性は大いにある。

 筆者がまだ20歳くらいの頃、Webブラウザー上で動作するFlashアプリで反応速度を測定した時には、平均で200ミリ秒を少し下回る程度だった。当時はCRT(ブラウン管)ディスプレイを使っており、現在使用している液晶ディスプレイより表示遅延が少なかったと思われる。ディスプレイだけで比較すれば、今より20歳の頃の方が反応速度で有利な環境だったわけだ。

 ただし、当時のWebブラウザーやFlashアプリがどのような処理を経て数値を出していたかはわからない。「Aim Lab」とは違う処理なので、同じ環境で試せない以上は直接的な比較はできない。

複数環境でどちらの遅延が低いかは調べられる

 では、本作で反応速度を調べる価値はどこにあるのか。思いつく範囲では2つある。

 1つは複数の利用環境を持っている相対的な比較だ。例えば、デスクトップPCとノートPCを持っていて、双方で反応速度を試してみれば、どちらのPCの方が反応速度が優れているのか(あるいは差がないのか)がわかる。デスクトップPCの方が当然高性能だろう、と思っていたら、実はディスプレイの表示遅延はデスクトップの方が大きくて、ノートPCの方が好成績だった……ということも十分あり得る。

 ちなみに筆者は以前、リモートプレイ用のソフト「Steam Link」でどの程度の遅延が発生するかを確認するのに使用したことがある。

 厳密に言えば、筆者の反応速度は試行ごとに若干のブレがあるはず。また計れるのは相対値だけで、システム単体の遅延が何ミリ秒かといった絶対値は出せない。

 本格的に調べるには専用の機材が必要だ。例えば、NVIDIAはシステムの遅延を減らす「NVIDIA Reflex」を提供するとともに、システム遅延を計測する「Reflex Analyzer」という仕組みを用意している。ただしこれを使うためには、対応するディスプレイで対応ゲームを動作させる必要がある。それゆえ万人に勧められるものではなく、追加投資なく比較検証できる本作の方が便利に使えることは確かだ。

 なお、今回の記事執筆にあたり、改めて筆者の環境で反応速度を調べたところ、数回やって250ミリ秒前後、最速の回で平均235ミリ秒だった。ディスプレイは一般的な60Hzの製品なので、ハイリフレッシュレートで応答速度の速いゲーミングディスプレイならもっと縮まると思いたい。

 まあ45歳にしては上等だろう、と勝手に思っているが、読者の皆様の結果はどうだろうか。「私はもっと速かった」、「遅かったのはPCの問題だ」などと言いたいことが出てくるはず。それが2つ目の反応速度を調べる価値である。反応速度というものは、ゲーマーとしてはどうしても気になるし、他人に負けたくない数値なのだ。

筆者が「Detection」を数回プレイした中でのハイスコア。もう少し頑張れそうな気はするのだが……
画面のどのあたりに表示されたボールに、どのくらいの反応速度だったかという分析も見られる
「Aim Lab」ではほかにもさまざまなトレーニングメニューがある。中央から周囲へと連続で撃つ「Spidershot」は初心者の練習にもよいのではないかと思う

著者プロフィール:石田賀津男(いしだ かつお)

1977年生まれ、滋賀県出身
ゲーム専門誌『GAME Watch』(インプレス)の記者を経てフリージャーナリスト。ゲーム等のエンターテイメントと、PC・スマホ・ネットワーク等のIT系にまたがる分野を中心に幅広く執筆中。1990年代からのオンラインゲーマー。窓の杜では連載『初月100円! オススメGame Pass作品』、『週末ゲーム』などを執筆。

・著者Webサイト:https://ougi.net/

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