石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』
地球が凍り付く。「Frostpunk 2」の発売に備え、前作で-100度未満の恐怖を再体験
極限状態の人々の感情を、都市開発ゲームのシステムで表現する名作
2024年5月24日 06:55
筆者イチオシ作品の続編が登場
「Frostpunk 2(フロストパンク2)」が発売される7月26日まであと2カ月。地球全体が極寒の地となった世界を舞台とした「Frostpunk」から30年が経過し、そこで生き抜いてきた人々のやり取りを描く作品になるという。
筆者が「Frostpunk」を数年前にプレイした時には、その年のベストタイトルだと思った。それ以後も本作を超えるインパクトのある作品には出会っておらず、よほど心の琴線に触れる作品なのだと感じている。それと同時に、本作は見せ方が難しい作品でもあり、面白さが広く伝わっていないのではないかという気持ちも強い。
今回は発売が2カ月後に迫った「Frostpunk 2」の予習として、「Frostpunk」を改めて紹介したい。見た目にはそれほど派手さはないので、流し見されると全く面白さが伝わらない。しかしパニック小説を読むような、想像力をかきたてられる怖さがあるのだ。
極寒の僻地で生き残りをかけた人々の暮らしを描く
本作は19世紀末、産業革命後の蒸気機関が現実以上に発達したスチームパンクのような世界が舞台。「~のような」と表現したのは、いきなり世界が崩壊するからだ。
世界は突如として寒冷化し、地球全体が雪に覆われてしまう。食べるものがなくなり、街が雪に埋まっていく中、南へと向かった人々はそれが無意味なことだったと悟る。そしてロンドンの一部の人々は、逆に北の果てへと向かう。そこには資源が豊富にあり、ジェネレーターと呼ばれる巨大なストーブのようなものが建設されている。
過酷な旅を続ける中で脱落していく人も多く、ジェネレーターのある場所までたどり着いたのは、たった80人。しかもジェネレーターは動いておらず、その周囲には誰もいない。80人は極寒の地で、自らの力でジェネレーターを再起動し、生き抜かねばならない。
やるべきこと自体は単純だ。まずはジェネレーターに石炭を入れて動かす。幸い、石炭もジェネレーターの近くに落ちているので、拾って持ってくる。合わせて建物の素材となる木材や鉄くず、そして食料を集める必要がある。
画面を見ると、上部に-20度という表記があるが、これはそのまま気温を表している。ジェネレーターを動かせば、その周囲は10度温まる。また最も簡単な住居であるテントを建てると、その中は温度が10度上がる。
本作は10度単位で温度管理されており、気温をベースに、ジェネレーターや住居などによる温度上昇効果を足し算していく。ジェネレーターで温められる範囲にテントがあれば、テント内は差し引き0度となる。0度以上は人が暮らすのに快適と評価され、病気や凍傷のリスクがなくなる。よって人々がいる場所を0度以上に保つのが目標だ。
気温は日によって変動することがある。ゲーム開始時はしばらく-20度が続くが、数日すると-40度まで下がる。この状態だと、ジェネレーター付近のテント内部は-20度となり、前日までの屋外と変わらない。
気温が下がっても耐えられるようにする方法はいくつかある。ジェネレーターの火力を上げれば温度の上昇量が大きくなるし、より断熱効果の高い家を建てれば室温が上がる。ジェネレーターを規定出力以上で動かすオーバードライブで温度をさらに上げることも可能だが、長時間使い続けるとジェネレーターが爆発してしまう。
ジェネレーターの強化やよりよい住居を建てるには、ワークショップという建物を建て、研究を行う必要がある。時間をかけて研究することで、新たな建物を建てられるようになったり、ジェネレーターを改良したりと、街の暮らしを改善できる。
また研究を進めると、ビーコンという施設を作れるようになる。ビーコンがあれば外部を探索するスカウト部隊を派遣できるようになり、周囲の怪しいポイントを調査できる。うまくいけば途中ではぐれた人々を発見して連れ帰ることもでき、街の人口が増えていく。食い扶持は増えるが、仕事の手も増える。
こうしてより多くの人が快適に住める街を作り上げていく。その中で、住人がさまざまな無理難題を要求してきたり、意見の合わない人が暴れ出したり、作業中に突然死する人が現れたりして、決して平穏無事には進まない。
本作は街づくりシミュレーションと並べて紹介されやすいが、プレイ感覚は全く違う。追い詰められた人々の心理がそこかしこで描かれることで、住人はただの記号や数字ではなく、人間なんだというリアリティが生まれてくる。そこに感情移入し、恐怖感が引き起こされていくのが本作の魅力だと思う。
極限状態を淡々と描く、恐怖のリアリティ
筆者が本作に興味を持ったのもそんな人間ドラマがあると知ったからだが、中でも強烈に印象付けられたシーンがある。それがこちら。
これまで解説してきたゲームを先に進めていくと、気温は日々どんどん下がっていき、とうとう-120度まで達してしまう。現実の地球上で観測された最低気温は-100度にも届いておらず、それをはるかに下回る。世界中が雪に閉ざされ、必死に逃げてきた先で発見したジェネレーターを何とかやりくりして、数々の苦難を乗り越え多くの人を救出した先にあったのが、この超低温である。
外に出るのは自殺行為に等しいので、全ての人に仕事を休ませて家で待機させた。幸い、石炭や食料には備蓄がある上、どんな極寒でも働いてくれるオートマトンがいるので、当面は困らない。ただ最高級の家と最強のジェネレーターを動かして、なお室内温度は-30度。オーバードライブさせても-20度で、これでは住人が何日も耐えられない。
しかし無情にも、状況は悪化する。
最大の嵐がやってくると、気温はさらに低下し、-150度になる。家の室内温度はどう頑張っても-50度で、本作で最もハイリスクとされる極低温域に入ってしまう。室内温度が危険な家には氷のマークが付けられるが、一部の職場を除き、全ての家にこのマークが付く。
街中が凍り付くような状態に陥ったことは過去に一度もなく、終盤になって初めて経験する。家にいさせた住人たちも、ものすごい勢いで病気や凍傷にかかっていく。これまで多くの人々を迎え入れ、感情のやり取りを無数に見てきた街が、寒さという無感情で圧倒的な存在に押しつぶされていく様を、淡々と見せつけられる。
プレイヤーにできることは、嵐が過ぎ去るまでオーバードライブを動かし続ける努力をするのみだが、それでも極低温から逃れられず、気休めにもならない。果たして街はどうなってしまうのか。それを確かめたくてプレイし始め、そこに至るまでに想像を上回る衝撃を何度も受けることになった。
今回プレイした内容は、「新しい家」という本作最初のシナリオ。他にも環境や目的が異なるシナリオが複数用意されている。ただ、「新しい家」のインパクトはとても強く、本作の世界観をとてもうまく表現しており、筆者は一番気に入っている。そして場面によって変化する音楽がまた素晴らしく、特に終盤を大きく盛り上げてくれる。
本作は強烈な世界観とシンプルなゲームシステムによる完成度がとても高い作品だけに、果たして本作を上回る「Frostpunk 2」は生まれるのだろうか、という不安がとても強い。映像が綺麗になる以外に、まだやることがあるのかどうか。まずは本作を遊び直して気持ちを高めつつ、静かに真夏の発売日を待ちたい。
1977年生まれ、滋賀県出身
ゲーム専門誌『GAME Watch』(インプレス)の記者を経てフリージャーナリスト。ゲーム等のエンターテイメントと、PC・スマホ・ネットワーク等のIT系にまたがる分野を中心に幅広く執筆中。1990年代からのオンラインゲーマー。窓の杜では連載『初月100円! オススメGame Pass作品』、『週末ゲーム』などを執筆。
・著者Webサイト:https://ougi.net/
PCゲームに関する話題を、窓の杜らしくソフトウェアと絡め、コラム形式でお届けする連載「石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』」。PCゲームファンはもちろん、普段ゲームを遊ばない方も歓迎の気楽な読み物です。