石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』

「ドラクエ」に見るリメイクの“進化” ~レトロゲームのリメイク作品は今こそ遊ぶ価値がある

普通のPCで動かせるのもリメイク作品のメリット

「ドラゴンクエスト」リメイク版のゲーム画面

リメイク作品が増えてきた

 最近はレトロゲームのリメイク作品がとても多くなってきた。ゲーム文化が長くなってリメイク元になる作品が増えたことに加え、リメイク作品に対して反応が良い世代が増えたというのもある。

 昔遊んだゲームをまたやりたいという感覚は誰にもあると思うが、筆者はどちらかというと消極的だ。幼い頃から多数のゲームに触れてきたこともあってか、『せっかくなら未プレイの新作に時間を費やし、新たな体験を増やしたい』という思いが強い。仕事上、いろんなゲームを触っておくべきという強迫観念めいたものもあるが。

 しかし、最近はその考えを改めつつある。最近のリメイク作品に、改めて遊ぶ価値を感じることが増えたからだ。

リメイク版は高クオリティ版?

 ゲーム作品をリメイクすることの最大の価値は、今あるゲーム環境で過去の作品をプレイできることだ。数十年前に大好きだったゲームを今また遊ぼうと思うと、動作するハードとソフトを揃えるだけでも苦労する。メジャーなゲーム機ならまだしも、フロッピーディスク以前の古いPCゲームだったりすると極めてハードルが高い。

 インターフェイスや操作感が改善されるのも重要だ。例えば「ドラゴンクエスト」のファミコン版は、NPCに話しかける時に東西南北の方角を入力する必要があった。リメイク版ではキャラクターが向いている方に話しかけられる。

ファミコン版「ドラゴンクエスト」の画面。主人公が常に正面を向いていて、カニ歩きと揶揄された

 他にも映像や音響がリッチになり、作品全体のクオリティが上がる、というのもある。それでも、基本的なシステムや物語を変えるわけにはいかない。新鮮さや驚きはないから、未体験の作品に触れる方が体験は良質になる。

 ……というのが筆者の考えだ。こう考えるのはおそらく少数派で、多くの方は懐かしさから来る期待の方が大きいのだと思うが、『1回やった作品だから無理にやらなくていいか』という目を向ける方は少なからずいらっしゃるはずだ。

リメイク版で映像や音響は良くなったが、それだけなら無理してやらなくてもいい?

リメイク作品に新鮮さを与えてくれる大幅なアレンジ

 そんな筆者の考えが、最近は変わってきた。特に印象的だったのが、さきほど例に出した「ドラゴンクエスト」だ。先日登場したリメイク版をプレイして、『これなら遊んでみたい』と思える内容だった。

 「ドラゴンクエスト」のリメイク版は、ドット絵に3Dグラフィックスの効果をうまく融合させた、HD-2Dと呼ばれる技法で作られている。見た目のインパクトは大きく、それでいて原作のドット絵感も残すという、リメイク作品の限界を攻めるようなやり方だ。

 BGMもオーケストラの生演奏になった。作曲者のすぎやまこういち氏がファミコン版の作曲当時に頭の中で流れていたであろう、ある意味で本物のゲーム音楽の世界を堪能できる。

 ただ、これらは一言でいえば、映像と音声が美しくなっただけだ。出来の良し悪しはあれど、リメイクなのだから当然のことでもある。筆者が感じたすごさはそこではない。

 ストーリーの描写においては、ファミコン版当時は容量の限界もあり、入れられるテキストの量も限られている。それゆえ、シナリオを作成した堀井雄二氏が思い描いていた本作の世界観は、ゲーム中で語りきれてはいない。リメイク版では、ファミコン版になかったシーンや会話が大量に増えており、世界の描写がとても重厚になった。

ファミコン版にはなかった会話やイベントが大量に追加されている

 また1対1のバトルで単調だったところが、複数の敵が現れるようになったり、主人公に多くの技や呪文、装備品を追加したことで、格段に戦略性が高まっている。『初見でやられてから考える戦闘になった』という声も聞かれるなど、原作のイメージを一変させている。

1対多のシステム変更という思い切った調整が加えられた

 これらはゲームで描かれる世界を、ほとんど別物のように感じさせてくれる。ニュアンスとしては、後から要素を追加したディレクターズカット版に近いのだが、元が40年も前のゲームだけあって、昔遊んだのは体験版で、完成品を今になって遊んでいるかのような感覚にしてくれる。

 ゲームのストーリーやシステムにも大幅に手を加えてくれて、筆者が求める新鮮さや驚きもたっぷり加わっている。単に今風のシステムとクオリティで遊べるだけではない。ほぼ新作をプレイする感覚で遊べるのだから、筆者としても忌避する理由がない。むしろ新鮮さと懐かしさの両方を同時に味わえる稀有なコンテンツとして、非常に楽しめる。

ゲーム機もゲーミングPCも不要。普通のPCでも遊びやすい

 「ドラゴンクエスト」がこれほど踏み込んだリメイクを実現できたのは、国民的RPGと呼ばれる人気作品だからこそのアプローチではある。同じような大規模リメイクで商業的成功を見込める作品はそう多くはない。

ロマンシング サガ2 リベンジオブザセブン」は3Dグラフィックスを全面的に採用。劇的な変化を加えたリメイク作品だが、元々人気シリーズではある

 しかしそれは、時間がある程度解決してくれる。ゲームのハードウェアの進化とともに、開発環境も進化していく。時間が経つほど資料が失われ、原作の開発者の助言を得にくくなるという問題もあるのだが。

 リメイク元のチープな表現に対して、『足りない部分を想像力で補って楽しむのがいいんだ』という方もいらっしゃるかもしれない。昔の美しい(あるいは美化された)思い出を汚されたくないという気持ちも理解できる。そういう方に押し付ける気はないが、『こういう新解釈もある』くらいの気持ちで遊ぶのがいいと思う。映画の人気シリーズを別の監督が作ったらこうなった、みたいな感覚でいい。

ファミコン版の「ドラゴンクエスト」を否定する必要はない。これはこれで楽しめばいいし、大切な思い出として残り続ける

 弊誌の読者様には、『昔はゲームでよく遊んだけれど、最近はそうでもない』とか、『最新のゲーム機がなくて、新作を遊べる環境がない』という方も多いのではないかと思う。リメイク作品が発売されても、遊ぶ環境がないのでは話が始まらない。

 最近のゲーム作品は、任天堂などのファーストパーティ作品を除けば、マルチプラットフォーム展開するのが一般的になっている。そのプラットフォームには、家庭用ゲーム機だけでなく、PCも含まれる。「ドラゴンクエスト」のリメイク版も、PC版が用意されている。

 リメイク作品は、出発点がレトロゲームの復刻であることから、あまりマシンパワーを必要としないものが多い。PCでゲームというと、高価なゲーミングPCを必要とするイメージを持ってしまうが、「ドラゴンクエスト」は一般的なノートPCでも十分に動作する。

 もし気になるリメイク作品があるようなら、お手持ちのPCで動作するのかどうか、動作環境を確認してみていただきたい。「Steam」などのPCゲーム配信ストアを利用すれば、自宅にいながらゲームを入手できる。作品によっては体験版が用意されているので、実際に動かしてみるのもいい。

 『ゲーム機も、ゲーミングPCもないから関係ない』と諦めず、一度試してみていただきたい。懐かしくも新しいリメイク作品に、多くの方が出会えることを願う。

著者プロフィール:石田賀津男(いしだ かつお)

1977年生まれ、滋賀県出身

ゲーム専門誌『GAME Watch』(インプレス)の記者を経てフリージャーナリスト。ゲーム等のエンターテイメントと、PC・スマホ・ネットワーク等のIT系にまたがる分野を中心に幅広く執筆中。1990年代からのオンラインゲーマー。窓の杜では連載『初月100円! オススメGame Pass作品』、『週末ゲーム』などを執筆。

・著者Webサイト:https://ougi.net/

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 PCゲームに関する話題を、窓の杜らしくソフトウェアと絡め、コラム形式でお届けする連載「石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』」。PCゲームファンはもちろん、普段ゲームを遊ばない方も歓迎の気楽な読み物です。