特集・集中企画

AIは今年どうなる?セキュリティベンダーやPCメーカーなど5社に聞いてみた

Avast / Emurasoft / サードウェーブ / マウスコンピューター / リートンテクノロジーズ

 新年明けましておめでとうございます。

 新年といえば去年の振り返りと今年の展望ですが、今年気になるのは「AI」という人も多いでしょう。そこで弊誌では、AIに関する取り組みをいくつかのソフトウェアベンダーやPCメーカーにお伺いしました。

 コメントをいただいたのは、アバスト(Gen Digital)Emurasoftサードウェーブマウスコンピューターリートンテクノロジーズの5社(ブランド名50音順)。いただいたコメントはそのまま掲載していますので、各社が考える「今後のAI」の方向性、について参考にしていただければと思います。

株式会社ノートンライフロック アバスト事業統括部長 藤本善樹氏

●2023年、AIに関して取り組んだことを教えてください

 弊社は従来よりAIを駆使したデジタル脅威の検出ならびに対策の開発を行ってきました。2023年は、最新の脅威そのものが生成AIを活用して実行されることが増えてきたため、これに応じて研究開発のリソース配分を行い、技術的対策の強化を図っています。

●その反響はいかがでしたか?

 進化のスピードが増している「AIを活用した脅威への対応」は、我々セキュリティ対策提供者自身の進化が常に求められるものです。ですので、「万全です」といったコメントは言えないのですが、元々AI関連技術者を豊富に抱える弊社としては、決して未知の領域ではないため、現在の体制の持続的進化によってユーザーの保護強化を進めています。

●2024年、AIに関連した製品・サービスの予定や意気込みを聞かせてください

 まずは、AIを活用したフェイク文章によるフィッシングやディープフェイク(偽動画)のような脅威の検知・対策強化を中心に持続的なサービス強化を進めるとともに、新サービスの開発を行っていきます。

●長期的に見て、AIに期待することやAIで変わると思っていることを教えてください

 AIの活用領域はビジネス・個人両面で今後急速に広まり、我々がデジタルに依存する局面、度合いも増していくものと考えられるため、サイバー脅威への対策はこれまで以上に重要なものになると考えています。

Emurasoft, Inc. 江村豊氏

EmEditor Professional v23.0の実行画面

●2023年、AIに関して取り組んだことを教えてください

 EmEditor Professional v23.0では、ChatGPT を含む生成 AI を利用することを想定して、EmEditor 内で Web ブラウザを表示する機能を追加しました。

 この Webブラウザは、マクロと組み合わせて使用するように設計されているため、エディタ内の文書の一部を Webブラウザで表示されているサイトに送信したり、逆に、サイトの一部をエディタ内に取り込むことができるようになりました。

 参考までに、ChatGPTのサンプル マクロも公開しました。このようなマクロを書くことにより、アイディア次第で、各種 Web サイトのサービスの利用を自動化させることが可能になります。

●その反響はいかがでしたか?

 ポジティブな反響をいただいております。実際の言葉をそのまま引用させていただくと、「v23大変驚きました。ここまで作り込まれた素晴らしいブラウザ連携機能に感謝致します。」というメールをいただいたり、「ChatGPT.jsee macro sample is really impressive.」というフォーラムでの発言がありました。

 さらに、Google の AI 「Bard」を使用したマクロ (Bard.jsee) が、ユーザー様により公開されています

●2024年、AIに関連した製品・サービスの予定や意気込みを聞かせてください

 2023年、EmEditor v23 は文章を編集中に、EmEditor 内の Web ブラウザを通して生成 AI が利用できるようになりました。2024年は、この Web ブラウザを改良していくと同時に、Web ブラウザを通さなくても AI を利用できるような方法も検討していきたいと思います。

●長期的に見て、AIに期待することやAIで変わると思っていることを教えてください

 現在の生成AIは、主にテキストを通して行われているため、テキストエディターとの親和性が高いとも言えます。したがって、より多くのユーザー様が生成 AI を使用するために便利なテキスト エディターを選んでお使いいただけるのではないかと思います。

株式会社サードウェーブ 取締役 兼 最高執行責任者(COO)副社長執行役員 井田 晶也氏

●2023年、AIに関して取り組んだことを教えてください

 企業のお客様を対象とした“Dospara plus Synapse 2023~AIを知り、AIを活用する、 AIテクノロジー新時代がビジネスを変える~”を10月に開催しました。

 弊社を含め、合計10を超えるあらゆる企業、団体、大学からご登壇いただき、現在の取り組みや、映像・建築・システムなど、様々な分野でのAIの最新活用事例、今後の展開及び展望などを講演いただきました。

 更に、3月に行われ大変好評であったAIアートグランプリや、24時間AIハッカソン、AIに通じているゲストを迎えてのトークショーなどを盛り込んだ “AIフェスティバル”を11月に開催。アートグランプリとハッカソンは優秀な作品が数多く出品され、審査員を大いに悩ませました。各作品におけるクオリティの高さから、主催側も改めてAIの活用法は無限であると感じました。

●その反響はいかがでしたか?

 “Dospara plus Synapse 2023”は来場とオンライン視聴、合わせて1000を超える申し込みがあり、AIに関する関心の高さが伺えました。

 “AIフェスティバル”では、第二回となったアートグランプリへの応募が多かったのが印象的でした。これまでのアートとは異なる要素を具現化するということで、AIを使ったアートは多くの人の想像をはるかに超える世界観をもたらします。テレビを含め取材も多くあり、反響も大きかったと思います。

●2024年、AIに関連した製品・サービスの予定や意気込みを聞かせてください

AIにおける製品・サービスとして、まず私共の新しいサービス「raytrek cloud」がございます。これはPCを利用したクラウドサービスとして、画像生成やLLM、シミュレーションといったAIはもちろんCAD等の高度な処理能力が要求される用途でも利用可能です。一方製品として、2023年に発表したraytrek ワークステーション X4630のようなAIで利活用されることを想定したデバイスを随時発表していく予定です。

意気込みとしては、私たちの製品がテクノロジーの最前線を切り開くという強い信念を持っています。今日、AIは多くの分野で革命的な変化をもたらしており、私たちの製品もその中心になることで、

1.アプリケーションの開発を加速させユーザーに新しい体験を提供することにより、イノベーションの可能性を最大限に引き出します。
2.作業の自動化や効率化を可能にし、ユーザーがより創造的な作業に集中できるように支援します。
3.クラウドとの組み合わせによって、より精度の高い意思決定が可能となります。当社のサービスであるraytrek cloudでこのようなデータ駆動型のアプローチをサポートします。

●長期的に見て、AIに期待することやAIで変わると思っていることを教えてください

AIにより変わることとして、ビジネスや日常生活における意思決定のプロセスが大きく変化することが挙げられます。

AIは、膨大なデータを素早く分析し、より良い結果を導き出すことができ、より効率的で正確な意思決定が期待されます。これにより、企業はマーケットトレンドをより早く把握し、迅速な対応が可能になると考えられます。

また、AIの進化に伴い新サービスが生まれ従来からのビジネスやライフスタイルの変化が加速することが予想されます。AIが専門知識を要するタスクを担うようになると、人間はより創造的で戦略的な業務に注力できると期待します。 サードウェーブではAI技術の進化を通じ、より持続可能で効率的な世界の構築を目指してまいります。私共の製品やサービスが、この目標に向けた重要な一歩になることを願っています。

マーケティング本部 製品部 副部長 田村 繁甲氏(ノートブック製品プロダクトマネージャー)、マーケティング本部 製品部 エキスパート 林田 奈美氏(デスクトップ製品プロダクトマネージャー)

●2023年、AIに関して取り組んだことを教えてください

特にGeForce RTX 4090/NVIDIA RTX A6000などのハイエンドGPUを搭載したモデルを、画像生成AI向けパソコンと位置づけました。またNVIDIA RTX 6000 Ada2基搭載モデルも、LLMなどのAI学習用途にモデル化いたしました。
ノートブック向けのCPUでは、AMDがRyzen 7000シリーズでいち早くNPUを搭載しており、11/24からBIOSとドライバのアップデートによりRyzen AIの機能を有効化出来るようになりました。

●その反響はいかがでしたか?

AI用途で求めいただいているお客様のお声を複数頂戴しております。実際これらのハイスペックGPU搭載モデルについて、本年の出荷台数は例年に比べ明らかに伸びており、Ryzen AIについても、対応時期のお問い合わせを頂戴しておりました。

オンラインミーティングや配信などのニーズが増えており、背景ぼかしや音声ノイズ除去によるCPU負荷を軽減するNPUへの関心が高まっているように思います。

●2024年、AIに関連した製品・サービスの予定や意気込みを聞かせてください

引き続き、デスクトップならではのハイスペックGPUのモデル化について取り組んでまいります。また、ノートブックではNPU内蔵モデルを既にゲーム用途向けに販売しておりますが、来年は法人向けや一般向け、クリエイター向けにも搭載製品をご用意するのと、今後デスクトップ向けCPUにもAI演算に特化した機能が実装されていくと予想されますので、製品化に取り組んでいきたいと思います。

●長期的に見て、AIに期待することやAIで変わると思っていることを教えてください

今後、より一層AIは「特別なもの」「特定の人にしか使えないもの」ではなくなっていくと思います。インターネット接続や携帯電話が特別なものでなくなったときに対応するデバイスが一気に普及したように、「AIが使えるPC」が普及する未来を期待しています。

CEO 李世榮 (イ・セヨン)氏

●2023年、AIに関して取り組んだことを教えてください

CES2023で生成AIを活用した製品で革新賞を受賞しました。

2023年はGPT-4、Geminiなど多様なモデルが登場し、生成AIの「Act1」が始まった一年でした。「Act2」と「Act3」ではAIアプリとAIプラットフォームが登場すると予想しています。

リートンはプラットフォームを用意しています。GPT-4のようなSOTAモデルを無料無制限で使用できるプラットフォームを運営する一方、エコシステムを補完できるようにプラグインとRAG技術を研究しました。

韓国では20社の業界トップ企業とMOUを結び、180万人のユーザーにプラグインサービスを提供しています。リートンは、ユーザーが生成AIアプリやエージェントをLLM上に簡単に作って共有できるエコシステムがメガプラットフォーム達成のために必須だという考えを創業初期から持っています。そのため、今年の5月にリートンスタジオを開始しました。

「Act2」はカンブリア紀大爆発のようにエコシステム内の数多くの新しいモデルとアプリが登場し、生成AI市場の成長がより牽引され、生成AIプラットフォームも本格的に胎動し始めると予想しています。

●その反響はいかがでしたか?

リートンは今年3月から12月まで毎週平均10.04%水準で成長を繰り返してきました。

12月時点でのアクティブユーザーは、3月比で35倍の140万人に達する成長を遂げました。 韓国内の主要プラットフォームの事例と比べても、速い速度であると考えています。 「カカオトーク」が100万ユーザーを達成するまでにかかった時間は7ヶ月で、「Toss(※韓国で使われている決済アプリ)」は11ヶ月ほどかかりました。 リートンはカカオトークと同じような速度で、23年3月のサービス開始以来、7ヶ月で100万人を達成しました。 成長の勢いはさらに速まり、年内に200万人を超えると見込んでいます。 外部機関による該当統計では、リートンがChat GPTを除いて韓国内1位のプレーヤーとなったと発表されました。

●2024年、AIに関連した製品・サービスの予定や意気込みを聞かせてください

LLM Curationです。 私たちはこのテーマがメガプラットフォームを目指す上で、最も重要な要素の一つだと考えています。

リートンサービスの最大の強みは、GPTを含む高性能で多様な生成型人工知能モデルを無料・無制限で選択して楽しむことができるという点ですが、2024年にはこの機能をもう少し強化したいと考えています。 2024年のリートンでは、ユーザーがどのモデルを選ぶか悩まず、直接選ぶ必要もなく、ユーザー別のチャット状況に合わせて最適なLLMをリートンが直接選び、組み合わせて回答を提供します。

●長期的に見て、AIに期待することやAIで変わると思っていることを教えてください

業務効率の向上とエコシステムの構築です。

リートンは作業時間を短縮し、画像生成のように一般ユーザーが使えなかった機能も使えるようにしています。これにより約80万時間を短縮したと推算し、ユーザーがより重要な業務と創意的な仕事が出来る様になったと見ています。

エコシステムの構築として、誰でも簡単にプロンプト構築を学べるプロンプトソンを開催しており、教育現場から多くの講演依頼があります。教員のサポートも進めながらエコシステムを全方位に構築しています。

今年一年でリートンのエコシステムに入ったユーザーは200万人と推算しています。さらにAIアプリを作れるリートンスタジオとリートンストアを構築しました。作られたアプリの数は、リートンスタジオを発表した今年5月から集計すると1万5千以上に上ります。