トピック

「生成AIのコミュニティからスターを誕生させたい!」 アキバで開催される「AIフェスティバル」にかける意気込みとは?

「第二回AIアートグランプリ」や「24時間AIハッカソン」も開催、ちょまど氏や落合陽一氏も登壇

今年頭に開催された第一回AIアートグランプリの受賞作。AIフェスティバルでは、こうした作品も展示されるほか、第二回AIアートグランプリのプレゼンタイムも実施される

 11月3日・4日に秋葉原にて「第一回 AIフェスティバル Powered by GALLERIA」が開催される。

 このイベントは、まさに「AI」を軸とした総合イベントで、生成AIを主軸としたアートグランプリである「第二回AIアートグランプリ」(作品募集の締切は9月20日)のプレゼンタイムや「24時間AIハッカソン」(参加者の応募締切は9月30日)、そして落合陽一氏やちょまど氏も登壇するトークセッション、さらにAIが動作するPCやAIを使った作品に触れられる展示ブースなど、その内容も盛りだくさんだ。

 生成AIは昨年登場したテキスト生成AIChatGPTや画像生成AIのStable Diffusion、Midjourneyなどが爆発的にブレイクし、社会に浸透し始めている。今年に入ってからは次々と新技術や新サービスがお目見えしており、その勢いはとどまるところを知らない。

AIフェスティバルをスポンサードしている株式会社サードウェーブ 代表取締役社長 尾崎健介氏(左)とAI/ストラテジースペシャリストでAIアートグランプリ事務局を担当する清水亮氏(右)

 そんな生成AIをテーマにしたお祭りである「第一回 AIフェスティバル」をどんな経緯、目的で開催するのか、どんな人たちに参加して欲しいのかなどをスポンサードしている株式会社サードウェーブ 代表取締役社長 尾崎健介氏とAI/ストラテジースペシャリストでAIアートグランプリ事務局を担当する清水亮氏に伺った。

目次


生成AIコミュニティを応援するためにAIアートグランプリを開催

 2022年秋、生成AIが続々と登場して世を騒がせ始めたときに、すでに尾崎氏と清水氏は何度もディスカッションを重ねていたという。きっかけは、尾崎氏が生成AIのブームを目の当たりにし、何か生成AIコミュニティの役に立つことをしたい、と考えたこと。

 サードウェーブは以前からeスポーツのコミュニティを支援しており、eスポーツの大会を開催したり、常設のeスポーツ施設「LFS池袋esports Arena」を設立したりしている。

「当社はゲーミングPCや高性能なグラフィックス製品を製造、販売していますので、ユーザーの活躍の場を広げていきたいと考えています。そこで、eスポーツと同じように、AIアーティストの人たちが作品を発表する場ができればいいなと思っていました」(尾崎氏)

 尾崎氏から相談を受けた清水氏は、たくさんのアイディアを出し、その中からまずはAIアートグランプリの企画が進み始めた。ただ作品を発表するだけではなく、アートとしての文脈で見ることができる本物のクリエイターにコメントをもらうことで、参加した人にとっても大きなメリットになるのではないか、と考えたという。

 このディスカッションをしていた9月中旬に、「文化庁メディア芸術祭」が大阪で開催された。アートとエンターテインメントの祭典で、1997年から毎年開催されてきた。今回、25年の歴史を経て最後の開催になるため、清水氏も足を運んだそう。

「こんな素晴らしい芸術祭がなくなってしまうのか、と思ったのが、僕の中で審査員委会の人選に影響を与えました。「ほしのこえ」の新海誠さんのように、メディア芸術祭で注目され、その後メジャーになった人たちもいます。新しいスターが出てくる場所を作り、芸術の文脈を持ってる人たちによって選ばれなければいけない、と強く思いましたね」(清水氏)

河口洋一郎氏

 AIアートグランプリの審査員長にはメディアアーティスト・東京大学名誉教授 デジタルコンテンツ協会会長 河口洋一郎氏、審査員はイラストレーター・漫画家 安倍吉俊氏、映画監督 樋口真嗣氏、アニメ企画プロデューサー 諏訪道彦氏、弁護士 柿沼太一氏というダイバーシティのある顔ぶれが揃っている。

安倍吉俊氏。代表作は『灰羽連盟』『リューシカ・リューシカ』『serial experiments lain』など
樋口真嗣氏。代表作は『ローレライ』『日本沈没』『のぼうの城』『シン・ゴジラ』など
諏訪道彦氏。代表作は『名探偵コナン』『シティハンター』など
弁護士の柿沼太一氏

「じゃあもうすぐやろう」で始まった、AIアートグランプリ

第一回AIアートグランプリでは、279件の応募が集まり、5つの受賞作が選ばれた

 「年末くらいにAIアートグランプリの開催が決まって、じゃあもうすぐやろう、という話になりました」と清水氏。

 「すぐ」というのは本当にすぐで、1月15日に作品の募集を開始し、締めきりは2週間後の1月末。そして、3月に最終成果審査会を実施するというスケジュールだったのだが、なんと279件もの応募が寄せられた。

「最初は本当に何が来るか予想できませんでした。それこそ、Stable Diffusionでポンと出した1枚絵から、漫画、ゲームなど、作り込んだ作品が集まったのです。作品を審査員に見せるのですが、これは絶対通らないだろうと思った作品が通ってしまうこともありました。審査員によって引っかかるポイントが全然違うんです」(清水氏)

グランプリを獲得した「Desperado by 妻音源とりちゃん[AI]」

 最終審査作品として5作品が残り、最終審査を経て、松尾公也(松尾P)氏の亡くなった妻の音声と写真からAIで作成したミュージックビデオ「Desperado by 妻音源とりちゃん[AI]」がグランプリを獲得した。

「作品を作る際は、まずはクリエイターの発想があり、AIを道具として使うことが重要だと感じました。グランプリ作品は昔の奥様に歌ってもらうものでしたが、すごく愛があって、素晴らしい作品だと感じました」(尾崎氏)

「ちょっと早めの開催」は、劇的に進化するAI技術の進歩にあわせて

 大成功の第一回AIアートグランプリを受け、当然第二回の開催も求められたのだが、その開催時期をどうするかが悩ましいところだった。一般的なイベントであれば、また来年、となるところだが、色々な意見が出たという。

「生成AIの技術はこの数ヶ月でも格段に進みました。今なら、1月の時よりももっと凄い作品が作れるのでチャレンジしたいという声が寄せられたのです。そこで、ちょっと早めに第二回の検討をしませんか、と尾崎さんにお話しました」(清水氏)

 たった半年とは言え、テキスト生成AIや画像生成AIの性能は劇的に向上し、現在では音声や音楽、動画の生成AIも広まっている。そんなアーティストたちの熱量を受け止める形で、年内に第二回AIアートグランプリの開催が決まったのだ。

「第二回の応募作品は、動画が増えるでしょう。画力も上がっているので漫画みたいなもできるのではないでしょうか。ゲームもAIならではのものを考えやすいと思います。最近だと、映像から3Dモデルを生成できる「Gaussian Splatting」に注目しています」(清水氏)

「新しく出てくる作品、全部に期待しています。予想もできない作品をたくさん見られることが嬉しいですね。一人何作品でも応募できるので、今作っているものはすぐに応募してもらい、次の作品作りにチャレンジして欲しいです」(尾崎氏)


AIで一旗揚げるなら「24時間AIハッカソン」に挑戦してみては?

 第二回AIアートグランプリと同時に、以前から温めていた「AIハッカソン」のアイディアも実現することになった。第一回 AIフェスティバルは11月4日に開催されるのだが、その前日から「24時間AIハッカソン」が開催されるのだ。

「ハッカソンは、チーム戦で短期間で何かしらの結論を出すところが面白いと思っています。役割分担や時間配分をどうするのか、ある種のeスポーツです。限られた平等な時間の中で、自分たちの技術やセンスを見せつけて欲しいです。今から2か月後、AIの技術がどんな状態になっているかは誰にもわかりません。だから、お題は事前に出さず、現場で発表します」(清水氏)

ハッカソンは10チーム、2台のPCと24時間で結果を競う

慶應大学教授の増井俊之氏
エンジニア・漫画家のちょまど氏

 AIハッカソンは10チームが参加でき、1チーム最大5名まで。それぞれのチームにはサードウェーブがPCを2台用意、そのPCには「GeForce RTX 4070」が搭載されているという。審査員は、慶應大学教授の増井俊之氏と、エンジニア・漫画家のちょまど氏だ。

 24時間にしたのは、AIの学習時間を確保するため。48時間も検討したそうだが、今は、AIをファインチューニングする「LoRA」のような技術もたくさん出ているため、24時間にしたという。

「AIで一旗揚げようとしている学生さんの有志の集まりとかスタートアップなどが出てきてくれると嬉しい」

 AIハッカソンにはどんな人たちが参加するのだろうか?

「基本的にはプログラムを書けなくてもいいですが、最低限、AIを自分で使える人に参加して欲しいです。イメージとしては、AIで一旗揚げようとしている学生さんの有志の集まりとかスタートアップなどが出てきてくれると嬉しいですね。このハッカソンに参加することで、仲間との絆を深めたり、ライバルのチームと仲間になったり、ドラマが生まれ、そこから世界に羽ばたくような人たちが出てきてほしいと思っています」(清水氏)

 AIハッカソンの開催ももちろん、コミュニティの支援や活性化という目的がある。

「お互いが刺激し合って、コミュニティが活性化するのはハッカソンの本質です。参加する人たちがエキサイティングに競い合って、満足感を得られるのか、また参加したいと感じられるのかがすごく見物だと思っています。AIのユーザーやプレイヤー、アーティストたちにとって、秋葉原がAIの発信地になればいいなと考えています」(尾崎氏)


落合陽一氏やちょまど氏、八谷和彦氏などがトークセッションに登壇

 11月4日には、2つのトークセッションが行われる。

トークセッション「AIアートの今日と明日」

 まずは11時から「AIアートの今日と明日」で、ゲストはエンジニア・漫画家のちょまど氏、「第一回AIアートグランプリ」でグランプリを獲得した松尾公也(松尾P)氏、「第一回AIアートグランプリ」の準グランプリである小泉勝志郎(koizoom1)氏で、MCは経済キャスターの瀧口友里奈氏。

「非常に珍しい組み合わせですよね。ちょまどさんは生成AIはすごく面白いけど、自分で漫画を描くのが好きと言っていました。ごりごりのエンジニアでありながら、生成AIに対して、否定的でも肯定的でもないというポジションです。それに対して、生成AIの申し子みたいな小泉さんも滅茶苦茶キャラが立ってます。さらに、生成AIで亡くなった奥さんしか作っていない松尾さんが混じることで、どうなるかまったく予想できません」(清水氏)

エンジニア・漫画家のちょまど氏
「第一回AIアートグランプリ」でグランプリを獲得した松尾公也(松尾P)氏
「第一回AIアートグランプリ」で準グランプリを獲得した小泉勝志郎(koizoom1)氏

トークセッション「クリエイター/アーティストから見た生成AI」

 その後、「24時間AIハッカソン」のプレゼント審査結果発表、「第二回AIアートグランプリ」のプレゼンタイムがあり、15時から2つ目のトークセッション「クリエイター/アーティストから見た生成AI」が開催される。こちらのゲストはメディアアーティストの落合陽一氏、同じくメディアアーティストの八谷和彦氏、クリエイターエージェンシーのコルクを設立した佐渡島庸平氏の3人で、MCは同じく瀧口氏が務める。

「「宇宙兄弟」や「ドラゴン桜」などの編集を担当した佐渡島さんは背景や物語もAIに作らせているAIの使い手です。その漫画制作の話をしてもらいながら、落合さんがフルスロットルで何かをぶつけてもらい、それを大人の八谷さんがキャッチするという想定です。一種の空中ブランコのようですが、僕と毎月ラジオに出ている瀧口さんならまとめてくれるのではないかと期待しています」(清水氏)

メディアアーティストの落合陽一氏
メディアアーティストの八谷和彦氏
クリエイターエージェンシーのコルクを設立した佐渡島庸平氏

 AIアートグランプリやAIハッカソンに参加することで、このような著名人が登壇するようなイベントでグランプリを取れる可能性があるというのは、クリエイターにとってはモチベーションが上がることだろう。

 11月4日、ベルサール秋葉原で開催される「第一回AIアートフェスティバル」に行けば、最先端AIシーンの空気に触れることができる。今後、AIは急速に社会に浸透していくことは間違いない。まだまだ黎明期とはいえ、AIの驚異的進化はすでに始まっている。その発信地である秋葉原で、AIの可能性に触れてみてはいかがだろうか。

 そして、AIに可能性を感じている人は、ぜひ「第二回AIアートグランプリ」や「24時間AIハッカソン」への参加を検討してみよう。

「AIに可能性を感じる人、すべてに来て欲しい」

「何でもいいからAIを触ってみることが大事です。下手でもいいから形にして、参加してみましょう。今はまだプロのアーティストはあまり応募してきません。漫画家になりたかったけど絵が描けないから断念していた人は、今がチャンスです」と清水氏。

「第1回、第2回のアートグランプリ入賞作を展示しますし、AIが動作するPCが置いてあるブースもあり、AIを使った作品に触れられるいい機会だと思っています。AIに可能性を感じる人だったら誰でも来てもらえたらと思います」と尾崎氏は締めてくれた。

 「第2回AIアートグランプリ」は8月31日に募集を開始し、締め切りは9月20日。10月初旬に最終審査候補作品10作品が発表され、11月4日、ベルサール秋葉原にて最終審査会が開催される。「24時間AIハッカソン」の募集は9月30日まで。詳細に関してはこちらを確認して欲しい。