レビュー

「Rust」「Tauri」などのモダン技術で開発されたWin/Mac/Linux対応ファイラー「Spacedrive」

大手クラウドストレージに依存しないファイル管理を目指す野心的なプロジェクト

「Spacedrive」Alpha 0.1.2

 スマホで撮った写真、動画制作の素材、スプレッドシートやスライドといったオフィス文書――現在のデジタルライフにおいて、日々増える一方のファイルをどう管理していけばいいのかは常に悩みのタネだ。しかも、それらは大抵、複数のデバイスにまたがって保存されている。

 すべてをクラウドストレージに置くことができれば管理はシンプルになるかもしれないが、それにはサブスクリプション費用が重くのしかかる。ローカル管理のような検索性が得られるとも限らないし、海外のコンプライアンス基準に意図せず抵触してアカウントがロックされ、クラウドのファイルをすべて失ってしまったなどという事例を耳にすると不安も増す。

 今回紹介する「Spacedrive」は、そうした問題意識から始まったオープンソースプロジェクトだ。まだ開発初期のアルファ版のため、機能はそろっておらず、安定性も期待できないが注目に値するプロジェクトといえるだろう。

まだ開発初期のアルファ版

 「Spacedrive」のコンセプトは、「1つのエクスプローラーで、すべてのファイルを管理する」だ。技術的には、以下の2つが大きな柱となっている。

  • PRRTTスタックによるクロスプラットフォーム対応
  • 仮想分散ファイルシステム(VDFS)

PRRTTスタック

 「Spacedrive」では、以下のモダンなテクノロジーが採用されている。これらは頭文字をとって「PRRTTスタック」と呼ばれているようだ。

  • Prisma:いわゆる「ORマッパー」と呼ばれるデータベースライブラリ。「Node.js」と「TypeScript」向けに開発されており、モダンな設計が魅力
  • Rust:非力な組み込みデバイスにも耐えるメモリ効率、並列実行やメモリ操作における安全性、高い生産性を兼ね備えたシステムプログラミング言語。C/C++に代わる選択肢として注目されており、WindowsAndroidChromium(Google Chrome)などで少しずつ採用が進んでいる
  • React:Metaが中心となって開発が進むユーザーインターフェイス構築のためのJavaScriptライブラリ
  • TypeScript:Microsoft製のスクリプト言語。JavaScriptに型システムを追加して、大規模な開発にも対応できるように
  • Tauri:クロスプラットフォーム対応のアプリフレームワーク。Rustを採用し、「Electron」よりも軽くて速いフレームワークを目指す

 「Spacedrive」はWindows/Mac/Linuxで動作し、これまで一般的であった「Electron」で開発するよりも高いパフォーマンスが期待できる。将来的にはモバイルアプリ(iOS/Android)の提供も計画されており、それが実現すればどこでも利用できるファイラーとなるだろう。

仮想分散ファイルシステム(VDFS)

 Windows、Mac、Linuxではファイルを管理する仕組み(ファイルシステム)が異なる。そこで、「Spacedrive」ではそれらを抽象化した独自のファイルシステムが搭載されている。

 「Spacedrive」のファイルシステムは、名前や場所(パス)でファイルを区別する一般のファイルシステムとは異なり、ファイルの内容から一意のキー(ID)を作成し、それをもとに識別する仕組みになっている(CAS:Content-addressable storage)。これにより、OSやデバイス、ストレージの種類に依存することなく、統一されたAPIでファイルへアクセスし、編集できる。

 この仕組みはVDFS(virtual distributed filesystem:仮想分散ファイルシステム)と呼ばれており、いずれは複数の「Spacedrive」間でライブラリをP2P接続でデータベースをリアルタイムに同期できるようになる。そうすれば「OneDrive」や「Google ドライブ」といったビッグテックのクラウドストレージサービスに縛られずに済むようになるだろう。

 「Spacedrive」は指定したフォルダーを「ライブラリ」にまとめて管理する。このライブラリは、初期設定ダイアログで作成が可能。

 扱えるファイルはライブラリにあるファイルだけなので、「エクスプローラー」のように特定のシステム下でどこにどんなファイルがあるのかを知るのには向かないが、大量のコンテンツを検索・整理・閲覧するならば、はじめから大規模ストレージでのコンテンツ管理を考慮して開発された「Spacedrive」の「VDFS」が向いている。

初期セットアップで「ライブラリ」を作成。あとから追加することも可能
「ライブラリ」で管理するフォルダーを選択。なかのファイルに一意のIDが振られ、独自に管理される

今後に期待

 前述の通り「Spacedrive」はまだアルファ版で、開発も当初公表されたロードマップより遅れているようだ。現時点でライブラリの同期はまだ行えず、ライブラリ内のファイル閲覧、検索、タグ付けなどをサポートするに過ぎない。

統計情報をチェックできる[Overview]画面。「エクスプローラー」の[ホーム]画面に相当し、最近利用したファイルなどへのアクセスも提供する
タグでファイルを管理
バックグラウンドで行っているジョブを一覧
スペースキーでファイルをプレビュー。Macの「Quick Look」に似ている

 とはいえ、操作性は上々で、まだ機能が少ないことを差し引いてもパフォーマンスは良好だ。「AirDrop」のようなファイルのやりとりやメディアエンコード機能、自由に機能を拡張できるアドイン、ライブラリの暗号化といった新要素が予定されているので、今後の開発に期待したい。

ソフトウェア情報

「Spacedrive」デスクトップ版
【著作権者】
Spacedrive Technology Inc.
【対応OS】
Windows/Mac/Linux(編集部にてWindows 11で動作確認)
【ソフト種別】
フリーソフト
【バージョン】
Alpha 0.1.2(23/10/22)