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「Adobe InDesign」日本語版が25周年 ~“単なるローカライズではない” 日本市場と真正面から向き合った開発の原点

日本のDTP文化とともに進化するInDesignの軌跡、そして次の25年へ

 本コーナーでは、アドビ製品に関するナレッジや活用法について、公式ブログ「Adobe Blog」の掲載内容をもとに、アドビの各スペシャリストより直伝していただきます。気になるトピックスはブログ本編もぜひチェックしてみてください。
「Adobe InDesign」日本語版が25周年(画像は「InDesign 1.0」のスプラッシュスクリーン)

 2001年1月、日本語DTPの現場にひとつの転機が訪れました。「Adobe InDesign」日本語版の誕生です。

 2026年1月31日に開催された「InDesign 25周年記念オンラインイベント」は、その四半世紀の歩みを振り返りながら、次の未来へと視線を向ける場となりました。

 四半世紀前、DTPにおける日本語組版を取り巻く環境は決して理想的とは言えませんでした。縦書き、ルビ、禁則処理、約物の扱い――日本語特有の複雑で繊細な組版ルールは、欧文中心に設計されたDTPツールの枠組みでは十分に扱えなかったのです。多くのソフトウェアにとって、日本語は「後から対応する言語」にすぎませんでした。

 その状況を変えようとしたのが「InDesign 日本語版」(開発コードネーム「Hotaka」)でした。

 日本語を単なる翻訳対象としてではなく、独自の文字文化として真正面から捉える。日本語専用のテキストエンジンを構築し、日本のフォントメーカーや印刷会社と協業しながら、“日本語のために設計されたレイアウトエンジン”をゼロから作り上げる――それはローカライズの枠を超えた挑戦でした。

InDesign 25周年記念オンラインイベント | アドビ公式

アドビ会長兼CEO シャンタヌ・ナラヤンが語る「Hotaka」という存在

 イベントで寄せられたシャンタヌ・ナラヤンのビデオメッセージは、その本質を象徴しています。

 「Hotakaは単なるローカル製品ではなく、日本市場の文化や言語と向き合うというアドビの『約束』そのものだった」と。この約束の背景には、開発者たちの強い覚悟がありました。

Adobe 会長兼CEO(最高経営責任者) シャンタヌ・ナラヤン(Shantanu Narayen)によるビデオメッセージ

日本市場と真正面から向き合った開発の原点

 欧文前提で設計された「InDesign」に日本語を当てはめるのではなく、日本語という文化を起点にInDesign自体を再設計する。その決断は技術的にもビジネス的にも容易ではありませんでしたが、日本市場を尊重するという熱意がそれを後押ししました。

 InDesign 日本語版の誕生に深く関わり、アドビで長年グローバル戦略とプロダクトマネジメントを担ってきたプリシラ・ノーブルが振り返るように、InDesign 日本語版は「単なるローカライズではなかった」。文化に寄り添うプロダクトとは何かを問い続けたプロジェクトだったのです。日本の制作現場との対話を重ね、テキストエンジンそのものを再設計するという判断は、アドビ全体に「カルチャライゼーション」という思想を根付かせました。それは日本だけでなく、グローバルな製品開発にも波及していきます。

Adobe シニアディレクター ISPMのプリシラ・ノーブル(Priscilla Knoble)〈右〉と、Adobe ディレクター ISPMの石岡由紀〈左〉

 こうして生まれたInDesign 日本語版は、日本の印刷・出版業界に決定的な影響を与えました。

 縦組みや高度な禁則処理を前提とした安定した組版環境は、雑誌や書籍、商業印刷の制作フローを刷新し、制作現場の標準ツールとして定着していきます。紙とデジタルの境界が曖昧になるなかでも、InDesignは単なるレイアウトソフトではなく、制作フロー全体を支える基盤へと進化しました。

 その進化を支えたのは、開発者だけではありません。現場で日々使い込み、「もっとこうしたい」という声を上げ続けたユーザーたち、勉強会やコミュニティで知見を共有してきた人々の存在が、InDesignを磨き上げてきました。スクリプトによる自動化、組版ルールの共有、教育現場での活用――日本独自のDTP文化は、InDesignとともに深化し、その知見はやがて世界にも影響を及ぼします。

InDesign 次の25年へ──ともに創り、ともに進化するInDesign

 25周年イベントには、ベテランから新しい世代まで1,000人を超える参加者が集い、開発当時の苦労話や現場のリアルな声にうなずき合いました。それは単なる記念行事ではなく、「ともに歩んできた時間」を確かめ合う場でした。

「InDesign友の会」と呼ばれたこの場は、アドビとユーザーが直接つながる貴重な機会であり、InDesignを業界のスタンダードに押し上げた
「InDesign 25周年記念オンラインイベント」のパブリックビューイング会場に集まったメンバーとの記念写真

 振り返れば、InDesign 日本語版の歴史は、日本語という文化を尊重しようとした開発者の情熱と、それを現場で育て続けたユーザーの熱意が交差して生まれた物語です。日本語DTPの可能性を広げ、制作フローを革新し、出版・印刷の現場に新たな基盤をもたらした25年。そしてその精神は、これからも変わらないでしょう。

 創る人とともに考え、ともに進化する。「Hotaka」に込められた約束は、次の25年へと受け継がれています。InDesignの物語は、いまもなお、日本のクリエイティブの現場で書き続けられているのです。

参考ブログ:Adobe InDesign 日本語版 25周年イベント開催レポート|日本のDTP文化とともに歩んだ軌跡、そして次の25年へ

著者プロフィール:Takashi Iwamoto

アドビ株式会社 / Creative Cloud セグメントマーケティング部 マーケティングマネージャー

2004年にアドビ システムズ社に入社。Illustrator、Photoshop、InDesignなどのデザインツールを担当。一貫して広くデザイン、印刷市場へ最新製品を訴求。担当製品も多く、Adobe FontsやAdobe Fresco、Creative Cloudで新たに追加されたサービスやツール、モバイルアプリにも注力をしている。

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