生成AIストリーム

コンサルのコンサルをAIにやらせたら、爆速見積もりツールが出来上がっていた話

速さだけじゃない、経営を考え、組織の底力を変える最新手法の共有

コンサルのコンサルをAIにやらせたら、爆速見積もりツールが出来上がっていた話

 こんにちは、しらいはかせです。筆者は普段、AICU Japanという会社で『つくる人をつくる』をビジョンに、生成AIやメディア芸術の研究・実践を行っています。最近はAI駆動のゲーム開発をGoogle東京キャンパスの一角で推進しています。

 さて、読者の皆さんは『Webサイトを作りたい』と相談されたことはありますか? コンサルタントでなかったとしても、エンジニアやIT部門にいると、社内外から『ちょっとサイト作ってほしいんだけど……』と声をかけられる場面は、きっと一度や二度ではないはずです。

 今や「Claude Code」を使えば、コーディング自体は驚くほど速くなりました。モックアップなら1日で動くものが出てきます。ところが、筆者がコンサルティングの現場で痛感しているのは、 コードが速く書けるようになっても、人との対話にかかる時間は減らない。むしろ増える ということです。

「バイブコーディングで1日」の前にある、もっと大事な工程

 ある日、知人の起業家から『サイトを作りたい』と相談を受けました。ビジョンはある、やりたいこともある。でも「いくらかかるの?」がわからない ――毎回同じ風景です。

 筆者はいつものようにヒアリングを始めました。業種は?ターゲットは?ページ数は?決済は必要?多言語対応は?既存のドメインやサーバーはある?などなど……。

 問題は、このヒアリングに毎回2〜3時間かかることです。そしてヒアリングの後に、業務フローの整理、サイトマップの作成、工程表の策定、そしてようやく見積もりができる状態になります。コーディングに入る前に、数日かかってしまうこともありますし、判断する側も時間がかかってしまいますと、熱も冷めやすくなります。そしてその期間の拘束作業は誰も報酬を払ってくれるわけではありません。

 「Claude Code」がどれだけ速くても、ここは短縮できません。なぜなら、この工程の本質は プログラミングではなく、対話 だからです。相手の事業や『まだ見ぬサイト訪問者』を理解し、言語化されていない要望を引き出し、技術的に実現可能な形に翻訳する。これは人間にしかできない ――少なくとも、今のAIには1人でできない仕事です。

 そしてふと気づきました。『この対話、毎回同じ構造だな』と。

「繰り返しパターン」の発見 ――コンサルの暗黙知を構造化する

 異なる業種でも質問の構造を抽象化すると似ている。違うのは回答だけ。そして回答から構築するべきサイトの要素も、見積もりの骨格もほぼ自動的に決まる。

 ならば、このヒアリングの 構造 そのものをプロダクト化できるのではないか?

 ここで筆者が試みたのは、コンサルタントとしての暗黙知をLLMの力で構造化することでした。具体的には、「Claude」のアプリ版で過去のヒアリング記録を分析し、質問の依存関係を整理しました。

 たとえば、『ECサイトを作りたい』と答えた人には決済機能の質問が必要ですが、コーポレートサイトには不要です。『多言語対応が必要』と答えた人には対象言語の質問が続きますが、国内向けなら飛ばせます。このような条件分岐を含む 39の質問 に整理して、「Claude」との壁打ちで5時間ほどで完成し、実際にお客様向けに使える状態に至りました。

 興味深いのは、LLMに『Webサイト構築のヒアリング項目を作って』と頼んでも、この構造は出てこないということです。出てくるのは一般的なチェックリストであって、実際にクライアントと向き合った経験から生まれる 質問の順序 条件分岐のタイミング は、人間のコンサルタントの中にしかありません。AIは構造化の加速装置であって、構造そのものを生み出すのは人間の経験です。

39問のヒアリングツール「AIQ」 ――技術的な舞台裏

 こうして生まれたのが、対話型ヒアリングツール「AIQ: Quick Site Estimate」です。

「AIQ」

 技術的な構成を紹介します。フロントエンドはReactで構築し、質問は8カテゴリに分類しています。

  • 🏢 企業情報(5問) ――業種は総務省の日本標準産業分類に準拠
  • 🎯 プロジェクト目標(5問)
  • 📋 現状環境(5問) ――既存サイトやドメインの有無
  • 🏗️ サイト設計(6問) ――ページ数、機能要件
  • 🎨 ブランディング(5問)
  • 🤖 AI活用(4問) ――チャットボット、画像生成、翻訳など
  • 📊 SEO・マーケティング(4問)
  • ⚙️ 技術・運用(5問) ――ホスティング、セキュリティ要件

 業種の選択肢を産業分類に準拠させたのは、単なるこだわりではありません。公的補助金などが各自治体から募集されますので、そのフォーマットに合わせています。農業の方と情報通信業の方では、サイトに求めるものがまったく違います。その違いを最初の一問目から回収することで動的な分岐も作りやすくなります。

 なおセキュリティ面ですが、回答はWebブラウザーのlocalStorageに自動保存されます。途中でやめても続きができます。忙しい経営者の方が移動中にスマホで少しずつ答えて、自分の事業を見直す。そんな使い方ができるように設計しました。送信ボタンを押すまでデータは外部に一切送信されません。

「AIQ」のプログレスバーとカテゴリナビゲーション

バイブコーディングで実装した部分と、そうでない部分

 「AIQ」の初期の実装自体は「Claude Code」を使ったバイブコーディングで、その後はGitHubと「Visual Studio Code」、Cloudflareを使った“AI駆動開発”です。フロントエンドは約2日で動くものができました。運用コストはほぼゼロです。
最近のCloudflareの凄さについてはこちらにまとめておきました

 しかし、サーバー技術以外に費やした時間のほうがはるかに長い。過去のヒアリング記録の分析から提案に3日、「Claude」との質問構造の壁打ちに5時間、実際のクライアントにテストしてもらってのフィードバック反映に1週間。さらにこの「AI駆動開発」をお客様の経営層やコンテンツ担当者に向けて勉強会を1日かけて実施するところまでがパッケージです。使うのはGitHubとVSCodeだけ。実際に使えるところまで行って、自社でAI駆動開発が運用できてこそのAIでのコストダウンですからね!

企業向けのワークショップ資料などはこちらから

 これが、AI時代のソフトウェア開発の実態だと筆者は考えています。コーディングはAIで加速できる。サーバー費用もゼロ。SaaSもツールも不要。でも、要件を定義するための経営者や設計者との対話は加速できない。むしろコードが速く書けるぶん、『要件が曖昧なまま作り始めて、後から全部やり直し』というリスクも高まります。経験あるコンサルタントのよるチャット形式の質問で質の高いヒアリングに時間をかけて、実際に現場でAI手法を運用するためのワークショップを自社の実力にする。 従業員の底力アップも含めての価値 は、AI時代にこそ上がっているのです。

予想外の副産物 ――クライアントの「自己理解ツール」になっていた

 「AIQ」を何人かのクライアントに使ってもらって、予想外の反応がありました。『見積もりよりも、39の質問に答える過程で自分の事業が整理された』というのです。
 考えてみれば当然です。『ターゲットユーザーは誰ですか?』、『競合との差別化ポイントは?』、『3年後にこのサイトがどうなっていてほしいですか?』 ――これらは見積もりのための質問であると同時に、事業戦略の根幹を問う質問でもあります。

 コンサルの暗黙知をツールに落とし込んだら、結果的にクライアントの自己理解を深めるプロダクトになっていた。これは筆者にとっても嬉しい発見でした。最近では補助金の申請のための分析・提案の整理ツールとしても活用しています。

読者の業務にも『構造化できる繰り返し』は眠っている

 ここまでの話を一般化すると、こういうことになります。

  • あなたの業務に『毎回同じ質問をしている場面』はありませんか?
  • その質問には条件分岐やパターンがありませんか?
  • その構造を整理すれば、「AI時代のヒアリングツール」になりませんか?

 IT部門なら、社内からのシステム導入相談。営業なら、新規クライアントへの初回ヒアリング。人事なら、採用面接の評価項目。どれも『質問の構造は同じで、回答が違う』という共通パターンがあるはずです。

 それらを個々の社員がLLMに丸投げしても良い構造は出てきません。でも、あなたの経験を専門家にしてヒアリングするツールを作れば、構造化は圧倒的に速くなる。「Claude Code」で実装すれば、動くツールが数日で手に入る。組織の力も高まり、拘束時間は減らせます。 ボトルネックは技術ではなく、あなたの暗黙知を言語化すること です。

まとめ:AI時代に価値が上がるのは「対話」

 今回のポイントをまとめます。

  • コードが速く書ける時代だからこそ、要件定義のための人間との対話の価値が上がっている
  • コンサルティングの暗黙知(質問の構造・順序・条件分岐)はチャット形式の質問で構造化を加速できる
  • 39問のヒアリングツール「AIQ」は、「Claude」との壁打ちで質問設計、「Claude Code」で実装 ――コーディングは全体の2割以下
  • 予想外の副産物として、クライアントの自己理解を深めるツールにもなった
  • 展開のための勉強会ワークショップの方がむしろ大事
  • 読者の業務にも「構造化できる繰り返しパターン」が眠っているはず

 バイブコーディングの時代、『コードを書く速度』で競争しても意味がありません。差がつくのは、『何を作るべきか』を定義する力 ――つまり、人と向き合い、言葉にならない要望を引き出す対話の技術です。皆さんの日々の業務でも、『繰り返しヒアリングしているな』と感じる場面があったら、それをツールにしてみませんか?

【関連・応用例】

 生成AI分野における国際間の意識調査を行なっています。お気軽にご参加ください。

しらいはかせ(白井暁彦)X@o_ob

AICU Japan株式会社 X@AICUai 代表/作家/生成AIクリエイター/博士(工学)。

「つくる人をつくる」をビジョンに、世界各地のCG/AI/XR/メディア芸術の開発現場を取材・研究・実践・発信している。