石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』
「日清ゲーミングカップヌードル」発売 ゲーミングフードとは何か、存在意義を紐解く
歴史と成分から考察、肝心のお味は?
2023年9月29日 11:00
PCゲームに関する話題を、窓の杜らしくソフトウェアと絡め、コラム形式でお届けする連載「石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』」。PCゲームファンはもちろん、普段ゲームを遊ばない方も歓迎の気楽な読み物です。
「ゲーミングカップヌードル」が発売
最初にお断りしておくが、今回はソフトウェアの話ではない。食べ物の話だ。
9月18日、日清食品から「日清ゲーミングカップヌードル エナジーガーリック&黒胡椒焼そば」と「日清ゲーミングカレーメシ エナジージンジャーキーマカレー」が発売された。
本製品のニュースリリースには「バフメシ」という表現が使われている。バフとは、ゲームでキャラクターの能力を強化するという意味の言葉。「バフメシ」はゲーム内のことではなく、リアルのプレイヤーを強化するご飯ということだろう。「バフメシ」の意味がわからなくとも、商品名の「ゲーミングカップヌードル」で何となくイメージは沸くかもしれない。
筆者はゲームへの興味は濃いが、食への興味が非常に薄く、「炭水化物を食っていれば死なない」とつぶやいて日夜インスタント食品やレトルトを食する生活を長くやっていた。今は家族のおかげで健康的な食生活をしているが、たまにインスタント食品を摂取しないと禁断症状が出る気がする。
そこに登場したのが今回の「ゲーミングカップヌードル」である。ただ食べてレポートするだけでは面白くないので、そもそもゲーミングフードとは何なのか、歴史を考察しながら存在意義を解説していきたい。
ゲーミングフードの定義を考える
ゲーミングフードという言葉や商品は、まだ世の中にほとんどない。飲食物でゲーム絡みのものとしてはドリンクがあるが、これもゲーミングドリンクというような呼び名はあまり聞かない。ただ、ゲーム向けのドリンクというくくりでは、かなり昔から存在する。
筆者の記憶の中で最も古いゲーム向けのドリンクは「BAWLS」だ。米国発の飲料だが、2000年前後から日本にも少量輸入されており、ネットゲームカフェの先駆けであった秋葉原の「Necca」などで売られていた。ガラナを由来とした高カフェイン飲料である。現在は国内では入手できないようだ。
またここ10年ほどでは、エナジードリンクがゲーム向けとして紹介されることも多くなった。「レッドブル」が熱心にゲームイベントやプロゲーマーのスポンサーになったのが先駆けだったのかなという印象で、その後は各社からゲーム向けとしたエナジードリンクが販売されている。東京ゲームショウでブースを出したり、ドリンクを配布したりする姿も見かけるようになった。
飲み物ではなく食べ物で言えば、手を汚さずにスナック菓子を食べられるグッズがゲーム向けとして売られたことはあるが、食べ物そのものでゲーム向けとされるものが大々的に売られた記憶はない。そういう意味でも、「ゲーミングカップヌードル」という名前を冠した本製品は実にチャレンジングである。
エナジードリンク成分入りのカップヌードル
ではゲーミングカップヌードルという商品の意義はどこにあるのか。ポイントは、カフェイン、アルギニン、ナイアシンを配合していることだ。これらは疲労回復や集中力増強などの効果が期待できる成分で、エナジードリンクにもよく入っている。
対戦ゲームでは瞬時の判断が求められるので、疲労を軽減させて集中力を持続させることが勝利につながる、ということだろう。加えて糖分によるエネルギー補給も脳には重要だ。これらを手軽に摂取できるエナジードリンクがゲームに適するというわけだ。
本製品は、これをドリンクではなく食べ物として摂取するということ。食べ物だけでエナジードリンクの成分も摂取できれば、飲み物はエナジードリンク以外のものを選べる。エナジードリンクは大抵が強炭酸だったり、独特な薬品臭があったりして苦手な人も多いので、1つのメリットと言えるだろう。
さらにコストパフォーマンスにも優れる。エナジードリンクは飲料としては高価なものが多いからだ。本製品も定価で302円と、普通のカップヌードルの254円よりは高価だが、エナジードリンクが不要になる差額を考えると割安だ。また食べ物とエナジードリンク成分が一度に摂取できると考えれば、タイムパフォーマンスも優れており、オンラインゲームで何かと時間に追われるゲーマーにとってはありがたい。
あとは小腹が減った時にインスタント麺を食べる際、ゲーミング向けの「バフメシ」として食べるなら有意義で、深夜に食べるにしても罪悪感がちょっと薄れる……かもしれない。
発表当初からイロモノ感がすごい本製品だが、ゲーマー目線で考えると絶妙なところを突いた商品であると思う。あとは味が好みに合うかどうかだけだ。
いざ実食。意外と普通に食べられる味?
では実際の商品を見ていこう。今回は2つの商品が発売されたが、筆者はカップ焼きそばが好物なので、「日清ゲーミングカップヌードル エナジーガーリック&黒胡椒焼そば」を購入した。
パッケージはカップ麺ではあまり見かけない、黒をベースにカラフルな色どり。LED装飾を施したゲーミングPCをイメージしているのだろう。ゲーミングドリンクをうたう商品も似たような傾向だ。
見た目も名前もカップヌードルだが、商品としては焼きそば。汁があるラーメンはPCやゲーミングデバイスの近くに置いておきたくないので、焼きそばの方が適当だ。作り方は、中にお湯を入れて3分待ち、湯切り口から湯を捨て、中に入っている特製醤油だれをかけて、混ぜれば完成。ソース味ではなく醤油味の焼きそばのようだ。
原材料を見ると、早い段階で香辛料としてガーリックが出てくる。また後ろの方にはアルギニン、カフェイン、ナイアシンという文字が並ぶ。この辺りが本製品の肝になっていそうだ。麺にかけるたれは醤油と、香辛料としてガーリック、ペッパー、ジンジャー。構成的には焼肉のたれっぽい。
内容量は85g、麺は73g。カップヌードルはそれぞれ78g、65gなのでやや多めになっている。カロリーは386kcalで、これもカップヌードルの351kcalよりやや多いが、大人の1食分としては足りない。食塩は4.5g相当。
注意書きには、熱湯の扱いのほか、カフェイン含有のため子供や妊婦、授乳中の方は控えるようにとされている。
では蓋を開けてみよう。中を覗き見ると、いわゆる謎肉やエビが入っており、普通のカップヌードルとよく似ている。においも普通のカップヌードルと似ているがやや控えめ。湯切りするのでそれほど味付けはされていないのかもしれない。
お湯を注いで3分待ち、湯切りをしようとしたところ、なかなか難しい。一般的なカップ焼きそばとはカップの形が違い、蓋が半分開いているので、あまり逆さに向けるとこぼれてしまいそうだし、強くも振れない。またカップ部分が薄く、手が熱くなる。
たれをかけてみると、とにかくにんにくの匂いがすごい。個人的には好きだが、食後に人に会うのは控えたい気持ちになる。これで調理は完了だ。
食べてみると、匂いの割に味はおとなしい。醤油ベースで、コショウが少し効いているが辛くはない。醤油より胡椒の効いた塩焼きそばに近い感じだ。まあまあ美味しいが、味だけで評価するなら、それほど特筆すべきものはない。名前やパッケージから想像するほどのインパクトはなく、普通に食べられる。
作りやすさ、食べやすさで言えば、一般的なカップ焼きそばスタイルの平たい容器や麺がよかったと思う。カップヌードルのネームバリューや、置き場所を取らない点を重視したのかもしれない。
現在は食後4時間ほどが経ったが、確かにいつもより疲労感が少ないようには思う。エナジードリンクほど無理やり引き上げられた感じはなく、食後の眠気や倦怠感がなかったという程度だが、案外このくらいが良いバランスのようにも感じる。逆に眠い時に食べると寝られなくなる心配もあるので、食べるタイミングはエナジードリンクと同じようによく考えた方がいいだろう。
頑張りたい時ならゲーム以外でも。できれば「完全食」と一緒に
本製品について個人的見解をまとめると、「エナジードリンク成分入りのカップ麺。にんにくの匂いは強いが、味は案外食べやすい」という感じ。ゲームプレイ時だけでなく、仕事をがんばりたい時の手軽な食事としても良いと思う。ただし匂いがそこそこ出るので周囲への配慮をお忘れなく。
その上で筆者から1つ物申したい。ゲーマーはこれを食べるのもいいが、栄養バランスを整えた完全食も選択肢に入れて欲しい。ゲームに夢中で文字通り寝食を忘れるなら、せめて栄養バランスのとれた食事をとって、健康度を少しでも上げることで、長い目で見ればゲームのパフォーマンスも、先々の人生の質も上がりそうに思う。
そして完全食なら、同じ日清食品から「完全メシ」が発売されており、焼きそばなら「完全メシ 日清焼そばU.F.O. 濃い濃いお好みソース焼そば」がある。価格は429円とカップ麺にしてはかなり高いが、栄養バランスの取れた食事を考える手間賃と思えば悪くない。カロリーは487kcalだが罪悪感はゼロ。
「ゲーミングカップヌードル」と「完全メシ」はどちらが良い悪いではなく、必要に応じて使い分けられればいいと思う。ゲーマーは両方とも常備しておくと重宝するだろう。
余談だが、千葉県在住の筆者が発売日の9月18日に近隣のスーパーやコンビニ、ドラッグストアなどを10軒ほど駆け回って探したものの、「日清ゲーミングカップヌードル」は1つも見つからなかった。「禁制品扱いで下総の関所を越えられなかったのだなあ」とつぶやきつつ、ヨドバシカメラの通販で購入した次第。長く全国展開する商品になってくれるといいのだが。
著者プロフィール:石田賀津男(いしだ かつお)
1977年生まれ、滋賀県出身
ゲーム専門誌『GAME Watch』(インプレス)の記者を経てフリージャーナリスト。ゲーム等のエンターテイメントと、PC・スマホ・ネットワーク等のIT系にまたがる分野を中心に幅広く執筆中。1990年代からのオンラインゲーマー。窓の杜では連載『初月100円! オススメGame Pass作品』、『週末ゲーム』などを執筆。
・著者Webサイト:https://ougi.net/