石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』

SLIMの月面着陸に期待! 未来の月面基地を体験できるJAXA謹製の無料マイクラワールド「LUNARCRAFT」

月の低重力も再現、自分なりの月面基地を作ってみよう

 PCゲームに関する話題を、窓の杜らしくソフトウェアと絡め、コラム形式でお届けする連載「石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』」。PCゲームファンはもちろん、普段ゲームを遊ばない方も歓迎の気楽な読み物です。

「LUNARCRAFT」のタイトル画面

JAXA謹製、マイクラで月面探査

 本稿掲載からまもなく、JAXAの小型月着陸実証機「SLIM」が月面に着陸する。順調であれば、1月20日0時から月面への降下を開始し、約20分で着陸するという。宇宙科学オタクの筆者は中継にかじりつきになるため寝不足確定である。

 無人探査機が月面着陸すると言われても、普通の人はあまりピンと来ないかもしれない。米国では有人月面着陸を行うアルテミス計画が進行中(2年ほど延期はされたが)で、日本人宇宙飛行士も参加予定とされていることに比べると、話題性に欠けると言われても仕方ない。

 それでもSLIMの月面着陸が成功すれば、無人機の月面着陸は日本初であるとともに世界で5カ国目となり、技術力の高さを世界に示すという意義もある。本プロジェクトの公式サイトにはわかりやすく書かれた解説もあるので、ぜひご覧いただきたい。

 これに前後して、JAXA宇宙教育センターは、「マインクラフト」で月面を再現したワールド「LUNARCRAFT(ルナクラフト)」を無料公開している。SLIMやアルテミス計画は多くの人にはテレビを通して見るだけのものだが、こちらは自由に遊べるコンテンツだ。

作り込まれた未来の月面基地を探索

月面に作られた基地を眺める

 「LUNARCRAFT」をプレイするには、公式サイトからzipファイルをダウンロードし、解凍した中にあるワールドデータ(.mcworldファイル)をインポートする必要がある。「マインクラフト」をインストールしたPCでファイルを実行すれば、自動的にワールドが追加される。なお「マインクラフト」の公式マーケットプレイスからはダウンロードできないので注意。

 本作は月周回衛星かぐやで得た地形データをもとに作られたワールドで、2050年の月面を想定している。他のプレイヤーが参加してのマルチプレイも可能だ。地形データにはSLIMの着陸予定地点も含まれているという。

 ワールドに参加すると宇宙船の中から始まり、正面にあるスクリーンの解説を読みすすめると、月面へ着陸する。宇宙船の外に出ると、月面に作られた様々な施設が見える。まずは何があるのかを見て回ろう。

まずは宇宙船の中からスタート
着陸前をイメージした映像もある

 月面は地球に比べて重力が1/6しかない。本作では低重力を再現するため、「跳躍力上昇」と「落下速度低下」の効果が付与されている。いつもよりかなり高い跳躍力に驚くだろう。実際には重い宇宙服を着ているので、そこまで身軽ではないはずだが、あくまで学習とゲーム体験として楽しんでおこう。

月面と言えばこの低重力

 月面基地をイメージした施設は見ているだけでもかなり楽しい。最も目を引くのが月面農場、いわゆる栽培プラント。広大な畑に作物が植えられ、透明な素材で覆われた巨大なドームは、常に太陽の光を取り入れるようになっている。

栽培プラントのデザインは見事で迫力がある

 さらに地球の環境を模したジオラマ風のものや、植物を展示した場所などもあり、未来の月面基地をうまく表現している。筆者は宇宙基地や栽培プラントがどういうものかというイメージは持っていたが、「マインクラフト」の世界とはいえ実際に作られたものを目にするとなかなかの感動がある。

基地の中に地球の草花が展示されている

 ほかにも水や電気のためと思われる巨大装置もあり(中には入れない)、しばらくは歩き回っているだけでも楽しめる。

基地職員のための睡眠スペース?
さまざまな設備が並んでいる

月に施設を作るには? 親子で考えてみよう

 本作には他にもまだまだ見るものがある。最初に乗ってきた宇宙船には複数のチェストがあり(チェストの上にあるブロックを破壊しないと開けられないのはご愛敬)、中には多彩な宇宙食が入っている。

 ラーメンやカレー、ハンバーグといった食べ応えのありそうなものから、飴玉やゼリーなんかもある。食べ物によって満腹度に違いがあるのも芸が細かい。さすがに袋から出して食べるモーションまではないのだが、こんな食べ物も宇宙食になるのかと興味を惹かれる。ちなみにラーメンの宇宙食は本当に存在する

いろいろな宇宙食があり、食べられる

 ほかにはアポロの月面車を再現したローバーも収録されている。月面のどこかに設置されているのかもしれないが、筆者は見つけられなかったため、クリエイティブモードで出してみた。右クリックで乗り込んで運転も可能だ。

ローバーなどの機材も出せる

 大気のない月面で宇宙服を着ているという設定ながら、ゲームとしては行動に制限はない。普通の「マインクラフト」と同様、作業台でつるはしやシャベルを作って自由に開拓できる。用意された月面世界で、自分なりの宇宙基地を作ってみてはどうだろうかという提案のようだ。

 7歳の息子は、栽培プラントの中で育った木材を集め、屋外にツリーハウスを作っていた。現実の月面では不可能なことだが、「月面に木や葉っぱを置いたらどうなるか」から「ツリーハウスを作りたければ何が要るのか」を一緒に考えれば、科学を楽しむ機会になる。

息子が作ったツリーハウス。実際の月面ではこうはいかないが、実現方法を一緒に考えるのはいい学習になる

 本作の公式サイトにある「よくある質問集」には、本作と実際の月面を絡めたさまざまなQ&Aが書かれている。「月から地球と星は見えるのですか?」など、大人が読んでも面白い内容なので、本作と合わせてお楽しみいただきたい。

 もし「マインクラフト」が好きな子供が、SLIMの話題をきっかけに何かしら宇宙に興味を持ったなら、本作を試してみるといいだろう。実際にやってみないとわからない科学の発見もあるはずだし、親子の会話を生むコンテンツとしても活用できる。そして建築の腕に覚えのある親子は、ぜひオリジナルの月面基地を作り上げてみて欲しい。

著者プロフィール:石田賀津男(いしだ かつお)

1977年生まれ、滋賀県出身
ゲーム専門誌『GAME Watch』(インプレス)の記者を経てフリージャーナリスト。ゲーム等のエンターテイメントと、PC・スマホ・ネットワーク等のIT系にまたがる分野を中心に幅広く執筆中。1990年代からのオンラインゲーマー。窓の杜では連載『初月100円! オススメGame Pass作品』、『週末ゲーム』などを執筆。

・著者Webサイト:https://ougi.net/

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